恋乞い(8)
早川君と中村君と別れた後、私は引き続き笠松君の居場所に向かうべく急いでいた。
少し話が弾んでしまった所為か、時間が少しかかってしまった為、笠松君が居るのか不安に感じつつ私は其処へ向かう。
少し弾む息を整え、視線を巡らせれば目当ての人が其処にやはり居た。
「笠松君、やっぱり此処に居た」
哀愁の漂う背中に私はそう声をかけた。
ボソボソと返される言葉に…恐らく「かよ」って言って言うように思う。
今にも消え入りそうな雰囲気の笠松君に私は胸がギュッと苦しくなる。
今の姿を見られたくなかったであろう想いがひしひしと伝わりながらも、私は距離を縮めることにした。
「笠松君を実は探してたんだ」
そう言葉を紡ぐけれど笠松君は体をビクリと揺らしただけだった。
「サッカー部にヘットハンティングをしようかと思って」
あえて、IHの事は触れずに顧問が言ったような言葉を笠松君に一方的に告げた。
「私が笠松君を好きだって言ったよね。人として好きっていうのもある。そして、スポーツ選手としての笠松君の才能も買ってるんだ。だから、サッカー部に来ない?」
震える声を抑えて、わざと明るい口調で私はそう尋ねた。
「が買ってくれるのは嬉しいが。それはできねぇ」
揺らぐことなく紡がれる言葉に、私は少し嬉しい気持ちになる。
(折れそうだけど…笠松君はまだ…心が折れていない)
その事実に…。
(恋も勧誘も失恋だけど…嬉しいと思うのは私マゾッ気あるのかしら?)
何て、少し思いつつ私は笠松君を見る。
「そうだと思った」
私は笑ってそう言った。
「だって…笠松君はバスケ大好きすぎるもの。辛くても…苦しくても…体も心も傷ついても…それでも、諦めきれない…まるで恋するようにバスケに一途だから」
「」
「恋するとは言いすぎかもしれないけど…恋も片思いが叶う確率の方が低いし…どうしようもなくシンドイけど…納得するまで昇華しないと性質の悪い風邪みたいに長引くんだよ。でも…決まってるんでしょ答え」
「…ああ」
短く答えた笠松君の目は、生気が宿っていた。
「良かった。もしも、迷っていて…バスケを捨てるとか言い出したら、奥の手に出るところだったよ」
「奥の手?」
「うん。極端だけど、バスケットシューズを目の前で焼き払うとか…まぁ…色々かな」
半分は冗談で半分は本気の言葉を告げると、さすがに笠松君は微妙な顔をした。
(確かに…極端だけど…。そんな顔をするってことは本当にバスケを捨てたくないんんだろうけど)
心の中でそう思いながら、笠松君を見るとと彼は少しバツの悪そうな顔をした。
「俺は…バスケが好きだ…けど…俺にバスケ部に居る資格はねぇと思うんだ」
静かに告げる言葉に、私は黙って言葉を受け取った。
「正直…バスケ部を辞めようと思った。バスケが嫌いになった…けど…バスケを捨てれない自分がいた。が言う様に、本当に駄目なら…目のまでバッシュを燃やされてもなんとも思う事は無いと思うが…今現在の俺は燃やそうとするを押しのけてでも、回避しようとすると思う」
「うん」
「本音はバスケ部に戻ることが怖くて仕方がねぇ。冷えた眼差しに…言葉の騒音…。何も言ってこない奴も、優しい言葉をかけてくる奴も…心の中ではオレを罵ってるって考えちまう」
笠松君の言葉を黙って聞く私に、笠松君は更に続けた。
「けどよ…それでもバスケ部に戻りたいって思うのは自分勝手なんだろうな」
「そんな事ないよ。笠松君は怒るかもしれないけど…私は、IHの勝敗は笠松君だけの責任だと思わないよ。そもそも勝負は水物…チームプレーをしているのなら、一人のミスをリカバリー出来ない時点でその人を責める資格は無い…連帯責任なんだもの。ミスをした人が自覚が無くて反省しないのは考え物だけど…。取られた点を取り返せないチームにも問題があると思う。一人に責任を押し付けて無かった事にしようとする人達の方が問題。だから、私はこれからが辛い道のりになっても笠松君はバスケ部に居ていい思う」
「」
「私の言葉じゃ勇気づけられないかもしれないけど…。因みに…バスケ部でブチマケテちゃったけどね」
乾いた笑いを浮かべて、そう口にした私に笠松君は少し目を見開いて驚いた後に、小さく笑った。
「かなわ無いな。そういう一方だけを見ないで、考えた上で行動するだから、俺は素直にの言葉が心に響くのかもしんねぇな」
「笠松君」
「んな顔すんなよ。の言葉は十分勇気づけられてるし…何時も背中を押してくれている」
視線を柔らかにしてそう口にする笠松君を見て私は、(本当に敵わない)と心底思った。
「本当に敵わないな…笠松君」
「?」
零れた私の言葉に、笠松君は疑問符を浮かべた。
「私をかってくれている笠間松君にもう一言。刀の素になる鉄は…何度も叩いて折って、伸ばして加熱して…何度も何度も繰り返して強い刀を作る。傷ついて…血を流して…挫折して、様々な経験をした人は挫折をしらない人よりも不測の事態でも対応できる…だから、笠松君の経験は財産だと私は思うよ」
「」
「いい先輩になれるよ。私はそう信じてる」
言い切る私に笠松君は軽く目を見開いた。
「敵わねぇのはこっちだっての…笠松係も伊達じゃねぇな…いや、流石サッカー部の戦女神様だな。それこそ、じゃないがサッカー部から引き抜きたいぐらいだぜ」
偽りの無い真っ直ぐな言葉に思わず、顔に熱が集中する。
「笠松君…人タラシだよね」
頬の熱に気にしながらそう紡げば、笠松君も少し赤くなった顔で反論した。
「なぁ…の方が人タラシだろうが。まぁ…アレだ…だぁぁぁ…忘れてくれ今の全部。兎も角、にはデッカイ借りができちまったって事にしてくれ」
頭ガリガリとかきながら、笠松君のそう口にする。
「お代は…そうだね…IH切符って事で」
ニッと笑ってそう返せば、笠松君は何時もの表情に戻って言葉を紡ぐ。
「切符じゃねぇよ…目指すは優勝だ」
そう告げる笠松君の目には、吹っ切れたような雰囲気を感じた。
その姿を見て…(やっぱり好きだな…)と思いながら、前を向いて歩き始めた笠松君に私は嬉しく感じた。
(恋心さえなければきっと上手くいくのにな…)
などと思いながら…。
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2014.8.9.From:Koumi Sunohara