《編》
手塚や三年レギュラー陣が、何やら密談に花を咲かせている同時刻。
はとう言うと、踏ん切りがつかない自分に活を入れて、部室を出た。
サーッと乾いた風がの頬を掠めた。
気合いを入れて部室から出てきただったが…。
(あの時も緊張したけど…今回も緊張具合で張り合うと…対張ってるな〜っ…)とは心の中で呟いた。
取材用のノートとテープレコーダーを持ってテニスコートに緊張の面持ちでは空を見上げながら、心の中の整理に試みていた。
(さて、来てしまったからには…ちゃんとお仕事しなくちゃね)
不安だらけの自分に、もう1度叱咤激励しながら…は大きな深呼吸を1つ吐いた。
スーッ。
先程の緊張して、顔色の悪い表情はどこえやら…の表情はマイクに向かっている時のような真剣な表情が生まれていた。
ドキドキの気持ちの中、はテニスコートに足を踏み込んだ…。
すると…。
「あれ?先輩もう大丈夫何ですか?」
出てきたに桃城はすぐに気がつき声をかけてきた。
桃城の声には振り返る。
桃城を見て、は柔らかく笑ってみせた。
「はははゴメンねご心配かけて。大分落ち着いたよ」
そのの様子を見て、桃城もホットした表情をしていた。
「そいつは何よりス。先は本当に顔色良く無かったんで、マジで俺連れてきちゃったし…悪い事したな〜って思ってましたから」
“へへへへ”と頭を軽く掻きながら、桃城はにそう返した。
桃城の様子を見たは、少し意地悪な笑みを浮かべると…ふいに言葉を紡ぎ出した。
「そうね〜連れてこられたのは…少し根に持ってるかな。まるで、ドナドナに出てくる売られてゆく仔牛の心境だったもの」
「ドナドナって。先輩〜地味に結構キツイ事言いますね」
音楽の時間で流れていた、ドナドナを思いだした桃城は少し顔を顰めた。
「だてに3年間ここの生徒やってる訳じゃ無いって事かな?それに、一応放送部だけど…後輩ぐらいいるのよ。イヤでも逞しくなります。」
二の腕をポンポンと叩いて見せて、はキッパリと言い切った。
「お見それ致しました」
時代劇調に深々と頭を下げる桃城。
「ふふふふ。先から桃君は謝ってばっかり」
芝居かかった桃城の調子には、楽しそうに笑いながらそう返した。
「重ね重ね申し訳無いって思ってるんですよ俺〜」
ソロソロっと、顔を上げた桃城は弱々しくそうに言う。
(少し苛め過ぎたかな?)とちょっぴりは思いつつも、(先程の一見とちょいちょいかな?)と思いながらも、言葉を紡ぐ。
「あらあら。気を使わせちゃったかしら」
カラカラと鈴を転がしたように桃城に言ったのだった。
「そうです!ちょっぴり気を使ったんですよ俺…。いや〜先輩は見所違いますね〜」
(別にそこまで考えてなかったんだけどな俺)
桃城は言われると思ってもなかったが、取りあえず笑顔で返してみた。
そんな桃城に負けじと(?)笑顔を返すという…良く分からない空間が出来上がりそうなそんな時…。
「そんな事無いと思うけど」
ボソリと呟いた声に、桃城はゲッとした表情になった。
「え…越前…。どっから湧いて出やがった?」
大袈裟に背中を仰け反らせて桃城の口から言葉がこぼれ落ちた。
「湧いてって…ボウフラじゃ無いんスよ桃先輩。かなり失礼な物言いですね」
桃城の表現に、ゲンナリとした表情を浮かべてた越前がすかさず切り返した。
「お前な〜、先輩に対してソレは無いだろう〜」
負けじと桃城もゲンナリとした表情を浮かべたのだった。
肩を落としている桃城を尻目に、越前はの方に向き直った。
「そうそう…先輩気にする事無いス。桃先輩は気遣いってものが足りないから、謝らせておけば良いんス。ついでに、何か奢らせるって言うのも手スよ」
平然と言ってのける越前には苦笑を浮かべながらも応対をした。
「えっと…越前君だったかな?先は有難う助かったよ。別に私奢って貰いたい訳じゃ無いからな〜…あっ…後別に気を使ってる訳じゃ無いんだけどね」
へにゃ。
擬音を付けるならそんな音が良くはまる雰囲気を漂わせて、は越前に笑って返す。
「そうスカ?ああ先輩…俺の事はリョーマで良いス。桃先輩の事も、“桃君”って呼んでるし…」
の様子に気を悪くする事も、良くすることもなく…越前はに言葉を返した。
(急にフランクになったわね…アレ?そう言えば、越前君って…帰国子女って乾君が言っていた様な気が…)
越前の言葉には瞬時に頭の中でそう思った。
「確か帰国子女だったものね…。そっか分かった、リョーマ君で良い?」
が、越前に確認を取るようにそう言った。
「ッス」
そのの言葉に、越前は帽子を深く被り、少々照れくさそうに頷いた。
越前の普段とは違う様子に、桃城はニヤリと不敵に笑った。
(ニシシッ…越前の奴、珍しく素直じゃね〜か…いっちょからかってやるか…)とのやりとりを見ていた桃城は悪戯心をくすぐったらしく、越前に標準を合わせたようだった。
「おう?越前照れてるのか?」
そう思うや以内や、桃城は越前に人の悪い笑みを浮かべて言葉を紡いだのである。
が…。
「五月蠅いスよ桃先輩」
桃城の悪戯心を数秒も経たぬ内に越前が短い言葉で切り捨てたのである。
(うっ…早い…)
桃城は切り捨てられた言葉にそんな感想を抱きながらも、負けじと次の言葉を紡いだのである。
どうやら引く気はまだ無いらしい。
「やだね〜越前照れちゃって。まだまだ若いね〜」
「1つしか変わらないですよ。それに桃先輩オッサン臭いスよ」
その言葉に桃城は二の句が繋げないで居た。
その為良く分からない間というか…妙な静けさが3人に流れる。
シーン。
そんな静けさを破ったのは…やはりだった。
「いや〜桃君とリョーマ君は仲が良いんだね」
そう紡いだの言葉に、桃城と越前はピクリと体を動かしてを見た。
「「そんな事無いス」」
「声までハモって…。照れなくても」
「「照れてないス」」
見事にまた声をハモらせる2人。
「まぁ良いさ。そうだ先の続き!リョーマ君。不公平だし…ファースネームで呼ぶ方が慣れてるなら、私も下の名前で良いよ」
話を無理矢理戻しては越前に向き合ってそう言う。
急に振られた越前は目をしばたかせながらもに返事を返すべく口を開いた。
「良いんですか?」
「良いも悪いも無いでしょ?人それぞれ生まれ育った環境って言うものが有るでしょ、それでも気になるのなら…そうね〜。先…不二君から、助けてくれたか特別っていう理由を付けるけれど」
“どうかな?”と小首を傾げながら、は越前にそう言ってみた。
「そう…先輩が言ってくれるなら」
珍しく謙虚に越前はの言葉に従った。
これを見ていた桃城は懲りずに、また話に入ってきた。
「おんや越前やけに謙虚なんじゃね〜の?」
ニシシシッと変な笑い方をした桃城が言う。
「桃先輩は謙虚さが足りないんじゃ無いの」
またしても短い言葉に桃城の言葉は撃沈されたのである。
黙っていたらまだ続きそうな桃城と越前に、は申し訳なさそうに声をかけた。
「楽しそうな所悪いんだけど」
「「別に楽しくない(です)ス」」
見事にハモル声に苦笑しつつは、話し始める。
「そう?じゃ〜ね…私は臨時マネらしいのだけど…何をすれば良いのかしらね?桃君とリョーマ君はレギュラーさんだから…他の人とは違うメニューになるんだよね?」
は桃城と越前を交互に見ながら、そう尋ねた。
それに桃城が越前より先にに答えを言う。
「そうですね、乾先輩の作ったメニュー中心になりますから…」
「竜崎先生は今日は居ないのかな?」
すかさずは次の言葉を紡ぎ出す。
「来る予定は無いみたいス」
今度は越前が桃城に変わって答えを返す。
そんな2人の様子に(やっぱり仲良しさんだな〜。見事な連携プレーだな〜)とか感心するである。
「そっか…。じゃ〜1年生とか2年生の子達にお仕事聞いた方が良いかしら?」
「臨時マネって名目上じゃ無いですか!先輩がそこまでしなくても」
「そうですよ、臨時じゃなくて…マネの仕事になるス」
2人揃って、似たような事を言われ…は何とも言えない表情を浮かべる。
(本当に息がピッタリ…阿吽の呼吸よね〜。その割にダブルスあまり良くなかったって言うんだから不思議だわ)
乾から貰ったデーターの一部を思い出してはふと思う。
引くわけにはいかないは言葉を紡ぎ出す。
「そうは言うけれどね…サッパリ分からない人間が、急にレギュラークラスの練習を見てもどのくら凄いのか分からないし…比較出来ないでしょ?」
「まぁ〜そうですけど…」
「うんうん、そうなのだよ桃君。そ・れ・と・新聞とか文章のみに起こす場合は、メンイだけを見れば良いけれどね。映像というのは、構成とか周りの状況も必要でね…まぁ〜そう言う事を考えるのは、構成とか編集をする部長のお仕事なんだけどね…」
「どっかの記者の人に聞かせたい言葉ス」
の説明に、越前は難しい顔をしてそう答えた。
「記者?テニスを取材する記者さん」
「先輩が楽しみにするような、相手じゃ無いス。」
“記者”と言う言葉に嬉しそうに反応するに越前は、顔を顰めてそう返した。
「ともかくだ、依頼された仕事はキッチリこなさないとね。だから私は、頑張るのだよ」
高らかとした宣言のように言ったの言葉に、桃城と越前は軽く溜息を吐く。
そして…(そんな風に言われたら、協力するしか無いだろう)と思いながら。
「先輩がそう言うんだったら、止めないけど…。嫌な事されたらすぐ言って下さいね…とちめてやるス」
「物騒だな越前。まぁ〜何か困った事が有ったら、俺たちで良ければ助けに行きますから…。思う存分暴れて来て下さいよ」
2人の言葉に、はニヤリと笑った。
「おうともさ」
はそう越前や桃城に返すとクルリと背を向けた。
「いや〜本当に良い子達だな〜」
そう短く呟くとは越前と桃城の両者から離れ…1,2年生が居るであろう場所へと足を向けたのであった。
越前、桃城と別れたは、もそもそと動き回る、イモジャーもとい…学ジャーの群れをは視界に入れた。
(あそこが…1,2年生の居る所か…)
握る拳に力を込めて、は意を決したように学ジャーの群れに足を踏み入れたのであった。
「今日和。お世話になります」
緊張した表情を隠すように、はニッコリと営業スマイルを貼り付けた表情でそう、部員達に声をかけた。
の声に、声をかえられた部員達がピクリと肩を反応させた。
「…先輩…」
驚きと困惑を含んだ声音で、部員の一人…ハチマキ少年もとい…荒井が声をあげた。
「そんなに慌てなくても良いんだけどね」
は部員達の様子に、先程の自分の慌てぶりを思い出して苦笑を浮かべてそう言った。
「もしかして、取材の関係で…臨時マネになったって話聞いてないのかな?」
あまりに驚いた部員の様子には、ふとした疑問を口にした。
「いえ…あの。聞いてはいたんですが…。コッチに来るなんて思ってなかったんで…その」
とても歯切れ悪そうに、に返すハチマキ部員(ちなみに、荒井である)。
「そっか…。なら良いんだけどね。てっきり不法侵入者だと思われたら、ドナドナの如く連れてこられた身としては…かなり虚しさと…怒りしか残らないし…」
哀愁を漂わせながら、放ったの言葉に部員達は嫌な汗を感じた。
((ドナドナって…))
部員達はの言葉に、聞き流せず唖然とした表情を浮かべるばかりである。
ちなみには、そんな部員達の様子などお構いなし。
どうやら、テニス部連れてこられたドナドナ事件で吹っ切れたらしい…。
と言う訳で…は目的の第一段階を突破すべく口を開いた。
「まぁ…身の上話は置いて置いて。私テニスの事とかサッパリ分からないので、臨時マネって言われても何をどうして良いか分からないので、色々教えて下さると助かります」
ペコリと頭を下げる。
「そんな〜っ。先輩に俺たちのような下っ端の仕事はさせられません」
キッパリサッパリ言い切った荒井に、はすかさず言葉を紡いだ。
「そんな下っ端何て言わないものよ。苦労が有るからこそ、今のレギュラー陣が居るんじゃないの?それに私はルールすら分からない、下っ端以下なんだから…これも取材の内なんだけどね」
「そう言われましても」
「やっぱり私が居るとお邪魔になるのかしら?」
困った顔をしてがそう言う。
の表情を見て、部員達が困惑と焦りを混じった表情をするばかり。
「じゃ…邪魔なんて、とんでも無い」
手のひらをブンブンさせながら、荒井はに慌ててそう返した。
(桃君やリョーマ君と同じ事言ってるな〜)
荒井の答えには“そう?”と首を傾げて見せた。
そしてスーッと息を大きく吸うと、長々と言葉を紡ぎ出す。
「ハッキリ言ってしまえば、部長さん達を取材するのだったら、こんな面倒な事しなくても…乾君のデーターとちょっとしたコメントで十分なのよ…でもね、“レギュラーの取材をしてこい”って言われた訳じゃないの。青学テニス部全体の取材な訳」
ノンブレスで話したは、新鮮な空気を肺に入れるとまた言葉を紡ぎ出す。
「そこらに居るミーハーな子達と一緒になるじゃない?」
はフェンス越しにレギュラーを見に来ている女子生徒に視線を送りながら、荒井にそう返した。
(私が取材でココに入ってる事を快く思っている人間なって少ないだろうしね…微妙なポジションだろが…憧れの対象の側にいたいものですもんね…)と心の中で溜息混じりの思いを抱くであった。
の言葉に部員達の中からドヨメキガ起こる。
「そそ…そんな。」
恐縮する部員を余所には、独り言のように言葉を紡ぎ出していた。
「恋するお嬢さん方にしてみれば、此処に居る私は邪魔な存在に写るの…でも、名目が有ってちゃんと仕事もこなしていれば何も言えない。だけどね…たんなるお客さんなら排除の対象になるものなのよ。同姓だからこそ、分かる気持ちってヤツねこれは」
遠い目をしてそう言葉を締めくくった。
曖昧に相づちを打つ、部員達。
その様子には顔を顰めて見た。
「それとも、私が居ては疚しい事でも有ると言うなら話は別になるけれど」
強めの視線を送りながら、は部員達にそう尋ねた。
その言葉に首を横に振って、否定を意味する動作をする荒井と部員達。
「じゃ〜協力すると思ってネ」
パチン。
両手を景気よく叩き合わせては荒井にそう言った。
だが荒井は、歯切れが悪そうに口ごもるばかり。
「ですが…やっぱり先輩に」
モゴモゴ。
荒井が、聞き取れにくい言葉を発してる言葉を遮るようにふいに声が重なった。
「また馬鹿の一つ覚えで、苛めでもやってるんですか荒井先輩」
キッと鋭い視線を荒井に送りながら、越前はを背中に庇うような位置に立ってそう言った。
越前の声に、はゆっくりと振り返り声をかけた。
「アラ?リョーマ君練習は良いの?」
「先輩が、苛められていたら困るから監視役ですよ」
シレッと越前は、にそう答える。
ナカナカの毒舌ぶりに、は目を丸くさせながら越前を見やる。
「苛めって…ただお話していただけだし…別に苛められて無いよ。ああ…後駄目だよ、先輩に対してあんな言い方は」
“ふむ”と一旦考えながらは、思いついたように越前にそう返した。
そんな見当違いな見解を出したに、毒気を抜かれた越前は取りあえず…この少々
「気をつけるス。でも…先輩が困ったような顔してたからスよ」
姉に注意された弟の様に、少々罰悪そうに越前はにそう言い返してみた。
「本当にリョーマ君は優しいね。でもね、本当に苛められてなんか無いんだよ」
「先輩がそう言うんなら、一応納得しとくけど。でも先輩どうして困った顔していたんですか?」
「ん〜っ。お仕事何か有るか聞いていたんだけど…。何か気を使わせてしまってるみたいでね。一行に話が進まなくて、どうしたものかな〜と思っていただけなんだけどね」
“情けない所ばかり、見られるね”と笑いながら、は言った。
越前は、荒井をぼんやりと見ながら(一応、部活外の先輩にも敬意を持ってるんだね〜)と思った。
「へ〜そうなんだ」
疑わしいそうな目で荒井を見ながら、越前はそう言葉を紡ぐ。
「な…何だよ越前。その疑わしそうな目は」
「別に、俺は何時もと変わらないスけど。それより先輩に、教えてあげれば良いじゃないですか、あ・ら・い先・輩」
「先輩に対して、アレやれコレやれって言える訳じゃないだろが!」
「別に俺は、アレコレしてくれって言ってませんよ」
「気遣いってもんがね〜んだよお前は!!」
当事者を抜かした言い争いの幕が切って落とされたのである。
ギャースカ、ギャースカ言い争う両者の御陰で、は当事者なのに蚊帳の外に居た。
(このままでは、埒が明かないな〜)
は越前、荒井の言い合いを聞きながらそんな事を思っている時だった…。
「どうですか〜先輩、調子は?」
この騒ぎの事など、気にした様子もないマイペースな声音の桃城がに声をかけたのである。
はその声を聞いて“ふ〜っ”と溜息一吐いて、笑顔で桃城の方を見た。
「桃君、良いところに来たね」
「全然良い所じゃ無いじゃないですか…。寧ろ、間の悪い所に来たって感じスよ俺的に…」
額に手をあてて、桃城は落胆気味にそうに返した。
「まぁカクカクシカジカって感じでね」
肩を竦めては桃城を見て言った。
「どんな感じ何スカ先輩」
疲れたような口調で、桃城がにそう返す。
それを見たは「やっぱり、それだけじゃ分からないよね」と苦笑を浮かべた。
「うんとね」
は、先程までのやり取りを桃城に話したのであった。
「成る程ね〜。越前もなかなか良い所が有るじゃね〜か」
の説明を受けた桃城は、感心したような声音でに言葉を返した。
「何だか、申し訳ない感じがするんだけどね」
申し訳ない気持ちで一杯なのか、の表情には少し陰りが落ちていた。
「先輩は気にしすぎスよ。好きなだけやらせておけば、その内手塚部長の罰則勧告で静かになりますから」
「でもな〜罰則ね〜…それは又大変そうだわ。話は変わるけど…越前君が猫なら、荒井君は犬タイプに見えると思わない?」
唐突なの言葉に、桃城は眉を寄せた。
「何スカそれ?」
「例え話って所かな…。クールーでドライな傭兵タイプと忠義に熱い家臣タイプって言った方が的を得てるかもね」
「より訳が分からなくなりました」
「ゴメンゴメンついつい自分の世界にトリップしちゃった。ん〜と…荒井君ってやっぱり体育会系のノリが強いんでしょ?」
「そうスね。先輩命令の占める割合は確かに大きい感じしますね」
ウンウン。
大きく頷きながら、桃城はに相づちをする。
桃城を見ながらは「成る程ね〜」と言ったきり、ふいに悩み混んだように目を伏せた。
「何か良い案でも浮かんだんですか?先輩」
の意味深な雰囲気に桃城は思わずそう尋ねていた。
桃城の言葉に、軽く唸りながらは言葉を紡ぐべく口を開く。
「ん〜やってみないと分からないけどね」
はそう言うや否やヒラヒラと手を振って、再び荒井と越前の居る方に向かっていった。
「リョーマ君、ちょいと話に混じっても良い?」
「へ?先輩…」
ふいにに声をかけられた越前は少し間抜けな声を出す。
そんな越前に、は軽く目配せしてから、荒井の方に目を向けた。
「荒井君と言ったっけ君」
眉間に皺を寄せて、“う〜ん”と悩んで見せては荒井を見る。
「は…はい。荒井ですが…な…何でしょうか先輩」
背筋をピンと伸ばした荒井。
言葉もちょっぴり挙動不審気味で…。
荒井の言葉を聞いたは、何かを思いついたように言葉を紡ぎ出した。
「分かりました下手に出るのは、もう止めましょう…。ゴメンね本当はこんな事したくは、無かったんだけど…」
は言いかけて、視線を不意に落とした。
そんな様子に、ザワメキたったコート内に妙な風が吹いた感じがした。
シーン。
急に水を打ったように静けさが辺りに広がった。
その様子を見て、は“コホン”と咳払いを一つ吐いて、口をおもむろに開いた。
「ちゃんと仕事を教えて下さい。そうじゃないと、私放送部に戻れないのでね。コレは、先輩命令です!逆らったら、後で乾君の特性汁に勝手に何かを足すのでそのつもりでね」
高らかと言い切った言葉と、小さく呟かれた不吉な言葉に…越前、桃城を含む部員達は一瞬体を竦ませた。
言葉もない…。
そんな一言がピッタリ合う状況だった。
(乾汁は嫌だ…しかも実は先輩って強い?)
「「は…はい。俺たちでよければ、仕事の説明でも何でもします。だから乾汁は〜」」
固まっていた部員達全員が声を揃えて、にそう返した。
それはもう、悲痛な面持ちで。
悲痛な様子の部員の事は気にした様子は無く、は(良かった、やっとコレで仕事が出来そうだわ。早く仕事を終わらせないと、私の身が持たないかもしれないものね)と思っていた。
「良いお返事ですね。じゃ〜何するか、ちゃんと教えて下さいね」
ニッコリ笑って、その様子を見るだった。
ちなみに部員達は(初めっから、仕事を教えておけば…)と後悔したとしないとか…。
部長+3年レギュラー陣不在のコート内では、ちょっぴりの独裁場となっていた。
その出来事とは、後に学園中を駆けめぐるスクープに成るとか…成らないとか…。
ともかく、の臨時マネ業は始まったばかりであった。
NEXT→No4
2003.7.31 From:Koumi Sunohara
☆中書き言訳☆ |
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