埋められるお堀(前編)  

最近、伊月君との関係について様々な人から尋ねられる。クラスメート然り、友人然り…後輩然り…彼の所属しているバスケ部然り。

関係と言っても、ひょんな事から接点を持つ事になって…何故か伊月君の琴線に触れて、気がつけば伊月君が私を気にいったのが始まり。

伊月君のダジャレという微妙な趣味に対応出来たのが私と言うだけで…周りの人が思う様なドキドキの恋のお話など皆無に等しい。

きっかけはどうであれ、世の中の恋話が好きな乙女達は容姿の良い彼氏をゲットしたと見えるらしかった。

実際問題、私と伊月君は友人以上恋人未満と言う関係に近いらしい。私にしてみると、果たして友人以上なのか微妙ではあるが、この件については伊月君の方が譲らないので、そういう事にしておこうと思う。

こう考えてみても、私と伊月君との間には甘い恋の話しなど無い。

ソレに対して私は不満は何一つ無いが、世の女の子は違うのだという。記念日にデート…毎日のメールに電話、所謂恋人らしいお付き合いが無いのは変だと言うのだ。

(毎日会ってるのに、メールとか電話毎日とか必要なのかな?)

クラスメートの女子に力説で語られた際の私の気持ちはそんな気分だった。
毎日顔を合わせ、お昼休憩のときにも雑談…大方このスタンスで事足りる…時々、メールや電話で突然思いついたダジャレを披露されて、ダメ出タイムに突入する。

休日にたまに伊月君と出かけることもあるけれど、ほぼ彼の部活関連の事だったり本屋巡りだったりとそんな感じだ。まぁ、お互い有意義に過ごしているから他人がどう思っても満足している。

そう周りに説明すれば、ほぼ全員微妙な顔をする。

きっと内心、恋人?と疑問符を投げかけながらも、他人事だからスルーしているに違いない。

恋人と言う甘さは無いけど、私は案外伊月君との関係に意外と不満は無い。若干の煩わしさは勿論あるし、伊月君との関係によって嫌な事を体験することもあった。

そもそも伊月君は黙っていればモテル。黙っていなくても、ダジャレが好きだと言っても諦めない兵も勿論居る。
そうなると、邪魔者は確実に私となるのは当然の摂理。

邪魔者討伐と相成るのだが…恋する乙女は邪魔者には厳しいが本命の彼には甘いのは世の常で。基本的には、伊月君の見えないラインでの攻防戦が繰り広げられる。

が…私は兎も角、同学年の人々からすると伊月君は既に売約済みの物件なのだと認識されている。不本意ながら、購入者は私なんだそうだ。

そんな経緯がある為か、基本的に飛びかかる火の粉は2年生ではなく一つ下の後輩が相手となる。

後輩相手は実に面倒くさい。
昨年までクラスは違えど同じ学園生活を送って来た2年生は、この学校で起きた事を様々しっている。

伊月君がモテルのに彼女をつくらない理由や告白した相手を振る際の言葉、彼らの所属しているバスケ部の事とか…様々な事を知っている。

「デートよりも今はバスケットの練習をしたいんだ。だからゴメン」

そんな風に伊月君は女の子に断りの文言を告げる。

大体はソレで事なきを得るが、納得されない場合もある。
けれど、私は伊月君の言葉が悪いことだと思わないし、寧ろ納得している。

だってそうだろう?伊月君を始めバスケットボール部は真剣にバスケに青春をかけている。一年生の時に全校生徒の前での決意表明をするぐらい彼らは真剣だ。

確かに、バスケ意外に恋をするかもしれないが…バスケ>恋人or恋となるのはハッキリ分かる。

そんなバスケに青春をかけたバスケットマンとつき合いたいのなら、それそうなりの覚悟を持たないと成立しないのではないのかと私は思う。

昔の恋愛ドラマみたいに…。

「私と仕事どっちが大事?」

「どうして、仕事を優先するの?私の事愛してないのね」

みたいな事を言う恋人は正直、一昨日きやがれと言う感じだろう。ある程度の理解と忍耐力が必要なのだと思う。

その点だけで考えると、私と伊月君の関係はお互いの程良い距離感で良いのかもしれない。

そもそも私も自分の領域を侵される事を良しとしない性分だったりする。

ある程度の妥協は必要だしできるけど、仕事と恋愛の天秤ならば、確実に仕事を取るだろう。

まぁ、今現在学生で、仕事はマジバのバイトだからこの例には当てはまらないけど…事実、伊月君の試合とマジバのバイトどっち取ると言ったら、バイトと言える。

恋する乙女にしたら、信じられないかもしれないけれど優先順位は大事だと思う。

それに付けくわえるとしたら、先に約束した友人と後からその日に会いたいという恋人なら…私は友人をとる。変わっているかもしれないけれど、それが私のスタンスなのだ。

だから、恋よりも…デートよりもバスケを優先する伊月君の気持ちは理解できるし、こんな私のスタンスにも伊月君は理解が有る。

他人様が何と言おうと意外にいい関係なのだ。

形はともあれ、居心地とが良いこの不思議な関係に私は、結構満足しているし…その取り巻く周りの環境に、少し思う所もあるけれど、それを踏まえても別に不快感は無い。

面白い同級生に…可愛い後輩達、少し無理難題を押し付けるけれど…付き合っていくと味の出る生徒会副会長。

私に文才があるのであれば、学園モノの小話など何本か書けそう程ネタに困らない学生生活。

そんな訳で私は満足していたのだが…世の中はそうそう平穏な日常はいただけないのも世の常である。


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2015.6.5. From:Koumi Sunohara

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