平行する想いが交差する時

-NO.2-

  (Saido:手塚)





何時は、割りと静かな職員室。
だが今日は違っていた。
響きわたる教師であろう者の悲痛な叫びに近い声と、それらを取り巻く少々のギャラリーの賑わいだ声で溢れているよだった。
それもそのはずである。
現在、職員室の一角は…英語教師とが、解決の見い出せない話し合いが繰り広げられているのだから、騒然としていても、仕方がない話である。


が…それは当事者や内情を知っている者のみに、適応する事柄であろう。
故に、そんな事を知るよしも無い人物は、(今日はやけに賑やかな職員室だなぁ〜)ぐらいにしか感じなだろう。
現に今、現在進行系で・・・職員室に入って来た人物も、そのくらいの事にしか感じていなかったであろう。
賑わいだ雑音など気にした様子もなく淡々とした足取りで、目当ての教師の方に足を向けていた。

「失礼します」

よく響く低めの声音で、その動じない人物事、手塚国光は顧問である竜崎スミレに声を短くかけ一旦言葉を切った。
声をかけられた竜崎の反応はイマイチである。
それを手塚は気にした様子を見せずに、また声をかけるべく口を開いた。

「竜崎先生、頼まれた資料を持ってきたのですが…」

少し遠慮気味の口調で、手塚は竜崎にそう告げた。
今度はちゃんと届いたのか、竜崎が手塚の方に目を向けた。

「おや手塚かい」

今気が付いたよで、竜崎はそう手塚に返す。
存在を忘れていた事にもたいして気にしてないように、手塚は竜崎に軽く頭を下げた。
竜崎は苦笑を浮かべて手塚を見ていたが、ふいに言葉を積むいだ。

「済まないネ〜。今ちょと面白いモノを見ていてね〜…気が付かなかったようだ。本当に悪かったね手塚」

手塚が持っていた資料を受取ながら竜崎はバツ悪そうに手塚に返した。
手塚は普段から寄りやすい眉間に皺を寄せてた。
訝し気と言う言葉が良く当て嵌まる雰囲気を醸し出し、手塚が竜崎の方を見返した。
一方竜崎は不適な笑みを手塚に向けた。

「いやな…。と英語教師とのやり取りが、あんまりにも面白くてな…」

笑いを噛み殺したような、少しくぐもった感じの声音で竜崎は言葉を紡ぐ。
手塚は、眉間に皺を寄せたままの表情で口を開く。

「と…言う事はまた…点数が悪かったんですか?」

竜崎の言葉に呆れ口調で手塚はそう返した。
ちなみに目線は、と英語教諭が居るであろう場所を見据えながら。
竜崎も又、手塚と同じ様に目線をそちらに向けた。


ぼんやりと達を眺めながら、竜崎は意味深気な表情を作った。
手塚はそれには、気が付かないようで…黙っての方を見ていた。
そんな普段の手塚とは想像できない様子に、竜崎は目を細めて少し手塚をみやった。

(ほ〜っそれにしても手塚め、案外の事を見ているじゃないか)

心の中で竜崎は思った。
このまま黙っていても良かったのだが、あまり沈黙が続くのも何なので…竜崎は思っていた事をおくびにも出さずに、先程の話題に戻した。

「まぁ…の普段の点数に比べたら上がったんだがね…。英訳を…ちょっとばかり面白い答えを記入してな…。それに流石に英語教師がショックを受けて…が呼び出されて今に至るという訳さ」

普段と変わらずに竜崎の言葉を耳の中に流していた、手塚の表情が…不意に変化した。
手塚は少し顔を歪ませたのだった。

(そんな事ぐらいで、一々呼び出したりするだろうか?そんなに彼奴は…勉強が出来ない人間では無いと思うが…)

心の中でそんな思いを巡らせながら、手塚は竜崎に答える為に言葉を紡ぐ。

に限らず、成績の優れない生徒は多く居るはずですが…。何も、ばかり気にするのも変な話のような気がしますが」

竜崎の言葉に手塚は淡々とそう返した。
手塚の言葉に竜崎は肯定の意味合いで軽く頷く。
竜崎も心の中でそう思ったようだった。

「まぁ〜手塚、お前さんの言っている事は有っていると思うよ。そりゃー正論さ」

「だったら、成績の優れない生徒を…」

手塚が紡ぐ言葉を遮るように竜崎が言葉を紡ぐ。

「確かにね。だけどな手塚…それだけ、教師もに期待しているんだろうさ。言葉が悪くなっちまうが…第一…言って訊かない生徒に其処まで、わざわざ手間はかけんだろうさ。それに…そんなに気になるんだったら、本人に直接聞いた方が早いだろうに…知り合いなんだろ?」

何気なく紡いだ竜崎の言葉に、手塚は珍しく表情を表して反応を示した。

「え…」

手塚は小さくそう言葉を詰まらせた。
その様子に苦笑を浮かべる竜崎。

(珍しいねぇ〜こんなに表情がコロコロ変わる何てさ…。このまま見ていても面白そうだが…取りあえず、本題に移っておこうかね)

そう思うと竜崎は、この話題を終らせる為の言葉を紡ぐ。

「な〜んてね。言ってみただけだよ、それより折角持ってきてくれた資料の話しをせんとね」

竜崎はそう言い切ると話題を変え、本来話すはずの話を始めたのだった。
手塚は急な顧問の変わり身の早さに、曖昧に頷くしか無かったのである。




本題の話しをし終えた竜崎に、少しの間だ固まっていた手塚が不意に声を漏らした。

「竜崎先生…」

手塚は普段よりいくぶん声のトーンを落として、竜崎の方を見た。
竜崎はそんな手塚に、気にした様子を見せずに、言葉の続きを促すように視線を送った。
竜崎のその様子を見てから、溜め息混じりに手塚は口を開いた。

「先生は何時から、俺とが知り合い…否、幼馴染みだと分かったのですか?俺は極力、と接しては居なかった…。むしろ、接点は無かったはずです。何のに何故、気付かれたのですか?」

探るように竜崎の瞳を覗きながら、手塚は不思議そうな顔をしていた。

(そんなに、不思議なのかね〜。あんなにの事を気にかけておるのにな〜)

不思議そうな手塚の表情に、竜崎は声には出さずにそう思った。

「まぁまぁ手塚、そんなに眉間に皺を寄せんでも…」

とりあえず、竜崎は手塚にそんな言葉を返した。

「別に、普段通りの顔だと思いますが」

シレット手塚はそう竜崎に返す。

「まぁ〜な、年の功と言った所で、お前さんは納得しないんだろうな…」

そう呟いて竜崎は、手塚を見やった。
手塚はと言うと、答える訳でも無く、竜崎を黙って見返すばかり。

(やれやれ、沈黙は肯定って言う訳かい…まったく。はっきり言葉で言われた方が、精神的に楽なんじゃがな)

竜崎は思わず溜め息を吐きたくなった気持を、グッと押さえて肩をすくめる程度にとどめたのだった。
それからややしばらく、竜崎は思考を巡らせながら…思い立ったように言葉を紡ぎ始めた。

「お前さんは、とは接点を持たないようにしたと言ったね」

竜崎の言葉に手塚は頷く。
それを横目で見ながら、竜崎は溜息混じりに言葉を紡いでゆく。

「確かにお前とは、まるで平行線を見ている様に…交わることは無い存在に見えていたよ。でもね…それは、あまりにも…意図的と言うのかね…。不自然な程、接点が無かったよ」

そう言うと竜崎は一旦言葉を切ってから、また言葉を紡ぎ出す。

「でもね…明らかに対極であるはずのを…手塚よ…お前は、事あるごとに気にかけていた…違うと言い切れるかい?」

竜崎は手塚に、ゆるやかに尋ねた。
まるで、それは手塚の答えなど求めていなような口ぶりで。
だからこそ竜崎は、手塚に構わずに言葉を続けた。

「言い切れないだろうね。事実、他の人間の事などあまり気にしないお前さんが…クラスの違うの事を気にかけて…尚かつ詳しいとくれば…『単なる興味の対象か』『昔からの知り合い』と言う理論が浮かぶだろ?そこで、手塚という人となりと考えれば…消去法で『昔からの知り合い』の線が濃くなるだろ?ちなみに…の方を見ても分からないよ。どうもあの子は、本質や何かを心の奥底に隠すすべを知ってる子のようだからね…」

後半…を語る口調は、少し言葉の力が弱めだったが…手塚の事については、竜崎はハッキリとした言葉を投げかけた。

「たしかに…竜崎先生の言葉に当てはまる事も有りますが…それは…に関して限られた事では無いと思いますが…。第一俺も人に興味ぐらい持ちますが」

竜崎の言葉に手塚は差し障りのない言葉で、返してゆく。
らしくない手塚の態度に、竜崎は小さく苦笑を漏らしつつ(そう言った所が、確信を深める理由になるのだが…分かっとらんのだろうなぁ〜手塚わ)心の中でそう思う。

心に思った言葉をそのまま手塚に言っても良かった竜崎だったが、手塚に言った所で竜崎の分かって欲しい想いには気づかれない事を知っているので、言葉に装飾を加えて竜崎は言葉を紡いだ。

「確かにな…手塚の言う通り、『単なる興味』とも思ったがね。だが私は、『昔からの知り合い』だと憶測的だが思っていたんだよ。そんな矢先に、今日のコレだろ。憶測を確信に変わるのも無理は無いだろ?手塚よ…。お前との間に何が有ったのかは、私は知り得ないがね。お前にとっては良い意味で特別な存在じゃないのかね?」

竜崎の言葉に、手塚は言葉無くただ黙るばかりだった。
そんな煮え切らない手塚に、竜崎は背を押してやるように言葉を紡ぐ。

「で…助けに行ってやらんのか?手塚」

「俺が行った所で、どうにもならないでしょ…の問題ですから…」

竜崎から、離れた所に居るであろうに視線を一瞬だけ向けて手塚はそう言った。

「そうとも言い切れないだろ。生徒会長に一番近いポジションのお前が、言えば少しは変わると思うがねぇ〜」

手塚の目を真っ直ぐ覗き込む様にして、竜崎はそう言う。
手塚は相変わらずだった…。

「ですが…」

言淀む手塚に(本当に不器用な男だねぇ〜…まったく手間がかかると言うか…何というか…)こっそりと竜崎は心の中で思う。
そして…大して入っていない湯飲み茶碗を覗き込みながら、竜崎は独り言のように言葉を紡いでいく。

「そうだね〜…しいて言うならば。人付き合いが不得手で…尚かつ…色々なことが器用そうに見えて不器用なお前さんの、フォロー役にが適してると思ってるんでね。そんな貴重な人材であるに、今の内に恩を売っておいて損は無いんじゃないかい?この先長いんだからね」

言い終えた竜崎は、チラリと手塚を盗み見ながら、畳みかけるように次の言葉紡ぎ出す。

「そんだけ理由を付けてやったんだ…後はどう動くかは、お前さんが決めるんだね」

軽く手塚の背を叩き、そんな言葉で締める竜崎に手塚は何とも言えぬ表情で顧問を見た。
手塚の態度に少し肩を竦め「書類は貰ったから、私の話は終わりだよ」と紡ぐ。
それを見た、手塚は何かを思案するような仕草をとってから、竜崎に短い退出の挨拶をした。
その足は、の方に向けながら…。

(さて、どうなるもんかね〜…)

竜崎はの方に向かって行く手塚を見ながら、人知れずそう思ったのであった。



Next→No.3


                            2004.2.20. From:Koumi Sunohara


★中書き★
手塚編です。
つい最近コメディー風味の手塚さんを書いていたばかりなので…何だか、ギャプが。
兎も角、第2話無事に割と早めに更新出来て安心しております。
余談ですが…次回も手塚編が続く予定です。
さんとの過去と言うか…回想でしょかね。
upが遅いでしょうが…気長におつき合い頂ければ幸いです。


Back No3