苦手を克服する方法(1)



藤代誠二は、芳しい料理の香りに引き寄せられるように、調理室の前に居た。
時間は、昼休み。私立なので、給食なんて、勿論無い。

だから、お昼は学食及びパン等で済ますことになっている。
従って、食いっぱぐれる生徒は、かなり悲惨な現実となるのだ。


本日の藤代は、その悲惨な状態を身をもって、体験中である。
別に、昼ご飯を忘れたわけではない。
ただ、部活の先輩である三上に、昼飯を“強奪”されたのである。

(三上先輩の馬鹿〜!パンも売り切れだし、学食は混んでるし最悪)

“ぷー”と頬を膨らませ、ここには居ない先輩に悪たれる藤代。
そしてまた、芳しい香りが藤代の鼻を霞めた。

(こんな時間に、何で調理室から良い香りがするんだよ〜!?)

今の時間帯に使われるはずの無い、この場所。それなのに、そこから香る、芳しい香りを、気になって仕方がない藤代。

(そーっと、除くぐらい別に構わないよな♪)

少し、迷いながらも、自分の興味が上回った藤代が、極力丁寧にドアを開け、中を覗く。

(うわぁぁ〜?!キャプテンの料理並みに、旨そうな臭いだ )

臭いの方に、“ズンズン”進む藤代。
しかし…。
きゅるるる〜。
間抜けな音をたてて、無情にも藤代の腹の音が鳴り響いた。

(はっ…!馬鹿〜俺の腹…でも腹…減った〜)

恨めしそうに、腹を押さえる藤代。
辺りを、キョロキョロと見渡している。
少しは、良心の呵責と言うモノがあったらしい。

「おい…」

ふいに、藤代の後ろから声がする。

「先程から、そこに隠れているつもりみたいだけど、何か用でもあるのか?」

藤代を、見下ろすように、して1人の女子生徒が佇んでいた。
それに、藤代は驚いて、顔を上げる。

「あっ… さん…どうして、ココに?」

あまりにも、間抜けな声と表情の藤代。
口にした女子生徒は、そんな藤代の様子に完全に呆れた様子だった。

(尋ねているのは、私何だが…)

少し、眉をしかめる
藤代は?と言うと、興味津々と を見ている。
まったくもって対照的な二人である。

は食べ物に釘付けの藤代に(ヤレヤレ…)と、溜息一つ。

「昼ご飯の用意と、夕食の準備」

”ボソリ”と面倒くさそうに、 は呟く。

(こいつと、話すと疲れるかもしれない…)

たった1回の会話で、なんとなく はそう思った。
それに引き替え藤代は、“ぱー”と顔を明るくさせた。

(飯…少し、分けてもらえるかも)

思った野望こを、直ちに にぶつける。

「ねぇーねぇ、良かったら、少し余ったヤツとか分けてくれない?」

犬が、「散歩に連れって!!」というような、藤代の行動に、は益々疲れを覚える 。

(とりあえず、適当にモノを与えて帰って貰おう…)

藤代ファンじゃなくても、“可愛い”等と言って、顔が綻ぶところだが、 には全く効果がない。
むしろ、疲れた顔をしている。
天下の武蔵森エースも、形無しである。

「“コレ”食べて良いから、出っててくれない?」

絶対零度の空気が、流れるくらい凍る空気。

「えー、良いの〜?滅茶苦茶嬉しい」

絶対零度もものともしない藤代は、語尾にハートマークを連発しそうな勢いで喜んだ。
“ハイハイ”良かったねと、手を“ヒラヒラ”させる

その様は、犬を追い払う人の図である。

(いいから、早く出てけ!!)

心の念を飛ばすが、相変わらず藤代に効き目は無い。

「でも、ココで食べたい!!つーか、ココで食べてく!!」

ニッコリと、 に高らかと宣言する藤代。
こめかみを、押さえる 。

「駄目?」

「駄目」

「何でー?良いじゃん!!」

頭を抱える、

(人に、食べ物をねだった上に…我が侭なヤツだな〜)

苛々を隠すことなく、は次の一手を打つ。

「分かった、君はココで食べると良いよ」

その言葉に、藤代は“ヤッタ”と顔を明るくする。

(…簡単なコトだ、彼奴が出て行かぬなら、私が出ていけば良い)

喜ぶ、藤代を後目に淡々と片づけ始める。

さん〜、何してるの?」

「見た通りだけど」

「え〜、一緒に食べようよ!!」

(子供か?お前は)←子供です。

「初めて話す、名も分からないような者と、食事をしろと?」

は、呆れたように呟いた。

「俺のこと知らないの?」

呆気にとられながら、尋ねる藤代。

「何となく、予想はつくけど、推測で間違っていたら、失礼だろ?」

少し、唸りながら「成る程ね♪」と呟く藤代。

「俺は、サッカー部2年の藤代誠二!一応これでも、エースよろしく!!」

藤代ファンなら、倒れかねない笑顔全開で、自己紹介。
仕舞いには自己完結。

「これで、良いよね♪さー、一緒に食べようさん」

その発言に は、もー呆れるしかなかった。
しかし、この後 は、もっと呆れることになるのだった。


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2001.4.21 From:Koumi Sunohara

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