時が解決する想い
−前編−



今日は朝から機嫌が良かった。
目覚まし前に起きれたし、天気は気持ちが良いぐらい良く晴れていた。
思わず心はウキウキする。

しかも…。
大学の講義も無く、バイトもたまたま休みで…今日は、優雅な休日をエンジョイしようと心に決めていた。
本当に今日は良い日になりそうな予感だったのだ。

それなのに、我が家の我が侭王子コト…弟の赤也が、ノリノリ気分の私のテンションを低下させる言葉を、朝ご飯時に言ってきたものだから…まったくもって参った話である。

姉ちゃん…今日って〜もしかして暇だったりしちゃう?」

眠そうな目を擦りながら、パンを齧っていた赤也が不意に前触れもなく、そんな言葉を紡いできた。
私は、何となく嫌な予感がしたので…(聞き流してやろうかな?)と言う思いも有り、赤也にどうでも良いツッコミで返すことにした。
まぁ余り意味のない事だろうけれど…。

「“姉ちゃん”止めなって言ってるでしょ。いい加減、“さん”って言えるようにならないと、恥かくのは赤也だよ」

少し姉らしい態度で、そう言ってみたものの…相手は全く気にした気配は全く無い。

「ハイハイ。気をつけるようにしますって」

両手を上げて、気にする気にが無さそうに赤也はそう返した。
私は呆れた様子で弟を眺めながら、「暇と言えない事も無いけど」と気にない返事を赤也に返す。

「じゃ暇何スね」

ニッコリ笑って言う弟に、少し顔を顰めて無言で返す。
すると赤也は、沈黙は肯定だと勝手に解釈したのか…本題だと言いたげに、言葉を紡いできた。

「んで。ちょっとばかし、姉ちゃんにお願いが有るんスよ」

そう切り出した赤也は、私に“お願い事”の詳細を話し出した。
要は…昔の写真が必要だとかで、押入からアルバムを探して欲しいとの事。
明らかに母親の仕事の範疇で、姉の私の担当する事では無い。
もしかしたら、自分でも探せる事かもしれない。
兎も角、弟の言葉に私は気分の良かったのが、一気に低迷する気分で有る。

(母さんにでも頼めよ普通…)

重くなる感情の中で、そんな思いに駆られるけれど、我が家の母も…父も共働きなので期待は出来ない事を、思い出す。

(そう言えば…母さん仕事で朝早く出て行ったような気が…。父さんは…家のこと知るわけ無いし…。やっぱり私がヤルんだよね…)

家族の個々の事を思い巡らせ、私は小さな溜息を吐く。
結局、家のことも熟知し…尚かつ現在暇だと思われる私にお鉢が回ってきたと言う所なのだろう。


そんな事は重々承知だけれど、釈然としないので…駄目元で「お前がやれよ」と言うニュアンスを含めた言葉を紡いでみた。

「赤也が探すという項目は…始めっから無いわけ?」

私の言葉に、赤也は頭を掻きながら…言葉を紡ぐ。

「いや〜俺が探そうとすると…余計な仕事が増えますし…ココは、家のことを熟知した姉ちゃんにお力をお借りしたいなぁ〜って思いましてね」

ヘラリと悪びれた様子も無く言う弟の姿に、(やっぱり…始めから無いのね…)と

「“お借りしたい”って言うより寧ろ…私にやらせる魂胆なのかな?我が家の我が侭王子様」

少し目に力を込めて嫌味を言えば、ふくれっ面で言い返してくる始末。

「俺我が侭じゃ無いス」

「どうみても、我が侭でしょ。先輩や周りによく言われてるじゃないの?」

「言われてないスよ。姉ちゃんの勘違いじゃ無いスか?」

「はいはい。そう言う事にしておきますよ。赤也君」

言っても訊かない駄々っ子に、私はそう言葉を一旦締めた。
勿論、『我が侭』という事を覆す気は無い。
取りあえず話しにならないから、言わない振りしてるだけだ。
だからだろうか…心に留めておこうと思った言葉がポロリと零れた…。

「姉なんだか…母なんだか…分からないねこれじゃ〜」

肩を竦める私に、赤也は自信満々に口を開いた。

「母で有り姉だし、姉で有り母スよ。だって俺、姉ちゃんに育てられたようなもんスもん。母さんより、母さんらしいし…それに姉っ子ス」

「堂々とシスコン+マザコンを威張って言うな」

「別に良いじゃ無いスか〜。言ってもらえて正直嬉しいんじゃない?」

「ばーか。弟に言われて嬉しい時代は遠にすぎたのよ」

「何言ってるんスカ。まだまだ姉ちゃん若いスよ」

「はいはい。お世辞言っても何も出ないよ」

私の言葉に「お世辞じゃ無いスけどね」といじけた口調で赤也は言う。
そんな赤也を見ていて、少し溜息を吐く。
そして一連の動作の様に、首捻った先の時計が…弟の出発せねば間に合わない時間へと迫っていることに気が付いた。

(そろそろ発破かけないと、朝練遅れるよなぁ〜)

「それより赤也。そろそろ出ないと朝練間に合わないじゃないの?」

私の言葉に時計に目を走らせた赤也は、みるみる顔色を変えていった。

「ヤバ…。ゆっくり話ししすぎちまった…」

そう言うと赤也はバタバタと忙しなく、鞄やら何やらかにやら、手に持って玄関の方へ向かう。
その忙しそうに慌てる弟の忘れかけてる弁当片手に、私も後をゆっくり追う。

「ホラ。弁当持って…ダッシュで行けば間に合うでしょ」

赤也に弁当を持たせそう言葉をかける私。
そんな自分に…。

(本当に母親みたいだわ…)

ちょっぴりそんな思いを感じつつ、私は赤也を送り出した。
勿論、「頼まれた事はやっておくから」と言う言葉も付け加えることも忘れずに。
結局、これの所為で私の優雅な休日は潰れる事になってしまう事に微妙な気分だけど…。


赤也が大発掘作業にをして、後から面倒事を押しつけれられるのは嫌なので、やっぱり仕方がないのかもしれない。
兎も角私は、弟の為と自分の明るい未来の為に…渋々と作業をすることにしたのである。





渋々始めた作業。
去年入念に大掃除した御陰か、さほど面倒な作業は無く…目当ての段ボールを発見する事が出来た。

そして、そこから必要で有るらしいアルバムを引っ張り出す。
共同のアルバムから、各個人のアルバム。
それらを、大まかに分けながら私は、作業を黙々とこなした。

自分の物と赤也の物を分け、片付けながら作業を進める。
その御陰か知らないけれど、作業は割と順調で…赤也に頼まれていたアルバムの発掘は結構早くに見つけることが出来た。

(ふーっ。結構早く見つけれたわ)

心の中で言いながら、私は大きく伸びを一つ。
すると、たまたま視界に…一冊のアルバムが目に入った。

(あれ…あれって…)

思いながら、手を伸ばしアルバムに手をかけら私は、無意識のうちにアルバムを捲っていた。

そこには…。

何気なく、開くアルバムには…偽りのない姿が映っていた。
赤ん坊の赤也と小さな私。
写真の中の私は、不機嫌そうに顔を顰めて赤也を抱いている。
そんな過去の自分に苦笑を浮かべるしかなかった。

(この時の私って…本当に、今の私に成るなんて思って無かったよね…きっと…)

不意に浮かぶ過去の自分への思い。
アルバムを捲る様に、記憶のメモリーが浮かんでゆく。

私は、周りをササッと片づけて…古ぼけてしまったアルバムに向き合って見ることにした。

大分色褪せた紙を捲るたびに、思い出される記憶の海へ私はそっと身を沈めていったのだ。



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2004.4.14. FROM:Koumi Sunohara



★言い訳★
切原姉…夢です。
珍しく切原姉ではシリアス調で書く予定です。
取りあえず続きます。
前後編と言う感じで書いておりますが…。
長くなりそうで有れば…前後すると思います。
長くても中編入るぐらいですね。
長々と連載にはしないつもりです。
そして最後に…続きも気長に待って下さると、幸いです。




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