毛玉猫娘の恩返しのその後  

時は、秀徳高校にて、宮地がをごんぎつね呼ばわりした日から数週間経った。

大坪はから礼の品として貰った布草履は、自宅に帰って直ぐに使用した。

始めは草履に慣れない所為か少し違和を感じたものの、柔らかな肌触りと何とも言えない足指のかいほうかんは大坪に心地好さをすぐに与えた。

布特有のサラッとした肌触りも相まって大坪は直ぐにの布草履を気に入った大坪であった。

当初大坪は、三足ある布草履の内の一つを父親へ譲渡しょうと考えていたが、履いて数時間で(洗い替えと予備にしょう)と思い始めていた。

そんな事を考えつつ、大坪はリビングに足を向けていた所、テレビを見ていた大坪の母が声をかけてきた。

「あら?泰介、貴方変わったもの履いているわね。ソレ布草履でしょ、どうしたの?」

大坪母が目敏く大坪の足元に気がつきそう尋ねた。

尋ねられた大坪は、隠すいわれもない為大坪母にかいつまんで布草履を貰った経緯を口にした。

「編み物レクチャーのお礼に、布草履を貰ったんだ」

そう口にした大坪に大坪母は、変わらず感心した様子で言葉を紡ぐ。

「そう言えば、さんっていう子に編み物を教えたって言っていたわね。あら?でも、布草履を編めるのに編み物を泰介に習っていたの?」

不思議そうに口にする大坪母に、泰介は小さく苦笑を漏らしながら言葉を紡ぐ。

「曰く…編み針と相性が悪いのだそだ。布草履とか、指編みやエコクラフトとかは問題無く出来るらしい」

「あらあら、それはある意味そちらの方が凄いわね」

「俺もそう思う。が…高校の課題向きじゃ無いのがの可哀想な所なんだ」

「そうね。だから、泰介が教えてあげてたのね…で、そのお礼なのね。そう言えば、お父さんが居た時に布草履を貰うとかどうとか言っていたアレがコレなのね」

その言葉に大坪は軽く頷く。

「それにしても、そのさんは泰介の事を考えてのそのチョイスやるわね」

「え?」

疑問符を浮かべる大坪に大坪母は楽しそうに言葉にする。

「あら?わからない?」

「はい」

「ふふふ。短時間じゃ分からないかもしれないけど、布草履履いていて楽だと感じない?」

「確かに…」

「布草履はね外反拇趾や浮き指対策に良いと言われているのよ。合わない靴を履くと足裏のアーチのバランスが崩れるのだけど、布草履は本来の正しいアーチになるから体に良いと言われているの。スポーツをしている泰介にピッタリと言えるでしょ。布草履貰うって泰介が言っていた時も教えてあげたんだけどね。忘れる程嬉しかったのかしら?」

大坪母は楽しげにそう告げる。

反対に大坪はその言葉に、軽く目を見開いた。

の確かに言われていたな…神楽にもそう返していたのに…少し浮かれていたのだろうか?でも本当に良い物を貰ったものだ)

しみじみとそんな事を思いながら、大坪は心の中で此処には居ないに感謝する。

「そうそう…後は、水虫対策にもなるのよね…それと、フローリングの掃除にもなる便利なものなのよ…自宅で洗濯できるも利点ね」

「色んな意味での布草履は凄いんだな」

「ええ本当に。私も欲しいぐらいだわ」

大坪母は、大坪の履く布草履を眺めながら羨ましそうに口にした。

「そういえばが多めに作ってしまったとかで、3足もらったけど父さん履くと思う?」

「あら?そうなの?そうね…この間の会話で羨ましそうにしてたから多分喜ぶわよ。それにしても、いくらレクチャーのお礼と言えども3足も…作るの大変だったでしょうね」

「ああ…でも何かをやり遂げたように、すっきりした表情をはしていた」

「モノづくりが好きなのね。そうだわ、泰介」

そう一旦口にしてから、言葉を切った大坪母は再度口を開いた。

さんは、お願いしたら私の分の布草履作ってくれるかしら?」

期待に満ちた表情で大坪母はそう大坪に尋ねた。

「多分、作ってくれるとは思う、良いやつだし…何より自分の作ったものを評価してくれる人の頼みなら何より」

「想像通りの良い娘さんなのね。ああ…本当は是非とも我が家に来て、教えてもらいたいところだけど…さんの都合もあるでしょうしね」

手を合わせて嬉しげにそう口にする自身の母に、大坪の頭は痛い。

(そもそも、作ってくれとお願いする時点での都合を無視している気がするが…こうなった母さんは話聞いてくれそうに無いしな…)

大坪は自分の母親の楽しげな表情にそう感じづにはいられない。

(せめて…父さんが居ればここまで母さんが暴走しなかっただろうか?)

そんな風に思考を巡らせてはみるが、大坪は心の中で首を振り(多分無理だろうな)と思う。

大坪の心情などしりもしない大坪母の口は止まらない。

「泰介の彼女だったら、どうにかしてでも我が家に来てもらうんだけど…。」

「母さん…の都合ってものをだな」

「分かってるわよ。ただでさえ、高校生っていう微妙なお年頃だものね…泰介の彼女じゃなくて私とお友達になってもらえば、良いのかしら?きっと良い子に決まってるわ。ああ会いたいわね」

何処に根拠があるのか不明ではあるが大坪母はそう言い切る。大坪は思わず頭を抱える。

「あんまりハードルを上げてくれるなよ…そもそも、母さんと友達とかの拒否権は無いのか?」

そう口にするのが精一杯の大坪だった。
大坪の言葉にていては大坪母は軽くスルーすると、思い出したように言葉をつむぎだす。

「そうそう。いくら編み物のレクチャーのお礼だと言っても、ちゃんとさんにお礼言ったでしょうね」

「勿論。そもそも、俺が好きでお節介を焼いたんだ当然だろ」

「そうようね。我が息子ながら泰介は実直な子だものね。お母さん安心したわ」

(寧ろ…に熊の編みぐるみを作ってやる事になったなどと言えば…益々面倒な感じになるんだろうな…)

大坪は母の暴走気味な思考にそう結論づけた。

(うっかり口にしたが最後だ…はぁ…)

大坪はから貰ったマフィンや布草履で割りと浮き足立っていた気持ちが、この数分の間に急降下していた。

「泰介、お母さん良い事思いついてわ」

夢見る少女のように瞳をキラキラさせて、大坪母はそう口にした。

(あまり良いことが起きそうに無いのは気のせいか…)

さんが泰介に布草履を作ってくれたように、泰介もさんに何か編み物で作ってあげれば良いのよ。名案じゃない?」

「あの…母さん…(に熊の編みぐるみを作る事になってるんだが…)」

続けようとした言葉は見事に母の次の言葉にかき消された大坪。

「安心して泰介。女の子が好みそうな、編み物の本を母さんが買ってきてあげるし…材料も用意するわ。ああ楽しみ」

実に楽しそうに、当事者を置き去りにして大坪母は颯爽と夕飯のしたくに向かい、大坪は名実共に置き去りにされたのであった。その後、大坪父が帰宅し、何とかしてもらおうと思ったが、案の定うまくいかず…大坪が熊の編みぐるみを作る事まで露見し、父親は父親で大坪から譲り受けた布草履を大層お気に召した。

後にへの布草履の発注数が何気に増えた事実に、大坪はどうしたものかと人知れず溜息を吐くことになるのは数時間後の話であった。


おわし

2013.2.11. From:Koumi Sunohara

-Powered by HTML DWARF-