恋乞い(7)  


送りだされてから、私は様々な思いを巡らせる。

バスケ部の先輩方や森山君になら、平気で暴言だって吐けるけれど…やっぱり笠松君に関しては別物だと思う。
メールや手紙なら恐らく大丈夫ではあるけれど、面と向かって話すにはかなりの勇気が居る。

しかしながら、私は色々ぶっ飛んで仕出かした数々を考えると…笠松君をスルーするわけにはいかない。

心の傷は目に見えるものでは無い。
目に見える傷ならば…薬を塗ったりとか…処置のしようがあるけれど…心の問題はどれが正解なのかも、分からない。

十人十色の答えが其処にある。

私がしたことが、そもそも正解なのかも分からないし…笠松君にとっては凄く余計なお世話な内容だったかもしれない。

見守るのも優しさだと…言うかもしれないけれど、私から見て笠松君と言う人は案外脆い人だと思う。黙っていれば、自分で穴に埋まっていく可能性があると思っている。

最初は傍観していた私が動く事にしたのも、この可能性を感じたからだった。

(いよいよ…嫌われるかしら?)

頼まれた訳でもなく、大捕り物をしでかした私を笠松君は煩わしく感じるかもしれない…それによってこの関係が壊れる可能性に私は、少しだけ胸が痛んだ。

(今更じゃない…そもそも失恋してる…一度は諦めようとしたんだから、当たって砕けて…せめて笠松君が立ち直るなら安いもんじゃない)

深呼吸を一つ吐いて、自分の雑念を追い出すように頭を左右に振る。

(さて…まずは、笠松君を探す所から始めないと)

お腹に力を入れて、意識を切り替える。
頼んでもいなくても、集まってきた笠松君の情報を元に私は望みの人の行先を考える。

(学校外…って可能性が高そう…)

色々情報を選別した結果そう結論が出る。
学校は針のむしろ…そうなれば、学校以外と答えはすぐに出る。

(学校外と言っても…まぁ色々あるんだけどね)

うーんと悩みながら、目星を考えた時…つい先程のやりとりを思い出す。

私のバスケ部に乗り込んだ一件のすぐ後、私はサッカー部の皆に後押しをされるように笠松君を捕まえることを決めた。

その時、2年生の早川君と…眼鏡をかけた2年生…確か中村君という後輩と遭遇した。
どうやら、早川君については私がバスケ部に乗り込んできたという情報を知って、心配になり友人である中村君と伴ってこっそりと見に来たらしい。情報源は頑なに言わなかったが…恐らく、森山君か小堀君のいずれかであると踏んでいるが…後輩が可哀相なのでその辺は気無い事にした。

先輩。大丈夫でしたか?何かさ(れ)ませんでしたか?」

「早川…出会いがしらに言う科白がソレかよ」

「えっと…取りあえず。見た通り無事だけど」

早川君の言葉にそう返すと早川君はホッとした表情を浮かべた。

「落ち着けって言ってるだろ早川。えっと…俺は一方的に先輩の事は知ってるんですが…恐らく俺の事は知らないと思いますので。俺、2年の中村と言います」

前半は早川君に、後半は私に自己紹介を眼鏡男子…中村君がしてくれた。

「中村君…早川君と同学年なんだね。それで、慌ててどうしたの?」

先輩と、3年生の先輩が対峙してるって聞いて…心配で」

私の問いに早川君がそう答える。

「ソレもありますが…笠松先輩の事だったので余計に」

早川君の言葉に続けるように中村君もそう言った。
そして、辛そうに言葉を紡ぎだした。

「IH…笠松先輩の所為ばかりにする先輩に正直、本当にここに居ていいのかと思いました。俺たち同様にそう思っている奴らも沢山居て、直談判しに行こうとしてたら…笠松先輩に止められて…結局どうする事もできなくて…不甲斐なく思っていたら…」

「私が乗り込んでいったって事か…」

中村君の言葉に私がそう続けると、中村君は静かに頷いた。

(自分がしんどい癖に…本当に笠松君は…まぁ…そこが笠松君らしいいんだけどね)

後輩思いの笠松君を思い出して私は、小さく息を吐いた。

先輩が一人で行ったって聞いて…笠松先輩の事もあるからオ(レ)心配で。何かあったら、笠松先輩に申し訳が立たないと言うか」

「女の人にどうこうするような先輩だと思いたくないですけど…」

早川君と中村くんが、心配げにこちらを見てそう紡ぐ。

「一人といえばそうなんだけど…気が付けば援軍が来たし…まぁ大丈夫だったよ」

安心させるようにそう笑って言えば、二人はホッとした表情を浮かべる。

「サッカー部は先輩を凄く大事にされてますし、仲間意識が強いのは凄く有名ですもんね」

「有名なの?」

「はい。俺のクラスのサッカー部の奴が何時も自慢げに話してますから」

フワッと表情を緩めた中村君は私の問いにそう返した。

(あの子達はいったい何を言ってるのだろう?)

此処には居ない後輩の言動を思い少し、微妙な気分になる私に今度は早川君が声をかける。

「そ(レ)に先輩は俺たち1年に慕わ(レ)て(ル)んですよ」

「ああ。自分の部以外の子にも声掛けをしてくれたり、熱中症になりそうな子にドリンクをあげたり…けがの治療してくれたり…そんな奴らばかりです。だから、もし先輩に何かあったら恐らく、そういう連中も黙ってないと思います。何事がなかったようなので、何よりですけど」

早川君の言葉を引き継いだ、中村君がそう締めくくる。

「えっと…なんか…別に私、そんな凄いことをしていたわけではないのだけど」

「先輩がそう思わなくても、感謝してるやつが大勢いいるって事です。まぁ…そんな話があるんだぐらいで、あまり考えないで良いと思いますよ」

「そうなんだ…まぁ…そういう事にしておくけど。因みに笠松君に申し訳が立たないって何で?」

「ソ(レ)は勿論、先輩が笠松先輩の彼女だからス」

「へ?何それ?違うよ」

早川君の言葉にすぐに否定をすると、早川君は不思議そうな顔をした。

「違うんですか?凄く仲が良いじゃないですか」

「仲は悪くないけど…笠松君とは友人だよ」

苦笑いでそう告げると、早川君は兎も角中村君は何かを察したように、困った顔をした。

(うん…察しが良いのもある意味可哀相かも…でも、このコンビは中々良い感じかもね)

「森山君曰く…笠松君係りっていう役職らしいけどね」

笑ってそう付け加えると、中村君は益々すまなそうな顔をして早川君を小突いた。

「つったく。早川のその早合点な所が悪いところだろ」

「悪い。先輩もすいません」

「うんうん。まぁ…心配かけて御免ね」

そう口にすると、早川君は首を横にブンブンと振った。

「改めて、うちの先輩がスイマセン」

中村君が再び折り目正しくそう言った。

「ん?」

「先程の件と…恐らく先輩がお察ししてる件です」

静かに告げられる言葉に、小さく息を吐く。

(本当にこの後輩は…貧乏くじを引くタイプね)

真っ直ぐに中村君を見ると、本当に申し訳無い顔をしていた。

「気遣い有難う中村君。でも、大丈夫…君が気にしている件は私も納得ずみでの事だからね」

先輩…」

「本当に笠松君は良い後輩に恵まれてるよ。そこに気づけば…良いんだけど」

「でも…先輩」

言いよどむ中村君に私は笑って答える。

「駄目なときは駄目だって言うし。まだ大丈夫。それに、私には心強い味方がいるからね」

そう口にした私に中村君は言いようのない表情を浮かべた。

「まぁ…先輩のプライドってヤツかな。後輩の前ではカッコイイ先輩でありたいというね。私でそうなんだから、きっと笠松君もそうなんじゃ無い?だから君らに助けを求める事はしなかった」

そう口にしたら、二人は少しだけ微妙な表情をした。

「先輩に関わらずに…あるでしょ。兄としての見栄とか…恋人に対してとかね」

二人は少しだけ納得したような表情を浮かべる。
それを確認した後に、私は言葉を紡ぐ。

「そんな理由だから。駄目だったらゴメンナサイだけど。ここは笠松係に任せてくれない?」

真っ直ぐにそう告げれば、中村君が心配げに此方を見た。

「任せるのは良いですが…先輩…損しませんか?森山先輩とか…」

「有難う中村君。でも、それこそ…“笠松係の見栄”…後は、バスケ部の先輩方に啖呵を切った手前、ちゃんと私が締めないとね」

「…」

納得いかない気持ちがあるだろうけれど、中村君はそれ以上言及してこなかった。
中村君の優しさに私は思わず言葉がこぼれる。

「優しいね君は。でも…その優しさが枷になるかも…苦労性と言うか…中村君。其処が先輩は心配です」

「不吉な事をいわんでください」

「ふふふ。御免ね。気負わないで…駄目なら吐き出しなさい。話ぐらいなら私も聞くし…そうそう、そういう時に笠松君を頼ってごらん」

「え?」

「きっと、喜んでアドバイスしてくれるよ」

「そうですかね?」

「そういうもんだよ。君達の先輩でしょ?」

そう笑って口にすれば二人の後輩は口々に言葉を紡ぐ。

「そうですね…自慢の先輩です」

「俺だって笠松先輩は自慢の先輩で…勿論、先輩も」

(良い後輩を持ったね笠松君)

私は心の中でそう思いながら、笠松君を探すべく別れを告げた。


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2014.7.16.From:Koumi Sunohara

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