恋乞い(4)
心に区切りをつけた途端、私は何処か晴れやかな気持ちで、日々を過ごしている。
キラキラと水面に輝く陽の光。
ジャージで隠れていない、肌をジリジリと焼き付ける陽射しに、あぁ真夏まっさかりだなぁと他人事の様に感じる日々。
けれど、この炎天下を現実逃避ばかり出来ない。
私は選手をサポートを担うマネージャーなのだから。
暑さで働かない頭に叱咤激励をして、選手達に作ったドリンクを持っていく。
少し多めの塩分と疲れに効くようにレモンを少し効かせた市販のドリンクの改良版ドリンク。
体に浸透しやすいように、あえて冷たくしないのが私琉。
汗を拭いつつ一人一人に渡していく。
その際にも、体調確認は忘れない。
「、何時も助かるが。マネージャーだって選手の一人だ。無理しないで水分補給とか休憩とってくれよ」
「そうそう。我が部のマネージャーは有能過ぎるのか、働き過ぎるしね。他の子もいるし、は少し休憩しておいで」
ドリンクを渡す度そう声をかけてくれる、先輩と同級生、果ては後輩に私は額に汗を拭いながら答える。
「選手に心配かけすぎみたいだから、少し休憩してきますね」
そう口にすれば、先輩に軽く手招きされる。
(お小言かしら?)
内心そんな風に過りながら私は先輩に近づく。
「ゆっくりしておいで、はい。の分ね」
何となく意図している事は理解しているつもりだった。多めに渡されたドリンクケースにヒンヤリとしたタオルの入った籠。
「何だ」
「いえ。流石にこの量は無いかなって?」
私の言葉に先輩は不適に笑い、近くにいた後輩は不思議そうな顔をした。
「そうですか?多くないですよ、先輩の場合」
「え?」
「だって、何処かのパンのヒーローの様に行き倒れた人いたら自分の分を分けてしまう先輩には丁度良いです」
ドヤ顔で言い切る後輩に、先輩は大爆笑した。
「は愛と勇気だけが友達じゃないけど。まぁお人好し過ぎるから、あっても困らないだろう?まぁ献身的で自己犠牲も大概にな」
「そうスね。本当は先輩をウチの部だけに気をかけて欲しいけど、そんなお人好しを含めて先輩だから、無理しないで下さいね」
「まぁアレだ。お前の恩を仇で返す奴と。虐める奴が居たなら、全力で駆除してやるから安心しろ。は我が部の大事な部員で後輩なんだからな」
ニッと不適に先輩は笑い、私を休憩に送り出した。
後輩や同級生は気づかなくても先輩は、私の恋の相手を知っている…恐らく失恋した事も。
諦める事が出来ないなら足掻けと…そう言う先輩だからこそ、それとなく切っ掛けを然り気無くれるのだ。
(愛されてるなぁ…私には帰る場所がある…それだけで良いのかもしれないなぁ)
先輩と後輩の優しさを身に感じつつ、私は日陰を求めて歩けば、必然的に体育館に足が向かう。
後輩と先輩の読み通り数名の運動部を救助しながら、歩いていると不意に声をかけられる。
「。某パンのヒーローまで兼任かな?駄目だぜ、は笠松係なんだから、本業忘れんなよ」
「森山君。別に優しくないし、たまたま脱水症状の人に水分上げてるだけだし。後、本業は学生ですけどね」
「はいはい。だったらお優しさん」
「だから…」
「水分も取らずにダムダムと練習馬鹿に休憩とるように言ってきてよ」
「あのね森山君」
私の言葉など聞かずに勝手に決める森山君に私は呆れつつ、反論の言葉を紡ごとするがマイペース過ぎる彼には届かない。
「安心しろ、お前の部活の先輩には、“は人命救助の為しばらく戻らない”と伝えておくぜ」
勝手にそう締めくくった森山君は足早に立ち去ってしまった。
(ウチの先輩に見つかったら、案外森山君死亡フラグ確実だよね)
そんな事を思いつつ、ヒョイ中を覗けば笠松君と困り顔の一年生が其処に居た。
「笠松先輩、休憩とってくださいよ」
「あ?早川。大丈夫だっていってんだろ」
「でも、休憩しないと」
一心不乱に3Pシュートをうつ笠松君とソレを戒める後輩の図に、森山君の言っていた意味を理解する。
(体育館…空調整備されていないだけ…寧ろ室内のほうが暑いかも…それで休憩ととらないって…何処の苦行やってるのよ)
真面目すぎる笠松君に、呆れと尊敬を感じつつ私は声をかけた。
「何後輩困らせてるの、笠松君」
「」
流れる汗をリストバンドで拭う笠松君。
「森山君が練習中毒者が休憩とらないって嘆いていたよ」
肩を竦めてそう言うと笠松君はバツの悪そうな表情を浮かべた。チラリと横に目を向けると、汗だくな一年生が目に入る。
「えっと。笠松君が迷惑かけてるね。君だって休憩してないのにね。よければ、コレどうぞ」
私はまだ手元にあったドリンクとタオルを、後輩君に手渡した。
「オ(レ)にく(れる)んですか」
慌てたように、ドリンクケースを両手で握った後輩君は、緊張してるのか不思議な返答を返してきた。
(大袈裟な子だなぁ)
内心そう思いながら後輩君に小さく頷き、私は笠松君にも同じ物を渡す。
「サンキュー。って、こそ休憩中だろ何してんだよ」
「ん?お互い様かな。だから、私の休憩の平和の為に笠松君も休憩しよう」
「でもよ…少しでも練習」
「笠松君。休むことも立派な練習だよ。無理して怪我したら意味無いし、この暑さで水分補給も休息もとらない方が駄目駄目だね」
私に言われた笠松君は少し口を尖らせた。
「あせる気持ちは分かるけど。熱中症で倒れたほうがより悪い。それに、此処にくる少し前に熱中症予備軍を介護してきたばっかりだしね」
「相変わらず、お人よしっていうか。お人よしだな」
「そんなに人が良いとは思えないけど。出来ることしかしないし。まぁそんな訳だから、笠松君も私の厄介にならないように休憩取らないと。ね、後輩君」
前半は笠松君に、後半は後輩君に私はそういった。
「オ(レ)笠松先輩が、倒(れ)た(ら)どうしていいかわか(ら)ないス」
「早川。心配してくれるのは言いから、しっかりラ行言ってくれ」
「言ってるス」
「言えてねぇよ」
「まぁまぁ。二人とも、それより休憩とろうね」
私は二人にそう言って、何とか休憩を取らすことに成功した。
ヒンヤリとした濡れタオルを頬に当てて、ホッと一息つく私に、笠松君の後輩君が声をかけてきた。
「お(れ)早川って言います」
ラ行が微妙な彼は、それでもスポーツマンらしく礼儀正しい雰囲気を纏っていた。
「早川君ね。私は2年のです。サッカー部のマネージャーです。よろしくね」
「サッカー部ですか。良いですねサッカー部」
本当に残念そうに言う早川君に私は、肩を竦めた。
「そう?バスケ部だってマネージャー取る気になれば引く手数多だと思うけどね」
「バスケ部に青春のかけれるようなマネージャーじゃないと無理だな」
「青春手、これまた大きく出たね」
「そうだろ?」
私の言葉に笠松君はそう返す。
「まぁ…ね。そもそも、マネージャーって男子でも良いんだよ。主務って奴。大学の駅伝とかでもよく居るでしょウチの部にも居るしね」
「まぁ…そうなんだが」
その言葉に少し暗さを感じる。
「女子マネージャーは普通に受け入れられてるけど、男子マネージャーは選手として立つことが出来なくなった子とか限界が感じた子がなるイメージって所かな?」
「ああ」
「まぁ…そういう面も確かにあるけど。それでも主務とかマネージャ業をこなすっていうのは、献身的な部活への愛とその競技への愛情だと私は思う。例え望んでも同じフィールドに立てなくても、少しでも携わりたいと思えば…他人になんと言われても誇りに思う。他の子にとってはそうじゃないかもしれないけど、私にとってのマネージャーは誇りをもってできる事だと思うよ」
「つくづくサッカー部が羨ましいな」
私の言葉に笠松君はそういい、早川君も頷いた。
「隣の芝は青く見えるのよきっと。兎も角休憩とりましょう」
何故か羨ましがる二人に、休憩を勧めると笠松君は喉が渇いていたのか一気にドリンクを飲み干した。
「やっぱり喉渇いていたんじゃない」
「そりゃぁ…暑いしな」
私がそう言えば笠松君は少しバツ悪そうに口にする。
その様子を見ながら私もドリンクを口にしつつ、まだ残っているドリンクを笠松君に追加で渡す。
自然の流れで、笠松君はソレを受け取り今度はゆっくりと口にした。
休憩をとりながら、練習法とか…最近の部活の様子とか話していると不意に早川君が言葉を挟んだ。
「先輩達似てますね」
「「ん?」」
「「どこが?」」
「そういう所です。後、二人とも自分の部が大好きで真剣なところです」
純粋にそう思っているの、告げられる言葉に私笠松君は顔を見合わせた。
そして、笠松君の顔はミルミル赤くなっていく。
「ばっ…早川何言ってやがる」
「えっと…コメントしずらい感じだよね早川君」
「えええ。そうですか、オ(レ)としては、思った事を口にしただけだ何ですけどね」
そんな二人のやり取りをみて私は、何だか可笑しく思った。
(うん。やっぱり今のままが案外良いのかも…馬鹿やって…笑いあって、部活に青春をかけて…まるで戦友みたいで…。考え小さかったなぁ私)
心の中で、そう思う。
私の心情を知らない二人は不思議そうな顔しながら私を見た。
「いやぁ〜バスケ部も良いね。羨ましいよ」
そう口にしたら、今度は二人が顔を見合わせて…そして笑う。
笠松君係りもそんなに悪くないかな?と思ったそんな真夏の一幕だった。
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2014.6.22.From:Koumi Sunohara