-恋乞い 10(幕間1)-
(said:MORIYAMA)
高校に入って面白い奴と仲良くなった。
見た目は爽やかな硬派な好青年…中身も大体そんな感じ。
同じ部活で必然的に仲良くなった。
名は笠松幸男。
その見た目通りというか笠松は硬派である。
女子との距離の遠さは信じられないぐらい遠い。
一部の女子からはクールでカッコイイと言われているらしいが、本人は困った顔をよくしている。
(モテる事は良いことなのに変な奴)
正直この時の俺はそう思っていた。
けれど、知れば知るほど理由が分かる。
どういう経緯か不明ではあるが笠松は女子が苦手である事が分かった。
恥ずかしくて上手くしゃべれないとも言う…そういう理由で距離があるだと判明した。
しかしながら、笠松も健全な男子高校生な訳で…男色ではなく普通に女子が好きである。
ただ、照れて上手く話せないという…猫好きの猫アレルギーみたいな感じで少し可哀相に思う。
勿論、男子高校じゃない訳で…少ないながら女子と共同に作業することも出てくるのだが…此奴大丈夫?と心配になる程挙動不審になる。困ったもんであるが、捨てる神があれば拾う神も居る。そんな笠松には重要な存在が存在する。
笠松幸男という人物を語るためにには、と言う人物が必要になる。
コレは海常の同学年の連中であれば常識と言っても良いぐらいだと俺は思う。
コインの裏と表…一対の存在…言い方は人それぞれだけど、笠松にとってはそのくらい重要な存在なんじゃないかと思う。
大げさだと思うかもしれないが…笠松にとってはある意味生命線に近い。
女子生徒が苦手な笠松が唯一、普通に接することのできる女子生徒…それがその人である。
何故、だけが問題無いのか…その辺りは謎としか言いようが無い。
いっそうの事、幼馴染だとか言ってくれたら納得するが…そうでもない。
高校で知り合った…知り合い歴は俺とほぼ変わらない。
特例中の特例な稀有な存在。
恋人か?…それも違う。
友情以上恋人未満…なのか…彼らはつき合ってはいないのだ、恋人だと言われた方がしっくりとくるが…は兎も角、笠松には無理な相談かもしれない。
程よい距離感…男女間の友情なんてものは存在しないと思われるこのご時世に、珍しいぐらい息の合う間柄…それが、笠松とだった。
そう…だったのだ…。
が笠松に告白をする前までは…。
恋をするなとは言えない…人の衝動何てもんは止める事なんてできない。
そもそも、男女間の友情は成立しないと世の中のの人が言う。
それに何となくだが思う…が笠松以外を選んでつき合ったとしても…この関係は成立しないと…。
俺がの立場で、恋愛感情が無い状況で笠松係をしたとするなら…そうとうな貧乏くじだ。同性で同じチームメートで友人だから良いのであって…慈善事業な役職に好き好んでやる奴は居ない。
よく言うだろう…恋は惚れた方が負けだと…は正に好き故に笠松に対して親身になって対応している、だから笠松係りが成立している。
そんなに俺は酷い事を要求した。
自分が同じ立場だったら、願い下げだと断るような…そんな事を平気で言いながら…。
が失恋してすぐだと言うのに…。
「まぁ笠松だしね。それにしても、何で今更告白しちゃったのさ。あと丸々1年半あるのにさどうするんだよ」
「言わせて貰えば、胃もたれしたまま、何時か来る胃潰瘍に怯えるなんて私には出来ないわ。これでも、一番被害が少ない状況で告白したつもり」
「そういう事考えられるならさ、高校卒業まで我慢してくれても良いと思うんだけどね」
「余計なお世話です」
「にとっては余計なお世話なのは分かってるし…でも、笠松に関しては別だぜ」
「それって笠松君係りのこと言ってるの?」
「理解が早くて助かるよ。最低で今年のインターハイ…最長で来年のインターハイまで面倒を見てもらわないと困る」
「あのね…理不尽にも程があるでしょ。第一、同じ部活の仲間で友達なんだから、私に頼らないでどうにか克服させる事を考えたらどうなのよ。合コンとか…グループ交際とかで免疫つけさせるとか」
「出来たら苦労しないって」
「私にばっかり頼ったて結局どうにもならないでしょ」
「頼れるものがあれば頼む」
「呆れた。何ソレ」
「第一惚れた弱みだろ?は笠松を見捨てることは出来ないね」
「ひとまず今年のインターハイ終わるまでは、しっかり笠松係りを務めてくれないと困る。彼氏をつくるのなんてもっての他だね」
「本当に…女心の分からないよね森山君」
「男だからね」
「だから、残念なイケメンって言われるんだよ。森山君こそ彼女つくるのは遥か彼方だね…まぁ…バスケ第一だから関係無いだろうけどね」
「こそ何言ってるの。俺は俺の運命の相手を待ってるだけだって」
「はいはい。そういう事にしておきますよ」
今思い出しても、最低なやりとりだったと思う。
それでも、が損な役回りを買ってくれたのは笠松が好きだから。
純粋に思う恋心を俺は平然と利用した。
バスケ部の為とか笠松の為とか言いながら、結局は面倒事を全てに押し付けて俺は楽な道ばかりを進んで、笠松の程よい距離に収まっていた。と言う女の子の犠牲の上に…。
俺の望み通り、は笠松係を続けてくれるし…バスケ部の調子も良かった。まぁ…その分の所属しているサッカー部から睨まれ、事あるごとに制裁を受けているが…程辛いものでも無いが…。IH優勝も目指せるそんなチーム…全ては順調だった。
けれど、現実は残酷だった。
人の不幸の元に成り立つ、栄光を神様は許さなかったのかもしれない…。
IH1回戦敗退。
原因は色々あるけれど、笠松はパスミスをして…結果負けた。
試合をしっかりと見ていれば、笠松だけの責任は無い…けれど、チームとして負けた理由をつけようとした時…戦犯にされるのは2年である笠松となる。
嫌な流れだけど…スケプゴート…誰か一人を責めて、自分を守ろうとする…一種のイジメのような空気がバスケ部に流れた。
そして俺は何も出来なかった。
友人だと仲間だと言っておきながら…笠松に手を差し伸べる事も…責められる笠松を庇うこともしなかった。と言う一人の女子生徒の気持ちを踏みにじり、人柱の様に仕立てた癖に…俺は結局自分も先輩の非難にさらされるのが怖くて…何もできなかった。
そうして、全てが後手後手に回っていた時に…結局笠松を救ったのは、だった。
単身で敵陣に乗り込み、理不尽と戦い…笠松の心を救った。
には何にも得なことが無い。
振り向いてもらえる訳でも無い…。
泡になって消えた人魚姫の様に、潔くそれでいて何処までも笠松に献身的な存在。
けれど、人魚姫よりも強く…自身が血濡れになろうとも、大事な者を守ろうとする志がある…
サッカー部の戦女神…もとい海常のジャンヌダルクと一部の人間からそう言われているが、この一件で益々その渾名で呼ばれるようになった。
悪政を働く者へ鉄槌を与え、正しい道へ導くジャンヌダルクと…。
(これ以上は流石にに頼ってばかりはいられないよな)
自分のした事、バスケ部のした事を鑑みてもにとって迷惑この上ない状況を強い続ける事に流石に、俺も思うようになってきた。
でも根本は何も変わらない。
心の中でそう思っていたとしても、行動は伴うことは非常に少ない。
に頼らないと思いながらも、結局俺は頼っていて…舌の根も乾かぬ内にの元に出向いていた。本当に最低だと思う。
何時もの様に、飄々とした感じでに近づき声をかけた。
正直、笠松の為とか…そうじゃなく…今思えば、罪悪感と弁明の為に声をかけたのかもしれない。
それについては、に見透かされ…結局の懐のでかさに頼ることになった。
反対に向こう側から…期限と言う制約をつけて。
(ある意味男前だよな…同性じゃなくて良かったというべきなのか…同性であればここまで、笠松とこじれる事がなかったのか…まぁどちらにせよ、過去は戻ることができないし…IFなんて存在しないけどな)
を浮かべて心底思う。
(そういえばって女子のファンも多いよな…が男だったら確実に相当モテる…うん。が異性で良かった)
現実逃避気味にそう結論付けながら、俺は今後の笠松の女の子克服作戦に頭を悩ませるのである。
短く設けられた猶予を思い浮かべながら…。
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2014.11.3.From:Koumi Sunohara