のんびりまったり  

テストの後は解放的になるのは、人の性なのであろう。

例えば、テスト後のカラオケやボーリング、それともテスト期間中に中止されていた部活動に精を出すかもしれない。

それ程までに生徒にとって試験やテストはストレスになるのかもしれない。

ここに、そんなテストから開放された生徒が居る。

名をと申す、青春学園の三年の女子生徒である。

彼女…は別段部活をしている訳では無い。

所謂、帰宅部で放課後に友達とファーストフード店に行ったりもするし、勿論、カラオケや映画やボーリング等、学生らしくアクティブに学生生活と友人関係を満喫していた。

そんな彼女であるが、地味に知られていない趣味というか娯楽があった。

これは、地味に知られていないの趣味と、それによって起こるある日の出来事の一幕である。



ある日、ある時の休日の事、は自宅自室で伸びを一つした。

(んーっ。今日は特に友達と予定も無い、ある意味完全にフリーの日だなぁー)

手帳のスケジュールを思い出しながら、は今日の予定を巡らせる。

久し振りの完全な休日に、はどうしたものかと思案する。

(のんびり家で怠惰に過ごすのも良いし…読みきっていない推理小説を読破するも良し…でも天気良いしインドアはもったいないかな?)

窓の外を眺め、真っ青な青空にが少し眉を寄せて考える。

(天気良いなぁ…こんなに天気が良いなら、もう少し早く起きれば良かった)

見れば見る程快晴の天気に今日に限ってゆっくり起きた自分を自身恨めしく思っていた。

しかしながら、いくら後悔したところで、現状は変わらないければ、時間が戻る事も無い。

その事に彼女自身気が付いている訳で、何も無い予定から今日やるべき事を考える事にした。

(今から行くなら、近場ならあそこかな?手ぶらで良いし)

巡らせながらは今日の予定を立てる。

出先を決めたは、手早く出掛ける準備をして足早に家を出た。



キラキラ輝くお日様を浴びながら、は目的の場所に向かう。
急ぐ事をせずに、のんびりと歩くの表情は穏やかである。

(散歩するだけでも気分が違うなぁ…このまま公園でのんびりと過ごすのも良いけど、やっぱり…)

胸いっぱいに、気持ちの良い空気を吸いながら、そんな事をぼんやりと思う。

そんな風に、物思いに耽りながら歩くに不意に声がかかる。

?」

呼ばれた声には振り返る。

「え?手塚君?」

振り返った先に居たのは、のクラスメートである生徒会長にしてテニス部部長の手塚国光がそこに居た。

(何故?手塚君?そして何故声をかけてくるのだろう?彼とはそんなに親しくしていないのに)

は予想外の人物からの呼び掛けに、内心困惑で一杯であった。

「えっと手塚君奇遇だね」

一先ずは当たり障りのない言葉を選びながら、手塚に対してそう返してみた。

「ああ本当に奇遇だな。学校以外でに出会うこと自体珍しい」

「本当にね。んーと手塚君は今日部活お休みなの?」

「テスト明けだが一応、今日は珍しくオフだな。そう言うこそ、これから買い物か何かに行くのか?」

「ん?散歩と言うか…何と言うか」

言い淀むに手塚は、少し眉を寄せた。

「言いづらいなら別に無理に言わなくても良いのだが」

「いや…別に言いづらいとか、やましい事はなくてね…何と言いますか…これから釣り堀に行こうかと」

最後の方は尻すぼみになりながらもはそう答えた。
そうの趣味は、釣りである。近年、釣りをする女子…釣女が増えてきているが、一般的には少ないのが現実で、に至ってはオジサン方と混じって可愛い格好では無く釣りを楽しむ…太公望と言う一面を持っていたのである。

流石にこのことについては、の友人にも言っていない事実で…何となく手塚には嘘がつけない雰囲気に思わずは答えてしまったのであった。

(嗚呼…友達にも言っていないことを、よりにもよって手塚君にカミングアウトとかありえない…)

溜息を吐くのをグッとこらえたは、手塚の反応をソロリと伺った。

すると、手塚は何か関心したような顔をしてを見ていた。

(普段…仏頂面ばかりの手塚君が…何か嬉しそうなのは何故?)

困惑しながら手塚を見ていたに手塚が、言葉を紡いだ。

は釣りが趣味なんだな」

納得いったといった表情でボソリと紡がれた言葉に、は鳩が豆鉄砲をくらったような顔になる。

「へ?手塚君、笑わないの?」

「ん?何故笑うんだ?」

「だって釣り好きが趣味って…ちょっと?とか思わないの?」

「良いじゃないか。趣味は人それぞれだし…俺も釣りは好きだ。もっぱら、ルアーの釣りが中心だが…釣りが趣味で別に他人に迷惑がかかるわけじゃない。気にする必要は無いと思うが」

手塚の言葉にはキョトンとした顔になる。

(手塚君も釣り好きなの?)

手塚と釣りを思い浮かべたは、意外に釣りと彼が合う事に何となく納得する。

(達観してるしね…私と違って釣りが似合うお人だな〜手塚君わ)

「そうかな」

「ああ、問題無いな」

「そっか。えっと私は、テスト明けで友達の約束もなかったし…海釣りに行くには時間も無いからリーズナブルで手軽な釣り堀に行こうって思っていたんだけど…手塚君こそ買い物?」

「いや…何となく散歩がてらに外に出ただけだな」

(なら暇なんだ…釣りが好きだって言ってるし…ちょっと誘ってみようかな?意外に手塚君話しやすいし)

手塚の返答といままでのやり取り思い返しながら、はそう結論付けると…ダメ元の感覚で、手塚に提案をあげてみることにした。

「じゃ手塚君が良ければだけど…釣り堀に一緒に行く?」

の提案に、吃驚したのは手塚の方で…少し困った表情を浮かべながらに言葉を返そうと口を開いた。

「呼び止めておいて何だが、迷惑じゃないか?」

を気遣うように手塚は尋ねる。尋ねられたは、きょとんとした表情を浮かべた。

「え?別に迷惑じゃないよ。手塚君心底釣り好きみたいだし、同年代で釣りの共通の仲間少ないし、私は大歓迎だけど」

サラリと紡がれるの言葉に、手塚は少し驚いた顔をした。

が良いなら良いんだが。もしに彼氏がいたら申し訳ないと思ったんだが…」

言葉を濁しながら紡がれる言葉にの方こそ、はっとした。

(私は彼氏居ないからいいけど、手塚君に居るかもだよね。うぁー配慮たりないよ〜)

はっとしたは、慌て口を開く。

「いや。私は問題無いけど、手塚君に対して配慮足りなくてごめんなさい。彼女さんとか、手塚君の想い人に勘違いされたら困るよね、本当にごめんなさい」

息継ぎも忘れるようには、一息でそう手塚に言葉を紡ぐ。言われた手塚は、軽く目を瞬いたのち柔らかい表情を浮かべた。

「残念だが…の想像しているような存在は居ない。さえ問題無いのなら一緒に釣りにいこう」

手塚にしては珍しい軽口と、柔らかな表情を浮かべて紡がれる言葉に裏など無い様に見えた。

(何だか意外だなぁ。ファンとか一杯居るのに。大人ぽいし、好きな人いそうなのに…まぁ、そのお陰で釣り仲間になれたから良いのかな?)

そんな手塚には心の中でそう思う。

けれど表情には出さずに手塚に向けて言葉を紡ぐ。

「よし。じゃ、行こうか」

晴れやかなその声に手塚は、短く返事をしてと共に釣り堀に向けて歩きだしたのだった。



の行き付けの釣り堀は、都心の中にあるにも係わらず、程好い木々に囲まれた静かな雰囲気の釣り堀であった。
家族連れのちょっとした親子のやり取りが少し賑わいでいるけれど、騒々しい訳では無いそこは、ある意味穴場と言っても過言では無いかもしれない。

は勝手知ったる他人の家よろしく、釣り堀の店主に学生二名と告げ、釣竿と釣り餌、バケツを受け取った。
慣れた様子のを手塚は呆けたように見たが、に手招きされた為手塚は慌てての後に着いていった。

(先に支払ったようだが…後でに料金聞かなければな…あっと言う間に手続きをしてしまっていたし)

の後に着いて行きながら、手塚はの手際の良さにそんな事を思う。
そんな風に手塚に思われているなど、微塵にも感じていないは、普段自分が利用しているお気に入りのポイントで立ち止まる。

「手塚君。此処が私的お気に入り釣りポイントなんだ。まぁ好きな場所で釣っても良いんだけど。此処ね、木陰で結構過ごしやすい場所なんだよ」

嬉しげに、この場所を紹介しながらは、手塚に釣り堀セットを一組渡す。

そう告げられた手塚は辺りを見渡しながら、の言った言葉に納得をした。

(木漏れ日と心地よい風が吹く、確かに釣れる釣れないはさて置き…心地よい場所ではあるな)

「確かに、過ごしやすい場所だ」

「そうでしょ。何て言うか、釣りも出来て…リラックスも出来て一石二鳥って感じなんだよね」

ニコニコと本当に満足そうに話すに、手塚も自然と笑みが浮かぶ。

「たまには釣り堀も良いものだな…それより、…先に支払っていたようだが…幾らだろうか?」

カバンから財布を出そうとした、手塚をは手で軽く制した。

「ああ料金?別に良いよ、そんなに高く無いし」

「そう言う訳にはいかないと思うが」

「んー。釣りが終わった貰うって事で。それより釣りを楽しもうよ手塚君」

そうが発する言葉を切欠に、二人は釣り堀での釣りを楽しんだのである。


一頻り釣りを楽しんだ二人は、釣りの道具を手早く返し、釣り堀を出る。

、釣り堀の料金はいくらだ?」

「ん?本当に安いからいいのに律儀だね手塚君」

「そう言う訳にいかないだろう」

の言葉にそう返しながら手塚はに釣り堀の料金を支払う。もそんな手塚から、料金を受け取った。

(本当に律儀だなぁ〜手塚君)

はこっそりと、そんな風に思いながら手塚に声をかける。

「そう言えば、手塚君あの魚持って帰らなくても良かったの?あそこの釣り堀、持ち帰りもリーズナブルなんだよ」

は先程の釣り堀で手塚が釣っていた大物を思い出してそう尋ねた。

「ああ。それを言うならも釣っていただろ?」

「私は釣り堀は殆どリリースだからね。鮎とか桜鱒とかは持ち帰ったり、その場で調理して食べるけど基本はリリースなの」

「なるほど…にとっては、釣り堀の場合は釣りをしている時間が有意義という事だろうか?」

の言葉に納得しつつ、手塚はそうに尋ねた。

「そっ。流石、釣り人だね。私は釣れるのも楽しいけど、釣り糸を垂らして魚を待っ時間が何か、無心になれる時間なんだ。そうすると全てを一回リセットできる感じが私はしてね。友達と騒ぐのも良いけど、時々こうやって自分と向き合いながら無心になるのも好きなんだよね」

頬を少し?き照れくさそうに言うに手塚は「そういうのも必要かもな」と柔らかく返した。

「まぁ私は手塚君と違ってスポーツとか部活とかの切り替えとか必要無いくせに…こんな事言ってるけどね」

「スポーツだろうが部活など関係無いじゃないか?勉強と…日常と…人それぞれONとOFFは大事だ。久しぶりに俺も、リフレッシュをしたおもいだ」

「手塚君が楽しめたなら何よりだよ。でも手塚君はこういうONとOFFの切り替え簡単に出来そうだね」

悪気も無く紡ぐに、手塚は苦笑を浮かべた。

「そうでも無い。昔は割と時間があってできたが、今は色々な」

少し疲れた様子の手塚に、はハッとした。

(そっか…部長だし…生徒会長もやってるしね…確かに1年の時とは3年の今では大きく違うもんね…責任もあるし自分のテニスもしなきゃだし…部員の面倒に…勉強に進路…無理だ私なら投げ出してるよ…)

手塚の平素の行動をぼんやりと思ったは顔顰める。

「確かに…暇なんて無いね。部活、生徒会、勉強のループだね」

「しかし…自分で選んだことだから仕方がないけどな」

「まぁ…普段手塚君が楽しむような釣りとは違うけど…ここなら、たまに息抜きするには丁度いいかもだしね…気にいったんなら、たまに息抜きに来ると良いんじゃないかな?」

「ああ。そうさせてもらう。時に…」

「ん?」

さえよければ、また釣りをしよう。釣り仲間というか釣り関係の友人は少ないんだ」

普段の厳しそうで、無機質な雰囲気を醸し出す手塚の顔では無く、柔らかな微笑を浮かべた手塚に、は迷うことなく頷いた。

「こちらこそ。同い年の釣り仲間とか友人貴重だもの。手塚君が言わなかったら私からお願いしたぐらいだよ」

そう言っては、手塚に返した。
の言葉に手塚は嬉しそうに微笑んで、彼らはゆるやかでのんびりとした休日を過ごした。

通常であれば、きっと交わらなかったであろう二人…神様の悪戯か、はたまた偶然か…この日より、同じ趣味を持つかけがえのない存在を得た、二人の関係はこれから始まるのである。


おわし


2012.8.24. From:koumi Sunohara

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