色々な意味のデビュー戦(1)
怒涛の試食会から幾日たったある日の誠凛高校。
は相変わらず、図書委員の仕事とバイト…そして、伊月との何気ないやりとりと学校生活というサイクルで日々を過ごしていた。
時折、伊月の所属するバスケ部との関わりがあったりするのだが、ソレはまぁの日常の一部と言っても過言では無いほど、彼女はすっかり慣れてきていた…2年に上がってさほど時間がたっていないのにである。
の順応状況はさて置き、今日もは普通に学校生活を終えてバイトに励もうとカバン方手に、下駄箱に向かおうとしていた所であった。
擬音としては、ルンルンと言う実際には聞こえないだろう音を鳴らしながら、スキップでやってきたバスケ部監督相田リコに呼び止められた。
「さん♪」
満面の笑顔でに声をかけた相田とは対照的に、声をかけられたの顔色はあまりよろしい物ではなかった。
「リコさん…どうしたのかな?」
聞きたくない気持ち全開には相田にそう尋ねた。
「バイト前の忙しい所ゴメンね」
「ああ。うん…まぁバイトだね」
「あのね。今度海常高校と練習試合組む事になったんだ」
ニコニコと良い笑顔で、バスケ部と無縁のにそんな事を申告してくる相田には疑問符を浮かべた。
(ん?何で私に言うんだろう?今日部活あるって伊月君言ってたし…伝言って訳じゃないよね?)
様々な事が頭に駆け巡りながらは、相田の次の言葉を沈黙で待つ事にした。
「そ・れ・で。さんにも是非見に来てほしいと思ったんだけどどう?モデルの黄瀬君も観れるわよ」
さぁどうだ!と言わんばかりの、どや顔で相田はにそう言った。
は、微妙な顔で相田を見た。
「え?別に黄瀬君のファンじゃ無いからメリット無いんだけど」
「メリット無いって…えええええ」
「うん。別にファンじゃ無いし…交通費かけてまでわざわざモデル見に行く理由が無いかな」
少し考えた後に、ハッキリと告げるに相田は少し固まった。
(多分…差し入れとか…何か手伝いとかさせる為の餌だったのかな?)
固まる相田に、はそう予想すると溜息一つ吐いて言葉を紡いだ。
「リコさん。黄瀬君じゃ餌にならないよ…」
「うーん。餌にならないか。バスケ界では有名人で、キセキの世代って呼ばれるほど凄いし…イケメンなんだけど。駄目?」
「確かにイケメンだけどね…タイプじゃ無いし…そういうリコさんだって黄瀬君好き?」
がそう尋ねると、相田は微妙な顔をした。
「選手としては使ってみたいという欲求はあるけど…パス」
「でしょ。観賞用は写真とか雑誌で十分」
そう言いきるに、相田は残念そうな表情を作った。
「残念だなぁ〜。キセキの世代とやるのは勿論だけど、さんの差し入れ有ったらモチベーション絶対上がるのに。あれよね〜鼻先の人参みたいな」
「はははは」
ハッキリと本音を告げる相田には乾いた笑いを浮かべた。
(やぱり…メインはそっちなのね)
心の中でそう思う。
「まぁ…黄瀬君は兎も角だけど、正直差し入れ云々関係無く観に来て欲しいのは本当よ。伊月君のプレーを観て欲しいし、さんが可愛がってる、黒子君と火神君のデビュー戦だから」
先程までのおどけた表情を引込めた相田は、静かにそう口にした。
(まぁ…確かに黄瀬君は兎も角だよね…黒子君と火神君のデビュー戦か…伊月君の試合も観てみたのは観てみたい…うーん)
腕を組み、思案に耽りながらは心を決めた。
(絶対に何かしら巻き込まれるけど…まぁ…仕方が無いかね)
軽く閉じた目を開けて、は返答を口にした。
「今回だけ…釣られてあげましょう。でも、黄瀬君じゃないよ。伊月君の試合も観てみたかったし…何せ、黒子君と火神君の初お披露目でしょ…まぁ可愛い後輩の晴れ舞台だからてことで」
ニッと笑ってそう口にすると、相田はの手をひしっと掴んだ。
「有難うさん。これで俄然やる気が出てくるわ」
喜び全開の笑顔で相田はそうに返す。
の手をブンブンと揺らしながら嬉しそうにする、相田には生温かい目で見つめた。
(本当に嬉しそう…まぁ…何だっけ、凄い強豪校と練習試合組むのって無名の誠凛にしたら大変だもんね)
しみじみとそんな事を思いながら、は嬉しそうな相田を見る。
(リコさんでこんなに嬉しそうなら、伊月君や黒子君はさぞ嬉しいんだろうね)
喜ぶ相田越しに、伊月と後輩たちを思い浮かべながらはそんな事を考えていた。
-----相田リコによる突然の差し入れ要請のあった次の日。
は何時もの様に自席ついた。
(んー1日経ったけど…やっぱり早まったかな?)
昨日のやり取りを思い返しながらはちょっぴり後悔していた。
相田との会話だけだとさして気にしていなかったのだが、バイト先のマジバに常連となっている黒子と火神が何時ものメニューを頼んでいたが、黒子の様子が微妙だったからである。
(火神君は楽しそうだったけど…黒子君が微妙だったんだよね〜)
ん〜と唸りながら、思考を巡らせる。
そんなに…。
「おはよう」
何時もより若干気落ち気味なトーンで伊月がに朝の挨拶をする。
「あっ。伊月君オハヨウ。何か元気無いけどどうしたの?」
「ん?そう見える?」
「うん、見える」
伊月の言葉にはそう答えた。間髪いれずに返されるの言葉に伊月は肩をすくめた。
「には多分すぐ変化気づかれるとは思ってたけど…もしかして凄くあからさまだった?」
「あからさまって程では無いけど…何となくかな。それに、昨日リコさんがやけに上機嫌だったから…伊月君達にまた何か厄災が降りかかったのかな?って」
うーんと唸りながらそうが呟けば、伊月は成程と相槌を打った。
「そっか…も巻き込まれたんだね…。じゃあ知ってると思うけど、今度海常高校と練習試合することになったんだ」
相田と同じ言葉である筈なのには伊月の言葉で何かを悟った。
(リコさんは、ご機嫌だったけど…部員は地獄の練習ってわけか…だから元気ないのね)
伊月の言葉を聞きながら、は自分の予想を口にした。
「凄い学校とやるから…練習が地獄化してるってことだね」
「うん、当たり。本当に地獄だよ…キセキの世代とやるからまぁ…その為には仕方がないけど…でもシンドい…あ」
「何?伊月君大丈夫?」
「…過労ではなかろうか? コレキタよマジで」
閃いたと満面の表情でそうダジャレを披露する伊月には思う。
(うん。ダジャレ言えてるからまだ元気だね伊月君、部活でこってり絞られてくださいな)
は伊月に生温かい目で見た。
「と言うより私は伊月君のダジャレの披露で疲労するわ」
ため息交じりにこぼれる言葉に、伊月がまたもや反応する。
「やるじゃん。今の頂き」
「へ?何が?」
「ダジャレの披露で疲労するってヤツ。うん、早速ネタ帳に記入しよう」
伊月の発言には思わず頭を抱えた。
(ポロリとダジャレとかって…ダジャレって伝染するの?)
は楽しそうな伊月を見ながら、自分の口から零れたダジャレに頭を痛めたのである。
-----その日の誠凛バスケ部練習時間。
ちなみに伊月はネタ帳の中身が増えた事に喜びながらも、バスケの練習でこってり絞られながらも頑張って、監督の扱きに堪えていた。
ほかの部員も通常よりもキツイ練習にゲンナリしながらも海常の練習試合に向けて頑張った。
この過酷の練習の際に、監督相田リコは高らかに宣言したのは、部員の記憶に新しい。
それは…。
「よーく聞きなさい。海常の練習試合にさんが差し入れしてくれるわよ」
腰に手をあてて相田はそう宣言する。グッタリとゾンビ状態になっていた部員の耳がピクリと動く。
「「先輩の差し入れ?」」
1年生が声を揃えてそう尋ねる。
(ふふふ。やっぱり効果てき面ね。この間の試食会が効いてるわ)
1年生の食い付きに、相田は満面の笑顔を向ける。
「そっ。ちゃーんと、見に来てくれるし、差し入れもしてくれるってOKもらってるわ。ねぇ伊月君」
「ん?ああ。うん、そう言ってたよ嘘じゃ無い」
相田の言葉に伊月は肯定の言葉を紡ぐ。
「でも先輩マジバのバイトじゃ」
伊月の言葉に黒子がそう口にすると、伊月はすぐに言葉を返す。
「バイトは夕方からだから大丈夫だって。それに、黒子や火神の初試合だから見に行くってさ。頑張らなきゃだな二人とも」
優しい笑顔でそう口にする伊月に、相田を始め一同の心はリンクした。
((いくら友人以上恋人未満でも…後輩の初試合より、自分の勇姿を見に行くって開口一番に言われていない事まったく気にしてないこの人))
そう思う面々。
「先輩がそんな事を…あっ」
「どうした黒子?」
「でも、きっと先輩は伊月先輩の試合する姿を見るのを楽しみにしてますよ」
読みにく表情を少し柔らかくしてして黒子は伊月にそう言った。
「そうよ伊月君。だって、さん?伊月君の試合も観てみたかったし…何せ、黒子君と火神君の初お披露目でしょ…まぁ可愛い後輩の晴れ舞台だからてことで”言ってたもの」
相田もそうフォローを入れる。
(何か皆凄く必死に言ってるけど…どうしたんだろう?)
しかし伊月自身別に、ショックを受けている訳ではないので、頭に若干の疑問符を付けつつ、気づかわれているので何と無く合わせる事にした。
「うん。そうだな。俺も楽しみだよ」
「「そう、そう」」
「そう言えば、黒子」
「はい」
「黄瀬と友達なんだろ?」
「友達…まぁ…チームメイトって感じですが…友達と言えば友達ですかね」
伊月の問いかけに、黒子はサラリとそんな発言をする。
「おいおい。黒子〜、黄瀬滅茶苦茶、黒子にご執心だったジャン。なぁ水戸部」
かなりドライな黄瀬への対応に小金井がそう口にし水戸部が頷いた。
「えっと…友人ですかね?」
先輩にそう言われて黒子はそう言葉を言いなおした。
「すんげー微妙。つーか伊月、何でまたそんな事聞くんだよ」
「えっと…?友達なら差し入れ友達の分も必要かな?どう思う?”ってが言っていたからね、じゃぁ黒子に聞いてみるって事になったんだ」
「ああ成程ね。らしいね」
伊月の言葉に小金井がそう返すと、相田が少し顔を顰めた。
「んーでも。この間の黒子君下さい発言…さんの耳に入ったらえらい事になりそうよね」
「「た…確かに」」
「でも、教えたらそれはそれで面白いかもね♪」
相田は手をパンと合わせて不敵に笑った。
「いや…カントクそれマジで危険だから」
主将の日向が相田を窘めると、伊月は少しギクリとした。
「伊月先輩どうしたんだ…ですか?」
相変わらずの残念な敬語で火神は伊月に声をかける。
伊月は頬を少し掻きながら…少しばつ悪そうに言葉を紡ぐ。
「?黒子っち下さい”発言をそのまんま伝えてないけど…同中の元仲間が寂しくて黒子を勧誘してたって感じでは話したんだ…で…それも踏まえて友人か否か知りたいみたいだなはね。まぁ…あまりご機嫌とは言えないけど…実際見てからじゃないかなにしたら」
「まぁ〜そうよね〜。で…黒子君、実際黄瀬君は友人?」
「友人ですかね…親友ではありませんけど」
「OK。伊月君、さんには親友じゃ無いけど友人だって伝えて頂戴」
この話はこれで終わりと言いたげに、相田はそう言うと話をそこで終わらせた。伊月はそれに了承して、自分の練習に戻ろうとした時に、不意に黒子に声をかけられる。
「伊月先輩」
「何だ黒子?」
「先輩には、伝言お願いできますか?」
「ああ良いぞ」
「では…僕は誠凛の黒子です。先輩の後輩で、誠凛のバスケ部です他所の子になる気は無いとお伝え頂けますか?」
真っすぐ目を逸らさずに紡ぐ黒子の言葉に、伊月はふんわり笑うとに伝える事を了承したのだった。
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2012.12.25. From:Koumi Sunohara