-恋乞い 11-
あの夏から暫く経って、秋の肌寒い風が吹く頃には、まぁ表面状はだけど、笠松君とバスケ部との関係は修復している様に見えた。
膿であった、先輩方の引退というのも大いににあると思う。
サプライズ人事なのか、バスケ部の部長として笠松君が就任したという事もあるかもしれない。笠松君自身が、この部長襲名に色々思う事があるのもあるけれど。
それでも、彼は自分と向き合い…前を向いて歩いている。
私は、自身の部活動の傍ら笠松係を相変わらず続けている。
これは、森山君との約束もあるけれど…あの夏に自分自身で決めた事だから私も全力を傾けている。
悩むことも多々あるし…笠松君の女の子に対するアレルギーは日を増すごとに悪化しているように感じるのは、気のせいだと思いたい。
(わざわざ改善しなくても、私がどうにかしてくれるという開き直りが悪化を進めてるとか?)
不意に過りる嫌な予感を感じながら、自分のほかに近づくライバルが居ないことに少しだけ安堵する自分に心底嫌気がさす。
(この状況に喜んでいるのは自分という現状は本当に不毛だわ)
友人の上位に恐らくはランク付けされている…ある意味美味しいポジションは変わらない。
ただ恋愛感情が無いだけ…。
贅沢な悩みなのかもしれないその状況は今現在も変わることなくご健在である。
あの夏の一件で、周りは笠松君と私の関係は確たるものだと思っているようだけど、現実は異なるのである。
けれども、この状況を甘んじて受け入れると決めた以上は進むより他ない。
不意にファッション誌に載った、キラキラしい男のが目に映る。
(そういえば最近よく見る子…確か黄瀬…なんとか君)
雑誌の中で笑顔を振りまくその子を見て、そういえばと思う。
(笠松君の読んでる月バスにでも見かけたような)
ファッション誌以外にも出ていた事を思いながら、私は一つの考えが思いつく。
(芸能人を好きになるのと同じようだと思えばいいのかも)
私は雑誌に載る黄瀬君を見てふと思った。
現実に雑誌に映る黄瀬君と同じ学校に通ってる子にしてみれば、ちょっとした手の届きそうな届かな存在に熱を上げている人だって少なくないのだから…二次元やアイドルに恋をしてい
ると思えば少しだけ、この不毛な恋心も報われるかもしれないと…。
そう思い込めば少しだけ心は軽くなる。
あまり興味の無い黄瀬君に少しだけ感謝をした。
まさかこの時は、このモデル君が私の世界に関わってくるなんて思いもしなかったけれど…。
兎も角、線引きをして割り切れば、精神衛生は少し改善されて…私と笠松君の関係はやっぱり周りからすると何も変わらない当たり前の日常となっている。
同じような日常だけど、それでも少しづつ違うのが時の流れで…サッカー部の3年生の先輩が冬の試合を待たずに引退する先輩が数人居たりと…少しずつだけど変化が確実に訪れる。そ
れに伴う様に、自身があと1年で高校生活が終わることを意味している現実がじわじわと実感が湧いてくる。
恋だけではどうしようもない現実。
就職にしろ進学にしろ…部活に…学校生活…考える事は山の様にあるけれど、体は一つで心も一つ…青春とは本当に甘酸っぱいやらほろ苦いやら複雑で困ってしまう。
それでも、それは…貴重な経験で…そんな事も含めて青春であり…恋をするって事なのかもしれない。
「部活やら…色々やることが沢山あるから…笠松君への恋心の傷はこれでもましなのかな?」
ため息を吐く様に零れた言葉に何となく、納得する自分が居る。
「人間の防衛本能って本当に上手くできてるもんだわ」
痛みを痛みで麻痺させる…不幸を幸福で緩和させる…色々な足し算に掛け算…そうして人は調和とる。
「先輩何小難しいこと言ってるんですか?」
「ん?ああ、秋だから少し哲学ぶってみただけ」
不意に近くにいた後輩にそう聞かれた私は、少し苦笑を浮かべてそう口にした。
「なるほど…文学の秋…スカ…俺は断然食欲の秋スね」
「あらあら、そこはスポーツの秋じゃないの?」
「先輩…スポーツは年がら年中ですよ」
笑って言い切る後輩に、私は「まぁ運動部にはそうかもしれないけど」と苦笑を浮かべると後輩は更に笑顔で言い切った。
「年中食欲もあるんですけどね俺」
「もう…」
「やっと笑ってくれましたね先輩。秋は何か物悲しい気分になるスけど…やっぱり先輩は笑ってる方が良いスよ」
「え?」
思わず頬に手をあてて、私は後輩を見やる。
「先輩は色々な事を考えてくれる良い先輩ですけど…色々悩みすぎるって思うス。笑う門には福来たるってばあちゃんも言ってたし…あ…でも無理に笑う必要は無いし…わざと気丈
に振る舞えってわけじゃねぇけど…時々頭をカラッポにして笑って…騒いで、発散して欲しいと思うってだけス」
サラッと言ってのける後輩に私は、「言うようになったわね」と小さく呟くと、後輩は笑顔で答えた…。
「なんたって、目指すは先輩みたいなカッコイイ男スから」
「いや…目指すべき間違ってるから…私一応女の子だし」
「知ってるス。そうじゃな無くて、一本筋の通った…小さな背中で俺達を何時も守ってくれるそんな先輩みたいな存在になりたいって事ですよ」
「買いかぶりすぎ」
「もう。先輩は自己評価低すぎですって…他の連中も沢山俺みたいに思ってるんですって…他の部活連中にも羨ましがられるぐらい先輩の価値は高いんですから…」
熱を込めて言う後輩に、肩を竦めればふくれっ面で私を見て「分かってるんすか?」と言い募る。
「分かった…取りあえず、後輩に慕われてるって事は十分にね」
そう終わらせる私に、後輩は不満気にまだブツブツ言っていたけど最後にハッキリと言葉を紡ぐ。
「だから…絶対に先輩は何があってもそのままで良いんです。バスケ部なんかに絶対にあげませんからね」
と…。
「バスケ部って…あの時の一件ね。本当に皆に迷惑かけたわね」
「いえいえ。先輩の為なら大したこと無いですし…そもそも、俺もあの仕打ちは気に食わないかったんで…問題無いですよ」
「ふふふ。有難う。でも、私バスケ部に嫌われているでしょ?それが何で、バスケ部にあげないに繋がるのか不思議なんだけど」
そう後輩に告げれば、後輩は目を瞬かせた。
「先輩本気で言っています?」
「ん?」
「はぁ…まぁ…そんな先輩だからこそなのかな?」
「何一人で納得してるのよ?」
「いえいえ。同学年だって言うだけで、先輩に頼り切ってるバスケ部2年森山先輩を筆頭に中村に早川…後…笠松先輩。何だかんだ先輩は困っていたらバスケ部だって関係なく
助けるから…自然と好かれるんですよ」
「買いかぶりすぎ」
「そして…自分への評価が低いからある意味、好意を持った人間は哀れスけどね」
「え?何か言った?」
私が聞き返すと、後輩は小さく首を横に振る。
「いいえ。バスケ部の夏は終わっても俺らは冬に向けての戦いがあるわけでですし…先輩にはしっかりしてもらわないとって」
「上等。最高のパフォーマンスを見せてくれるんでしょうね?」
「当然ですよ。何せ、戦女神がついてるんですから」
ニッと笑ってそう軽口を叩く後輩を私は軽く小突きながら、歩き出す。
気が付けば…秋風に漂う私の少しのセンチメンタルな気分は、秋晴れの空の様に澄み渡っていた。
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2015.5.4. From:Koumi Sunohara