恋乞い(2)
告白すると決めた私は、色々なタイミングを伺った。
お互いにキズが浅く済む条件を探していると、案外早くその日はやってきた。
珍しく部活の無い、テストも無い…比較的に色々な事態が起きても問題無い放課後。
よくまぁ、こんな日があったものだと神の采配なのか地獄への招待状なのか不明であるが、私はこの日笠松君を呼び出した。
笠松君の方はまったく、気にした様子も無く気軽な感じで放課後に会ってくれる事を了承してくれた。
「から俺に用事って珍しいな」
普段と変わらない表情で笠松はそう口にした。
今まで通りの様子に、私は緊張している事も忘れる様な気分になった。
(このまま…このままの関係で居ればきっと色々煩わしく無いんだろうね…)
心の中でそう感じながらも、私はこっそりと首を振る。
(変わらないと言う事は…気持ちは燻ぶり続けるって事じゃない。一旦リセットするって決めたじゃない)
甘い誘惑に似た思いを振り払うように、私はグッと拳を握りしめた。
始めは当たり障りの無い会話をしながら、私は意を決して言葉を紡ぐ事にした。
「あのね。笠松君、これから言う事はきっと笠松君には寝耳に水だしきっと驚く事を言うと思う。でも、身勝手だけど聞いて欲しい」
そう私が言うと、笠松君は一瞬目をパチパチと瞬いた後真っすぐ私を見た。
「よく分からないが。何か大事な事なんだろ?分かった聞く」
「有難う笠松君」
私はそう答えてから、深呼吸を一つ吐いてから言葉を紡いだ。
「笠松君の事が好きです。私の彼氏になってください」
我ながら男らしい告白だったと思う。
一瞬頭に森山君の言葉を掠めた…笠松係と言う役職けれど、直球ストレート、ホームランかストライクか…あまりにも潔い自分に自身でも驚いた程、私はハッキリとそう告げた。
「かか…彼氏ってあれか?」
(“かか”って…やっぱり動揺してるよね…こういう笠松君を見ると凄く申し訳ない気持ちになるんだけど…そうも言ってられないのよね…ゴメン)
お約束の如く動揺する笠松君に同情しながらも、聞かれた問いに答える私。
「そう。恋人同士っていわれる関係の方」
「そ…そうだよな」
「笠松君にとっては急で悪いと思ったんだけど。言わないと消化できないと思って」
「そっか…正直。突然過ぎて意識が付いていかない。の事は嫌いじゃねぇし、好きか嫌いか言えば好きだが…。の真剣な交際に対する返事を中途半端にしたくねぇから、悪いけどつき合えない」
言葉を選びながら紡ぐ笠松君に、私はなんとなくモヤモヤしていた気持ちがストンと落ちた気がした。
「うん。有難う、ハッキリ言ってくれて良かった」
半分は予想通りの返事に私は、素直にそう返した。
(やっぱり玉砕か…でも…まぁ…これで、前には進めるかな)
心の中でそう思いながら、私は言葉を紡ぐ。
「時間とらせてゴメンね。じゃぁ」
私はそう言って、その場を離れ…気持ちの整理がつくまで笠松君との距離を取るつもりだった。が…。
「ああ。また明日な」
サラッと聞こえたのは、そんな笠松君の何時もの挨拶。私は思わずこけそうになった。
(ちょっと…振った本人…通常営業って…)
心の中でそんな事をこっそりと思いながら、私は曖昧に笑ってその場を後にした。
(何だろう…色々頑張った結果が…微妙な展開になってる気がするのは気の所為?まぁ…笠松君は兎も角、私が距離を置けば良い話よね)
自分でもあまり妙案とは思えなかったけれど、傷心の私は精一杯そう考える事にして家路についた。
結果から言うと…あの時自分の中で起きた嫌な予感が見事に的中した事になる。
失恋した次の日、お約束の如く笠松は通常運行だった。まるで、私の告白と玉砕は夢か幻かといわんばかりに、何時も通り。
笠松君に気まずさの欠片は見受けられない。色々考えていた自分が馬鹿らしい気がしてくるほど、笠松君は通常運転だった。
(何だろう…この余計に消化できない感じわ)
あまりの何時も通りの日常に私は心底そう思わずにはいられない。
(恋に酔うとか…失恋した悲劇のヒロイン気取りたいわけじゃないけど…これって完全に私の告白無かった事にされているパターン?笠松君的自己防衛本能って所?それとも…森山君あたりの入れ知恵かしら?)
思わず色々勘ぐってしまうが、案外策士な一面を持つ笠松君の事だから…両方の線も考えられる。
(悪夢でも夢なら醒めるけど…現実だしなぁ)
現状の事態に私は重苦しい溜息を吐く。
それと、私の気持ちを知る友人には最初、私が笠松君に告白して振られた事を口にしていなかった。失恋当時ショックだったことも勿論あるけど、告白後の笠松君の通常運行に…微妙な気持ちが強すぎて言えなかったと言うのが大きい。
報告をしないまま、づるづると過ぎた時の中でやはりと言うか…友人達は告白することを勧めてくる。女の子が苦手な笠松君に対して彼女達の意見は…相手からの告白はツチノコを見つけるぐらい難しい…から攻めるべしという見解が実に強い。そういう経緯もあって、告白を勧められるのだ。
(実際はもうフラグが真っ二つなんだけどね)
心の中でそう思いながら、そろそろこの件を告げようかかタイミングを計る。
そんな時に森山君から声をかけられた。
「ちょっと」
笠松君が居ない、私の友人も居ないというタイミングで森山君は突然私を呼び出した。
「何?」
「さ、笠松に告白した?」
「したし、失恋したけど何」
森山君のオブラートに包まない言葉に、私も真っ向ストレートで打ち返す。
「まぁ笠松だしね。それにしても、何で今更告白しちゃったのさ。あと丸々1年半あるのにさどうするんだよ」
「言わせて貰えば、胃もたれしたまま、何時か来る胃潰瘍に怯えるなんて私には出来ないわ。これでも、一番被害が少ない状況で告白したつもり」
私がそう口にすると、森山君は頭を軽くかきながら言葉を紡いだ。
「そういう事考えられるならさ、高校卒業まで我慢してくれても良いと思うんだけどね」
「余計なお世話です」
「にとっては余計なお世話なのは分かってるし…でも、笠松に関しては別だぜ」
私以外の女子にはデロデロに甘い森山君とは思えない、真面目な声音でそう言った。
「それって笠松君係りのこと言ってるの?」
不本意ながら付けられた、その名を口にしながら森山君を見る。
「理解が早くて助かるよ。最低で今年のインターハイ…最長で来年のインターハイまで面倒を見てもらわないと困る」
「あのね…理不尽にも程があるでしょ。第一、同じ部活の仲間で友達なんだから、私に頼らないでどうにか克服させる事を考えたらどうなのよ。合コンとか…グループ交際とかで免疫つけさせるとか」
「出来たら苦労しないって」
私の提案に森山君はそうすぐに返した。
「私にばっかり頼ったて結局どうにもならないでしょ」
「頼れるものがあれば頼む」
「呆れた。何ソレ」
「第一惚れた弱みだろ?は笠松を見捨てることは出来ないね」
悔しいかな…森山君の言葉は的を得ていた、惚れた弱み…確かにその通りだと思う。
笠松君が好きで…振られても…それでも好きという気持ちは変わらない。
「ひとまず今年のインターハイ終わるまでは、しっかり笠松係りを務めてくれないと困る。彼氏をつくるのなんてもっての他だね」
「本当に…女心の分からないよね森山君」
「男だからね」
「だから、残念なイケメンって言われるんだよ。森山君こそ彼女つくるのは遥か彼方だね…まぁ…バスケ第一だから関係無いだろうけどね」
「こそ何言ってるの。俺は俺の運命の相手を待ってるだけだって」
「はいはい。そういう事にしておきますよ」
私はそう口にして森山君との会話を終わらせた。
その後、私は森山君の言葉と笠松君の事を考えた。
(惚れた…弱みか…)
酷い事をされた訳では無いし、真摯に考えてくれた上での答えで、その答えで笠松君を恨める程私は自分本位じゃ無い。それで、嫌いになれたり…恨んだり出来るなら、きっと…きっと、逃げ道はあったのかもしれないけれど、そんな事は無いのだから仕方が無い。
告白して…玉砕して…スッキリできるなんて幻想だったと、今頃気が付いても遅いけれどね。
「とりあえず時間が解決するのか…取り合えずインターハイまで頑張りますか」
私は誰に聞かせるわけでもなく、人知れずそう口にしたのだった。
NEXT→No3
2014.6.7.From:Koumi Sunohara