時が解決する想い |
−後編− |
記憶の海に居ながら、私は今と昔を比べてた。
今では仲良し姉弟と言われる私と赤也。
一緒に遊びに出かける事もあるし、殴り合いの喧嘩だってざらに有る。
それでも、私と赤也は世間一般的に仲が良いと言える部類に入るらしい。
思春期突入の時期に、肉親…である小五月蠅い存在と仲がよいのは珍しい事らしいので…余計そう感じるらしい。
私には一般的な事が分からないから、どうこう言えた義理では無いけれど。
兎も角、私と赤也は仲が良い間柄らしいのだ。
そう…それが現在。
だけど、そこまでになるに至る経緯は本当に長かった。
何故なら私は、弟が好きでは無かったのだから…。
今の私という人間が確立する前の…。
赤也が生まれた当初の私は、ハッキリ言って弟と言うものに良い印象は持っていなかったからだ。
それはきっと、弟と自分との年の差も大きいのかもしれないし、周りに居た心ない大人達の一言が大きかったのも有るだろう。
それは今は良いとして…。
他に有るとしたならば…離れた年と性別の違いが余計に溝を作っていたのかも知れない。
近い年ならば、弟がすぐできてしまう事に不満は有っても…違和感は感じないに違いない。
だけど、かなり離れて出来てしまった弟は…違和感と…頭で理解できても心が理解できない状態を生み出すものだ。
もしかしたら、そんな考えを持っているのは私だけかもしれないけれど…。
周りにいる兄弟を持った知人達は、年が離れるほど可愛がったりしているのに…。
私は、どうしても認めることも…可愛いと思う事も出来なかった。
勿論幼いながらも、(どうして自分はこんなにも弟の事が可愛いと思えないのだろう?)そんな思いも浮かぶし、悩んだりもした。
始めは、その程度の思いも…次第に少しずつ周りのことが理解できる様に為ってきたとき…私は苦手というか…可愛がる事の出来ない理由にぶち当たる事になった。
それは、日本が古来より持つ悪癖とも思える習わし。
嫡男が望まれるという現実だった。
両親はそんな事を気にしないけれど、親戚…祖父に祖母…周りが自然と男の子供を望む習慣。
たかが性別。
されど性別。
男として生を受けた赤也は、切原家の嫡男。
要は跡取り(まぁ…たいした家では無いのだけど)。
そして私は先に生を得ながら、女である故に…軽視される存在。
聞こえるのは「何故、男じゃ無かったのか?」というそんな言葉。
小さな頃に言われていた言葉と、今長男として生を受けた赤也に対する周りの目の違い。
明らかに違う…自分の時の対応に…私は気が付いてしまったのだ。
間接的に聞こえる声と、直接言われるそんな言葉。
大人達は子供だと思って分からないと思っての言葉だろうけど…。
そう思うのは、大間違い。
幼いながらに、理解するものだ。
現に私は理解して、悩んだり苦しんだりもした。
それが根底に根付くが故に、私は弟という存在に良い感情は抱く事が出来なかった。
別に赤也が悪い訳では無いのに。
そんなマイナスの悪循環を打破する事が出来たのは…。
ひとえに私が年をとり…少し大人になったことも有るけれど。
大きな葛藤と闘い、時間が解決してくれた御陰なのだと私は思う。
しみじみと過去を思いだしながら、不意に目を向ける写真は…古いモノから新しいものときちんと順番道理に並んでいる。
その写真を順序よく見れば、私と赤也の距離が縮まってゆくさまが良く分かる。
(何故私は赤也を今のように接することが出来たのだろう?)
浮かぶ疑問に私はまた、過去の記憶を思い出すようにゆっくりと目蓋を降ろす。
幼い弟と私。
期待されて生まれた筈の赤也。
だけど…その弟と周りの様子を傍観者のように見ていた私は気が付いてしまったのだ。
そう…私だけじゃないのだと気が付いた。
弟は弟で姉の私と比較されていた。
「何でちゃんが男の子じゃ無かったんだ」とか「あんなのが長男とは…」何処かで聞いた言葉を幼い弟に向けられていた。
その事に気が付いた。
自分だけでは無いと言う事実に。
私は気が付けば、そんな風に言われる弟を庇うようになっていた。
それは…実に無意識下の事で…何故そうしたか?何てものは分からない。
だけど私は、この頃忙しかった母に変わって幼い弟の面倒も進んで見るように成っていた。
自然な事ののように…。
そうして、今の私へと繋がっていた。
その事に今更だけど気が付いた。
(だから私は、あの我が侭だけど…何処か憎めない弟に甘いのだと…)
そして同時に思う。
(もしも昔の自分が今も居て…赤也と嫌な関係だったら…?)
ふと浮かぶ思い。
だけど、そんな自分など想像することなんて出来なかった。
だって、そんな未来も…今も無く…。
私と赤也は、何だかんだいっても…嫌な関係になっていないのだから。
結局私は満足してるのだろう…些細なきっかけで変わった自分に…。
そして、姉であり母の様に弟を心配する自分に。
そう思うと『時』と言うものの凄さが実感できる気がする。
等しく流れる時間の…その一片が、私と赤也の関係を良好にしたのだから。
例え、こんな関係に今なっていなかったとしても…何時か…長い時間の内に今の姉と弟の関係を確立していたと思う。
それはあくまで…憶測や予想にすぎないけれど…それでも、きっとそうだと私は思う。
そして願いたいと…切に思う。
色々浮かぶ想いなどが駆け巡ったけれど…取りあえず私は弟に頼まれたアルバムを赤也の机に置きながら、(こんな関係が何時までも続けば良いなぁ〜)と思ったのだった。
おわし
2004.7.30. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ 結局前後編で終らすことに相成りました(汗)。 夢と言うには妖しいかもしれませんね…相変わらず…。 でもシリーズ物なので、少し姉さんの過去を書きたかったので…。 フォローと言っては何ですが、赤也から見た今の姉と昔の姉のお話を書く予定です。 その話で一応姉と弟の過去と今話で完成予定なんですが。 まだ今の所は未定です。 取りあえず此処まで読んで下さり有り難う御座いました。 機会が有りましたら、読んで下さると幸いです。 |
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