運命共同体(2)  

((said:共通))

いち早く体育教師との話し合いを終えたは、今現在も職員室の中にいた。

溜息を付きながら、は桃城と話している担任の所に足を向けていた。
ちなみに、宿題になっていた提出物を忘れない内に出す為である。

近づくにつれの視界に桃城と担任の姿を目に止めた。

(あっ…桃城君だ…どうしよう、真剣な話してるかも)

は怖ず怖ずと、少し離れた所で2人を見ていたは、けして良好とはいえない様な雰囲気にぼんやりそんな思いを浮かべた。

割入って声をかける程のものでは無い提出物に、はどうするべきか悩みながら両者を見ていると、不意にへ眼を向けられた。

「あれ?じゃねーか。どうしたよ?」

担任よりも先に、桃城がの存在に気が付き声をかけてきた。

「あああ…あの、宿題を」

急に声をかけられ驚くは、思わず声がどもっている。
何とか言いきったに桃城は少し驚いた表情を浮かべる。

「え?そんなモンあったっけ?」

に尋ねる桃城。
かなりあっけらかんとしている。

「昨日出されていたでしょ…」

そんな桃城を呆れるように見る

(何で桃城君…昨日言われた事忘れてるんだろう)

クラスの中心に居る桃城へのイメージは、意外と気配りの人と言うイメージがあったは、昨日言われた事を覚えていない桃城に、ふとそんな事を思った。

そんなとは打って変わって、宿題を忘れた桃城は少し目をみはった後に口を開いた。

「マジ?っで…はもう終わった訳?」

感心したようにを見る桃城。

「まー、一応。だから出しに来たんだけど…」

はそっけなく答える。
何せ彼女は桃城と同じクラスだが、あまり話したこと無いからだ。
それにくらべ桃城は、誰に対してもフレンドリー…あまり話さないにもこの通りよく話す。

「お前が忘れすぎなんだよ、桃城。だからお前の平常点が無いの分かるか?」

担任も呆れたように桃城に言う。

「うっ…先生痛いところを」

恨めしそうに担任を見る桃城の口調は実に頼りない雰囲気を醸し出していた。
そんな桃城を、若干気にしながらもは当初の目的である提出物を担任に差し出しながら言葉を紡いだ。

「あの…コレ」

やりとりを見ながら、は怖ず怖ずと提出物を担任に出す。

「おう、は何時も早く提出するから…模範解答に便利なんだよな〜」

呑気かつ…担任にあるまじき言動には少し、顔をしかめる。

(褒められてるのか?…模範解答って事は…何だか複雑)

ぼんやりと考えていると、ふいに担任に声をかけられる

「そうだそうだ、

「はい?」

担任に呼ばれは、返事をする。

「お前、体育以外なら…」

ふいに担任は、途中まで言って言葉を切る。

「ま〜体育以外なら。それが、何か?」

言葉の続きを言おうとしない担任には訝しげな表情を浮かべる。

「うんうん」

担任は満足そうに頷く。

(え?何?)
 
困惑する。担任の口調や雰囲気から、あまり良い予感を感じないは背中に何だか嫌な汗をかいていた。

「そう言えば、、持久走でぶっ倒れたってな」

ニヤニヤしながら、担任は言う。
少し嫌な笑い方である。
むろんそんな笑い方なので、は不機嫌を露わにする。
さらに今一番触れられたくない、話題なだけ尚更である。

「な…突然何言うんです!!しかも先生笑うなんて、酷いですよ」

「悪い悪い」

ちっとも心のこもっていない感じで、担任はに言う。
しかもまだ、笑いが残っている。

「私だって、倒れるなんて思わなかったんですから!!」

それにはさらに不機嫌になる。

「ま〜は退院明けだったからな〜」

しみじみと担任は言う。
む〜っとは、眉間に皺を寄せる。

「話脱線したけどな…。で、話戻すとな。お前さんに、桃城に勉強を教えて欲しいんだ」

担任の言葉に、しばらく反応出来ない

「先生…」

やっとの思いで、は口を開く。

「ん?何んだ

そして、は口火を切ったように半ば叫ぶように言葉を紡ぎ出した。

「唐突にも程が有りますよ!!第一なんで、話を戻したらそうなるんです?可笑しいじゃないですか!!それに私、持久力テストで頭一杯で…人の事なんて構ってる余裕なんて…微塵の欠片もありません!!というより、何で私なんですか?他にも沢山いるじゃないですか!!先生が教えれば良いでしょ…」

肩で息をしながらは言いきった。
酸欠の為か、ふらつく

「オイオイ、よ。大丈夫かよ」

話に参入できずに居た桃城が慌てて、を支えてやる。

「も…桃城君…有り難う…」

息も切れ切れに、は一応礼を述べる。

「そんなに、無理してまで嫌がらなくても」

担任はちょっぴり寂しそうに、に言う。

「先生よ〜。俺の命綱(予定)なんだから、逃げれたらどうすんだよ」

桃城は少し論点がズレた言葉を言う。

「はははは。悪いな桃城〜」

カラカラと担任は笑う。

「だから…何でどうして…私?」

「ああ、説明してなかったな。こいつ、部活停止かかったテストが1週間後にあるんだが…イマイチでな。で…桃城を気長に教えれる人間探してたんだよ」

「で…ソレが私だと?」

は引きつった顔で担任に言う。

「そう言う訳だ。それに、俺だって悪魔じゃないぞ。お前の持久力テスト対策に、桃城は役に立つはずだぞ。何せ此奴は、腐ってもテニス部レギュラーだからな…きっと…いや…必ずお前の為になるぞ!!本当だぞ。と言う訳で、頼まれてくれないか〜

かなり苦しい言い訳な担任。
例えるなら、スーパーの半額ワゴンの叩き売り中の店長のように“「お買い得だよ奥さん」と言っておきながら、全然お買い得じゃない物を売りつけるような口振り”である。
は内心(何か私…凄く損をしてるような〜)と思う。

「でも…確か桃城君の所って…頭の良い先輩方が多いじゃないですか。わざわざ私の所に来なくって問題ないと思う…」

「それは、無理だ

が担任に言いかけたところで、担任は口を挟んだ。

「無理って…だって、私何かより…凄く頭が良い方達じゃないですか〜。乾先輩だっていますし」

は委員会で世話になっている、先輩乾の名を出す。
確か、テニス部に所属していたとが記憶していたからだ。

…桃城はな…、その先輩達から見捨てれれた可哀想な…奴なんだ」

お涙ちょうだい劇のごとく、担任はに言う。
しかし全然実感がこもっていない。

〜、俺からもお願い!何か奢るしさ。頼む」

パン。両手を合わせ桃城がに言う。

「でも…そんな凄い方達に出来ないのに…出来ませんよ私じゃ〜。それに、持久走が…」

が断りの言葉を言いかけるが、桃城が今度は口を挟む。

「大丈夫!俺、頑張ってに体力付けるからさ!な、頼まれてくれねーか?」

「1週間ですよね…。ちなみに…、それに桃城君が落ちると…部活停止…。やっぱ、落ちたら私の責任ですよね…」

遠い目では言う。
さしずめ受験前の予備校の講師が落ちこぼれの生徒に対する悲痛な面持ちのようである。

「安心しろ、桃城が落ちても誰も文句言えないから…何せ勉強しなかった此奴が悪いし、有る意味1週間で出来たら奇跡に近い…いや奇跡だな」

はっきりと言いきる担任。

「そりゃ無でしょ〜先生」

「事実だろ」

キッパリとスッパリと一刀両断と切り捨てるように言い切る担任。

「あ…あの…じゃ〜、何で私に白羽の矢が…」

困惑気には担任に聞く。

(そこまでヤバイなら、私じゃ無理なのに)

脱力しかけたは、一応担任の言葉を待った。が…。

「流石に、フォロー無しで受けさせる訳にもいかんだろう」

カラカラと担任はサラリと言ってのける。
その言葉には完全に脱力した。

(それって…丁度良い…哀れな子羊状態?)

はぁ〜。大きな溜息をは1つ付く。

「嫌ですよ…凄く私損じゃないですか」

無駄かもしれない抗議を口にする

「「頼む〜」」

二人が声を揃えてに頼む。

(何か…苛めてるみたいじゃないですか…私が)

二人を見てはそう感じる。

「わかりました…やりますよ〜」

凄まじい脱力感を感じながら、はやっとの思いで口にする。

「マジ?良いの?」

「あそこまで断ったって引かないし…何だか、気負けしました」

「で…何時から、勉強する?」

「う〜ん、何時にしよう」

桃城はう〜んと唸る。
まったく危機感が感じられない。

(もしかしたら、そんなに悪くないから…余裕なのかな)

は桃城の態度を見て、ふと思う。
がそんな甘い考えは、担任の言葉によって吹っ飛ぶこととなるのだが…。

「そうそう、ちなみに桃城の成績なコレ」

ピラ。は渡された、成績の書かれた紙を見る。
ピシーッ。紙を見た途端、の動きがピタリと動かなくなった。
微動だにしない。
どちらかと言うと石化状態である。

「おい〜無事?」

桃城が心配そうにを覗く。

「桃城君…君、授業出てたよね…?って教室にはいたよね…」

困惑そうには桃城を見る。

「ん?俺欠席したこと無いぞ」

桃城は明るく答える。

「じゃ…ゴメン聞き方変えるね…。授業聞いてる?」

少し額に手を当てては、桃城を見る。

「たまに…だってさ〜授業聞いてても良く分からないしさ…もそうおもうわん?」

サッパリと爽快感すら感じる口調で同意を求める桃城。
その桃城に、少し眩暈を感じる

(これは…いよいよ、駄目かもしんない…本人に自覚が無いなんて…)

くじけそうになりながらも、は桃城に言う。

「…桃城君…コレは、かなり頑張らないと無理だと思う」

「じゃ〜明日ぐらいからやるとすっか?」

深刻そうなの言葉にも桃城は、かなり楽天的だった。

「…あのね、悪いけど…今日から死ぬ気でやっても間に合うかどうか…だよ」

悪いななんて感じながらも、はあえてその言葉を桃城に言う。

「マジ?」

桃城が聞き返す。

「私が、嘘付いても得なんて無いよ」

溜息混じりにが言う。

「そうだよな…はそんな事言わないもんな」

うんうんと頷く桃城。
やっぱり危機感は感じられない。

「取り合えず…今日の放課後からだね」

が酷く疲れた顔で、桃城にそう言う。

「でもよ〜俺部活が…」

ブチブチと歯切れの悪く答える桃城。
そこに…。

「安心しろ桃城、竜崎先生には言ってあるから…心おきなく勉強に励め」

担任は、笑顔で桃城に言う。

((何時の間に…))

桃城とは同時にそう思う。

(もしかして、はめられてるの?私〜)

はどんどん、マイナス思考になっていく。
が…しかしよく考えて欲しい…ココは職員室。
あんだけ大立ち回りをすれば、この様子が他の教師が知るのは容易なことだということを…。
ちなみにまだ唖然としている2人。
その時…。

がうちのアホの面倒見てくれるんだってね。有り難いことだよ」

固まっているに、話に出てきた竜崎が声をかけてきた。

「へ…っ竜崎先生」

「悪いね。それにしても桃お前は、不甲斐ないね〜」

竜崎はと桃城を見比べて、そう言う。

「んな事言われてもよ〜」

「数学は良いのにね、文系はからっきし…単純だから仕方が無いかね…桃」

「…言い返せね〜言い返せね〜な」

竜崎の言葉に桃城は唸る。

「そうだ。このアホを引き受けてくれたお礼に、持久走対策のちゃんとしたコーチつけるから…今日の放課後ジャージ持ってテニスコートにおいで」

思いついたように竜崎はに言う。

「コーチですか?でも私は、どうにでもなりますけど…桃城君の勉強中心にしないと…」

は困ったように、顔を曇らせる。
意外な申し出だったからだ。

「桃が、“コーチして体力付けさせる”って言ったんだろ?約束を破る卑怯な部員を出すわけにはいかないんだよ。だろ桃」

「ま〜確かに」

桃城は、頷く。
それを満足そうに竜崎が見る。

「でも…部活停止が…」

心配そうにする。すっかり自分の持久力テストの事など抜け落ちていた。

「良いから、良いから。放課後待ってるよ(自分の事をすっかり忘れてるのかいこの子は…まー仕方がないか)」

竜崎は、に言うと去っていった。

「じゃ…桃城君、取り合えずお互い頑張りましょう」

が桃城に手を差し出す。

「おう。宜しくな」

桃城もの手を握り返す。

「それじゃー私はこれから、色々準備有るから」

はそう桃城に言うと、教室と反対方向に消えていく。
居なくなったの後をぼんやりと桃城は眺める。

「しても…って飯食ったのか?あれって図書室方面だよな〜」

桃城は不思議そうに呟いた。
そして、言いながら自分が小腹を空かせている事に気が付き…。

「お〜っ。いけねー、俺が小腹空いてんじゃねーか!!早く買いにいかねーとな」

叫びながら、桃城もまた購買に消えていくのであった。


NEXT→No3

2010.4.14.改訂(初掲載:2001.10.21.) From:Koumi Sunohara
TOP /BACK / NEXT

-Powered by HTML DWARF-