夏空の星の物語
天にかかる境界線
境界線なんて無いはずだった。
何も考えずに笑いあえていた、幼かった頃は性別なんて関係ない、境界線なんてものはなかったと思う。
けれど、年を追い…成長して行くにつれて人は色々な垣根を生み出していった。
俺とは変わらない良い関係で入れると…年を重ねてもそうなると信じていた。
でも、にも俺にも交友関係が広がるにつれて、との関係は俺の思うようにいかなくなった。
俺は昔通りの関係を望んでも、は見えない境界線を俺との間に引いていた。
テニスで有る程度の力を持ってる俺に、周りは何だか特別扱いをする頃には…は誰の目から見ても分かるぐらいに俺との距離を大きく開いた。
『精ちゃん』が『幸村君』に呼び方が変わり、校内に居ても声をかけることが無い。
それがの望む学校内の平和ならと、気が付かないふりをして、のペースに乗ったけれど、溝はどんどん深くなる。
学校の外でもは『精ちゃん』と呼ばなくなったし、話し方も態度もどこかぎこちない。
俺のファンだと言う騒がしいクラスメート達とは違う、何処か距離を置く連中のようなよそよそしさ。切なくないといえば嘘になる。
でも、俺の気持ちさえ変わらなければ何時かは、元のように返ってくると信じて…俺はこの関係を甘んじて受け入れた。
頑張れば頑張るほど、との距離は着実と広がる。
けれど、誰にも文句を言わせないように、テニスで地盤を確たるものにすれば、への火の粉は飛ばないだろうと…安易に考えて、そうすればを連れ戻しても大丈夫だろうなんて思っていた。
しかし世は無常だった…頑張る俺をあざ笑うかのように…そんな矢先、俺は原因不明の病に倒れた。
何時も通りの部活だった。
体調の変化なんて見られなかった、それなのに…急に俺は倒れた。
霞む視界の中に、一瞬だけを見た気がしたけれど…目覚めた時には俺は病院のベットの上で…真田達テニス部の面々と家族が心配そうに俺尾を覗き込んでいた。
その中に俺の探し求める、幼馴染みの姿は無い。
「精市。気が付いたか?」
「幸村部長大丈夫スカ?」
心配そうだから、口調は何時も通りの部の面々に俺は、苦笑を浮かべる。
「悪い。俺自身もよく分からないが…倒れたみたいだな」
「本当にビックリしたスよ」
「まったく肝が冷えたぞ」
他愛も無い会話をしながら、俺は少しだけ気が付いた。
目が覚めたばかりではあったけれど…この倒れた原因は分からないが、この状態はただごとでは無いことを。身体の反応で薄々気が付いた。
それでも自分自身が絶望に陥れば…きっと本当に終わりのような気がして俺は周りに普段通りに振る舞うことを決めた。
「ふふふ。ちょっと疲れが溜まっていたのかもしれないね。でも、こんな状態だって赤也に負ける気は無いよ」
「フッ。精市らしいな」
「まったく幸村君には敵いませんね」
柳と柳生がそう言うと、周りは少しだけ明るくなった。
意外に元気な俺に家族も少し安心したようで…それだけがささやかな救いのような気がした。
けれど、その場には居なかった。
まだ俺の身に起きた事を知らないかもしれないが…居なかった。
こんな無様な姿を見せなくて良かったと感じる反面、来てくれない寂しさと言う矛盾が生まれる。
それでも…大好きなテニスが出来ない。
手のひらから水が零れるように、絶望ばかりが俺を襲ったけれど、そんな中で、少しだけ希望があった。
が俺の所に戻ってくる…そんな淡い希望が俺の支えだった。
気の優しい幼馴染みのことだから、俺が倒れたら昔の様に心配してやってくると…それだけが俺の暗闇を薄く照らした。
天にかかる境界線など無視して、が来てくれるその日を信じて。
2008.8.4.From:Koumi Sunohara