俳句に託せし、想い謌(1)
―舞い散る桜の儚さは、私のようで物悲し―
一枚の短冊。そこに書かれていたのは、こんな俳句だった。
普通の俳句のように、書いた俳人の名がかかれているわけでわない、俳句。
少しミステリアスな雰囲気をかもしだす。
その短冊を拾った者が一人。
名を真田一馬という。
一馬は、その俳句の書かれた短冊を、廊下でたまたま拾った。
「珍しい物が、落ちてるな」
短冊なんて七夕ぐらいしか、見かけない為か一馬にとっては、もの珍しかったからだろうか?だから彼は、拾ったのかもしれない。
何気なく、短冊を裏返して持ち主の手がかりを探す一馬。
書かれてるのは、先の“俳句”。一馬は、俳句よりもその字体に興味を感じたのか、食い入るように短冊を見た。
「筆ペンか?…割りと綺麗な、字書く奴なんだ…筆ペンの割りには、綺麗に書いてるし」
滅多に他人を褒めない、一馬が独り言のように呟いた。
(ココの廊下に落ちてるってことは、同じ学年の奴だろうな〜(-_-))
短冊を片手に、おもい巡らせる一馬。
しかし、該当する人間は出てこない。首をかしげる。
(あっ…やべー!俺…サッカーにしか興味無いから、あんまし学校の事知らね〜(-_-;))
少し焦る一馬。
しばし、考えに考える一馬。
そこに、ふとあることに気がついた。
(“コレ”俳句だったよな。俳句て事は、最後に名前かくよな!)
意気揚々と一馬は、短冊を見る。が…先も言っただろうが、“この”俳句には、俳人の名前が書かれていないのだ。
一瞬にして、顔を曇らせる一馬。
(名前ぐらい、書いとけよ〜。つーか、困った)
拾った物を、放っておいておけるほど、一馬は悪人じゃないからよけい、彼は焦っていた。
(とうすっかな〜、捨てるわけには、いかないだろうし、落とし物届けにしたって、これじゃ〜な〜)
一馬は、手の中の短冊を見てため息をついた。
(取り敢えず、英士と結人に相談してみるか…)
困った時の神頼みならぬ、友頼み。
簡単な結論を導き出した一馬は、クラブチームに行くべく帰る準備をするのであった。
でも、一馬の頭の中は、拾った短冊で一杯なのである。
「さ…田…君」
呼ばれている事に、一瞬聞いていなかったが、もう一度呼ばれ気がつく一馬。
「真田君」
声の主の名は、。
一馬のクラスの副委員長。よく世話になる、数少ない者である。
「ああ、」
慌てて、一馬は返事をする。
流石に、学校に無頓着な一馬だか、日ごろ何かと世話になっている同じクラスの の事は知っていたようだ。
一馬の間の抜けた声に、 は一瞬顔をしかめたが、すぐに戻る。
「たいしたことじゃないから…真田君に時間は取らせないから安心して。提出物さえ、出してくれれば良いんだけど…今出せる?」
あくまで、淡々と事務的に言葉を紡ぐ 。
その言葉から感情を、読み取るのは、安易ではないといった感じである。
一馬は、鞄の中を“ゴソゴソ”を手探りで探している。
「ちょっと待ってな、今出すから」
ゴソゴソ。
プリントがノートか何かに挟まっているのか、なかなか出てこない。
「少し、落ち着いたら?」
思わず が、一馬に声をかける。
「マジで、今渡すから…ちょつと待った!」
少し焦る一馬。
(だから、落ち着けばって、言ってるのに…真田君、益々焦っている気がするけど)
は、内心そう呟いていた。
「おまたせ、あったぜ」
安堵の表情を見せながら、 に提出物のプリントを差し出す一馬。
「いえいえ、こちらこそ。急いでるのに、手間かけさせたわね…じゃ私は行くから」
一馬からプリントを受けとると は、さっさとその場を後にした。
ふわ〜。
が一馬の横をすり抜けた時、微弱てあったが…短冊と同じ香りが漂った。
(!?…短冊と同じ香り?って、まさかな)
短冊に目を見つめ、 の居なくなった後に目を移した。
疑念を抱きながら…。
(確かに、 の字は綺麗だけど、あんな悲しそうな俳句かかね〜、だろうしな)
胸にそんな思いを浮かべながらも真田はU-14の練習に足を急がせたのである。
所変わって、U−14の練習場。
一馬は、仲の良い郭英士、若菜結人に今日の出来事を話した。
「ふーん、今どき俳句なんて、珍しい〜古風だね」
話を聞いた結人の第一声が、それだった。英士は、しばらく黙っていた。
一馬の言った事を、考えているのだろう。
「で一馬…今、その短冊…持ってる?」
英士が突然一馬に向かって、呟いた。
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった、一馬は呆然とする。
「ああ、持っている…」
おずおずと、スポーッバックから短冊を取り出し、英士に渡した。
英士はじ〜っと短冊を見、思いついたように口を開いた。
「…一馬、これ…微かに香りが移ってるけど…心当たりある?」
英士の言葉に、一馬はサッパリと言った顔になった。
「英士〜、何言ってるんだよ〜。そんなの、関係あんの?」
呆れ顔で結人は、英士を見るのであった。
一馬の困惑は、さらに増した。
「まーま、それより、持ち主知りたいんでしょ?」
だったら、黙って聞け!
と言いたそうな目を二人に向け、しれっと英士が言った。
「「そんな事で、分かるのか?」」
驚きのあまり、二人の声は見事に、はまった。
そんな二人に、英士は苦笑した。
「…悪まで、俺の予想に過ぎないけどね」
二人に、期待の眼差しを向けられ、少し弱きの英士。
「英士〜もったいぶらないで、教えろよ〜」
結人が喜々として、尋ねる。
英士は、とりあえず結人の方を無視して、話を続けた。
「で…一馬は、この香りに覚えある?」
英士の突然の言葉に、一馬は驚きながらも首を縦に振った。
しかし英士は、黙って一馬に言葉を促させる。
「一瞬た゛からわからないけど…コレと同じ香りがした…」
ボソバソと一馬は、呟く。
「良いから、話続けて」
「ああ…俺のクラスの副委員長の…て奴なんだけど…」
「「ああ、一馬が何時も世話になっているという?」」
ハモル二人の声に、一馬の顔が引きった。
「まっ…まーな。でも…俳句とイメージ合わないし…違うと思う」
引きった顔のまま、一馬は言った。
「でもね一馬…、俳句を書いてる人間と、その人のイメージが重なる事が、常識てわけじゃないんだよ」
英士は、一旦言葉をきり、さらに続けた。
「それに、一馬の話聞いてると…その子…えーっと、さんだっけ?彼女以外思い当たらないからね」
その言葉に、一馬の顔は益々曇るばかり。
(そんなに、さんが書いたって認めなたくないんだな〜…本人気づいて無いんだろうけど…)と英士は、内心思った。
曇り顔の一馬に、追い打ちをかけたのは…意外なる伏兵の結人だった。
くんくん。
英士から短冊を奪い取り、臭いを嗅ぐ結人。
「これさ〜、珍しい臭いなんだよね〜」
ピラリ。
短冊を、一馬の前に翳す。
「和風ぽいってやつ?香水やお香とは一味違う、上品な香りなんだよね〜」
感心したように、結人は独り言のように呟いた。
一馬は益々、困惑の色を強めた。
「なんつ〜の、こんな珍しい事する人間何て、限られてるって事」
「お前まで、 が“俳句”書いた奴だって言いたいのか?」
「だってな〜、これ珍しいぜ。確か、平安時代かそこいら辺…室町か?まっいいけど、和紙に香りを移して持ち歩くってのがあるんだけどさ…、その辺の奴らじゃ分かんないと思ぜ」
「でも結人だって、“そんなんで、分かるのかよ〜”って言ってただろう!!」
「まあまあ、それはソレ。それに、俺ヘーアメークやるから、香りにはちょっと五月蠅いんだよね〜♪」
最後に、戯けて見せるのも結人は忘れなかった。
かなり自信満々な結人。
2人の出した結論に、唖然とする一馬。
「そんな2人して、言い切らなくたっていいだろ…」
弱気一馬は、反撃するが2人に目で制された。
御陰で、金魚のように口をパクパクするはめになった。
その様子を苦笑を浮かべる英士。
「信じる信じないは、一馬しだいだけど…気になるんでしょ?」
と意地悪く英士は、一馬に言った。
一馬は、悔しそうに首を縦に振った。
満足そうに、英士はソレを見る。
「そうだね…俺だって悪魔じゃないからね〜、一馬に知恵を与えてあげるよ」
(いや…英士は、悪魔fだよ)と結人は、心で突っ込む。
「一馬は、照れ屋だから直接本人に聞けないから…。こういうのは、どうかな?」
悪戯をする子供のような微笑みをする、英士。
一馬は、その申し出を首を縦に振って答えた。
「俺も…気になるから…やってみる」
その顔は、とてつもなく憮然としていた。
2人は、そんな一馬を楽しそうな物を見るように眺めていた。
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(初掲載:2001.6.11)改訂2010.7.19. From:Koumi Sunohara