恋乞い(3)  



森山君と話したあの日以降も、やっぱり笠松君は通常運転だった。
相変わらずの女子の苦手っぷりに、バスケに真摯に取り組む姿勢…私とのやり取りも変わらない。

あの日の事が夢なのか嘘だったのかと思えるぐらいに、告白する前とまったく変わらないやり取りだった。

正直な気持ち切ない気分になる。

前と同じ態度でいてくれるのは、幸福な事かもしれないけれど…背水の陣で挑んだ側からすれば…自分の残した足跡は無駄でしかなかったのか?そんな風に思う気持ちもあるのが現実。

(私の告白ってそんなものだったのね)

そう思ってしまう。

けれど、どこかホッとしている自分も居る。

(矛盾だらけだよね…まぁ…仕方が無いんだけど)

誰かの所為にしようとしても、この結末は自分でも地味に望んだ結末なのかと最近は思うようになってきた。

告白したという大義名分…線を一度引いたという結果。
その経過を経ての現在…女の子の仲で一番仲が良い…他の女子とは別格の存在のポジションである事に何処か安心している自分。

(嫌な子だ…自己嫌悪でいっぱいになる)

人を好きになることは奇麗事じゃない…恋は女を綺麗にするし…醜くもする…平安の世から物語になる程に…恋とは本当にやっかいなものだと痛感する。

(感情のコントロールが上手くいかなかったりと…情緒不安定なのか何なのか…それを解消したくて告白した筈だったんだけど…ままならないものよね)

それでも、そんな関係があまりにもしっくりくるのだから…困りもの。

完璧な形じゃない事が、どこか自然に思えるのだから皮肉に満ちている。

けれど、私の生活は笠松君が全てでは無い。
学生の本質は、学校の生活である…学業、部活、それに順ずる様々な事柄。

地味に学生がやることが多いものである。
そんな訳で、笠松君に失恋した事に浸ってる暇だとか…微妙な関係であるとか、そんな事は些細な事でしかない。

繰り返される日常と、忙しい時間の中で私は少しずつ折り合いを付けてゆく。
時々、不意に思い出される疼く感情はあるけれど…そんな風に感じても、それでも時間は等しく過ぎるものだ。

自身の部活のインターハイもある。
流す汗、切磋琢磨する様子に、部員達の苦悩、喜怒哀楽。
ロッカールームで見る人間ドラマ、一人一人の物語を支え見守るのがマネージャーの務めなのだから、自分の色恋沙汰なんて二の次である。

努力は必ず報われる。

そんな事は全てでは無いことは、私が一番知っている。
挫折をして、限界を感じ涙を流して部を去った先輩や後輩。
怪我で選手としての未来が無いが、献身的に支えるために主務になった者。

努力だけでは超えることの出来ない、才能という壁の前で…沢山の涙と悲壮と絶望を最前線で見ていた。

かける言葉も…どうする事も出来ない自分に情けなさを感じながら、それでも部活が好きで…苦しくても…楽しいさも嬉しさも同じぐらいある故に、私はその世界に居る。

(ああ…そうか…。報われない事も…それでも諦められない事も…盛大な片思いに似てるんだ)

自分だけが悲劇のヒロインを演じている訳にはいかないではないかとふと思う。
苦しいことから逃げるばかりじゃ、どうにもならない。

(選手の尻を叩いている私がこのザマじゃ…駄目じゃない。腹を括ろう。どっちらにしても好きなら…仕方が無い。もとより楽な道なんてありはしないなら…支えになれるならソレで好いんだ)

何となく私は、そう思うことで一つの区切りができたように感じたのであった。


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2014.6.14.From:Koumi Sunohara

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