−見えないチカラ−




子供は純粋だから、座敷わらしや妖精や…幽霊…妖怪…。
まぁ人では無いモノを良く見ると言う。
だけれど、子供の感覚は曖昧だから…子供は区別が付かない方が多い。
そして、大きくなるにつれて…それは夢や空想だったと思う様になっていく。
それは私にも言えたことで…。
今思えば…人ではないモノを幼いながらに見ていたのだろう。
確信は無いけれど。



気持ちよく眠っていた筈なのに、不意に目覚めた意識は…眠ることを拒否するように、一向に眠気がやってこない。
私は、取りあえず水でも飲んで、気分を変えて寝ようと…居間に居た。
そして何気なく窓を見ると黒い着物を着た人達が、祭りでもないのに列をなして歩いているのに目に入った。

(あれ?お祭りでも有ったのかな?)

浮かんだ好奇心は大きくなり、私は思わず家から飛び出した。


全速力で走り、私は黒い一団に追いついた。
息も切れ切れに、黒い集団の中に居る目の細い兄さんの着物の裾を捕まえ…声をかけた。

「ねぇ〜。何処のお祭りに行くの?」

着物裾を引っ張りながら私は目の細いお兄さんにそう尋ねた。
細目の兄さんは、私に驚いたのか…少し細い目が開きながら、慌てたように言葉を紡ぐ。

「お嬢ちゃん…もしかせんでも…俺等…見えるん?」

「お嬢ちゃんじゃないよ。 って言うの。見えてるも何も…触れるし…。ねぇ〜何処のお祭りに行くの」

グイグイと袖を引っ張って私は、不機嫌気味にそう返す。
すると兄さんは、急に私と目線を合わせてきた。

「あんな。俺等…祭りに行くわけや無いんやでお嬢ちゃん」

「でも着物着てるし、行列で歩いてるじゃない」

「火の用心の兄さん方も、着とるやろ着物。ボクもお仕事で着てるんやで」

「ふーんお仕事なんだ。何だ〜お祭りじゃないんだ…残念」

「それにしても…見える子なんやな〜」

「見えるって何?」

「秘密や」

「もー!子供だと思って馬鹿にしてるんだ…」

ふくれっ面でそう返すと、お兄さんは真っ直ぐ私の目を見て言葉を紡ぐ。

「馬鹿にしてへんで…ただ…ちょっと大人の事情ちゅ〜もんなんや。それにな…人じゃないモノが見えるのも善し悪しや。寧ろお嬢ちゃんには見えへん方が幸せなんや…堪忍な」

頭をポンポンと軽く叩かれながら、私は遠のく意識の中…そんなお兄さんの言葉を聞いた様な気がした。
そして…その日を境に私は人では無いモノを見る事は無かった。




だから私は、平凡な日常で平凡に暮らしていた。
何処にでも居る学生。
それが私…
人でもないモノを見れた…そんな事もすっかり忘れていた。
そんな頃に…不思議体験が私の身に降りかかってきた。

よく人災は忘れた頃にやって来ると言うけれど…こんな事まで、忘れた頃にやって来る事無いのでは?って思うけれど…。
事実おこってしまってるので、仕方がない。
ちなみに不思議体験は…現在進行形で、起きて居るだけども。

では、何が起きているのか…。
説明をしろと言うと…表現しづらいのだが…。
即に言う恐怖体験と言う所がしっくりくるかもしれない。

現在…妖しい物体と交戦中。

何じゃそれは!とツッコミ所が満載なので…状況を。
それは一体どういう事かと言いますと。
明らかに人では無さそうなモノが…モゾモゾと布団の上を這い上がってくる物体を私は思わず掴んだ。

そりゃーもう…無意識に。
気持ち悪いとか…そんな事が頭に来るより先に、私は這い上がってくるモノを掴んだ。
その掴んだモノと綱引きならぬ、手の引っ張り合いの最中なのだ。
相手(相手と言うのだろうか?)は、掴まれると思っていないかったのか…戸惑いがちに

私は、何かされたり(例えば、首を絞めれるとか…諸々)したらイヤなので、力の限りに手に負荷をかける。
今握力測定したら、絶対記録更新の自信が有るほど力を込める。
その御陰か知らないが、

遂に相手の片方の手で掴んでいたモノは、鈍い音を立て軽くなった。

(まさか…チギレタ?)

内心冷や汗タラタラな私だったけど、その手を離すことはなかった。

(有る意味根性有ると思うんだけど)

半ば現実逃避気味の私の耳に不意に、第三者の声が聞こえた。



「いや〜掴まれると思ってなかったんやけど…。虚を素手で断ち切った人間が居るとは…驚きやなぁ」

私は呑気な口調で独特なイントネーションで話す人物は、口で言う程驚いている様子は…私は感じることが出来ず…呆然とその人物を目で追うばかり。
そんな私の気持ちなど、知るよしもないその人は、やっぱり呑気な口調で言葉を紡ぐ。

「あれ?しかも俺のこと見えてんの?」

「見えてるも…何も…。掴んでるし…感触有るし…」

よくホラー映画とかで、手首だけ飛んできて…首を絞めるとか…。
そんな事が良くあるから、私は手を離す事無く言葉を紡ぐ。

「家何て…盗むモノ何にも無いし…」

多分普通の出来事じゃ無いだろうけど、私は思わずそんな言葉を紡いでいた。
相手はそんな間の抜けた私の言葉に、困ったような表情をした。

「泥棒や無いやけど…ボク。取りあえず手離してくれると有り難いやけどね」

眉を寄せて、言うその人に私はお決まりの言葉で返す。

「じゃ…何だって言うのよ。分からない内は離すわけに行かないじゃない」

私は握る手に力を込めて、強い口調でそう返す。
すると、相手は込められた力に気にした様子も見せずに

「死神ゆうても…ああ別に、お嬢さんの魂を取りにきた訳や無いやで」

ニコニコ笑って糸目のお兄さんは、そう言ってきた。
かなり胡散臭いし…現実離れした、キーワードに私は瞬時に答えをはじき出す。

(夢だ…夢に違いないと…)

「はははは。夢だ」

私は乾いた笑いを漏らし、思わず心の中で思った言葉を口にした。

「ちょっと待ってや。夢や無いって」

私の言葉に慌てた様に、糸目の自称死神のその兄さんは言葉を紡ぐ。

「取りあえず自己紹介せんとな。ボクは護廷十三隊・隊長の市丸ギン言うもんや…。で…嬢さんの名前は?」

「えっと… です。ごくごく普通の学生やってます」

尋ねられた私は、馬鹿正直にそう答えた。
その人は私の答えに、細い目をさらに細めて、何やら驚いた表情をとった。

…。ああ…成程な…あん時の…嬢ちゃんか…通りで」

市丸さんとやらは、私の自己紹介を聞いて一人納得気にそう言った。
勝手に納得された私は、何が何だか分からず呆然と市丸さんを見るばかり。

「虚を素手で掴んだ上に…しかも掴んだのが普通の人間ちゅーのが可笑しいと思ったんや。虚に掴まれる奴は仰山見たけど…逆に掴んでしまう奴は今まで居なかったしな…あの時のお嬢ちゃんやったら、納得やわ」

「あの…あの時とか…虚とか…何の話しです?」

「そやな…。悪い悪い…えっとな〜…簡単に言うと…そうやな…悪霊ってヤツかな。であん時言うのは… は覚えてへんかも知れへんけど…」

ヘラリと笑った市丸さんの表情に、私の記憶の何かが掠めた。

(あれ?…前にも似たような事が…)

不意に掠めるそんな思いから、浮かんできたのは幼き記憶。
祭りでも無いのに、練り歩く黒い着物の集団と…不思議な体験。

(でも…あれって、夢だよね…)

そう思いながらも私は知らず知らずに、言葉を紡いでいた。

「もしかして…黒い着物を着た祭り行列の…」

私が漏らしたそんな言葉に、市丸さんは笑みを深くした。

「そうや…」

市丸さんの話を聞いた私は、霞む記憶と現在起こっている出来事が…同じ様な出来事だとはじき出す。

「じゃ…やっぱり夢じゃない」

安心したように、紡いだ私の言葉を…市丸さんはてっきり頷いてくれると思った。
だが、現実はそう甘くない。
出てきたのは否定の言葉だった。

「それがまた、夢や無いんや。現実逃避したくなるんわ分かるんやけどな」

頬を二、三度掻く市丸さん。
そして、何処から取り出したのか良く分からないけれど…小さな長方形のような形のモノを突然取り出し言葉を紡いだ。

「夢や無い証やで」

そう言うと市丸さんは、私の目の前に小さな短刀の様なモノを差し出し「お守りやで」と指し示して市丸さんが言った。
促される様に、私はソレを受け取る。

「それとな。ボクな嬢ちゃんの事気に入ってるや」

不意に紡がれた言葉に、私は理解仕切れず首を傾げる。
「まぁまぁ続き聞いときなや」と言って市丸さんは、言葉を続けた。

「普通のなぁ人間には見え無い事になんとるんやけど… みたいに見えたり、虚を倒した出来る人間も居るんや。そう言った稀に見る人間は、調査の対象とされる危険が有んねん」

「研究体って事ですよね…マウス実験とかの…」

嫌な感じの例えに私は眉を顰めて、市丸さんに返した。
市丸さんも苦笑を浮かべて「早い話そうやな」と言葉を漏らす。

「せやから、 が危なくなったら直ぐに助けに行けるようにの目印とボクが に目にかけてるちゅーう周りへの牽制も兼ねてソレを に持っていて欲しいんや」

「でも今まで、こんな目に遭ったこと無いし…急に言われても信憑性というか…危機感が感じられないだけど」

私は次から次に出てくる、次元を越えた内容に思わずそんな言葉を市丸さんに返した。
市丸さんは、少し考える仕草をとってから「そりゃーそうやな」と短く納得気に頷くと…。

「まぁ保険って事や。だからな… は安心して普通に暮らしていけば良いやで」

そう言われた途端、私の目蓋が急に重くなった。
何というのだろう、自然と…と言った風では無く…意図的にと言うか…良く分からないけれど。
眠りたくないのに、眠くなる感じなのだ。
無理に目蓋を上げようと目尻に力を入れるけど…全然役に立たない。
そんな私の行動を宥める様にポンポンと肩を叩かれる。

「もう今日は休みぃ。心が疲れとるからなぁ」

言われながら、あやされる様にされて…緩やかに睡魔が私を眠りの世界に誘う。

(きっと目が醒めたら…あの時みたいに…夢だったって気が付くんだろうなぁ〜)

ボンヤリと微睡む思考の中、私はそんな事を考えながら眠りの世界に意識を沈めたのであった。


次の日の朝…。
夢では無いと告げるように、私の枕元には市丸さんがくれたお守りが何処か主張するように置いてあった。
見えないかったはずのモノが、見える現実と共に…。

END

2004.3.1. From:Koumi Sunohara



★後書きと言う名の言い訳★
BLEACH自体初書きなんですけど…好きなので思い切って書いてみましたが…。
言葉に特徴の無い人も書きにくいけれど…有りすぎても…難しい。
しかも方言は特に…どんなジャンルの話を書いても、こればっかりは悩みの種です。
えっと…こんなお話でしたが、楽しんで頂ければ幸いに至ります。

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