運命共同体(4)
((said:桃城))
桃城は朝から大量な食物を抱えていた。
それは1人分2人分の比ではなく…大量な食料。
流石の桃城だって、食べきれないであろう食料を桃城は学校に持ってきていた。
そんな目立つ格好の桃城。
どうしてそんなに持っているのか、周囲の人々は興味津々だった。
勿論コノ桃城の後輩、越前もそんな1人なのだが…。
「桃先輩、何そんなに大量な食料持ってるんすか?」
越前が不思議そうな表情を浮かべて桃城を見た。
桃城は待ってましたと言わんばかりに越前に答える。
「おっ、コレ?に体力つけさせるのにさ」
へへへへと得意そうに桃城は笑う。
「それにしても、持ってきすぎスよ桃先輩」
桃城の食料の量を呆れたように見て越前は呟く。
「ああ、俺の分も入ってるからな」
「それにしたって、そんなに食べないと思うけどね…あの先輩。というより、昨日のだって過労なんでしょ?食べ物となんも関係ないじゃん」
冷たい一言を越前は言う。
「いや、は食わなすぎだ!絶対、栄養が足りね〜!!あんな軽いのは、以上だって思わね〜か越前」
どこから湧いてくるのか解らない自信で、桃城は熱く語る。
「知らないよそんな事までね。だけどさ〜桃先輩、先輩の嫌いな食べ物だったらどうすんのソレ?」
「あ…(汗)いけねー、そこまで考えてなかったわ俺」
はははははと乾いた笑いを桃城がする。
桃城と越前がテニスコートに足を踏み入れると、昨日倒れた人物であるがそこに居た。
「おはよう、桃ちゃん」
朝練の準備を乾としていたが、桃城に気がついて朝の挨拶をした。
桃城も軽く手を上げて、応える。
「おはよース先輩。朝早くからご苦労様だね。何時もは、ゆっくりなんでしょ?」
越前もに声をかける。
「あははは。何時もよりはね…でも大丈夫だよ昨日みたいに倒れないように、しっかり睡眠とってきたからね」
昨日の今日だから、朝早くて倒れるんじゃないの?と思ったのか…少し苦笑を浮かべては、越前に返す。昨日の会話で、少しリラックスしているのか特にコレと言って不安そうな色は無い。
「なら良いスけど」
越前は短く返す。
その越前の態度に、桃城が口を挟んだ。
「何だよ越前〜、俺の時とえらく差が激しくねーか?」
桃城が複雑な表情を浮かべる。
それはそうであろう、一応より桃城との付き合いが長いはずなのに、桃城は未だに越前に気を使われた事が無いからだ。
まぁ〜気を遣う人間自体、越前には余り居ないのだが…。
「だって桃先輩に気を使ったって、仕方がないス」
そんな事を思う桃城とは裏腹に、サラリと越前が答える。
(俺って、先輩にも後輩にも恵まれてないわけ?オージンジ、オージンジに電話か?)
訳分からない事を考えながら、ブルーになる桃城。
「越前君…桃ちゃんの背に、影背負ってる気がするんだけど…私の思い違いかな」
「目の錯覚ス。それより、部室に行かない?ココ直射日光だからさ」
少し顔を引きつらせるに、越前はそう言った。
その言葉には、呆気に取られて立ち尽くす。
(気を使ってくれているんだ…でも、私より桃ちゃんに気を使った方が良いのでは?)
ぼんやりと、越前の言葉を考える。
(何だよ越前の奴…にやけに優しくねーか…その優しさ俺にも分けてみるって事を知らんのかね…)
何だか少ししんみりとする桃城であった。
「ほら、先輩行くよ」
の心中や桃城の思いなどお構いなしに、越前はに声をかける。
越前はを引きずるように、部室に向かう。
ちなみに桃城は無視され、置いて行かれていた。
は自分の状況を把握出来ずにいる。
(何?何が起きてるの〜…越前君が私を引きずってるよ…)
後輩である越前に突然引きずられて、はかなり困惑している。
「先輩、飯ちゃんと食べてますか?目茶軽すぎ」
目を軽く見開いて、は越前を見る。
(軽い?越前君の方が軽いと思うけどな…)
越前の体格を見ながらは思う。
そして、質問を良く考えながらは言葉を紡ぎ出す。
「うーん。食べてるよ」
がそう答えると、越前は「ふーん、なら良いけど」と返してきた。
しばらく引きずられて連れられているだった。が…。
「越前〜!!」
叫び声をあげながら、桃城が走ってくる。
ザザザザザーッ。砂煙をまき散らして桃城が追いつく。
サハラ砂漠の砂塵のように辺り一帯が、一瞬見えなくなるほど…。
少し人間離れしている桃城が、凄い勢いで現れる。
(つったく、こんなに食べ物持ってくるんじゃねーな。スピードが落ちてかなわねー)
ブチブチと心の中で桃城は悪態をつく。
そして置いて行かれたことを愚痴らない辺りが、桃城らしい。
「ふーん。遅かったじゃん」
人間離れしつつある桃城に、越前は顔色一つ変えずに言う。
(いや…早いよ…あきらかに…煙まで出てるんだよ)
は桃城を凄いなと見つめる。
「うっせーな。腹減ってんだから、しゃーねてもんだろ…しかも、この荷物だぜ」
「そんなんじゃ、まだまだって感じだね」
「…」
あまりの二人の会話には言葉を失っていた。
「おい?…固まってっけど大丈夫か?それとも、腹減ってるのか?」
固まったを桃城が覗き込む。
「あああ…何でも無いよ。二人に少し驚いただけだよ…それと別に、お腹減ってなし…心配しなくても大丈夫」
そんなを見ていた桃城は、ふいに口を開いた。
「」
「何?」
「…お前さんは、朝飯食う方?」
「突然何?」
いいからと桃城はを促す。
「食べたり…食べなかったりかな…胃が受けつけなくて」
小首を傾げながら、は桃城に答える。
(朝飯を食わない?…)
桃城はの言った言葉を、反復するように頭の中で考える。
そして…。
「な…何だと〜!!!!」
桃城は突如叫び出す。
ビク。桃城の声には驚いて、体を竦める。
(飯を食ったり、食わなかったりだぁ?いけねー、そいつはいけねー!!やはり、飯食ってねーから体力がねーに違いねー!!)
桃城はそう思った。
「飯がどれだけ、体に大事かは知らねー訳じゃねーだろが」
桃城が熱く、飯の重要性をに語る。
某番組の司会者さながらに、言葉も厳しい。
「でもね…胃が…。朝以外なら…ちゃんと取ってるし…朝だって、ご飯じゃないけど…食べてるし…」
怖ず怖ずとが桃城に弁解混じりに言う。
よっぽど先の桃城が、衝撃的だったのだろう。
しかし桃城の勢いは止まらない。
「朝はしっかり、飯を食う!それは鉄則だぞ。やはり、食いモン持ってきて正解だったな」
自己完結するみたいに桃城は一人で、かってに納得する。
「桃ちゃん…何を、言ってるのか…解らないんですけど…」
「ああ、が飯食ってねーと思ってさ。食いモンを持ってきたって訳だ」
話が見えなずは困惑している。
「つー訳だからよ、ホレ食いな」
ドサ。
道の真ん中に桃城は食料の袋を置く。
「だから…コレは」
「が食べる、朝飯」
「一人分?」
「俺の分も入ってるけど、遠慮は無用だぜ。さー食いね」
ズイっと袋を差し出す。
「あの…桃ちゃん、ココ道の往来…」
「ん?ああ、そうか。じゃー部室に運ぶか」
ガチャ。部室のドアを開けて、と桃城は入る。
「ほれ、ココなら問題ねーよな。さー気兼ねせずに腹一杯食えよ」
「あ…有り難う…桃ちゃん」
(何だ何だ?全然嬉しそうじゃねーな。嫌いなモンでも有ったのか?)
気乗りしていないに、桃城は不思議そうな顔を浮かべる。
「なー。嫌いなもんとか、食えないもんばっかか?」
桃城の質問には首を黙って横に、振る。
「なら何で、食わないんだ?」
桃城は心底不思議そうに、を見る。
「だからね…胃が…朝からそんなに食べれないの」
困ったように眉を寄せて、桃城を見る。
(んー、)
「軽いもんなら、食えるだな?」
に同意を求める桃城。
「まー…そう言う事になるよね」
「なら、そういうもん買ってくらー」
走って買ってこようとする桃城。
「桃ちゃん…そこまでしなくても良いよ。それにこんなに、食べ物有るんだよ…勿体ないよ」
焦ったようには桃城を見る。
「でもよ〜が食えないモンばっかだったら、意味ねーだろ?」
もっともなご意見の桃城には少し悩む。
「解った…ココから、食べれるもの1つ食べるから」
解決策をは桃城に言う。
「1つじゃ保たねーだろ、」
すかさず桃城が言う。
「あのね、普通はそんなに入らないと思う」
袋を示しては言う。
「そうか?俺はコノ袋分は食べるんだけど…毎日」
「それは、桃城君…いや桃ちゃんが、運動する人だからだよ。それに一応私性別女の子な訳で…そんなに食べれませんよ」
言い聞かすようにが桃城に言う。
桃城は少し唸る。
(女の子って事を頭から抜けてたかも…ヤベ…それじゃーこの量は多いよな)
に言われようやく事に気が付き、しみじみと思う。
そして、少し申し訳ない気持ちに桃城はなっていた。
それがには、桃城が落ち込んでいる様に見えたらしい。
「あのね…落ち込まないでね。桃ちゃん、」
心配そうに、が桃城に尋ねる。
すると突然…。
「俺は、決めたぞ!」
「へ?何を…」
桃城を不思議そうに見る。
「俺はの作ったノートで、頑張る」
「え?やる気になってくれたんだ、嬉しいよ桃城君」
嬉しそうには桃城を見る。
「だから、はコレから“俺が持ってきた、朝飯を毎日食う”ことな」
“決定”とニシニシと桃城は笑って言う。
「何で…そうなるの?」
「俺はが体力が無いのは、飯食わないのも関係してると思う訳」
桃城はに自分の予想を説明する。
「大丈夫、今度は乾先輩にどの位の量が良いかとか、教えて貰うからさ」
ニッカと笑う桃城。
「あの…そう言う問題じゃ無いような…」
異議申し立てをする。
「はははは、気にしない気にしない」
「“ははは”じゃ無いよ〜桃ちゃん〜」
むくれながらは桃城に言うが、桃城は気にせずに笑うばかり。
「俺もの為に、心を鬼にして頑張るな。先輩達にも協力してもーらお♪」
軽快な足取りで桃城は、の元を去った。
「桃ちゃん〜」
の悲痛な叫びが、部室内に響き渡った。
そして時間は、約束の1週間後。
「「長かった…」」
と桃城は顔を見合わせて、そう呟く。
この日を2人は…。
「コレでやっと報われるんだな〜」
桃城がしみじみと呟く。
「桃ちゃん…まだ終わって無いし…結果も出てないんだよ」
が呆れたように突っ込む。
「でもよ〜、やっと今日で終わり何だぜ。だって、今日が持久力テストなんだろ?」
「そうだけど。これからが、本番なのに桃ちゃんがあんまりにも緩いんだもん」
「つったてなー。後は、神のみぞ知るって奴だろ?やるだけやったし俺」
「でもー」
「だって、頑張ったじゃん。朝飯も克服したし、倒れなくなったんだぜ」
「そうかな…完走出来るかな」
心配そうには桃城を見る。桃城はニッカりと笑ってを見る。
「大丈夫だって、なら完走出来るって。寧ろ、上位で完走するって」
「何か桃城君に言われると、大丈夫な気がするよ」
「…また“桃城君”に戻ってるぞ」
「嘘…私たら…ゴメンね桃ちゃん」
シュンとは気を落とす。
「良いって良いって。気にすんな」
頭をポンポンと撫でる。
「それより、俺は放課後からだけど…の方が先だよな、体育2時間目だろ?」
「うん、ドキドキだよ」
「先に決めてこいよ。んでもって、俺がとりを飾るんだからな」
「うん。じゃー私が完走して、桃ちゃんにバトンを渡すね」
大分この1週間で桃城のノリ慣れてきたが、軽口を叩いた。桃城もそんなの様子に満足そうに笑みを返した。
実にほのぼのとした雰囲気の二人であった。
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2010.4.24.改訂(初掲載:2001.10.21.) From:Koumi Sunohara