恋乞い 14(幕間)  

(said:KISE)

高校生活なんて中学の延長線上で、正直チョロイな何て思っていた。
だから、態度は中学時代のまま変わらず、弱い人間は見下してって感じで、今思えば黒歴史ってやつ。

入学前から練習に参加しているバスケ部のキャプテンから、出会いがしらの鉄拳制裁で少しだけ部内の上限関係をを学びつつも、やっぱり理解していない俺は入学してからも中学時代のままだった。

先輩に顔を顰められても、結構世渡り上手な俺はのらりくらりと躱していて、笠松先輩にとび蹴りを喰らいつつもあんまり反省なんてしてなかった。

けれど、そのな日常のある日…俺は笠松先輩に強い口調で窘められた。

「黄瀬。お前は1年なんだかちゃんと先輩に敬意もって接しろ。余所の部活からも苦情がきてんだぞ」

「えー…マジだるい…」

そう口にしそうになって、慌てて俺は口を閉ざす。

(ヤベ…絶対にとび蹴りくるところスよ)

「あ?黄瀬、何か文句あっか?」

笠松先輩の言葉に即座に首を横に振る。

「よし。わかれば良い」

その言葉に、ひとまず首を縦に振る。

「つったく、お前の所為でにも迷惑かかるし…本当にしっかりしろよ黄瀬!」

頭をガリガリとかきながら、笠松先輩はそう口にした。

(誰っすかって…そいつの所為で怒られるとかマジ無いスわ)

ウンザリしながら俺は笠松先輩を見てつくづく思ったのだった。



それからしばらくしたある日、馬鹿な俺は、笠松先輩の言っていた『』って人の所為で怒られると思い込み…腹立ち紛れで文句を言いに乗り込んだのである。

結果は、惨敗。

「天才だとかキセキの世代だとか、二つ名ついてテンション上がってる所悪いけどね、それはもう過去も話。高校は高校でリセットされるの…君はもう海常の黄瀬である自覚を持ちなさい。他校は他校、海常は海常。郷に入っては郷に従えって言葉ぐらい受験生してたから分かると思うけど、そこそこの学校に規則やルールがある。バスケ部はどうだか知らないけれど、サッカー部でそんな舐めきった口を先輩に言う人間が居たら、お引き取り願う所だわ。今回の件についてはしっかりと、笠松君とバスケ部顧問に報告するのでそのつもりで」

マシンガントークで口を挟む余地なんてないぐらい言い負かされるし、赤司っちばりの冷たい視線を向けられるしで散々スわ。

言われてることも、あながち間違いじゃないしで珍しく凹んだ。

(また、笠松先輩にも怒られるとか最悪ス)

案の定その後、笠松先輩に怒られるわ…珍しく小堀先輩にも小言をもらうやらで散々な目にあった。


そして、高校生になって、少しずつ海常バスケ部にも慣れてきて…まぁ先輩方も悪くないなと思い始めた頃、不思議と気になることができた。

主将の笠松先輩の事。

熱くて、上下関係に厳しくて…少しウザいと感じる日もあるけど、面倒見の良いキャプテンの周りは何時も賑やかだった。硬派なのか…不明だけど、モテそうなのに笠松先輩の周りに女気が無い。

噂による苦手らしいけど。

けど例外が一つ。
笠松先輩が唯一よく話す女の先輩が居る…あの時俺が噛みついたあの先輩である。
平均より少し小さめのその人は、先輩と並ぶと丁度良い雰囲気を醸しだしてると思う。

だからてっきり、先輩とその人は付き合っていると思っていた。

それなのに、笠松先輩の彼女さんだと思っていた先輩が違う部のマネージャーをしていることに違和感があって、どうしてバスケ部のマネージャーを頼まないのかなと不思議に思っていた。

流石に、笠松先輩には聞けなくて…森山先輩に聞いたら…。

「ん?まぁ…無理だろう」

とそっけない答えだった。

「何スカ、その気の無い反応。先輩女の子好きなのに、乗り気じゃないんスね。それとも、笠松先輩の彼女だから興味無いスか?」

は笠松の彼女じゃない。マネージャーとしては優秀だし、人として嫌いじゃないけど、俺の運命の相手では無い。そもそも、と笠松は色々難しいんだよ黄瀬」

「ええーっ。絶対、あの人がマネジャーやったら笠松先輩だって喜ぶんじゃないんスカ?」

「喜ぶか否かは不明だけど…まぁプラスに働くだろうけどな〜…正直無理だな」

「そうスカね?」

もまた笠松並に自分の部活に対して真剣だし、例えが笠松に好意を抱いていたとしても、自分の部活と天秤にかけたら確実に部活を取るぐらい似たもの同士だし。まぁ…他人が介入するもんじゃないって」

珍しく苦虫をかみ締めたような顔をしながら、そう口にする先輩に不思議に思いながらも、不意にある人物を思い出す。

「桃っちに似てるスね」

口に出して言えば、ああ…成る程思うほど…何処か似ている事に気が付いた。

「ん?」

思わず漏れた言葉に反応されるが、俺は軽く首を振った。

「こっちの話スよ」

ヘラリと笑って返せば、呆れたような空気が周囲にたちこめる。

「黄瀬、人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られるぞ」

不意に小堀先輩がそう口を挟んだ。

「へ?」

「昔からの教訓だ。ちなみに、コレばれたら笠松が大激怒だろうし…サッカー部の奴らに何されるか分からんしな」

「そうスかね?」

「ある意味、良い意味でも悪い意味でもとバスケ部は鬼門だ。兎も角、頼まれても居ないのに余計な事をすると拗れるんだ。と笠松のことには関わらないのが一番だ」

先輩方のそんな言葉を右から左に聞き流した俺は、気になる先輩に色々な伝手を使って接触することにした。



ファンの子の協力を得て、マネージャになってもらう様に先輩に話せどもその人は絶対首を縦に振らなかった。

だから、「俺は笠松先輩の彼女でしょ?何でスカ?」って言ったら…。

「んーっと。笠松君の彼女じゃないよ。だって私玉砕してるんだよね…笠松君に」

少しだけ困った顔をしながら、その人は迷いなくそう言葉を告げた。
あまりにも、ハッキリと告げられた言葉に俺は何を言われたのか理解に苦しみ無言になった。

そんな俺に、先輩は責めるわけでもなく淡々と言葉を続けた。

「現実逃避しているところ悪いけど。笠松君にフラレてます。黄瀬君。三年のバスケ部と言うか森山君は知ってる話じゃ無いかな…たぶん」

淡々とした様子で告げられる言葉だけど、どう考えたもその内容は先輩にとっては触れられたくない負の遺産筈なのに、あっさりと言葉を紡いでいた。

(何と言うか…申し訳無さでいっぱいス)

心の中で、途方に暮れながら俺は言葉を何とか絞り出す。

「普通に仲良いし…お似合いかなって思ったんス」

俺の言葉に先輩は、肩を竦めて言葉を紡ぐ。

「お似合いか…現実甘く無いんだよ黄瀬君。ラノベ的展開やら、恋愛小説みたいな展開はまず無いよ。まぁ…失恋してる身だしね。普通はきっと凄く気まずいんだろうけど…ギクシャクしてたらさ、きっと笠松君困るでしょ」

色々な想いを秘めた様な表情をして、先輩はそう口にした。

(笠松先輩の事より…絶対自分の方が辛いのに…気丈なんスね先輩わ)

自分よりも笠松先輩を優先にする、その先輩に正直凄いと思った。

先輩の方が辛いんじゃないスカ?それなのに、笠松先輩を優先にするんスカ?」

「うん、辛いよ。辛いけどね…惚れた弱みかな?だって、ただでさえ、女の子に声のかけれない…赤面して上がりまくる純情笠松君が…数少ない生物学上会話を成立できる私と気まずくなったら、まぁ生きていけない事は無いけど…海常お墨付きの笠松係だから…業務って言い聞かせてる。私が我慢できる範囲で頑張るって決めたから仕方が無いよ。まぁそれに…私の意思とは関係なく…そうせざる得ない状況があるんだよ…」

「そうとうキツイじゃないスカ。幸せじゃないスよね」

「幸せでは無いね。好きな人の為なら何でも投げ捨てられるほど大人じゃ無いし…でも、笠松君のバスケのファンでもあるんだよね。だから、期間限定だから我慢できる…と言うか我慢するんだよ」

何処か誰かを彷彿とさせる寂しげな眼差しの中の決意の表情に俺はたじろぎながらも疑問をぶつけた。

「期間限定スカ?」

先輩のその言葉に引っかかる俺は聞き返す。

先輩は、少し眉を寄せてからそう答えにならない答えを答えたた。

「んー。答えても良いけど…でも教えてあげないよ」

「何ですか?」

「だって黄瀬君、口軽そうだし、ウッカリ口走りそうだから教えません。第一、会って間もない君に全て教える程私は甘くはないんですよ」

ハッキリと言い切る先輩。

「お願いしても駄目スカ?」

「まったく。無駄にモデルのフェロモン垂れ流さないでくれる?黄瀬君のファンの子に撲殺されるの嫌だから」

溜息と共にそんな風に窘められる。

「俺が守るスよ」

「駄目だよ黄瀬君。簡単に守るとか口にしたら…」

「へ?」

「守るのは結構しんどいよ。戦って勝つよりも数倍にね…今後の為に覚えておくと良いよ」

肩を竦めて、辛そうな表情と複雑な感情が入り混じった表情でそう先輩は口にした。
その姿に自分が良く知る、空色の影が先輩とダブル。

(そういえば…黒子っちも先輩と同じような目をしてた)

自分よりもチームを優先としていた、黒子っちも…気が付けば目の前から居なくなっていた。

(そうやって…何かを諦めて置いて行くんスカ?)

先輩が黒子っちでは無いけれど、何故か俺はそう思わずにはいられなかった。

「諦めるんスカ?」

「ん?」

「笠松先輩のこと諦めるんスカ?」

俺の言葉に先輩は憑き物が落ちた表情を浮かべて言葉を紡いだ。

「黄瀬君。人はね弱いかもしれないけど、結構前を向いて進む事もできるんだよ。違う恋も…一つの選択肢だし…諦めるのも自由なんだよ…まぁ…諦めないのもだけどね…」

意味深な言葉を紡ぎ先輩は、それっきり笠松先輩の事を語らなかった。
流石の俺も、それ以上は聞けなかったというのもある。



後日、他の先輩方から先輩の情報を懲りずに俺は集めた。
人格は申し分無く、マネージャーとしても優秀。

桃っちに比べると、親しみのある雰囲気で同級生、後輩、教師陣からも好感を持てると言うわれる程。
本業のマネージャーとしても、優しいだけではなく厳しさも備えている、部活に全てをかけている。
部活が恋人そう揶揄されるぐらい、先輩は部活に全てを捧げているように見える。

(女版…黒子っちって感じすか?)

先輩を知れば知るほど、失った影を思い出す。

そしてバスケ部と先輩との間の確執。
何やらひと悶着があったらしいと言うことと、ソレは一方的にウチが悪いという事しか分からなかった。

(小堀先輩の言っていたバスケ部の鬼門って奴すかね)

考えても結局分からないまま、笠松先輩と先輩は相変わらず仲が良く、似合いの恋人…というか、熟年夫婦かと思うぐらい息が合っているようにしか見えなかった。

(絶対…上手くいく二人だと思うんスけどね)

余計なお世話とは思いつつも俺はそう思わずにはいられなかった。


俺も結構頑固なところもあって、先輩と交流をはかっている。
その度に、苦笑と呆れが表情ににじみ出ているのはご愛嬌だ…。

(マジ…黒子っちとかぶるス先輩)

そんな事を思いながら、相変わらず先輩と話すネタは笠松先輩の事。

「笠松先輩に彼女出来たら先輩どうするんスカ?」

「どうって…とりあえずおめでとう?」

「何かこう無いんすか?」

「どうって…そもそも私彼女でもなんでも無いしね…新しい恋を探すとかかね」

そう言う先輩に俺は溜息を吐く。

「そうじゃなくて、リベンジとか無いんスカ?」

「ん…無理じゃない」

「へ?」

「だって笠松君だよ。鈍い…純情スポ魂バスケバカ…告白にも最初全然気が付かない人なんだから無理」

キッパリ言う先輩に清々しさを感じる。

「じゃぁ逆転サヨナラホームラン的な感じで笠松先輩から告白されたらどうスカ?」

「うーん。変な希望とか…願望とか持つとね、裏切られた時辛いもんだよ」

「あ…え…っと…もしもって事あるじゃないスか」

「もしも…ってだからね黄瀬君。そんな甘い考えが何処かあった私が告白して、フラレタってこの間の一件で分かると思うのに何故に聞くかな?まぁ…分かっていてやってる森山君よりマシかもね」

「重ね重ね申し訳無いス。でも、絶対に笠松先輩と先輩は相性良いって思うんス」

「めげないね君も…罵倒しても這い上がってくるその根性だけは認めるけど…マゾ気あるのかもしれないと他人事ながら心配になるわ」

「ははははは」

「いっそうの事バスケットの女神様でも具現化して笠松君の彼女になってくれれば万事解決なんだけどね」

少し切なげな表情に疲れを滲ませた雰囲気を纏って先輩は口にする。
その言葉に俺はスルリと言葉が口から出た。

「先輩だって似たようなもんでしょ…海常のジャンヌダルクだか戦女神だとか…」

「痛い二つ名で恐縮なんだけど…まぁそもそも無理だよ黄瀬君」

打って変わって、強くまっすぐな言葉で先輩は言葉を紡ぐ。

「え?」

「その言葉をあえて使うとして…だって私…サッカー部の戦女神って言われてるんだもの…バスケットの女神様にはなれないの」

真っ直ぐに揺らぐことのない声音と視線で先輩は言い切る。

「先輩」

思わず、先輩の方に手を伸ばそうと思うほど…先輩と俺との間には凄く大きな溝があって何だか急に、近いのに遠く感じる気がしてならなかった。
そんな俺の心情など気にすることも無く、先輩は言葉をつづけた。

「バスケとサッカーを天秤にかけたら私は間違いなくサッカーを取る。例え笠松君の事が絡んでいたとしても…だからバスケットの女神様になれないんだよ」

紡ぐ言葉と先輩…その向こう側に、笠松先輩が重なるような気がした。

(似たもの同士…むしろ…やっぱり何処か)

不意に掠める自分たちの影だった…存在と重なり、益々申し訳ない気持ちになった。

「スイマセン…俺」

俺の言葉に、先輩は肩を軽くポンポンと叩いて言葉を紡いだ。

「良いよ。悪気無いんだろうし…それにね、彼女が居なくたって、笠松君には君が居る。森山君、小堀君、早川君、中村君…今のバスケ部は笠松君と共にある…辛い事も嬉しい事も分かち合える存在がね…まだ黄瀬君は海常の黄瀬君っていう自覚は薄いかもしれないけど…笠松君の事を思ってそうやって行動している君だから…私に拘らなくても笠松君は大丈夫だよ」

先輩」

「はい。この話はお終い。君も私も笠松君もそんな事で時間を使ってられないんだから、IHの事だけ考えなさいね」

そんな風に言う先輩は…やっぱり何処か黒子っちに似ているような気がしてならなかった。


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2017.3.31. From:Koumi Sunohara

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