毛玉猫娘とバスケ部主将(後編)
と別れた大坪は、職員室の家庭科教員の所に居た。
「先生、お話しよろしいですか?」
「あら?大坪君。さんの件かしら?」
「はい」
「さん、大坪君が教えてくれてだいぶ良くなった聞くわ。何か問題でも起きたの?」
「いえ。はよく頑張っています。作品も最初に比べれば、断然成長していますし…」
「本当に大坪君の努力の賜物よね。別に問題無さそうなのだけど、何かあるのかな?」
の成長を嬉しく感じている担当教員は、言い淀む大坪に疑問を持ちながら続きを促した。
「別に問題は無いんです。ただ、は編み針を使うのが苦手なだけで、編み針以外でも編み物は問題なく作品を作り上げる様に感じまして…なので、には編み針以外での編み物作品の提出を許可して欲しいとお願いに来たんです」
慎重に言葉を選びながら、大坪は担当教員にそう告げた。
大坪の中で、恐らく正しいであろう仮説が先程のとの会話の中で生まれていた。
(は、恐らく指編みやリリアンのようなものであれば、編み物が可能な筈だ。籠も、草履も紐や藁を使って編むのだから俺の仮説は間違い無い気がする…そもそも、授業でも編み針でと制約は無い。駄目と言われれば、仕方が無いが)
心の中でそう思う大坪に、担当教員は少し考える仕草をした後、言葉を紡いだ。
「まぁ…確かに編み針でとは言って無いし…良いけど。そうなると、指編みか…かぎ針とかでの方法だけど。そっちの方が難しいんじゃないかしら?」
「それなら問題なしです」
「どうして?」
「は、エコクラフトでカゴとか色々作るそうですし、布で草履も作れるそうですから…寧ろ、向いてる筈ですよ」
「あらあら。それなら問題無いわね。OK、大坪君に任せてるし…それで提出してもらいましょう。でも一応、さんの頑張りの結晶の編み針の作品も併せて提出が条件だけど良いかしら?」
「はい。でわ、に伝えてきます」
そう言って、大坪は担当教員との会話を終わらせての待つ教室へと戻ったのである。
(本当に面倒見の良い子だわ大坪君)
などと、足早に去る大坪を見て担当教員は思ったのである。
廊下を早歩きで進んだ大坪は、ガラリと音を立ての待つ教室の扉を開いた。
「、頑張っているところを悪いんだが、指編みをやってみないか?」
の待つ教室に着いた大坪は開口一番に、そうに尋ねた。
「え?突然どうしたの大坪君」
必死に編み針を動かしていたが、驚いたように目を瞬かせてそう尋ね返す。
「ああ。突然スマン。がカゴを編むとか…草履を編むとか言っていただろ?」
「そうだね。言ったけど…」
「それでだ、紐の様な物を編みカゴや草履を作れるなら、は恐らく指編みが向いているのではないか?と思ったわけだ」
「成程…それなら出来そうだけど。良いのかな?」
不安そうに尋ねるに、大坪は自信を持って頷いた。
「問題無いぞ。先程許可を貰って来たところだ。だから、さえよければチャレンジしてみないか?勿論今まで作ったものも提出する事にはなるんだが…どうだろうか?」
大坪の提案にはウーンと唸った。
(多分…大坪君が教えてくれてるのより…きっと向いてるから、良い物はできそうだけど…。しかも、わざわざ先生に聞きにいってくれたんだよね…どうしたら良いんだろう?)
としたら、大坪の提案は願ったり叶ったりの状況ではあるが、編み物を苦手な自分に真剣に教えてくれた大坪に悪い様な気分だった。
しかしながら、大坪が自分の指導の労力云々よりもの事を思っての提案であり、担当教員の許可までとっている事態にはどうして良いのか判断に困ってしまった。
悩むを見ながら大坪は思う。
(てっきり喜んでもらえると思ったんだが…否…は真面目だから、俺の事を気にして、素直に頷けないのだろうか?)
困った顔で、編んでいる物を眺めるに大坪は、言葉を紡ぐ。
「」
「うん…」
「が色々な事を考えて悩んでいる気持ちは分かる」
「大坪君…」
「俺が教えた労力とか時間の事を気にしてるのもなんとなく分かる」
そう大坪が言うとは、眉を寄せる。
そんなに、大坪の大きな手が彼女の頭に置かれる。ポンポンと優しく彼女の頭を叩きながら、大坪は言葉を紡いだ。
「けど、俺の教えた時間との頑張りはけして無駄な事では無いと俺は思う。苦手な事に立ち向かっていく姿勢は、今じゃなくとも今後のの為になるんじゃないか?それに、今作っている物も提出するのだから無駄にはならん。だから、は気兼ねなく指編みで提出するといい」
「本当に何から何まで、ゴメン。そして、有難う大坪君」
大坪のその言葉に、は漸く表情を緩めてそう言った。
「大変だろうが頑張ろう」
「え?頑張るけど…大坪君…」
が恐らく、言うであろう言葉を遮る様に大坪は言葉を紡いだ。
「乗りかかった船だ…最後まで、の頑張りを見守らせてくれ」
言いながら、大坪はの肩を軽く叩く。
数日後--
大坪の部活の事などを気に病んでいたではあったが、張本人である大坪が、の家庭科の課題を最後まで見守ると言いきった為、以前と同じように二人の空き時間にと大坪は作業をしていた。
大坪の読み通り、は編み針で作業するより格段に指編みにシフトチェンジした方が出来栄え並びに早さは良い物であった。
編み針の使わずに、自身の手と指で仕上げられる技法に大坪は嘆息の溜息は漏らした。
(俺としては、よっぽど、編み針の方が簡単に思うのだが…しかし、色んな意味では見かけ通りという訳ではないんだな)
サクサク仕上げられていく作品を感心して見ている大坪にが、不意に声をかけた。
「そう言えば、大坪君は何を提出するの?」
「ん?そうだな…マフラーとアクリルたわしを提出しようと思う」
「そっか、大坪君は器用だよね。マフラーも綺麗だし…可愛いアクリルたわしも作れるし…羨ましい」
「俺としては道具をほぼ使わずに、物を作り出すの方が凄いと思うが」
「でもね。やっぱり、可愛い物を作るとなると…私の苦手な編み針だったり…カギ針が主流になるんだよね。指編みでマフラーは頑張って出来るけど…模様とか微妙でしょ。それに比べて、大坪君のマフラーとかアクリルたわしとか可愛いんだもん」
への見本と称して並んでいる、大坪のマフラーやアクリルたわしを羨ましそうに見やる。
(編み物より断然にの方が凄いんだがな〜)
心の中でそう思いながら、大坪はに言葉をかける。
「がよければ、何か作るぞ」
「本当?あっ…でも、流石に悪いよ」
嬉しそうにした後には困ったように眉を顰める。
「元々、この編み物教室も俺が言いだした事だ、が気に病む必要はないぞ。だから、気にするな」
「うーん」
「では、物々交換でどうだろう?の作る布草履を俺にくれるっていうのでどうだ?」
「そんなので良いのかな?大坪君が損をしてそうな気がするし…そもそも、私の作った布草履とか見てないのに、本当にソレで良いの?お昼ごはんを奢るとかでも問題無いけど」
心配気な表情ではそう大坪に尋ねる。
「問題無い。そうだな、が気に病むなら…布草履の他に差し入れに何か作ってくれないだろうか?家庭科の授業でカップケーキが上手いと評判だったしな…それでどうだ?」
「分かったよ。私からは、大坪君への差し入れと布草履を渡すね」
二人はそんな約束を交わした。こうして、一見交わらなさそうな大坪とはココからお互いの領域に関わっていく事になるのである。
後日、の指編みと大坪指導の元作っていた作品を提出し、教師クラスメート一同に初めてのお使いを成功させた子供を見る様な感情を向けられたのであった。
おわし
2012.11.25. From:Koumi Sunohara