埋められるお堀(後編)
基本的に平和なお昼休憩に、今日は火の粉が飛んできた。そう…伊月君に恋をしたお嬢さんと言う火の粉が…。
スカート短めで、すらりと伸びた足…髪の毛はサラサラでキューティクル某アイドルグループのセンターを張っていた子を彷彿とさせるヘアスタイル…顔立ちも可愛らしいが、若干メイクが濃い目の恐らく後輩と思われし女子生徒が突然我がクラスに乱入してきた。
幸いなのか、何なのか…この現場には当事者になるであろう伊月君は席をはずしている状況だった。
(黙っていればキットカワイイんだろうけど…凄く目がつり上がっている…敵意むき出しだね…)
彼女を見た瞬間私は、そんな事を感じた。さしずめ某ファッションチェックである。
伊月君が居ない事を知った上でのクラスへの乱入だろうことは何となく想像がつく。
(意中の人の前では可愛くいたいというのが恋する乙女の定石だものね…少女マンガの王道だわ)
つい最近友人からかりた、コテコテの少女漫画を思い出しながら私は伊月君に好意を持っている女の子を見る。
(で…このパターンは面倒くさい匂いがかなりするパターンだよね…)
このあと来るであろうやり取りを思い浮かべて、思わず溜息が零れる私。周りのクラスメートも慣れたもので、少しだけ可哀想なものを見る様な眼で私を見ている視線を感じた。
(はぁ…やれやれだわ)
面倒くさげに私が、彼女を見ると…視線が合わさる。それが、始まりのゴングであった。
「先輩ですよね」
「私が、だけど…貴方は何処のどなた様?」
「伊月先輩の彼女になる存在です」
そう言った彼女は、自身の名を語らずに高らかにそう言いきった。
(うん。絶対面倒な感じの子来たわ…)
彼女の言動に私は更にゲンナリする。
「えっと…ツッコミ所が山盛り何だけど…名をなのれって事なんだけど…まぁ良いや。で…私に何の用があって来たのかなお嬢さん」
頭を掻きながらそう言えば、その女の子は不機嫌そうに口を開く。
「単刀直入に言います。伊月先輩に付きまとわないで下さい」
その言葉にクラス中が凍った。
「えっと…別に付きまとって無いけど」
「何言ってるんですか?四六時中一緒にいるじゃないですか…だから、付きあってるって噂になってるんじゃないですか?」
「四六時中なんて無いしね…クラスは一緒だけど。伊月君バスケやってるし…私バイトだしね。そもそも、付き合って無いしね」
そう口にすると、彼女は不機嫌そうに表情を歪めた。
「でだ…伊月君と彼彼女でもない私に、貴方は何を言いにきたのかな?」
あまりこちらの言葉を聞いてくれないだろうけれど、私はそう口にした。
「私がデートに誘っても、練習の時間削りたくないって断るのに何で、先輩は伊月先輩とデートしてるんですか!!」
キッと鋭い視線を私に送りながら、伊月君に好意を持っているであろう後輩の女の子はそう口にした。
(うーん。デートは…恋人同士に使う言葉の気がするのだけど…この子と伊月君がつき合っているとは思えないんだけどなぁ?)
一方的に言葉を紡ぐ彼女にそんな事を思いながら、私は言葉を紡ぐ。
「うーん。デートじゃ無いからじゃないのかな?」
そう私は彼女に返した。
私の言葉に彼女は顔を真っ赤にさせて、更に怒りだした。
「なぁ。休日に二人で出掛けていれば立派なデートです!!」
「ふーん。何だろうね?貴方が考えている様な甘い物では無いんだけど、それでもデートと言うのかしら?」
「そうよ」
「(ついに敬語無くなったわね…別に良いけどさ)そっか。じゃ、友人同士のショッピングもデーとだね」
少し意地悪いとは思ったが私はそう言わせてもらった。
「はぁ?」
頭おかしいとでも言いたげに、そう聞き返すその子に私は続く言葉を紡いだ。
「だから、友人同士のショッピング。私と伊月君は、彼のバスケットに必要な必需品の買いだしだったり、部活のテーピングの買いだしに休日行くんだよ、そん後に本屋さんに寄るぐら
い。別に貴方の想像するような、映画とかゲーセンとか水族館とか遊園地とかそう言う娯楽に興じてる訳じゃないんだけど、こういうのもデートなのかしら?」
若干大人げなさを感じながらも、私はそう彼女に言葉を紡いだ。
(クラスメートを始め…様々な方面からツッコミが満載の伊月君との関係を口にしてみたけど…納得…しないか)
心の中でそう思いながら、先程からヤマアラシのように刺々しい後輩を観ながら方を竦める。
「そんなのへ理屈です。事実先輩は伊月先輩と付き合ってるんじゃないですか!」
「甘い会話ゼロ。時には荷物持ちをして、バスケ部の臨時マネージャの如くバスケ部監督の御膝下で雑務をこなし、気がつけば…あれ?私バスケ部だっけ?って錯覚を起こすぐらい青春
はあるが甘い恋愛フラグは一切ない無いけど…それを貴方は望むのかい?」
「望むわけ無いじゃないですか。付き合ってるんだから、デートだってメールだって沢山したいのが普通ですよ。先輩が可笑しいんですよ!」
「可笑しいねぇ〜人それぞれだと思うけど。そもそも私も自分の領域を侵される事を良しとしない性分だったりするし、ある程度の妥協は必要だしできるけど、仕事と恋愛の天秤ならば
、確実に仕事を取る。まぁ、今現在学生で、仕事はマジバのバイトだからこの例には当てはまらないけど…事実、伊月君の試合とマジバのバイトどっち取ると言ったら、バイトって言う
よ。前もって分かってれば、そりゃーバイトいれずに見に行くだろうけど。だから、伊月君がバスケに全力をかける気持ちも分かるし邪魔したいと思わない、そんな関係で良いって思わ
ないと多分伊月君の彼女にはなれないと思うよ」
「そんな事貴方に言われたくない。第一伊月先輩だって、本当は彼女とデートしたいはずです!!」
頭を横に振って、自分の主張を告げる彼女に私は肩をすくめる。
(ヤレヤレ…別に伊月君に拘りが凄くある訳ではないけど…私が伊月君の立場だったら無理だわこの子…)
私はこれ以上の話合いが無駄だと心底思った。
溜息を一つ吐いて、この不毛なやり取りを終わらせるべく言葉を紡いだ。
「んーこれ以上君と話しても平行線だしね…。そうもそも私がどうこう言っても、選ぶのは伊月君だよ。例え、私を排除しても結局は貴方と恋人になる確約は無いんだよ。次の私が出た
時に貴方は何度も繰り返すのかい?」
「それは…」
悔しそうに言い淀む彼女の言葉に被せるように、静かにもはや慣れ親しんだ声が私と彼女の耳に入った。
「流石だよ、」
お腹を押さえながら、噛み殺しきれない笑いをたたえながら伊月君はそう私に声をかけてきた。
「俺とが付き合っているかと言えば…答えはNOだよ」
「じゃぁ…」
「でも。もしも恋人になって欲しいと思うのは君じゃ無い。なんだ」
伊月君はそう口にしてから言葉を一旦切って、再び口を開いた。
「どうしてと?君は言うだろうけど。理屈じゃ無い…君が俺に固執するのも理由じゃないのと同じように、俺は今現在以外考えられないんだ」
「伊月先輩」
「それに、皆勘違いしてる人が多いけど…が俺に付きまとってるんじゃ無い。俺がと一緒に居る事を望んでいるんだよ」
「でも…伊月先輩にはもっとお淑やかな」
「あのね、守ってあげたい砂糖菓子の様な女の子より、夫が出かけている間の家を(からっ風などから)守る強い妻…所謂… かかあ天下のようなが俺には丁度いい。それに…俺が知
らないだけでの可愛い所もあるかもしれないだろうしね」
何気に聞いている方が恥ずかしくなる言葉を、巻き込まれてる人間をほったらかして伊月君と後輩女子はそんな話をしていた。
(穴が有ったら埋まりたい…)
遠い目をして現実逃避しつつ、普段なら考えられない伊月君の女の子への対応にどうしたものかと思案する。
「可愛い所なんて探さなくて良いから」
疲れたようにそう私は口にするが、伊月君とその女子生徒はどこ吹く風で軽くスルーされる。
(面倒くさいな…いっそうのこと、この子と伊月君が付き合えば良いじゃん)
そんな事を思いながら、私はどうせ無視されるだろうと思いつつ言葉を紡ぐ。
「これを機に、そこのお嬢さんと伊月君つき合っちゃえば?」
「え!今何言ってるの?」
「お試しでつき合ってその上で納得して貰えば良いじゃない」
「はぁ?貴方何言ってるかわかってます?」
「ん?理解してるよ。先は伊月君居なかったから、ああいう対応とったけど…今伊月君居るんだし…この方法のほうが効率的じゃない。理想と現実の相違を実感できる大チャンスでしょ」
私は喰い付いてきた女子生徒にそう口にした。
(そうそう、論より証拠ってね…これが一番効率的じゃない)
自分的に良い事を言ったと思いながら、彼女を見ると…般若がそこに居た。
(おいおい。ここは喜んでも怒る所じゃないんじゃないかい?それにしても、その顔をは百年の恋も醒めそうだけど…良いのかな?)
凄い形相をした後輩は、やっぱり不機嫌そうに口を開く。
「貴方にとって伊月先輩はそんな存在なんですか?」
「何をそんなに怒ってるのさ、喜んでも怒るとこじゃないでしょ。だから友人に毛が生えたみたいなもんだと言ってるでしょう!」
「まぁ…うん。そんな感じだよね」
後輩女子生徒にそう返す私に、伊月君は複雑そうな表情で小さくそう返した。
「ねぇ…伊月君好きで、私が邪魔なんだから今のは渡りに船じゃないの?そっちこそ何言ってるのって感じだけど」
私がそう言うと、その子は押し黙った。
(まぁ…乙女心は複雑ちゅーもんなんだろうけど…正直迷惑だわ)
ゲンナリしながら私は言葉を紡いだ。
「まぁ…何だろうね。複雑な乙女心なんだろうけど…私よりも超えなきゃいけない壁は沢山あるんだけどね…ソレを踏まえての提案なんだけど…」
「貴方以上の壁があるなんて思えませんけど」
「ん〜それがまた有るんだよね」
そう私は言ってから、一旦言葉を区切り、深呼吸を一つ吐いて続きを口にする。
「色んな意味でバスケットが伊月君攻略の壁なんだよ。伊月君の事が好きなら、彼がどれほどまでバスケに心血注いでるか分かると思うけど…どう?」
口にした言葉に、彼女は微妙な表情のまま微動だにしない。
「1年生の君には分からないかもしれないけど…同学年の火神君が屋上で宣言したり…他の1年の子が校門の前で目標の声出しをしたり…その目標が叶わなかったら…全裸で好きな子に告白とか…かなり自分を追い込んでバスケにかけるその情熱を貴方は理解している?」
「そんなの…そんな大げさな事あるわけ無いわ」
少し震える声でそう紡ぐ彼女に私は、小さな溜息を吐いてゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「大げさじゃ無いんだよ。それが現実。私達に理解が出来なくても、当事者にしてみれば…それが何よりも重要な事なんだよ。人は皆、他人に譲れない何かを必ず持っている…ソレを否定されたら腹が立つ。大小様々で…好きな食べ物だったり…物…アイドルや芸能人…好きな人のこと…趣味とか…十人十色だけど…そんな大事なモノを理解したうえで包み込む度量が必要なんじゃない?貴方だって、譲れない何かあるでしょ」
紡いだ言葉の後に、彼女を見れば俯き拳を強く握っているのが見える。
「貴方が伊月君に対して譲れない恋心があるのと同じで、伊月君にも譲れない物もあるし…勿論私にだってあるんだよ。自分だけが特別で…自分だけがその思いを叶えれるなんて、そうそう上手くはいかないんだよ、だからね…もう少し相手のことを考えたらどうなのかな?」
なるべく冷静にそう彼女に言い聞かせるように言葉を紡ぎ、私は彼女の出方を待つことにした。
(これで理解してくれないと…正直打つ手は無いんだけどな…)
などとボンヤリと思っている私の耳にガラッといった若干大きな音を立ててクラスのドアが開く。
思わず私と伊月君それに後輩の女子生徒は、ドアの方に一斉に視線を向けた。
(何事?)
ドアの先には一人の女子生徒が居り、仁王立ちをして此方を見ていた。
(何だろう…あの子に見覚えが…そして更に混沌とした状況が起こりそうな予感がプンプンするんだけど)
嫌な予感しかしないこの現状に、視線を集めた女子生徒がズンズンと此方に向かってやってくる。
「話は携帯電話で聞かせてもらったわ」
警察の強制捜査の際に出てきそうな口調で、その女子生徒はそう高らかに宣言した。
(あっ…だいぶ前に伊月君の件で私に宣戦布告して…気づいたら諦めていった同学年の子だ)
宣言したその子を思い出し、私ははて?と疑問が浮かぶ。
(携帯電話で話を聞いた?)
サッと教室に目を向ければ、確かに携帯電話を此方にそっと向けているクラスメイトと…乱入した彼女の手にも携帯電話がしっかりと握られていた。
(警察の強制捜査?って…このカオスを中継って…ダレ得?寧ろ私の不名誉なご乱心事件リターンSなフラグの予感しかしてない)
私はかなりゲンナリしつつも、乱入したその子を見た。
彼女は、迷い無く私と後輩の女子生徒の前にやってきて、後輩女子にはキツイ一瞥を私には突然両手をヒシッと掴んできた。意味不明である。
「私気づいたのよさん」
「へ?何が?」
「旦那を陰日向…そして何処までも寛大に支え叱咤激励する姿は、北条正子か秀吉の正妻のネネ殿か…有名な武将の妻と呼ばれた方々のように、事も無げにこなし、姑問題も解決してる
さんと争うこと自体無理だったって事よ」
「え…ちょっと待って…(そもそも、武士の妻?恋人通りこして夫婦…正妻ってなんじゃらほい…そして姑ってバスケ部関連って事?)」
「そんな武士の妻の鑑のようなさんに挑もうというほうがそもそも、大きな間違いだったのよ。第一考えてもみなさい小娘、旦那を慕う自分以外の女に…理性を保ったまま旦那を責
める訳でもなく、寧ろつき合っても良いなんて言える度量の深さ。正に正妻の余裕。私には真似出来ないし、あんただって無理でしょう」
私を置き去りにして、以前伊月君との件でひと悶着あった同級生の女子生徒は、後輩の女の子にそう口にした。そもそも、色々間違っているし…歴女入ってるのか…何か微妙な感じで勝手なことを言いながら、後輩女子に言い切った。
その様子を伊月君と私はポカーンとした表情で眺めているのだけど…我がクラスメート達は何故か、乱入してきた女子生徒に肯定的だった…何故?
口々に「正妻の余裕…正にソレに尽きる」とか…「そうか…彼女じゃなくて嫁か…うん。それならしっくりくるね」とか恋人じゃないと当事者が言ってるのに関わらず誤解が凄い勢いで広がっている。
(何だろう?この置き去り間…誤解が凄い勢いで侵食しているし…)
どうしたものかと、伊月君を見るが彼もまた困惑そのものだった。
その時だった…更なる火種といえる勢力がこの状況に加わった。
誠凛バスケ部監督…カントク事相田リコさんその人である。
「その通りよ、内助の功とは当にさんの事を言うのよ。それに、伊月君とつき合いたいならまず、バスケ部の許可とってからにしてもらいましょうか!」
バーンと出るはずの無い効果音と共に、リコさんは突如このカオス状態の場所へ乱入してきた。
(嗚呼…帰りたい)
心底そう思う私。HPなんてゼロに限りになく近いと思う。
「と…突然なんなですか?」
武士の妻発言でトーンダウンした筈の後輩女子生徒は、リコさんの登場に勇気ある発言をした。
歴女ぽい同級生はあまり気にした様子は無く、リコさんと後輩女子生徒の様子を見守っていた。
「ん?バスケ部監督相田リコです。副会長もやってるけど。大事な部員と、友人の一大事って事で参上したって感じね。ああ…さしずめ“伊月君とさんの恋の行く末見守り隊”って所かしら」
「素敵ね相田さん、是非私も見守り隊の会員にしてもらえるかしら?」
「ええ大歓迎よ、でも会員番号は一桁台はバスケ部独占だから…10番以降からね」
「是非」
歴女系同級生とリコさんは、そんなやりとりをしながら硬い握手を交わした。
(何だろう…ツッコミどころ満載過ぎて、どうしていいか分からない)
「リ…リコさん」
「どうしてって顔してるわね。ふふふ。これでも、情報収集は得意なのよね」
実に良い笑顔でリコさんはそう口にした。
「…カントクだし…深く考えちゃだめだ」
リコさんの言葉に伊月君は力なくそう口にした。
(カントクだからで終わる説明ってどうなの?)
伊月君の言葉に私は心底そう思わずにはいられなかった。
「さぁ小娘。どうする?」
「どうって…第一、私と先輩と伊月先輩の問題で先輩方に関係ないじゃないですか」
「馬鹿ね。関係大有りよ。だって私監督なのよ。バスケを中心に出来ないような彼女なら、私が全力でブッツブス。これは決定事項よ」
悪役も裸足で逃げ出しそうな笑みを浮かべながら、そういい切るリコさん。
「横暴です。第一確か、バスケ部に彼女持ちの人いたじゃないですか」
「ん?土田君ね。いるわよ。でも、凄く出来た彼女でね。バスケ中心でデートも満足にできなくても、大きな愛で土田君を支えてるのよ。その意味おわかり?」
微笑みの中に物を言わせぬ雰囲気をはらんだ言霊に、もはや勝負はついたも同然だった。
(うん。やっぱり…リコさんは恐怖政治だ…私も心を強く持たねば)
彼女とリコさんのやり取りをみて私は心底そう思わずにはいられなかった。
「相田さん流石だわ。色々な意味で問題児が多いバスケ部の監督と生徒会の副会長をやってのけるだけの事はあるわね」
「そんな事無いわよ。部員とその周りの平和を守るのは監督の努めよ」
「さんもいいけど、相田さんも中々いいわ」
「ふふふ。お褒めに預かり光栄だわ。それよりも今は害虫駆除よ。Gは1匹見たら30以上いると思わなきゃだし、ここでガツンとやっておかないと」
「相田さんの言う通りね」
「いやいや…Gと一緒にしたら可愛いそうでしょうに」
「いやね。さん、害虫は早めの駆除が第一よ」
「そうそう、鉄は熱いうち打てっていうじゃない」
「鉄はね。そもそも、人だし…害虫の定義か不明だし。別に私伊月君の彼女でもなんでもないのだけど」
私のツッコミは熱く盛り上がった、二人の耳には届いていないようだった。
「」
「伊月君…」
当事者なのに完全に蚊帳の外になっている私と伊月君は目を合わせた。
「、こうなったら嵐が去るのを待つしかないと俺は思う」
力なく首を横に振り諦めの表情を浮かべる伊月君。
伊月君のその言葉と、相変わらずなリコさんと同級生と後輩の一方的なやりとりを眺め私もまた、溜息を吐いた。
「あの子には悪いけど…まぁ…自業自得って所じゃないかな。今回は同情の余地は無いかな」
普段基本的に優しい伊月君はそう口にした。
うん…珍しい事もあるものだ。
「伊月君にしては珍しいね」
「そう?結構言う方だと思うけど」
「基本女の子には優しい部類の人だと思うよ」
そう口にするが、伊月君は相変わらず不思議そうな顔をした。
「お姉さんと、妹さん居るから自然に女の子に優しいと私は思うけどね」
「ん〜自覚は無いんだけど。がそう言うならそうなのかもしれないかな」
そうやって伊月君と話している間に、リコさん達と後輩女子との攻防戦はリコさん達連合軍の圧勝をもって幕切れのようだった。
私に威勢良く挑んできた彼女は、凄く疲れた顔と悔しさを滲ませながら私を見ることも無く教室から去っていった。
(えっと…結局どうなの?)
代理人請求をしたわけでもなく、よくわからないままリコさん達によって引き継がれた攻防に私は目を瞬かせる。
「不戦勝って所かな」
困惑する私に伊月君はそう言った。
「うん…そもそも、何だろう…何だろうとしか言いようがない現実に戸惑うんだけどね」
乾いた笑いを浮かべる私。
「?」
心配そうに此方を見る伊月君に私は、苦い表情のまま言葉を紡ぐ。
「いや〜気のせいかな?私の状況って…豊臣秀吉亡き後に…大阪城のお堀を埋められている気がするのは私だけ?」
「えっと…確実に埋められてるよね。カントクに」
「はぁ…」
伊月君の言葉に思わず零れるため息。
「ごめん。俺と関わったから」
すまなそうな表情で紡ぐ伊月君に私は緩く首を振る。
「伊月君それは言わない約束だよ。本当に駄目なら、伊月君を見捨てでもリコさんから逃げるし」
「うん。ならそうするよね…でも、面倒見良いから結局見捨てられないのもだよね」
サラリと不吉な事を言う伊月君に私はアレ?っと思う。
「あれ?伊月君にもお堀埋められているような…」
そう口にした私に、表情の読めない笑みを浮かべなが伊月は私を見た。
(ん?本当の曲者は隣の人?)
何て思いつつも、何となく居心地がよく…結局伊月君の言うとおり、見捨てられない自分の性分にやっぱり、つくづく思う。
お堀はすでに埋めれれていると…。
おわし
2015.6.17. From:Koumi Sunohara