運命共同体(3)
((said:))
-放課後
は約束を果たすべく、テニスコートに足を向けていた。
「あ…あの〜、二年のと言う者です。…竜崎先生に呼ばれて来たんですけど…」
怖ず怖ずとは、テニスコトーで準備をしている部員に声をかける。
(怖い人たちに、裏に呼び出されたしたりして)
何せ、テニス部は部外者を嫌う…は内心ドキドキだった。
「ああ少し待ってくださいね」
一年せいだろ部員が、にそう言うと辺りを見渡している。
竜崎をさがしているのであろう。
少々挙動不審なを桃城は見つける。
「おう!遅かったな、こっちに入っこいよ」
桃城がに声をかける。
「桃城君…?」
は少し安堵の表情を浮かべる。
(やっぱり、知ってる人がいると安心する)
それでもやっぱり、顔は強張る。
「何〜湿気た面してよ〜!を苛めたりしね〜って」
はっはっはっ…と陽気に笑う桃城。
その桃城の後ろから越前がひょこっりと顔を覗かせる。
「桃先輩…その人、桃先輩の彼女?」
側に居た越前が桃城に尋ねる。
「馬鹿いちゃ〜いけね〜な。は俺の、運命共同体で今日から俺の先生だぞ越前」
ふんぞり返って越前を見る。
(て…言うか、桃先輩が威張る問題じゃ無いのに…本当にまだまだだね)
越前は呆れたように桃城を見る。
「桃城君…それって…何か違う気が」
がやんわりと突っ込む。
の突っ込みに越前は、の方向に目を向ける。
「先輩だっけ?」
ふいに、越前はに声をかける。
「何?…えーっと、越前君」
は、不思議そうに後輩である越前を不思議そうに顔を向ける。
「可哀想だね。桃先輩に教えなきゃいけないんでしょ」
明らかに桃城を先輩だと思わない越前のふてぶしさに、は少したじろいだ。
「うん…まーそうなんだけど」
越前はの様子を見て、ヤレヤレとといった表情を浮かべる。
「絶対大変だよ、今なら間に合うから止めておいた方が先輩の為だと思うよ。それに、今更桃先輩が勉強したって、無理スよ。先輩が無駄な動力使って、苦労するだけス」
キッパリとに言い切る越前。
その言葉には言葉を失う。
体育会系は縦横社会だと思っていた、にはかなり強烈な出来事だったらしい。
(そんな…ハッキリ言って…桃城君に苛められたりしないいんだろうか?彼は)
その為少し心配そうに、越前を見る。
「越前…お前かなり失礼だろ俺に対して」
の心配とは裏腹に、桃城と越前は話し始める。
「だって、本当の事じゃん」
悪びれる様子もなく答える越前。
「越前〜」
やや不機嫌そうな桃城の声には慌てて越前を庇う形で間に入る。
桃城は少し驚いた顔でを見た。
「桃城君…幾ら後輩の子が気に障る事言ったっからって、苛めちゃ駄目だよ」
から紡ぎ出された言葉に、さらに桃城は驚いた。
「…俺が越前を苛めてる?と言うより俺が苛められてると思うけど」
溜息混じりに桃城はに言う。
「えーっ、だって今桃城君…凄い形相だったから…」
シュンとが困った表情をする。
(私が考えている程、実は厳しくないんだ…ココって)と思う。
そのを見て、越前が声をかける。
「やっぱ先輩優しいス。桃先輩には勿体ないね」
「越前〜!!」
ムキーッと桃城が少し苛々気味に越前を見る。
「本当まだまだだね」
越前はそう言うと、さっさと歩き出す。
「ちっ…待ちやがれ越前!!」
それを、桃城が跡を追う。
「桃城君…私はどうすれば…」
何処に行って良いか分からないは、桃城に慌て尋ねた。
「おっといけね〜。乾先輩に任せるって言ってたから、そっちだわ。後…俺のことは“桃ちゃん”で良いからな、桃城君じゃ〜堅苦しくていけ〜ねからな」
言うだけ言って、桃城はその場を後にした。
と言うわけで、は乾の元にやって来た。
「おや良く来たね」
乾は部室の机に山の様なデーターを広げを迎えた。
「お久しぶりです乾先輩。委員会以来ですね」
「そうだったか。まー良いか…ちなみに俺が、のコーチだから宜しく」
「先輩がですか?」
「以外かな?」
「イエ…。実を言うと、諦めてたものでテスト」
はははは。乾いた笑いを浮かべてが乾に言う。
「成る程…桃相手だもんな…」
乾は苦笑をに浮かべた。
(そんなに…桃城君って…いったい…)
乾の苦笑には複雑な気持ちになった。
それに気が付いたのか、乾は少しその話題から話を反らすように口を開いた。
「でも、は桃と違って真面目に仕事とかするから大丈夫だよ、持久力テストなんて楽勝だって、心配無いよ」
「はぁ〜っ。乾先輩がそう言うんなら…何か大丈夫なような気がしてきました」
「走り込みとかしないし、ただコレ付けて普通に生活してれば良いし」
乾達を始めレギュラー陣が使っている重りをに渡す乾。
(…重い…)
はソレを少しだけ、顔をしかめながら受け取る。
「重いけど…頑張ってみます」
と乾に言う。乾はニヤリと笑い、のんびりと言葉を紡ぐ。
「じゃ…取り合えず、データー整理手伝って貰おうかな」
「はい、頑張ります」
は取り合えず元気に答えるのであった。
乾のデーターの整理を手伝いながら、は尋ねる。
今まで感じていた素朴な疑問。
「乾先輩…先輩がいらしゃるのに、わざわざ私が桃城君に教えなくても良いと思うのですが?」
乾は眼鏡を微妙に直しながら、に目線を向けた。
「う〜ん、桃は根気が無いから向いてないからね。あんまり言うと、やる気無くしたりするからな」
ヤレヤレと乾は言う。
その言葉には、自信なさげに乾を見る。
「先輩がそこまで言う人に…教える自信私無いですよ」
困ったように乾に言う。
「まーぁ、なら大丈夫だと思うよ」
確証を持っているのか乾はに言い切った。
「根拠有るんですか?」
データを集めてるのを知ってるは、つい乾に確証を求めてしまう。
「無い。でも、桃は“女の子に恥をかかせたり”しないタイプだから、死ぬ気で何とかすると思ってね」
“コレは単なる勘だけどね”飄々と乾はその言葉を付け足した。
「はぁ?」
乾にしては曖昧な言葉には、間の抜けた声を上げる。
乾はには気に止めずに、の作ったノートに手をのばして見た。
「それに先見せてくれた対策ノートも、なかなか良かったからね」
の作ったノートこと『対桃城用勉強対策ノート』をしげしげと見ながら乾は言った。
「そう言って貰えると…少しだけ安心しますけどね」
乾の言葉に少し嬉しさと不安を入り交じるの声音。
「俺としては、優秀な助手が手に入ったから桃には感謝だけど」
本気なんだか冗談何だかな乾の言葉には少しだけ呆気に取られていた。
(何か…乾先輩のキャラ…が違うかも…)
何ては少し思っていたりした。
「乾先輩って、面白い先輩だったんですね」
思わず口にする。
「おや?今頃気が付いたのか、。と言うより、ココの連中は割と面白事好きだから…もしかしたらの持っているイメージ崩れるかもね」
「そんな事無いと、思いますよ」
は笑ってそう言う。
ピーィ。休憩を告げる笛の音が聞こえる。
「おや、部員は休憩か。さて、休憩にしようか…も疲れてるだろ?」
「いえ、私は桃城君に勉強を叩き込みに行ってきます!!」
拳をフルフルと振るわせては力説する。
「確かにね。でもは、慣れないモノ付けて仕事やってるからね…少し休んだ方が良いと思うんだけどね…顔色良くないしさ」
乾の気遣いをは有り難く思いながらも、はその申し出を断る。
「お気遣い有り難う御座います乾先輩。でも私は大丈夫です!!仕事っていってもデスクワークでしたし…時間も無いですし。…“それに倒れるときは前のめりです”だから心配無用です!!」
(…倒れる気なのか…?それはそれで、問題だと思うけど…)
何ともいえない思いで乾はを見た。
「じゃー、頑張ってきますね」
はニッコリと乾に笑い桃城の元に向かった。
(本当に…大丈夫かね…)
少し張り切りすぎな後輩の背中を乾は複雑な面もちで見送るのであった。
そして、テニスコート。
「桃城君、取り合えずこの単語帳に書かれているの覚えてみよう」
休憩時間の桃城には、単語帳を桃城に差し出した。
「…“桃ちゃん”で良いっていたじゃん。それに、今休憩中だぜ。だって休憩だろ?休む時は休まなきゃな」
桃城はスポーツドリンクを片手に、に言う。
「桃城君…えっと桃ちゃん、自分の置かれてる立場分かってる?大変なんだよ」
そんな桃城には眉を歪めてそう言う。
「でもよ〜、顔色良くねぞ」
の顔をマジマジと見ながら桃城は言う。
(…そう言えば…何か…怠いけど…)
は体の気怠さを感じていたが、取り合えず無視することにした。
の中では、今はそんなことより桃城の勉強の事が最優先だと感じたからだ。
「この際、私は良いから…桃ちゃんは勉強を…」
体の違和感の為だろうか、の言葉は微妙に途切れていた。
「良いから勉強〜…やってくんなきゃ…倒れても倒れきれないから」
それでも、一生懸命に言葉を紡ぎ出す。
疲労が見え隠れさせた笑顔では言う。
流石に、一連の出来事で疲れているらしい。
ヨレヨレのに桃城は、何とも言えない気持ちになった。
(つーか…がヤベーじゃん…)
の具合の悪さに思わず、顔をしかめる桃城。
だからにいらん心配をかけさいまいと、口を開く。
「分かった…分かったって、やります。やりゃー良いんだろ!!」
桃城は叫ぶようにに言った。
(早く、を休憩させてやんねーといけねーしな)
はホッとした表情を浮かべた。
「分かってくれれば良いんだよ〜…」
力無くヘラっとは微笑む。
「はい。取り合えず今日の、分のノートだからね…」
は先まで入念な点検を施したノートを、桃城に渡した。
はずだったが…。その手は虚しく宙を切る。
(あら?ヤバイ…意識が遠のいてるかも…)
は体が倒れそうな中、ぼんやりと思った。
その時。
ドサリ。予想通り、は桃城の真上に倒れ込んだのであった。
「〜。〜。」
桃城が倒れたに、慌てて声をかける。
「…」
しかしは、意識をすっかり失ってるのか反応が無い。
「おい、。〜」
桃城はどうして良いか分からず、取り合えずを呼んでみる桃城。
「どうすりゃ良いんだ?」
しばらくグルグルと頭を働かせながらも、桃城はやっと気が付く。
「保健室!!」
そう叫ぶと、を一気に抱き上げて桃城は走り出す。
走ってる桃城は、あることに気が付く。
(やべ…手塚部長に言ってね〜)
心の中でそう思うと、来た道をまた戻り手塚の元に走り出す。
「部長〜!!!倒れて、意識無いんで保健室行ってきます!!」
気が動転してるためか、桃城の言葉は少し可笑しい。
「解った。顔色が本当に悪いしな、早く連れてってやれ桃」
手塚は表情を変えずに、桃城に短く答えた。
そこに…。
「桃…その意識の無い人間を…凄まじい勢いで、連れ回す方が…悪化すると思うよ」
大石がを抱えた、桃城を見て苦笑混じりにそう助言した。
「そう…そうスね」
桃城はその言葉に、短く答える。
その時…。
「…ぅっ」
が苦しそうに、口を開く。
「お?大丈夫か」
呻いたに、桃城はすかさず声をかける。
「桃城君…」
焦点の合わない目で、桃城を見る。
「おう、何だ?吐くのか?」
の虚ろな表情に、桃城も訳解らない事を言う。
「勉強ちゃんとやってね…本当に危ないんだからね…」
しかしこんな時にでも、はそんな心配を口にする。
ガク。そう言うとはまた意識を手放す。
「〜死ぬな〜!!」
思わず桃城がに叫ぶ。
「「つーか、死んでねーって」」
レギュラー一同思わず突っ込む。
「だ…だって、ガックって」
完全に気が動転中の桃城。
「おや…、やっぱり倒れたか」
動転している桃城に、部室にいたはずの乾が予想的中かと呟きながら声をかける。
「乾先輩」
桃は振り返り、その人物の名前を呼ぶ。
「やっ」
乾は軽く手を挙げて、桃城に応える。
「“やっぱり”ってどういう事スカ?」
桃城が訝しい気に乾を見ながら、尋ねる。
「ああ、の顔色悪かったからさ。後かなり無理して、桃のノート作成してたしね…言われたその日にそこまでのノートはかなり大変なんだよ。それと、に皆に付けてる重さの半分の重り付けてるからね、かなり不可かかったんじゃないのかな」
サラリと見解をのべる乾。
「重り付けてるんスカ?マジ?、全然重くないスけど」
乾の言葉に唖然とする桃城。
「まー、女の子だしね。はとくに軽いのかもしんないけど」と乾。
そんな2人に大石が突然口を挟んだ。
「桃…さんは、俺等が連れてくから…桃は、勉強しろよ」
大石は取り乱す桃城にそう言う。
「何言ってるんでスカ!?は俺の所為で…」
食い下がろうとした桃城に大石がまた、説得するように言い聞かす。
「だからだよ桃…さんだっけ?その子は、桃の為に頑張ってくれたんだから…桃はソレに応えるのが礼儀だよ」
不二が桃城にそう言う。
「そうだな、何せは譫言のように勉強ちゃんとやってね…本当に危ないんだからね…“て言ったんだろ?なら後で、に勉強してないのバレたら大変な事になると思うな〜」
乾はニヤリと不敵に笑って桃城に言う。
「う…分かったス。じゃ〜、をお願いします」
桃城は大石にを渡す。
「うん。分かったよ桃」
大石は短く答えて、後ろでピョコピョコ着いてくる菊丸を連れて保健室に足を向けた。
(大石先輩がついてるんなら…大丈夫だな)
の安否が確保され、桃城はホッと胸を撫で下ろしていた。
そこに、問題発言が出る。
「さて、桃。勉強しようか」
目が笑っていない笑顔で不二が桃城に言う。
「そうだな、ちゃんと勉強しなきゃな。が責任感じるだろうから。勿論、覚えなかったら“野菜汁”だからら、よろしく」
後輩の倒れたことにより、乾のやる気が突然上がる。
「乾それじゃ〜ちっともペナルティーになんないよ」
クスクスと不敵に笑って不二が乾に言う。
(な…何か、急に楽しんでないか…この2人…不味い…の心配してる場合じゃないかも…)
2人のやりとりを、背筋に嫌な汗を垂らした桃城の悲痛な叫びが辺りに木霊した。
「マジですか〜!!!!」
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2010.4.18.改訂(初掲載:2001.10.21.) From:Koumi Sunohara