色々な意味のデビュー戦(2)  



-----日は変わり、海常と誠凛の練習試合当日。

は伊月から、黒子と今日の対戦相手海常の黄瀬の話を聞いていた。

正直その話を聞いたは盛大に眉を寄せた。

(チームメイト兼友人でも依存しすぎじゃない?凄く仲の良い女子生徒が別の高校行っちゃったぐらいの雰囲気なんですけど…)

伊月から与えられる情報で浮かんだのはそんな思い。

(モデルって社交性の塊だと思ってたんだけど…何だろう黄瀬君て友人少ないのかしら?黒子君への執着半端ないし…腐女子ならBLフラグ立ったって騒ぎそうな感じ?これは黒子君大変だわ)

が可愛がっている無口で本好きの後輩を思い出しながら、しみじみと感じる。

(何て言うのかな?黒子君と所為反対って感じだしね…まぁ…中学時代の後輩なら上手く付き合って行けそうだけど…モデルの友人か…よし、今度マジバのバニラシェイクの無料券でも黒子君にあげるか)

きっと気苦労の絶えないであろう黒子を思いながら、は誠凛バスケ部の待つ集合場所に足を向けた。

すでに、2年生はそろっており1年も火神以外は揃っている。と…言ってもまだ時間では無いので遅刻ではないのだが。

は辺りを見渡し、伊月を見つけると声をかけた。

「やっほ〜伊月君。いよいよだね」

「そうだな〜いよいよだ」

「緊張してる?」

「まぁそれなりに。でも、俺らは何時でも挑戦者だからあまり気負って無いかな」

穏やかな口調でそう告げる伊月にも穏やかに笑った。

「そうだね。出稽古みたいなもんだし、胸をかりるつもりっていうのは大事だよね。そうそう、今日の差し入れは…ベタだけどレモンの砂糖漬けにしたよ」

「有難う。材料費とか必要だったら言ってよ、俺会計だしカントクからおOK出てるからさ」

「うん。大変になったら言うよ」

「そう?ちゃんと言ってくれよ」


集合して、向かうは海常。誠凛メンバーは本日の練習相手の校門に着いた。

誠凛は新設校という事もあり、真新しいが、海常は学校自体が広く運動施設も充実した印象が見受けられる。

「おお〜広〜、やっぱ運動部に力いれてるトコは違うねー」

おもわず、日向がそんな言葉を洩らしながら一同は、校内に足を踏み入れた。

は伊月の横につきながら、他校の様子と後輩…バスケ部の面々を眺める。

彼女の視界には、目を真っ赤にした火神とそれについて、ツッコミを入れている黒子の姿が入る。

(興奮して寝れないってどれだけ楽しみにしてたのよ…本当に火神君は見た目とのギャップあり過ぎだ)

後輩の意外な一面を垣間見たは、少し笑いを洩らす。

どうした?」

「ん?火神君のギャップにうけたと言うか…微笑ましいというかってね」

「遠足前の小学生みたいって?」

「うん。何て言うのかな…見た目肉食動物なのに…行動が小動物でね…。まぁ、楽しみで興奮するのは分かるんだけど」

「確かにギャップ凄すぎるな…見た目に反して結構いい後輩だし」

そうやって話をしながら歩いていると…不意に声をかけられる。

「どもっス、今日は皆さんよろしくっス」

「黄瀬…」

「広いんでお迎えにあがりました」

爽やかさと軽さを合わせた口調で、黄瀬はそう誠凛メンバーに声をかけた。そうかと思ったら、黄瀬は目敏く黒子を見つけるとすぐに駆けより声をかけた。

「黒子っち〜、あんなアッサリフるから…毎晩枕を濡らしてんスよも〜…女の子にもフラれたことないんスよ〜?」

通常の乙女であればクラリという甘い声音でそんな言葉を口にする黄瀬。

(あ…ここにも残念なイケメンが居る…しかも伊月君より重篤な…)

は黄瀬の様子を見て、心底そう思った。ぼんやりとそう感じているを余所に、慣れているのか黒子は黄瀬に切り返す。

「…サラッとイヤミ言うのやめてもらえますか?」

しかし、黄瀬はその黒子の言葉をスルーして火神に声をかける。その内容は挑発の一言に尽きる。

は隣の伊月にそっと小声で耳打ちした。

「ねぇ伊月君…火神君とあの金髪残念イケメン君と何かあったの?」

「金髪残念イケメン?ああ、黄瀬ね…この間の黄瀬襲来の話ししただろ?その時に火神が挑発して黄瀬と対戦してさ、んで負けたわけ」

「成程…火神君にしてみれば好敵手でリベンジの相手って事ね。うん、少年漫画の王道だね青春してるわ」

「少年漫画か〜すんげー的得てるじゃん」

と伊月の会話に小金井が乱入してそう言った。黄瀬の後ろに着いている、1年生Sとたちは何だか可笑しい気分になって思わず笑った。

若干緊張感にかけながら、誠凛メンバーは黄瀬に案内され体育館に辿り着く。

(ん?…バスケって普通全面でやるよね?)

体育館を見たは思わず疑問符を浮かべる。それについては、誠凛メンバーも同様だったようで、相田が思わず言葉を洩らす。

「もう片面は練習中…?」

「ああ来たか、ヨロシク。今日はこっちだけでやってもらえるかな」

運動部の顧問にしてはやけに丸い体格の監督と思わしき人物がそう言った。相田は目に見て分かるほど顔を顰めた。

(あっ…リコさん滅茶苦茶不機嫌だ…まぁ気持ちは分かるわ)

完全に舐められているのが明らかな状態で、それでも相田は念の為に言葉を紡いだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします。で…、あの…これは…?」

「見たままだよ、今日の試合ウチは軽い調整のつもりだが…出さない部員に見学させるには、学ぶものがなさすぎてね、無駄をなくすため、他の部員達には普段通り練習してもらってるよ。だが調整とは言っても、ウチのレギュラーのだトリプルスコアなどにならない様に頼むよ」

ハッキリと言った挙句、準備をしようとした黄瀬に対して黄瀬を出したら試合にならないから出さないとそうのたまった海常監督。

そんな監督に黄瀬は慌てた様な雰囲気で何か話していた。

不意に黄瀬は誠凛側を見ると慌てたように急いで走ってくる。一瞬申し訳ない表情をしながら、黄瀬は言葉を紡いだ。

「大丈夫、ベンチにはオレ入ってるから!あの人ギャフンと言わせてくれれば、多分俺出してもらえるし!俺がワガママ言ってもいいスけど…オレを引きずり出すこともできないようじゃ…キセキの世代倒すとか言う資格ないしね」

黄瀬は、不適に笑ってそう言った。不適に笑うその様も、モデルだけあってやけに決まっている。

は誠凛バスケ部メンバーの後ろでそのやり取りを見ていた。

(無名高校の扱いは想像していたけど…ここまで言われちゃうんだ…流石に良い気分しないわ)

そう心底そう思いながら、は隣に居る伊月を見やる。
あまり怒りと言う表情を見せない伊月の眉間に深い皺が日本刻まれているのが分かる。

(まぁ…おっぴらには言え無いよね敵陣じゃ…)

伊月が耐えているのに自分が言える立場じゃないとは思い押し黙る。他の誠凛メンバーも良い気分はしていないだろうけれどグッと堪えているのが目に入る。

が…そうじゃ無い者も居る。火神、黒子、監督の相田である。火神、相田は言わずもながだが、黒子も珍しく感情的だった。

(火神君とリコさんは分かるけど…黒子君か…。伊月君タイプかな?と思ってたけど、討ちに秘めたるなんたやらか…蒼白炎みたいに静かな熱さがあるんだね〜)

ぼんやりと物思いにふけていたに伊月は声をかけた。

…」

「ん?何伊月君」

「折角来てくれたのに悪い。気分悪くしたんじゃない?」

すまなそうに伊月は言うが、は首を横に振った。

「腹は立つけど元々アウェーでしょ。歓迎される方が少ないじゃなよ。それに、一番ムカついてるのは私じゃない…伊月君やリコさん…黒子君達誠凛バスケ部の皆でしょ?」



「それに、伊月君だって言われっぱなしじゃないでしょ?」

ニッと笑ってそう伊月に言えば、伊月は肩をすくめる。

「まったく、には敵わないなぁ〜。勿論、全力で頑張るさ…バスケもダジャレも!」

キリっとカッコ良く決めるがいかんせん、最後の一言が余計である。

(うん。揺ぎ無いね…伊月君。そこは、バスケだけ言っていれば凄く決まったのに…でも、これが伊月君だよね…元祖残念なイケメン)

「うん。楽しみにしてる。で…私部外者だから、上の方で」

言いかけた言葉に、相田が言葉をかぶせてくる。

「部外者じゃないわよ」

「へ?」

「部外者じゃないわ。さんは我が誠凛バスケ部の特別顧問…もしくは外部顧問的存在よ!ベンチに座って見てれば良いのよ!!」

先程の怒りのままのテンションで相田はそうのたまった。

「リ…リコさん。自棄になって」

「自棄になって無い!本当はしっかり外堀を埋めてから言うつもりだったけど…もう決めたは、決定なのよ!」

「い…伊月君…」

は伊月に助けを求めようとするが、伊月は静かに首を横に振った。

(オーノー!!何か、これ…この間の試食会のリターンズ?デジャブ?…やっぱり早まったわ…)

「えっと…、色々ゴメン」

「まぁ…伊月君の所為じゃなしね…私も迂闊だったし仕方が無いよ」

乾いた笑いを浮かべては言う。

「でも…制服でも無いのに浮くよね」

は自分の格好を見ながら言う。実は彼女は夕方のマジバでのバイトのシフトが有る為、私服で観戦に来ていたりするのである。

「そっか…今日は夕方からバイトだって言ってたよな…んー。あ…良ければこれ着たらいいよ」

伊月はそう言うと自分の着ていたジャージの上着を脱ぐとに渡す。

「洗濯してるし、汗臭くないから大丈夫だと思うけど…これで勘弁して」

「有難う。伊月君のジャージ借りるね」

丸く収まったという雰囲気で、伊月とは和やかムードである。

そんな中…。

「彼ジャーなんてやるはね伊月君」

親指をグッと立てて相田はそう言う。

(そもそも、彼氏じゃないから彼ジャーの定義には填らないんだけど…。まぁ…今言っても無駄だし、そもそも…おちゃらけてる場合じゃ無いはずなんだけどなぁ〜)

弾ける相田にはそんな風に思いながら、抵抗をやめ…伊月のジャージを羽織る。

(うんやっぱり、男の子だ…線細そうなのにジャージでかいな…)

はそんな事を思いながら、海常で用意してくれている誠凛ベンチへ誠凛メンバーと共に向かったのであった。


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2012.12.27.From:Koumi Sunohara

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