先輩の彼女3(Said:降旗)
バスケ部の伊月先輩と図書委員長の先輩がつき合っているらしいという噂を聞いた事が有る。
同じく図書委員の黒子が真偽を尋ねたところつき合ってはいないと回答が有ったと言っていた。
俺も、先輩に聞いたら…。
「友人以上恋人未満かな?」
と少し困った顔でそう言った。
その後…。
「何で恋人の括りに周りは拘るのかしらね?まぁ仲は良いとは思うけど」
そう言葉を続けて話を締めた。
先輩と伊月先輩。
どちらが先に出会ったのかというと、委員会での先輩が先だと思う。
黙って居れば物静かな文学少女という雰囲気を持つ先輩は、見た目同様本が好きだから、図書委員に所属していると、顔合わせの委員会の日にそう自己紹介をしてくれた。
俺としては、別に本は嫌いじゃないし…中々決まらなかった委員会に、手を上げた口だから純粋に本が好きという先輩や黒子のような動機は無かった。
けれども先輩は、委員会はそんなものだと笑って言ってくれた。
割と話しやすい委員会の委員長の先輩に、俺は部活に入る予定である旨を話した。
図書当番の兼ね合いもあると思ったからだ。
俺の言葉を聞いた先輩は、すこし考えるしぐさをした後に言葉を紡いだ。
「同好会もあるけど…バスケ部か…」
「え?駄目ですか?」
「駄目では無いけどね。誠凛のバスケ部は結構スパルタだよ。そんじょそこらの運動部と違う熱量があるしね。ああ…あれだよ降旗君」
「何ですか?」
オズオズ返事をする俺に、先輩はニッと笑ってから言葉を紡いだ。
「下手に手を出すと火傷するぜ…みたいな感じだね。まあ…若人は色々挫折して強くなるもんだから…聞くよりも実物を観ておいで。愚痴ぐらいなら先輩が聞いてあげるよ」
「はい…有難うございます」
俺はこの時先輩にそんな言葉を返して、サラッと流したように思う。
この時ちゃっと俺は先輩の話を聞いていたなら、今後の高校生生活は違う時間を流れる事になったかもしれない…。
まぁ今はソレの事では無い先輩達の事である。
先輩曰く、伊月先輩とは友人以上恋人未満だと言っていた。
けれど、俺達と言うか第三者から見ると恋人同士以外の何物でもないと言えるほど、自然体に仲の良い理想のカップルに見える。
容姿が良くて冷静でダジャレがなければ、最良物件の伊月先輩と文学少女ではあるが1本芯が通っている話すと明るく気さくで頼りになる先輩。
どちらも俺にとって大切な先輩で、そんな先輩が付き合っているのなら凄くお似合いで、理想的で俺も恋人が出来たらそういう風になりたいとさえ思う。
けれど、現実は友人以上の恋人未満。
(あれだけ自然に仲の良い雰囲気を出しているのに付き合っていないなんて不思議だ)
そう思うけど、そう言えば主将とカントクも似たようなものだけど付き合っていないって言うし、本人達が納得してるなら部外者の俺がとやかく言う問題でも無いんだけど…やっぱり気になる。
勝手な偏見というか、妄想とか夢だとか言われそうだけど…好きな子が側に居る方が力が出る気がするし、頑張れると思う訳で…伊月先輩はどう感じてるんだろう?
前に先輩がフラリと来た時は嬉しそうだったけど、マネージャーになって欲しいとか思わないのかな?
そう思っても、俺は伊月先輩には尋ねる事が出来なかった。
別に伊月先輩と話しにくいとか、そういう事は無く…バスケ部の先輩方は基本的に気さくで優しくていい先輩だ。
そして、バスケに対する姿勢はすごく真剣で、俺みたいに好きな子に何かに一番になったら付き合うっていう不純な動機ではじめたのと訳が違うから、余計に尋ねにくいと勝手に感じている。きっと伊月先輩は普通に答えてくれるだろうけど…。
それに比べて先輩は、不思議と何気ない事も…どうええも良いくだらないことも…話せてしまうし、尋ねられる雰囲気を持っている人だった。
例えば、昼飯をパンにするかオニギリにするか?というかなりどうでもい相談にも、先輩は真剣に応えてくれる。
初めて出会った時の印象と、バスケ部に入る前に何気ない相談にも普通に付き合ってくれている先輩の方が色々相談できるのかもしれない。
だから、するりと俺は先輩に質問した。
「伊月先輩と恋人じゃないのは分かりましたけど。もしもですけど、好きな人の部活のマネージャーになって彼氏を支えるのって先輩的にどうっですか?」
「んー。好きな人と同じ部活は正直入らないよ。程良い距離が良いと思うしね」
「えええ。何でですか。きっと…もし彼氏だったら彼女いたらテンション上がると思うんですけど」
「どうかな?私が男だったら…彼女にはマネージャーをして欲しく無い。だってマネージャーは皆に平等じゃないといけないでしょ。自分の好きな子が他の人に認められるのは嬉しいけど、それってライバルが増えると思うしね…自分以外に親身になってるのを見るのは正直シンドイじゃないかな?それなら、ある程度お互いの自由がある関係の方が良い。まぁ恋人同士が納得してるなら、マネージャだろうがなんだろうが良いと思うけどね。どうだろう降旗君」
「先輩って見た目に反して男前ですよね。黒子もだけど」
「ん?そうかな?まぁ黒子君はそうだね男前だね」
俺の言葉に先輩は、たいして気にした風もなくそうのたまった。
(そんな風にドライな所も男前なんだけど…)
何てそんな事を思っていると、先輩は思いだしたように言葉を紡いだ。
「まぁ降旗君の言う言い分も分かるよ。そりゃーそんな恋する乙女思考に陥った事もあるけど、割りと女の子はリアリストでね。夢や理想は大きく持つけど、現実はかなりシビアなもんだよ。だって、マネージャーとかしてて別れたり、フラれたらかなり気まずいでしょ」
少し苦笑気味にそうくちにした。
「確かにそうかもしれないですけど…そうですかねぇ?」
「そうだな。よくドラマとかでもあるでしょ。会社での恋愛で結婚決まってたのに同じ会社の子に取られて結婚はオジャン。寿退社を予定していたから、結婚予定していた子は会社に物凄く居ずらいって奴…完全に気まずいでしょ」
「それは確かに気まずいです」
先輩の例えに俺は即座にそう思った。
「まぁ不吉なこともそうだけど。私は同じものを観ることも良いかもしれないけど、外側からだから分かることもあると思う。相手の気づかないところを気がつくのも良い恋人の関係じゃないかな?これは友人とか交友関係にも言えると思うけど…言うなれば人それぞれって事かな。降旗君にもその内分かる日が来るんじゃないかな」
そう言って先輩はそれ以上の話をしないと決めたのか、その話題には触れる事が無かった。
正直俺には先輩の考えがすべて理解できた訳では無いし、何故あんなに仲が良いのに恋人同士じゃないのかも良く分からないけど…。
お互いがお互いで満足しあっている関係であれば、呼び名に拘らなくても良いのかな?と思う事が出来た気がする。
本音を言うと、早く恋人同士になってくれれば凄くすっきりとするのにと思わずにはいられないけど。
尊敬する先輩と側に居てホッとする先輩がソレでいいと言うのならそれでいいのかな?と俺はそう思う事にしたのである。
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2012.12.2.(WEB拍手掲載:2012.11.4.) From:koumi Sunohara