瞳に映すモノが全てとは限らない  

大和佑大の風貌は胡散臭いの一言に尽きると、本人を目の前にして私楽は臆面もなくそう言った事がある。

通常であれば、自分にたいする暴言にも似た言葉に怒ったり、不機嫌になるものなのだが、言われた側の大和はどこ吹く風で頭をかきながら、こうのたまった。

「そうですかね。さんが気にしすぎなんじゃないかな?と思うんですが」

自分には非はないと言いたげに紡がれる言葉に、私はアングリと口を開き呆然とした。

さん。女の子がはしたない。口にゴミが入ちゃいますよ」

ニコニコと笑顔で大和は私のリアクションに突っ込みを入れる。

「なっ…大和君が唖然とさせるような事を言うからでしょうが」

「ん?そうですかね?さんが大袈裟なだけだと思いますけどね」

「大袈裟じゃないから、私三年間いい続けてるし」

「そう言えばそうですね。三年経つんですから、さんも慣れて下さいよ」

ハッキリ言う私に対して、大和もストレートで返してくる。
何時もこのやり取りで、のらりくらり過ぎて結局私の根気負けをするのがパターンで、今回ばかりは私は少し違う方向で切り崩すべく、言葉を紡ぐ事にした。

「この際大和の胡散臭いとかお腹真っ黒とかさて置いて」

手で荷物を寄せる様なポーズをとりながら、私がそう言うと大和は珍しくん?と眉を動かした。

「おやおやさん、置いておいてよろしいのですか?」

「ひとまずよ。ひ・と・ま・ず」

「で…置いておいたさんは何を言いたいんですかね?」

物腰柔らかにそう聞いてくる大和にイライラを募らせながら、私は返す言葉を紡ぎだす。

「イメージチェンジよ!無精髭そって、黒メガネかえただけで…きっと胡散臭い感じが軽減すると思うんだ、だから其処を変えてみるとかどうよ?」

さん」

キリッと真面目な顔をした大和に、はビクリと肩を揺らしつつ大和を見やる。

「何よ、突然真面目な顔して」

「いやですね。僕は何時も真面目ですよ」

(いや…何時も胡散臭いから)

大和の言葉には心底そう思った。

「まぁ。それは良いとして。さん、僕は何時も言ってますよね。胡散臭い人間や悪い事を企む人間は悪そうだったり、胡散臭いとか不審な格好していると限らないんですよ」

口の前に人差し指を当てて、諭すように紡ぐ大和。

「だから、僕がさんにとって胡散臭いと見えるけれど、胡散臭い人間じゃないという事になるんですよ」

「最初の大和の言った言葉は認めるとしても、本人が胡散臭く無いって言いきる時点でそれは微妙な気がするんだけど」

「そう言われても。さんは僕を最初から胡散臭いって決めっけてるから、そう感じるんじゃないんですかね」

頭に手を当てながら少し困った表情でそう紡ぐ大和に私は言葉を詰まらす。

(確かに…先入観がぬぐえてないのはあるけど…でも、不精髭に黒メガネは…胡散臭いというか…怪しいの一言に尽きるのは私だけ?)

んーと唸りながらも、大和に返す言葉を紡ぐべく口を開いた。

「確かに私は先入観に囚われてるけど」

「はい」

「中学生が…不精髭に黒メガネは無いと思う。しかも部活ジャージを着用せずに羽織るって何?百歩譲ってジャージは兎も角…黒メガネじゃ感情も何もあったもんじゃないでしょうよ」

ぜーぜーしながら言う私に、大和君はポンと手を一つ打った。

「成程、確かに見た目は大事ですが…僕としては特に困りませんからノープロムレムです」

言いきられた言葉に私は

「大和の問題じゃなくて、学校的にはどうなのよ!不精髭とかありなわけ?黒メガネってもはやサングラスじゃないの?生活指導に引っかからないのが不思議よ」

「生活指導で怒られていないので…そもそも問題無いですよ。さんの心配には及びませんよ」

「ふーん。髪染めてないからOKなのか…青学が緩いのか…。へー」

そう言えば過去一度も生活指導に引っかかった事の無い大和を今更ながら思い出す。

そうとう私は苦虫を噛み潰していた顔をしていたのか、大和の声はいつになく優しい。

「そうガッカリしないでくださいさん。それによく言うじゃないですか、人は顔じゃないんですよ」

「まぁ中身は必要だけど…」

私がそう答えると大和は、うん、うん、と頷く。

さんに分かる例えとしたら、強面だけど飼ってるのがチワワやトイプードルだったり、甘い物が好きだったり、世の中は意外性に溢れているんですよ」

さぁどうだ!と云わんばかりに、大和はそう言った。

「まぁ…世の中は意外性に溢れてるし、強面の意外性は解らないでは無いけど…大和は違うんじゃないかな?」

「おや?例えと言いましたよさん。僕が言いたい事は…」

「はい、はい。分かってるよ。ようは、大和が例え姿形が胡散臭くても中身は誠実だと言いたいんでしょ?」

手でドウドウと大和を制しながら私がそう返す。

「そうですよ。やっぱり分かってるんじゃないですか」

満足そうにそう答える大和に私は、コイツとの話し合いは無理だと悟らずにはいられない思いで一杯だった。

「…」

私は思わず、乾いた笑みを浮かべながら、心底思う事があった。

(私でこうなんだから、部活の後輩は大和のこの姿をどう感じているんだか)

「何と言うか…部活の後輩よく大和を不審人物って思わないよね」

「ん?部活の皆は良い子ばかりですからね」

「はいはい。良かっね」

「やだな〜さんが振ってきたんじゃないですか」

「うん。ゴメンね。さっさと忘れて」

「あいかわずキツイですねさん。僕の胡散臭さより、さんの毒舌と今後が心配でなりませんよ」

大和の言葉にカチンとくるが、事実なので否定出来ない自分が悲しい。

「私の性格キツイのは自覚済みよ。でも、大和は認めて無いじゃない」

「んー。恰好を変えれば良いってもんではないのですけどね。分かりました、さんがそんなに僕を心配してくれてるので、善処しましょう。今は急に変化したら部員も戸惑うでしょうし…高校に行ったら、イメージチェンジしてみましょうかね」


そう言って、私と大和の討論は幕を下ろした。

高校に上がり、無精髭は相変わらずだが、髪型が変わり、黒眼鏡が無くなり意外と顔立ちが悪く無い。が…何だかやっぱり胡散臭いと感じる事になるとは、私はこの時思わなかったのである。


おわし


2012.11.5.(WEB拍手掲載2012.10.3.)From:Koumi Sunohara

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