〜不思議な魔法No4〜

《大石編》






手塚を始めとする三年レギュラー陣があまりにも不自然な対応に、大石は少し首をかしげて思考巡らせていた。


(そう言えば、放送部が取材がしたいとか何とか…って放送部の部長が言っていたようなきがするな…それで皆少し浮ついた気分になっていて変だったのかもしれないなぁ〜)


何となくの見当を大石はつけると、放送と関連させるように別な事が頭に浮かぶ。


(放送部か…そう言えば…彼女も放送部だよなぁ〜…)


大石はそう思うと少しだけ、2年前の記憶に思いを巡らせた。



―回想―


何時も心に漠然とした不安が有った


その不安は明らかになるよりも燻り続けた


地道に頑張る事は嫌いじゃないから


出来る限りの努力をしてるつもりだ


その結果は…目に見えるモノじゃなくて


本当に力になっているか心配になる


答えの見つけ方を知るにはどうすれば良いのだろうか?





新緑芽吹き、薄紅の桜の花びらが散り終わった頃。
はれてテニス部の仮入部から新入部員になった大石は、強くなる為の努力を惜しむ事は無かった。
大石自体が、手を抜くという事をしない気質も大きな要因だろう。


練習後の自主練習も欠かす事も無かったし、だからといって勉強を疎かにすることも無く全てに全力投球で頑張っていた。
それと、高い志を持つ友人…手塚に触発された所為かもしれないが…。


一人孤高の存在のように


恵まれた才能故に孤立してしまう友人


共に青学で頑張っていきたいと言う切なる想い

その想いが大石を突き動かしていたのかもしれない。
兎も角、大石は何に対しても努力を怠る事は無かったのである。



それは委員会で部活に遅れて出る事に成った日のことだった…。


「委員会で少し遅く成っちゃっなぁ〜。委員会だから仕方がないけど…練習時間が少なくなるよな…」


溜息少し混じえた言葉を、誰に言うわけでも無く大石は言葉を零した。
足早にテニスコートに向かう中、大石の耳に女の子の声が耳に入った。


(部活とか見に来ている女の子の声かな…テニス部って結構人気有るみたいだし…)


聞こえる声にそんなことを思いながら、大石の足は着実とテニスコートに向けて動いている。
それに比例するように、その声もドンドン大きくなっていった。
近づく声に気になりながら大石の足もドンドン進む。


そうこうしている内に、大石は遂に声の発声元にたどり着いた。
其処には、大石の想像していたような賑やかなモノでは無く…何やら一生懸命に何かをやっている少女の姿だった。


(ん?ギャラリーじゃ無いんだ。それにしても、壁に向かって何を一生懸命に声を出しているのだろう?)


少女を見て大石は率直にそう感じていた。
人知れずこっそりと、壁に向かって声を出す少女はどうやら声を出す練習をしていたようだった。


「はぁ〜…何でうまく声が大きく出ないのかな〜」


誰に言う訳でもなく、手にはB5サイズぐらいの紙を大事そうに両手で持って…少女は溜息混じりにそう言っていた。
良く見るとその少女は、大石と同じように真新しい制服に身を包んで居た。
彼女が何をしているのか気にはなったが、何を尋ねるわけでも無く、大石はその少女をぼんやりと眺めた。


(何所かで見た事が有るんだよな…何所だったろうか?)


そして少女を大石は何所かで見た事が有った事に気がつき首を少し傾げる。
だがうまい具合に少女の事とが思い出せず、そのままに彼女をしばらく観察していたのであった。
勿論その後部活に行ったのは当然の事だが…。




そんな事が有った日から大石は何度か彼女を見かける様になった。
それは、放課後だったり…昼休みだったり…時間帯は色々だったが…。


その出会う…と言っても大石的にだが、見かける度に彼女は何やら声を出す練習に励んでいたり、何かを必死に紙に書き出している様子が目に入るし大石自身も目で追うようになった。


そうやって目で追うようになって知った事と言えば、と言う名と同じ一年生で有る事それだけだったが(今の自分と重なる所が有るなぁ〜)などという感情も有り、大石はそんなに次第に興味を持ち始めていた。


今日も委員会の仕事で遅れた大石は、何時も場所でを見かけた。


(でも何をしているんだろう?)


ぼんやりとが何をしているのか、想いを巡らせている大石。
彼女を見かける度に思っていた疑問。
その時だった…フワリと春風が舞い踊った。
大石は乱れた前髪を手櫛で直しながら目を細めた時、目の端に白いモノが大石の視覚が捕らえた。


「これは…放送の原稿かな?」


大石はが使っていた紙の忘れられた一枚を拾い上げた。
何かの原稿らしく、紙には文字が書かれていた。


その紙は一生懸命考えて書き上げたのだろう、何度も消しゴムをかけた跡や…鉛筆の擦れた汚れが転々とついていた。
が沢山その紙を見ながら、格闘を続けていた事は安易に想像できた。
大石はその紙を見て軽く眉を寄せた。


(きっと)


そう思っては見ても、その場にはの姿はもう無い。
大石が届けようにも、届けられないのだ。
それにもう一つ問題が有ったりする…。
接点が無いのだ。


(届けてあげたいけど…さんとは接点無いしな…さてどうしたものだろう?ん〜っ…彼女ならきっと大丈夫だろう…機会が有る時にでも渡してあげようかな)と大石はそう思う事にして、自身もその場を後にしたのであった。





未だにには原稿が渡せないまま過ぎたある日。
蹲って頭を抱える少女に大石は目を奪われた…。


(え…まさか…さん…)


大石はこっそりの様子をのぞき見る。
すると彼女は、何やら難しい顔をして唸っていた。


それは何時も練習が上手くいかなくて悩んでいる表情では無く、緊張によって顔がこわばっているといった感じだと大石は何となく感じていた。
でも大石はどうに声をかけて良いのか分からず、只見守るしかなかった。


(俺が一方的に知ってるだけだし…声何てかけれないよな…。でも何か困ってるような感じするんだけど…どうしたものだろうか?)


小さく溜息を吐きながら、大石は悩めるに視線を向けた。
丁度その時だった…。


「ああ…どうしよう…原稿、手が震えて書けないよ…」


誰に泣きつくと言うわけでは無いが、呟かれたの嘆きの言葉に大石は少し眉を寄せた。


(原稿?…もしかして…)


徐に大石は胸ポケットの探り、青学の生徒なら誰でも持っているであろう生徒手帳を取り出し…そして開いた。
生徒手帳のページとページの間だの其処には、丁寧に折りたたまれた真新しい紙が挟まっている。


実はその紙は渡そうと思って渡せなかったの頑張って書いていた原稿を大石は清書していた物だった。
風が吹いていたあの日。
拾い上げてしばらく大石の手元に置いていた時…手違いで汚してしまっい…そのままに渡すのが大石の中で忍びない気持ちだった。


それで大石は清書して、何時でもに渡せるように持ち歩いていたのだが…。
如何せんとは接点が無い。
大石が一方的に彼女を知っているという状態なので、渡すに渡せず…今現在まで至っている。
それが幸か不幸か…何食わぬ顔で彼女に渡すチャンスが到来したとう訳だった。


勿論そんなチャンスを大石は見逃す筈も無く、にコノ原稿を使ってもらおうと…行動にでようとしていた。
そんな自分を(ズルイ奴だよな俺って…)自嘲気味な笑を浮かべながら、大石は思った。
思いながらも(今彼女にはコレが必要なんだ)と心に言い聞かし、大石はヒラリと原稿をの手の中に落として言葉を紡いだ。


「じゃ〜コレ」


舞い落ちた紙には驚いた表情を浮かべて、紙をジッと眺めてから…思い出したように大石に言葉を返すべく口を開いた。


「コレ…今日の原稿…何で…」


かなり困惑している様子のに、大石はなるべく穏やかな口調と声音で彼女に返した。


「そんな事より、肩の力を抜いて」


言葉を紡ぎつつ大石は(今日の原稿だったんだ…。だからあんなに一生懸命に原稿を直したりしていたんだな…)と何処か心の中で納得しながら彼女を見つめた。
そのは、とてつもなく不安気な表情で地面をジッと見つめている。


「でも…」


何か言いたそうには不安そうに口を開く。


「大丈夫、失敗なんてしない。あれだけ毎日練習してるんだから」


が一生懸命練習していた事を思い出しながら、大石はハッキリと言いきる。


「そうでしょうか…?」


不安を拭いたのかは大石に尋ねた。
大石は柔らかな口調でに言い聞かすように言う。


「ああ。そうだ…ココを何時もの場所だと思ってごらん」


は大石に言われた様に、何やら思い浮かべるように目を瞑った。
そうすると、不思議との震えが止まっていく。


(大丈夫さあんなに練習していたんだ。きっと出来るよ)


緊張が解けてゆこうとするを穏やかな気分で見守った。


「そう、ココは君が居る…君が頑張っている何時も場所だよ」
もう1度大石は穏やかな口調で、呪文を呟くようにに言葉をかけてやった。
も大石の言葉に静かに耳を傾け、ゆっくりと口を開いた。


「何時もの場所」


譫言のようには大石の言葉繰り返し呟いた。


「そう…何時もの。さー深呼吸してごらんきっと落ち着くから」


大石の言葉を合図には大きく深呼吸を一つ吐いているようだった。
目を瞑って心を落ち着かせようと頑張るをじっと見守る大石。


「ガンバレ…君なら出来るから、安心して」


(努力は必ず報われるのだから…)そんな言葉を込めながら大石はそう言い切るとそっとの邪魔に成らない様にの側を人知れず離れたのだった。




大石の御陰かどうか分からないが、彼の予想通りは大舞台を乗り切った。
大石はのその様子を、安堵の表情で人知れず見つめていた。


「良かった…さんがちゃんと成功して」


それは大石の心の底から思った言葉だった。
真面目に努力を怠らなかった自分と少し重なるところの有るの成功は、大石にとって何だかそれは言いようのない嬉しさと自分もきっと報われるのでは無いだろうかという…希望を胸に抱かせた。
その所為だろうか…。


「俺も負けてられないな…」


大石は誰に言うわけでもなく、そう空に向かって呟いた。
そんな彼の手の中には、少しボロボロになったの書いた原稿がそっと握られていた。



(あれから2年か…)


思い巡らせ終わった大石はしみじみと思った。
拭い切れなかった不安を抱えていた大石と、上がり症の
まだまだ発展途上だった2人。


それが今や…大石は強豪と呼ばれている青学テニス部の副部長でも有りレギューラー…手塚の隣に居ても色あせる事の無い…片腕のような存在になっていた。
もまた然り…。
放送部では無くてはならない存在であることは間違いないし、新人を育てる手腕やアナウンスを始め…放送に携わる全てをこなす放送部の要的存在。


(変われば変わるものとはよく言ったものだな)


過去を振り返りしみじみ大石は思う。


「さて、俺も練習しなきゃね…遅れた分取り返さなきゃな」


誰に言うわけでも無く、大石はそう短く呟きながら伸びを一つする。
(それにしても、誰が来るんだろうな…)等と思いながら、大石は皆が練習しているコートに足を向けたのであった。






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2004.1.16 FromKoumi Sunohara






☆中書きの言い訳☆
意味不明な終わり方の上に半年以上ぶりに続きUPですね。
さてさて大石君視点で2年前の出来事でした。
一歩間違うとストーカー…。
でも私の中では足長おじさんとか…星さん家のアキコさん(古)のイメージ。
今更ながら書かない方が良かったかな〜何て後悔が微妙に有ったり。
でも書かないと、手塚が気がつく理由に繋がらないのでね…。
やはり出す順番が間違ったかな(汗)
まだまだ続く予定です…気長に待って下さると幸いです。


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