俳句に託せし、想い謌(2)
次の日。
一馬は、英士に言われた事を、実行するか否か悩んでいた。
(どうするかな〜…本当にどうするか…)
その為、自然と顔が険しくなる。
普段からあまり、目つきが良い方じゃない一馬だか、当社比1.5ぐらい不機嫌そうな顔をしている。
無論本人は、気づくはずもないのだが。
クラスの人間も、一馬のピリピリムードに居心地が悪そうだ。
そもそも、一馬か悩んでいる原因というのは…。
昨日の英士の作戦であった。
((回想))
「一馬、そんなに さんの無実(?)を証明したいんだったら」
「え…英士、なっ…何言ってんだよ!!」
一馬は、顔を赤くさせた。
「はははは、一馬真っ赤だよ♪
「結人…少し黙っててくれない」
もうすでに、疑問系じゃない英士の言葉に、結人は少し顔を歪めた。
「簡単な事だよ、 さんの、ノートとか、自筆で書かれた所有物を借りてくるだけだよ。簡単でしょ?」
それを見届けると、英士は言葉を繋げた。
「不躾に“コレ書いたのって、?”って聞けないでしょ、一馬わ」
その様子を結人は、複雑な様子で見る。
「『何で、そんな事するんだろう?』って、思ってるでしょ?」
英士は、固まった一馬にそう尋ねた。
コクリ。
頷く一馬。
「簡単に言うと、“筆跡”が知りたいんだよね」
英士がそう答えた。
少し言葉の意味を考えている一馬だが…英士が何を言わんとしているのか、分かったようだ。
「成る程…“筆跡”か…」
「良い案だろ?一馬は、書道するから、結構字に五月蠅いからね」
一馬の答えに満足そうに、英士は、返す。
この会話に、結人だけ取り残されていた。
(なっ…何だよ〜、俺だけ置いてきぼり?)
「あのさ〜、俺にも分かるように…説明してくれない?」
たまらず、結人が2人に尋ねた。
相変わらず英士は、苦笑を浮かべている。
「ああ、一馬に筆跡チェックさせようと思ってね」
疑問符を浮かべまくる結人。
「人ってさ、字書くときに癖がでるんだ…それを短冊の字と…照らし合わせて、調べるて事」
一馬が、説明をする。
その回答に満足そうに結人は、一馬を見た。
「感心してる場合じゃなよ結人…」
感心している結人に、英士が声をかける。
「結人には、その持ってきた物の香りのチェックしてもらうからね」
不敵に英士がそう言った。
2人は、((絶対英士…楽しんでやがる))と心の中で思った。
((回想終了))
ぼんやりと、昨日のやり取りを思い出し少しげんなりとした気持ちになる一馬。
(んで…どうしたらいいだろうか?…突然、物を借りるっていうのもな〜…)
授業中もおろか、休み時間中も一馬は、ひたすら悩んでいた。
その為、本日の授業ノートは全滅であるのは言うまでもないのだが…。
無情にも時間は、どんどん過ぎてゆき、あっというまに放課後になってしまった。
「はぁ〜」
(今日何にも、出来なかった)と思っていた為か?おもわず、大きな溜め息をもらす一馬。
そして、一馬はある重大なことに気がついた。
(あれ…?俺…ノートとってね〜)
考え事のためにノートが全滅であったことに、一馬は今気がっいたのである。
(どうすっるかな〜、この頃のテストとかって、ノートからの出題が多いんだよな〜こればかりは、英士に頼るわけにも…)
そこまで考えている一馬に、ある言葉が頭をよぎった。
「さんの、持ち物を借りてみなよ」
(!?そうだ、 にノート借りれば、良いじゃね〜か!!そしたら、英士達との約束も守れるしな!)
一石二鳥とばかりに、クラスの中をぐるりと見渡す一馬。
しかし、目当てのの姿は、どこにもなかった。
(居ね〜じゃね〜か…何処に行ったんだ?)
一馬は、とりあえず教室を出て、あてもなく歩いてみることにした。
気がつくと一馬は、昨日短冊を拾った廊下に来ていた。
(あれ…?ここって、昨日の…)
ここは、図書室へ向かう廊下で、窓からは陸上部の練習が良く見える。
(へ〜っ、陸上部の練習が見えるんだな〜)
一馬にとって、この様なささいな発見が新鮮で仕方がないようだ。
普段、あまり学校に興味をもっていないせいもあるだろうが…。
だからだろう、周りに目を向けずに真剣に窓を見るのは…。
パタパタパタ。
忙しなく走る足音が聞こえた。
(何だよ…ウッサイな〜)
いぶかしそうに一馬は、音の方に、視線を巡らせた。
そこには…。
一馬が探していた、意外な人物がそこに居た。
(あれは…)
「…?」
心の中で言ったはずの声は、現実にもでてしまっていた。
それ程までに、の登場が意外でならなかったようだ。
「さ…真田君…」
は、驚いたように一馬を見た。
その の驚いた表情に、一馬は不思議そうに をみた。
(廊下なんだから、誰かに会うの分かると思うけど…そんなに驚くものなのか?)
「どうしたの、こんな所で会うなんて珍しいね…図書室に用でも?」
は、動揺を心に押し込めてごく普通に尋ねた。
「イヤ何となくココに来ただけだけど…」
一馬は、一旦言葉を切った。
「それより、 こそ何か捜し物でもしてたのか?忙しそうな足音してたけど…」
一馬の言葉に、 の顔に動揺の色がはしった。
「べ…別に、何でも無いから、気にしないで。…それより、真田君今日はこんな時間まで学校に居て平気なの?何時も急いで帰ってるでしょ」
一馬の問いをはぐらかすように、 は話題を変えた。
一馬は、戸惑いながらもその話に答えた。
「ああ…今日は、休みだからな。あっ…それより、 悪いんだけど…」
「何?」
「迷惑じゃなかったら、今日のノート貸してくれないか?」
ばつ悪そうに一馬は、に頼んだ。
「良いけど、珍しいわね、真田君何時もノート綺麗いにとってるのに」
は、不思議そう一馬を見る。
「別に…綺麗いにとってる訳じゃ…」
「クスクス…別に謙遜しなくても良いのに、字が綺麗なのは、書道コンクールで証明ずみじゃない」
柔らかく微笑んで、鞄からノートを取りだし渡す。
(原因、聞かないんだな…)
ノートを受け取りながら、一馬はふと思う。
「学業と趣味とかやりたいことの両立って、本当に大変なことだと、私は思うよ」
考えにふけっている一馬に、 はまっすぐみつめた。
「す…凄く何かない…。何時も、フオローされまくってんだぜ俺」
の真っすぐな視線に、一馬はばつ悪そうに答えた。
「やりたいことを力の限り出来るんだから…真田君は、幸せもの何だから!そんな、風に考えない!フオローされたりするのは、人なんだから当然でしょ?」
幼い子供に、話しかけるように、の口調は柔らかかった
その表情も、見たことがないくらい穏やかだった。
(…?)
の顔に見とれる一馬。
「あはは、何だか今日は、話過ぎたみたいね〜」
ちょっと は、おどけて笑う。
今日の の全てが、一馬にとって新鮮なものであった。
(って、ああゆう顔するんだな〜)
「あっ…そうだ!って、何か捜し物してたんじゃ無いのか?」
惚けていた一馬が、会話を始めの会話に戻した。
の顔が曇った。
「気にするなよ!の…ノートの礼をかえそうとだな…////」
顔を真っ赤にした一馬が に、申し出る。
しかし、は首を縦に振る気配はみられかった。
「だから、別に気を使わなくて良いんだぜ…」
「違うの…。違うよ真田君…。それに、探してる物…見つからなくても…」
「何で…探してるんだろ?」
「私の為には、見つからない方が良いものの気が、するからかな…どうせ、処分するつもりだったから…」
儚さと、暗い気持ちが入り混ざった表情を浮かべる。
「ノート何時でも良いからね」
そう言い残すと は、足早にその場をあとにした。
「そんな…そんなモンあんのかよ〜、普通は嬉しいものじゃね〜か」
一馬は、不思議な気持ちでいっぱいだった。
自宅に帰り、ノートをせっせと写す一馬。
のノートは、見やすいばかりか、要点がよくまとめられていた。
「よく、授業中にこれだけの内容、まとめられるよな〜」
写しながら、おもわず感心する一馬。
「おっと…いけね〜、サクサク書いてかね〜とな」
はっとして、一馬はノートに向かった。
チャンチャラチャララ、チャンチャン。
携帯が突然鳴り響く。
ちなみに着メロは、笑点のテーマである。
「あ?こんな忙しい日に、誰だよ〜」
面倒くさそうに、携帯のデイスプレイをのぞき込んだ。
「結人?…何の用だ?」
疑問に思いながらもとりあえず、電話に出てみる。
「やっほ〜一馬♪今日ちゃんと、上手くいった?」
出たとたん興味津々と、声にまで出てるような、結人の声が耳に入る。
「まーな、ノート借りれたから…成功なんじゃないかな…」
一馬は、今日の出来事を結人に話した。
「ふーん、そんな事があったんだ〜…。で一馬どうなの?」
「何が?」
一馬は間抜けた声で、結人に返す。
「だから、英士の言ってた“筆跡チェック”だよ!忘れてたの?」
少し苛ついた声音で、結人は一馬に言った。
「べ…別に忘れていた訳じゃね〜よ」
「どっちでも良いけどね。で、今ノートみた感想は?」
「少し似てるかな…ってところだ」
歯切れ悪そうに、答える一馬。
「少しね〜…で、一馬はどう思う?」
(まっ…聞かなくても想像つくけどさ…)
実際そうんな事を、思いつつ結人は尋ねてみる。
「違うじゃないかと、思う」
(やっぱりね〜)
案の定の答えに、結人は苦笑する。
「そうかな?ねぇ〜、それってさ…一馬が無意識に、考えないようにしてるんじゃない?」
溜め息混じりに、結人は一馬に告げる。
「え?何言ってんだよ、結人!」
「別に違うんだったら良いけどさ…。でも良くあるじゃん」
「はぁ?」
「何つーの例えばさ、ジャンケンで無意識的に、同じのばっかり出したりする奴いるじゃん!それと同じなんじゃないのかな?まっ…これは、英士の受け売りなんだけどさ」
言うだけ言って、結人はサッサと電話を切った。
『無意識に、考えないようにしている』
結人の言葉に、一馬の心は複雑だった。
事実…図星だと思う事が、あったからだ。
『そんなに、 さんじゃマズイの?』
英士が言った言葉を、一馬は思い出していた。
(まずくない…まずくなんかねぇ〜。確かに…頭の中じゃー、俺だって…だと思う…)
複雑な気持ちに捕らわれる一馬。
(けど…けどよ〜、何でか分かんね〜けど…違ってて欲しいって、思っちまうんだ)
『その人のイメージと書いたものが、何時も同じとは、限らないんだよ』
またも、英士の言葉だけが、一馬の頭によぎる。
(ああ、そうだよ…今日の 見たら、そうかもしんねーって思ったよ…)
冷静に、自分の考えと見つめ直している一馬。
(だったら、やっぱり確かめるしかね〜よな!何で、俺が がそんな俳句を書いた相手であって欲しくないのかも…)
一馬は、 に尋ねる決心をしたのであった。
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(初掲載:2001.6.11)改訂2010.7.20. From:Koumi Sunohara