色々な意味のデビュー戦(4)  


好き好んでラフプレイをする人間も勿論居るかも知れないが、基本的に他者を傷つけた場合人は多かれ少なかれ罪悪感を抱くものである。

それが好意的に思っている人間だったら、罪悪感は大きいものである。

は、黄瀬と黒子を交互に見やる。

(わざとじゃないのは、お互いに分かってるし…寧ろ怪我した黒子君は完全に割り切っているんだろうね…)

少しだけ出血してしまった後輩を見ながらは思う。

(そもそも…どんなスポーツでも戦局を変えるに大小様々だけど、ファールしたりファールを貰いに行ったり…デットボールを貰いに行ったり…するのは戦略の一つなんだけど…黄瀬君はあんまり考えてないのかな?)

黄瀬を再度目視で確認したは心底そう感じていた。

(に…してもだ。感傷が長すぎだよね…黒子君しか眼中に無いって感じが気に食わないわ…)

ふーと深く息を吐いたはどうしたものかと頭をひねる。

(お節介ついでだし…まぁ色々思う所もあるから…まぁ一石二鳥かな)

はそう考えると、行動をおこした。


は模造紙を山折、谷折を繰り返し、持ち手部分にガムテープをクルリと捲き見事なハリセンを作り上げた。

其処に、マジックペンをとりだし一筆刻む。

【斬鉄剣】

そう名刀名高いその名を刻む。

某漫画の五右衛門の愛刀の名前であるその名前。

どう考えてもハリセンに付ける名では無い大層な名である。

(よし…斬鉄剣…これならいける)

は完成したハリセンを見ながら、心の中でそう思う。

そう…は冗談抜きでその名をつけた。

古来より、物やモノに名をつければ力が宿ると信じられている。そんな大層なものでは無いが、も意外に大事にしている。

例えば愛用の自転車だったり等…。

兎も角、はハリセン事斬鉄剣をムンズと掴むと黄色い頭のイケメン青年事モデル黄瀬涼太に一撃をお見舞いした。

スパコン。

手首のスナップをよく効かした一撃が黄瀬の背中に炸裂した。

「え?」

不意に感じる背中の痛みと、体育館に不釣り合いな音に黄瀬は思わず声を上げた。

勿論ソレは黄瀬以外も同様で、まるでスポットライトがあたっているかの如く黄瀬と一撃を与えたに注目が集まった。

通常このような目立つ行為をは好まない…が…今日に限っては、気にした風も無く堂々と黄瀬と対峙した。

「気の抜けた顔しおってからに。そうそうスポーツで人は死なないし…黒子君はそんなに弱い子じゃ無いわ。ワザと黒子君を狙って攻撃したんじゃ無いんだから、んな顔してんじゃ無い。不愉快だわ」

辛辣…その一言につきる声音と口調では、ベンチに運ばれる黒子を見て茫然としている黄瀬にそう言った。

黄瀬は茫然と黒子を眺めていた目線を、に向け不機嫌そうに顔を歪めた。

「突然何スか、アンタ…」

抗議の言葉も最後まで言わせずに、は黄瀬の言葉に被せる様に言葉を紡いだ。

「突然も糞も無いわ。散々好き勝手、誠凛に言いたい放題言ってたくせに…黒子君の接触でベンチに下がったぐらいでその態度って何なの?スポーツやってんだから、こういう怪我はつきものでしょうに…悲劇の主人公気取ってんのかお前」

日向のクラッチタイムも真っ青なその言動に、誠凛、海常両者は何も言えずにを見た。

言われている黄瀬も何も言えずに、茫然とを見る。

「まぁ言いたい事は山ほどあるけど…後にするわ」

ふーっと溜息を一つ吐いた後に、は言葉を続ける。

「黒子君の怪我の事もそうだけど、黒子君下さい発言に頭来てるのよ。黒子君が自分の意思で他に行きたいなら仕方が無いけどね…そうじゃないなら、誠凛の子だって事。下さい、はいそうですかって、余所にやらないし…させないしね。そもそも、相手の意思を無視するような愚者に嫁に出す気も婿に出す気も無いのよね。モデルだか何だか知らないけど…潰すぞって事よ」

特攻服に喧嘩上等と背中にしょっているのか?と思える威圧感を出してが黄瀬に凄んだ。言われぱなしの黄瀬の表情は不機嫌というより、若干涙目になっていた。普段生意気な黄瀬の様子を知る海常メンバーですら、黄瀬を憐れむ様な雰囲気が出るほどしょんぼりとする黄瀬。

けれども、誰もを止めようとはしない。所謂一つの自分が可愛いのである…エースだろうがモデルだろうがお構いなしのマシンガントークの女子生徒の逆鱗に触れたくないというのが本音である。

誠凛側としては、先の黄瀬襲来事件の件と今回の海常側の態度に若干おかんむりの為、そもそもの態度を止めようとはしない。が…一人、をたしなめる人間が一人居た。無論…伊月である。

…そのくらいにしておこう。黄瀬泣きそうだから」

一度ご乱心事件を見ている伊月がいち早く回復して、に対して諫める言葉を口にした。

「伊月君…泣かすつもりで言ってたんだけど」

「うん。わかってるけどね…。一応、練習試合だから…バスケ出来なくなったら困る」

「ああ」

伊月の言葉には、ハッと我に返る。

(あ…そうだよねバスケだよ。そして他校だよ…やっちゃったよ)

背中に冷たい汗がタラリと落ちる。

「取りあえず…ゴメン」

「俺は問題無いけど…問題はアチラさんかな

「ははは。そうだよね…えっと…」

乾いた笑いを浮かべつつ、は黄瀬を取りあえずスルーして、海常の主将に目を向ける。

(何となくあの顧問は無理だ…確か主将の笠松さんは誠実そうだし…取りあえず謝ろう)

「えっと色々スイマセン」

そう口にしては凄い勢いで頭を下げた。

「部外者が口出ししていい問題じゃ無かったのに申し訳無いです」

たたみかけるようにはそう謝罪の言葉を口にした。

謝られた笠松は、そんなに慌てて声をかける。

「えっと…分かった。だから取りあえず頭を上げてくれ」

そう言われたは、ゆっくりと頭を上げた。

「正直俺もアンタの言うとおりだと思う。誰も言わなかったらきっと俺が言っていた事だから気に病む必要はねぇよ」

「でもケジメです」

「そうか」

ハッキリと言い切るに笠松はそう返す。

その笠松の態度に、は(本当にいい主将なのに何故あの子はあんなに残念なんだろう?)そう思わずにいられなかった。

故には無礼は承知で言葉を続けた。

「無礼ついでに一つお尋ねして良いですか?」

「ん?何だ?」

「あの1年クソ坊主…否…黄瀬君でしたか…上下関係理解してますか?」

「残念ながら微妙だな(今1年クソ坊主って言いかけたよな…)」

苦虫を潰した表情で笠松はそう返す。

その言葉を聞いたは、「そうですか…成程」そう呟いた後にすぐに言葉を紡いだ。

「そうだ先輩。一度ちゃーんとシメタ方が良いですよ。仔犬の躾も…鉄を鍛えるのも熱いうちにっていいますし」

ニッコリと笑っては、若干引き気味の笠松にそう告げた。

「ああ。分かった」

思わず笠松もそう頷く。
頷いた笠松には、思い出したように言葉を続けた。

「あ…そうだ。ハリセンの斬鉄剣です。よろしければ使ってください」

恭しくは笠松にハリセンを授与した。

思わず受け取った笠松は疑問を浮かべる。

(何でハリセン…しかも何故斬鉄剣?)

そんな疑問を浮かべる笠松には言葉を続ける。

「短時間根はありますが、笠松先輩はツッコミの際に肩パンや足蹴にしたりなさってるので…スポーツマンとして怪我したら困るじゃないっですか。かといって、棒とかだと問題になるだろうし…で、ハリセンで制裁すれば笠松先輩も無事、相手も無事だと思いまして」

「まぁ…そうだが…」

「ちなみに名前は古来より、物やモノに名をつければ力が宿ると信てましてその名残なので気にしないで下さい」

「そうか、取りあえず貰っておく」

の言葉を信じた信じないかは不明であるが笠松はそう言って会話を終わらせた。
内心笠松は…。

(女子と話すの苦手の筈なんだが…全然女子って感じしねぇな〜。お陰で会話が成立してんだけどよ…つーか変わったやつだから大丈夫なのか?言ってることは最もなのに…行動と言動がチグハグな女子だぜ)

などとこっそり思っていたりするのである。

(ゴメンよ伊月君…もしかしたら、私は寝てる子を起こしてしまったかもしれない…けど…腑抜けの黄瀬君を見て黒子君が喜ぶとは思わなかったんだ)

は心の中でこっそりと思いながら、

もそれ以上突っ込むことなく、ベンチの後ろに横たわる黒子の方へ足を向けた。


短いインターバルに何気にかなりあくの強く濃厚な時間が過ぎた誠凛並びに海常両者。
は、勿論誠凛側にも騒がせた件について詫びを入れ、部外者ではあるが軽い脳しんとうを起こしている黒子に付き添った。

(影の薄さが仇となるか…。プレー中でこうなんだから、普通に生きていてもデンジャラスなのね黒子君。今度厄除けのお守りでも買ってあげようかな?)

チラリと目を黒子に向けてはそう思う。

(それにしても…本当に強い。全体のバランスは勿論…黄瀬君は別格としても…司令塔が機能してるからこその強さ。まぁ…伊月君のPGも悪くないし…皆頑張ってるけど…そもそもの経験値とスペックの差…個人競技じゃ無いだけに顕著に出る)

海常と誠凛を交互に見てはしみじみ思う。

そして、監督である相田を見た後に更に思う。

(まぁ経験値に才能はどうにもならないけど…誰一人として試合を諦めて居ない姿勢は凄い)

黒子を抜けた穴を元々の2年メンバーで補い、試合を諦めない姿勢には感嘆のため息を漏らす。

そんな時。

「ナイスじゃナイスか!」

聞きなれた伊月のダジャレが耳に入ったは、ズルリと滑る。

(おいおい、伊月君…真剣な試合中…まぁ通常運転って事はまだ頑張れるって事って考えた方が前向きなのかしら?)

伊月の何時もの様子にはなるべく前向きな思考を向けようとしていたら、主将の日向がすかさず辛口のツッコミを入れる。

(何時も以上に厳しいツッコミ…そう言えばリコさんが日向君がクラッチタイムに入るとガラ悪くなるって言ってたっけ)

自分の事を棚に上げながら、は伊月と日向のやり取りを見て少し心配になるが…伊月のまったく気にした様子の無い雰囲気には気の所為だったのかと思いなおす。

(きっと…いつもこんな感じなんだろうね…火神君以外あまり気にしていない所を見ると)

コート上でプレーしている誠凛のメンバーを見ながらは感じる。

(確かに…ダジャレ抜きで精一杯プレーをしている伊月君はキラキラしてる…元々イケメンだけど磨きがかかるね)

伊月のPGぶりを見ながら感心する

(に…してもだ…黒子君の友達はやる気スイッチ入ると違うわ…と言っても完全にじゃないだろうけどね…)

そして、先程ハリセンで叩いた黄瀬を見てはそう思った。

にハリセンで叩かれた黄瀬は、その後恐らく手は抜いていない状態で誠凛と戦っていた。

(これで完全に本気でてたらと思うとゾッとするわ。ん〜やっぱりネガティブ状態のままの方が良かったのかしらね?)

黄瀬から目を離し、は黒子を見ながらそう思ったのである。


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2013.1.10. From:Koumi Sunohara

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