平行する想いが交差する時

-NO.3-

  (Saido:手塚)




交差していた線を…

交わらない線へと変えたのは…

不器用だから言えない言葉

真っ直ぐだから、気づけない想い

それらが運悪く重なっただけ

そう…偶然の重なり




竜崎に送り出された手塚は、普段では考えられ得ない程のゆっくりとした足取りで職員室内を歩いていた。
送り出されたが、手塚の中でまだ煮えきらない感情が渦巻いている故だろう。

それには大きな理由が有る。
それは…。
笑い合い、共に歩む。
時には喧嘩もするけれど、何処にでもいる仲の良い幼馴染みとの日々。
兄と妹の様な関係でも有り、友達でも有り、良き理解者。
誰もが微笑ましいと思える、理想の関係。
今学校生活では考えられないとの関係。
そんな関係に終止符を打ったのは手塚だったのだ。

だが、仲が良かったのは事実だった。
今でこそ見る影は無いが、仲の良い幼馴染み。
対極の二人が仲が良かったのか…。
そんな疑問も出るかもしれないが…
しっかり者の手塚と明るく人懐っこいは、お互いに足りないモノを補っている実にベストな関係を築いていたのだ。
まるで…その関係は…竜崎の読み通りの関係。
いや…それ以上の素晴らしい信頼関係…。
だけど…その仲の良い幼馴染みが疎遠になるのは驚く程早かった。
手塚の終止符から…まるで始めから、二人が仲が良かったなど夢だった様に。



その日も穏やかに過ぎていた。
何時もの帰宅路に、何時ものように仲良く帰る。
他愛もない話しをして、笑いあう。
日常の風景。
それがに家の付近に近づいた頃、手塚が不意に足を止めた。
は、不思議そうに「どうしたの国さん?」と振り返りながら尋ねる。
すると…。

にお願いが有るんだ」

大きな間をとって…何やら真剣な表情と声音で手塚はに突然そんな言葉を言った。

「何?私に出来ること?」

は、普段より真剣な手塚の表情に幾分引っ掛かりを感じながらも…何時も通りの言葉を返す。
そんなを見ながら、手塚は意を決したように言葉を吐き出した。

「上の学校に上がったら、学校ではお互い…接点を無くそう…イヤ…話しかけないようにして欲しい」

手塚はそう言った。
その言葉の裏には沢山の手塚自身の決意と想いが隠されているのだが…。
不器用な手塚には、そんな言葉を言える筈もなく…そんな一方的な言葉になったのだ。
その言葉を言われた相手である…泣き虫で、それでも良い笑顔と…前向きな思考の持ち主の幼馴染みは、酷く驚いた表情で手塚を見た。

「私…国さんに何か嫌な事した」

自分の非を思い出そうとしているのか、かなり困惑気味にそう返す。
そんな困惑に満ちたを手塚は宥めるように、頭を撫でた。

は何もしてない。俺の勝手な我侭だ」

「でも…何で…急に」

「今は理由は言えない。でも…学校の中だけで有って、それ以外は今まで通りだから…だから、俺の我侭聞いてくれないか?」

真っ直ぐな瞳で手塚はにそう言った。
は酷く戸惑っていたが、手塚の言葉が本気だと気が付いたのか…諦めたように言葉を返した。

「急には無理だから…時間がかかると思うんだ…それでも良い?」

そう言ったの表情は、無邪気さ何て無く…泣くのを必死に堪えた表情は…少しずつ大人に変化してゆくような…何処か大人びた表情だった。
手塚の心がズキリと傷んだ。
思わず声をかけそうになる気持ちが手塚の中で巻き起こるが、手塚は黙ることしか出来ずにいた。
そんな手塚には言葉をかけてきた。

「あのね…私も、国さんにお願いが有るんだけど…聞いてくれるかな?」

「何だ?」

そう返した声は、かなり素っ気ない。
は慣れっこなのかそんな手塚の様子に気にした様子も見せずに、言葉を紡ぐ。

「学校以外でも…会わない様にしようと思うんだ。だってね…学校以外で今まで通りだったら…きっと私は学校でも…同じ様な事しそうなんだもん。それじゃー国さんに迷惑かかるでしょ?その方が国さんにも迷惑かからないと思うの」

の言葉に手塚は思わず息を飲んだ。

(違うんだ…別にと話がしたくないとかでは無い…学校でだけ何だ…そうじゃ無いんだ…)

そう心の中で思っても、手塚の言葉は別の言葉を紡いでいた。

「分かった。言い出したのは俺だしな…の好きな様にすれば良い」

「我侭聞いてくれて有り難う…国さ…うんうん…手塚君。じゃー私行くね」

精一杯に明るい声では手塚にそう言った。
自分を呼ぶ名の変化に手塚は少し寂しい気分になりながらも(落ち着いたらまた、今まで通りの関係になるんだ…少しの辛抱なんだ)と思うようにしての立ち去る姿を見守った。
この出来事が後に自分にそのまま返ってくるとは思いもせずに。
その後…手塚との関係が疎遠になっても、周りは気にした様子も無かった。
寧ろ対極な二人が仲が良かった事の方が可笑しかったと言うかの様に、疎遠である方が自然になっていった。
しかも手塚も一時的の事と勝手に思っていたから、気にした様子は無く…新しい生活に向けての準備に追われていた。
しかし…手塚も気が付かない内に、と手塚の間には大きな溝は着実に浸食していった。



ハラハラ舞う桜の花びらが舞う頃。
手塚は一人、後悔の念に悩まされていた。
離れて気が付く想いとは、良くもまぁ言ったもので…。
手塚も例に漏れず、後悔ばかりが渦巻く。
くしくも、ソレに気が付き、後悔が渦巻いたのは…手塚にとっての新しい門出の日。
それも生徒代表の挨拶をしている壇上の上だった。
壇上の上から見渡す視界は、同じ服の集団で溢れていて…。
其処から一人を捜し出すのは、困難そうに感じる。
それなのに、手塚は壇上の上から人捜しを自然としていた。
目で追うのはただ一人。
突き放した幼馴染みのだけ。

(やはり…見えるわけも無いか…)

少しの安堵感が掠めたとき、手塚の目にはの姿が写された。
楽しげに新しい友達やクラスメートと談笑するは、手塚の事など忘れてしまった様に本当に楽しそうだった。
そこで手塚は自分が杞憂していた事が、間違っていた事に気が付いた。
その杞憂というのは…手塚と一緒に居ることでがイジメに遭ったりする事。
お世辞にも愛想の良い方では無い手塚は目をつけられる事が有る…それによってに災いが降りかかるのでは?と言う想いだった。
だが、どうだろう?
手塚の目に映る幼馴染みは、周りと酷く溶けこんでいるのだ。

(俺といたところでは誰かに虐げれる事も無いのかもしれない…)

楽しそうに笑いあうを見て手塚はポカリと開いた穴は、自分だけと言うことに気づき始めた。
それなのに、手塚の目はから反らされる事は無かった。




と接点の無い日々と流れた時間は一年と数ヶ月。
その間遠くから手塚はを見守っていた。
見ていると分かり切っている事実が手塚の前に突きつけられる。
泣き虫だった少女の変化。
彼女の人付き合いの良さと…生まれ持った気質の御陰か大きな問題もなく過ごしている。
そう…手塚が居なくても、自信の足で立ち…自分の力で日々を過ごしているのだ…。

(もう…俺が居なくてもは、一人で頑張れるんだ)

気が付く事実…それでも、手塚はを人知れず見続けた。



それが今…。
平行したままの線が今また、重なり合おうとしている。
だからこそ、手塚は戸惑い…どうした良いか悩むのだ。

(言い出したのは自分…しかも悲しげなの目を見ないフリをしていたのも…)

懐かしみながら手塚は自分の手の平を見つめて、そんな事を振り返り自嘲気味に笑った。
手塚はその事に気が付いいたからこそ、に手助けしようと思っても出来なかった。
の手を離したように…に差し出した手を払われる事への恐怖心も強い。
それに…昔なら「ゴメンね」とか素直な言葉で謝れば、あっという間に仲直り。
そんな些細なコトが出来ないのは、きっと子供と言うには少し大きくなってしまった…微妙な年齢故と逃したタイミングの所為だろう。
だからこそ手塚は想う。

(もう…こんなチャンスは来ないかも知れない)

そんな予感が手塚の中に芽生える。
理論付けなどでは無い…何処か、明確とは言い難い…第六感が告げる予感。
それは手塚にとって珍しい事。
普段ならそんな予感を頼ることなどしないだろうが…この時ばかりは手塚はこの予感を何故か信じようとしていた。

(同じとは…いかなくても…彼奴とかもしれない…このチャンスに賭けてみよう)

手塚は心の中でそう決めると、気分を入れ替える為に深呼吸を一つ吐いて歩く速度を上げた。
その背中にはもう…竜崎の前で見せた迷いは無くなっていた。


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2004.3.3. From:Koumi Sunohara



★中書き★
意外に早くup出来たことに驚きが…。
連載は鈍亀が常なのに…手塚部長への愛故なのだろうか?
まぁそんな事は、別として。
今回は…少しだけ、さんとの過去のお話を…。
本当は無い予定だったんですが…繋ぎを入れないと…何でと手塚の間に何が有ったか分からないままで…。
何だか解せない気がしたので…少しだけ手塚さんで書くことにしました。
それでも微妙な気もしますけど…。
コレが完結して、余力が残れば…さん視点で書こうかと…(詳しくね…)計画倒れしそうですが…。

予定では次回で完結の筈…。
終るのかな?
兎も角気長におつき合い頂けると幸いです。


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