価値観の相違
私…は十二番隊が好きだ。
人体実験をする我が隊長、涅マユリ様が実権握る隊ではあるけれど、私は嫌いでは無い。
技術開発局という特殊環境ではあるけれど、他の隊の人間が十二番隊を嫌っても私はこの隊が大好きである。
そう胸を張って言ったら、他の隊の人は変だと口を揃えて言ったけれど、人の価値観は人それぞれなのだから、言われる筋あいは無い。特に戦闘集団の十一番隊には言われたく無い。あの隊だって十分特殊であり、変わっている。
戦闘集団と言ってるわりに、鬼道系の斬魄刀や鬼道を使うことを快しとしない。純粋に肉弾戦での勝利を求めるのは、戦闘集団という言葉は相応しくない様な気がする。戦闘集団とは、あらゆる方法を用いて戦いに精通し、あらゆる策と己の力で戦うことだと思う。
綺麗な戦い方を望むなら、試合をすれば良いだけで。彼はら死合いと言うのに変に戦い方に拘る。
死イコール負けなら尚の事、鬼道系を使用してでも勝てばよい。私はそう彼らを見るたびに常々思う。
そんな肉弾戦限定戦闘馬鹿に、人体実験をする我らが隊長を変人呼ばわりすることに納得がいかない。
寧ろ、ほっといてくれと声を大にして言いたい。戦闘マニアについても別にとやかく言わないから、本当に他の隊のことまで言われる筋合いが無いと思う。
犠牲のない発展は無い。犠牲の上に今が成り立っている。確かに、涅隊長の検体の集め方や人体実験は褒められる方法では無いと思う。滅却師を見殺しにする方法で、研究材料を集めることなど、本当はあってはならないことだと私も思う。
それでも、汚い仕事から生まれる、新たな技術はこの世界の為に使われることが多いことも事実。人の命を助ける手段にもなり、四番隊に提供されることも多々ある。隊長の趣味の研究も多いのも事実はではあるけれど。
けれども、けして無駄なことでは無い。
第一いつでもどこでも、技術開発局が他人を害すると思われるのも腹立たしい。いっそのこと、本当に人体実験をしてやろうか?なんて物騒な事を思う事もある。
先日、うっかり涅隊長と阿近さんの前でぼそりと「いっそのこと、本当に人体実験をしてやろうかと思いますよね」口走った。
すると、阿近さんは呆然とし、涅隊長はかなり本気な顔で次ののような言葉を紡いだ。
「ほぉ、も人体実験に興味があったのか。それはそれはおおいに結構なことだよ。しかしお前は結構迂闊ものだからねぇ、サンプルを殺しかねない、人体実験をする時は私が指導をしてやるから声をかけたまえよ」
「はい。その時は是非、ご鞭撻の程よろしくお願いします」
「かまわんよ。いくぞネム」
そう涅隊長は言うと、ネム副隊長を連れだってご自身の研究部屋に去っていかれました。
その様子を呆然とした顔で見ていた阿近さんは、若干顔を引きつらせた。
「局長本気だったぞ。お前人体実験に興味あったのか?」
「いえ。まぁ、機会があればと思っていましたけど、何て言うか時々物騒に思う事があるんですって話だったんですけどね〜」
「あるのかよ。どちらかと言うと、って、そう言う方面に怒りが向けないイメージがあったんだが」
「確かに、鉄拳制裁が私の売りですが。十二番隊や技術開発局の事を人体実験集団みたいな雰囲気で陰口叩かれたら、ちょっとばかし本当に実験してやろうかと思うんですよ。私この隊大好きですから」
私がそう答えると、阿近さんは少し溜息を吐いてから少しだけ頬を緩めた。
「俺も嫌いじゃ無いから、の気持ちもわかるが。何だ、言いたい奴には言わせておけば良いさ。まぁ、強ち間違ってはいねぇーんだしさ」
一旦言葉を切り、阿近さんはさらに言葉を続けた。
「十二番隊隊と技術開発局に席を置いている死神が、研究の一つもできねぇのは問題ちゃー問題だからな。本気で人体実験云々別に研究をしてみたいなら協力してやるよ。表現はやりすぎだけどよ、局長もきっと同じ気持ちだと思うぜ」
「ありがとうございます阿近さん。まぁ、研究をろくにできない人間の人体実験程恐怖は無いでしょうね」
「どんな失敗が起きるか分からないしな」
「言いましたね。まぁ良いですよ、本当のことだし」
少しいじけた調子で私が返せば、阿近さんは私の頭を軽く叩いた。
こんなやりとりが、日常。
迂闊な事を言えば、ウッカリ実験体にされる可能性もあるけれど。分かりにく愛情表現をするこの少し不器用な十二番隊が私はやっぱり好きだと思う。
ああそうそう、後日涅隊長から人体実験のお誘いがあったかは…ご想像にお任せしよう。
おわし
2009.9.7. From:Koumi Sunohara