サンタクロースの贈り物 (前編)
−冷たい心に温かな優しい風−



吐く息も白い12月…恋人が浮かれるクリスマスイブ。

頬にあたる風は冷たくて、手袋、マフラーは必需品。勿論上着はコートで決まり。
外はとっても寒いし、心もかなり隙間風がビュービュー吹く荒む(多くは語らないけど…)…まぁ…そんな時期。

心が荒んでいようが…荒んでない…普段の私でも、こんな日はコタツの虫になり…温々した部屋で蜜柑を食べて時間を過ごすはずなのに…。
今日は寒空に立っている。

雪なんて滅多に降らない東京に…今年初めての初雪が今日の夜降ると言うから、私は午後家から飛び出した訳だ。

(ホワイトクリスマスになってイルミネーションが綺麗かもしれない)

そんな単純な理由。
それと…。


今年初めての淡雪

その一片を捕まえて願いを重ねよう

少しだけ叶えてくれるかもしれない…

それはだって…冬からの初めての贈り物だから…


誰かが言った曖昧な言葉に踊らされ、私はクリスマスイブだと言うのに…暮れる街並を歩いていたりする。
ささやかな願いを叶えてくれると言う…一片の雪を求めて。


そんな事をぼんやりと思いながら、賑わう世界に一人居る。
周りは賑わいでいるのに、何故だか…私の心は、重々しい。

ふいに、ひどく悲しくて…辛い感情が沸き上がる。
その感情は、知らず知らずに私は私に疑問をぶつけていた。


ねぇ…心の痛みって、どうしたら消えていくものなのでしょうか?

失恋の痛みは…一体…何時消えてゆくのだろうか?


尋ねた所で返ってくるはずも無いのに、センチメンタル意外の何ものでもない、乙女のような思いが心を駆けめぐらせて、じわじわ悲しい気持ちが広がってゆく。
憂鬱な気分で、寒い冬の空の下でただ空を見上げる。
他から見れば、馬鹿みたいな事をしているのだろうけど…。


でも今は、そうでもしないと…やってられないヤルセナイ気分に陥っていて。
理由は…きっと心が落ち込んでいる所為だろうなと…ボンヤリと思う。
そう…深い意味など無いんだ。
ただ…失恋直後だと言うことと…冬の寒さを肌に感じたら、何となくそんな風に思えたのだ。

(冬は人を物悲しくさせるのだろうか?)

何て、益々センチメンタルな事何て考えたり。
そんな自分が、何だか可笑しくて仕方が無い。

気分を紛らわせる様に…行き交う人の波を眺める。
人の波の中には…恋人達や慌ただしく家路に着こうとするサラリーマンなどが溢れている。


忙しなく動く人と言う名の波。
行き交う人々は、私に気に止める事など無く。
そんな人々は、スルリスルリと私の間を通り抜ける。
さしずめ私は、波間に佇む岩の様に…気に留められない存在だった…。


そう思うと…何だか急に物悲しくなってきた。
大袈裟だが、まるで色々な人達に嫌われた様な錯覚に陥る。

(嗚呼ヤダヤダ…本当に悲しくなってくるよ)

あまりの自分の後ろ向きすぎる感情に、嫌気がさすけど…結局後ろ向きの感情は変わらないのは確かな話し。
極めつけは手元にあるのは、彼にあげるはずだったプレゼント。
物はついで…と言わんばかりに、店に行って受け取ってきたものだ。

(こんなモンを持ってるから余計、もの悲しくなるのよね)

役目の無くなったプレゼントを見ながら私は思う。
捨てようかな?と思うけど…生来の貧乏性が働いて、捨てられない。
でも、見れば悲しくなると言う悪循環…。
私はモヤモヤした気分を振り払うように頭を振った。

(寒くなってきたし…取りあえず帰るか…)

そう思うことにして、私は街から帰るべくまた歩きはじまたのだった。


家の近所の公園までボンヤリとしながら歩いていると、コートのポケットで妙な振動を感じた。
そうした直後、原因の物は独特の音を奏でていた。


チャララー、チャチャチャー、チャラーチャチャチャー。


響き渡るちょっぴり間の抜けたメロディー。
ちなみに着メロは太陽に吠えろだったりするんだど。
今は電話に出る気分じゃなかったりする。
思った所で、電話が勝手に鳴りやむことはあり得なく…頑張って着信音を鳴らしながら私に電話が有ることを知らせていた。

(諦めない人だね〜)

そう思って眺めるデスプレーには…幼馴染みの『海堂薫』の3文字が表示されていた。

(珍しい…薫から電話か…)

電話相手が分かった私は、珍しい相手でも有った事も有り電話に出ることにした。
本当に薫から電話がくる事が珍しいからって言うのも有るんだけど…。
ともかく出る事にした私は、手早く通話ボタンを押して言葉を紡ぐ。

「ハイ此方七曲署、巡査で〜す」

お約束のボケを電話口の相手に言ってみる。

(さぁ〜どんなツッコミが出てくる事やら…)

何て…ちょっとした期待を持ちながら私は電話口の反応を伺った。

『…』

虚しく機械特有のノイズのみ私の耳に入る。
呆けた言葉を電話口に言えば、真面目な幼馴染み殿は無言になった。
(せめて何か言うとかさ…)と心の中で思った私は、薫にブーブー文句を言ってみる事にした。

「少しは、笑うなり何なりリアクションしてくれないと…凄く私惨めじゃないの薫〜」

『…チッ。俺がそう言うの苦手だって知ってるんだろが』

と不機嫌なお言葉が返されてきた。

「そうね。お笑い芸人さんばりのツッコミは求めてないけどネ…せめて、何か言ってくれてもと思ったのさ」

そう戯けて言いながらも…薫の声を聞きながら、少しだけ凹んでいた気分が浮上するのが感じた。

(やっぱり、凹んだときは誰かと話すに限るのかもね)

しみじみと思っている私に、またもや薫の不機嫌な声が耳に入る。

『オイ…何処ほっき歩いていやがる』

苛々とした雰囲気を隠さずに、薫はそう言葉を紡ぐ。
あまりに彼らしい言葉に、私の心は少しだけ軽くなった気がした。

「家の側の公園に今は居るかな」

ハハハハハと乾いた笑いを混じえつつ、不機嫌な薫に返す私。

『…こんな雪降ってる寒い日に、家に電話かけても居ない…何やってるんだお前』

私の言葉に益々不機嫌な声で薫はそう尋ねてきた。
聞かれた言葉に流石に(失恋の傷心具合に、信憑性にかけるジンクスの為に外を徘徊していた…とは、言えないよね…)と思った私は、大雑把に言葉を紡ぐ。

「散歩」

言った自分も驚いたけど…(何でまた散歩かな…)とか思ったけど…薫は、呆けた顔で私を見ている。
きっと、心底アホだと思ったにちがなかった。
電話口だから顔見えないけどさ。
何て私が、グルグルと思考を巡らせている間に復活した薫が口を開いた。

『バカかお前は…』

復活そうそうの…キツイ一言が返ってくる。
薫らしい言葉と言えば、言葉だけど…他に言いようも有るだろう。
そう言かえそうと思ったのに、言葉は自分の意思とは違う言葉を紡いでいた。

「へん。バカだから外に居るんでしょ」

強がって言葉を紡いでみても、何だか上手く決まらない。

(へん…って。何時の時代の子供よ…)

自分でも呆れながらも、私はそう言っていた。
だけど、電話口の薫は気にせずにマイペースだった。

『話は後だ。それより本当に何処に居るんだ

私の「へん」発言を綺麗サッパリ無視して、薫はそう聞いてきた。

(薫らしいよね…変に変わらないから助かるのかも…。何だか少し気が紛れたかも…)

何時も通りの薫の言葉に、私は少しづつ何時もの自分のペースを思いだして言葉を紡ぐ。

「ん?本当に近所の公園だよ」

素直にサラリと出た言葉。
薫はその言葉にすぐに言葉を返した。

『分かった…直ぐに行く。絶対に動くなよ』

一方的にそう言うと、薫はササッと電話を切った。
私は間抜け面のまま切れた携帯電話を耳に当てたまま、ふと疑問が浮かぶ。

(薫は一体何の用事なんだろう?)

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2007.12.11.From:Koumi Sunohara


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