線と線の出逢い
それは些細な出来事から始まった





部活も無く、予定も珍しく無い休日。
手塚は、部屋でのんびりとした時間を過ごしていた。
本を読むわけでもなく、何をするわけでも無く。
部屋でたたずむ手塚。


そんな、まったりとした休日の手塚はボーっとしながら…最近自分に起きた出来事を振り返ったりしていた。
部活の事だったり、勉強の事だったり。
些細な出来事を振り返る。


そして、ここ最近で一番嬉しくも驚いた出来事が手塚の頭を掠めた。
そう…との距離が減った出来事だ。


(偶然とは…本当に有るんだな)


思い出した手塚はしみじみと、そんな想いを胸に抱いた。
偶然の重なりによって、和解したと手塚。
昔のように腹を割って話せる程では、無いけれど…避け合っていたいた頃に比べれば格段に良い方に進んでいる。
それはどんな出来事より、手塚にとって印象的な出来事だった。


(本当に良かったな)


しみじみ思う手塚の中で、不意に浮かぶ疑問。


(そう言えばとは…何時からのつき合いだったろうか?)


掠める疑問は、あっという間に手塚の思考を浸食していく。
そしてふり返る。

何時も一緒に居た幼馴染み。
離れてしまった時期はつい最近までだから、勿論有る。
でも、それは何時から彼女…と出会ったのだろうか…。
不意に手塚はそんな想いに駆られていた。
それはきっと…つい最近、疎遠になっていたとまた幼馴染みだった頃に戻れた所為かもしらない。


そういう事も有って、手塚は何気ない気持ちで古いアルバムに手を伸ばした。
パラパラ捲るアルバムには、手塚との姿が目立つ。
家族写真にも、違和感なく映るは…もしかしたら、家族である手塚本人より馴染んでいるのかもしれない。
それ程までに、写真に写るの姿は自然に溶けこんでいたのだ。

過去に遡るページを懐かしむように手塚は魅入っていた。


(ああ…ここにもが載っているな)


繰るごとに思い返される思い出。
手塚は知らず知らずの内に記憶の海に引き込まれていった。
記憶の海に沈むと同時に、手塚は眠りに落ちていったのだった。






小さい頃の手塚国光と言う少年は、やっぱり無口な少年だった。
そして、頭も良く年にそぐわない物腰は…周りの子供とは異彩を放った子供だった。

だから、その辺の子供が馬鹿騒ぎしているのに混じる事も無かったし、周りの子供も異彩を放つ手塚に、知らず知らずに苦手意識が働いていた。
彼の周りには、同い年の子供は近づく事は無かった。
他から見たら、実に寂しい子供に見えるに違いない。


だけど手塚は、他から見たら苛めに近いそんな日常に気にすることの無い子供だった。
何というのだろう…自分の道を進む少年だったのだ。
そう言う訳で、まぁそれが手塚の…いや彼を取り巻く全ての環境達の日常だったのだ。


そんな彼の…イヤ、彼の周りに変革が訪れる。
との出逢いである。




全ての始まりは、何の変哲もない小学校の昼休み。
手塚は、外で騒がしく遊ぶ級友達に混じることなく一人静かな図書室で予習に明け暮れていた。
やっぱり少し浮いている子供である。
そんな、手塚に予期せぬ来訪者が現れたのだった。


「へぇ〜すごいね」


小さな少女は、手塚の机の下からピョコリと頭を出して…開口一番にそう紡いだ。
ちなみ少女は、…その人であるのは…想像出来るだろう。
兎にも角にもは、興味深そうに机に齧り付く手塚を見たのである。

真っ直ぐぶつけられる、好奇心に満ちた目に…流石の手塚も少しばかりたじろいだ。


(何なんだ?一体?)


困惑に満ちた目でに視線を向けても、彼女は一向に気にした様子も無く…寧ろ益々興味津々に目を輝かせて手塚を見てくる始末。


「うひゃ〜お勉強してるんだぁ〜。しかも、いっぱい書かれてるね。お勉強好きなの?」


机に広げられた教科書とノートを目敏く見つけたは、感心した様子でそんな言葉を手塚にぶつける。
手塚は言葉での問いには答えず、ただ不思議なモノを見るような視線をに送った。
だけどはやっぱり気にした様子も無く、休むことなく言葉を紡いだ。


「君も同じクラスの子でしょ。本当に凄いね、休み時間なのにお勉強なんて…凄いよね」


感心するに無視し続けるのが忍びなくなったのか、手塚は短く「別に」と言葉を返した。
短いながらも手塚が言葉を返したのが嬉しかったのか、彼女は益々笑顔を輝かせて手塚に言葉を返す。


「でも凄いね。私は遊ぶの好きだけど…お勉強はちょっと苦手なんだもん」


照れ笑いを浮かべては、黙ったままの手塚にそう言葉を紡ぐ。



それからも一方的に言葉を話す
彼女は思い出したように「あっ」と小さな声を漏らすと、唐突に自己紹介を始めた。


「私の名前は…だよ。あなたのなまえは、なぁに?」


無邪気な笑顔で尋ねるにつられる様に、手塚は思わず言葉を返していた。


「手塚…手塚国光…」

「てづか…くにみつ君?じゃー国さんだね」


手塚の手を取ってはにっこり笑ってそう言った。
しかも、あだ名なのか…手塚の了承も無く“国さん”呼ばわりである。
当然の事ながら…言われた手塚は、困惑気味にの顔を見る。


だけどは相変わらずニコニコと嬉しそうに笑っていた。
手塚はそんなに(楽しそうだが…どうしたものだろう?)と思い、少し気が引けたが「どうして俺が“国さん”なるんだ?」とに言う。
言葉の裏には、“何故そんなに親しげなんだ?”という疑問も含まれては居るのだが、には知るよしも無いので、不思議そうな目で手塚を見るばかり。



そして…。

「だってお友達になるには、自己紹介って大事なんだよ」

目をキョトンとさせて彼女は言う。
まったくもって意志の疎通の出来ないに、手塚は小さくため息を吐く。


「呼び方は兎も角だ…取りあえず自己紹介は分かったが。俺にも拒否権も有る…断られる場合だって有る。それは考えていないのか?」

「そっか。そこまで考えてなかったよ」


ヘラリと笑っては短い言葉を紡いだと思うと、なにやら悩み始めた。
突然悩み始めたに、(言ってはいけない事を言ってしまったのか?)と少し後悔した。
後悔している手塚の心情など知らないは相変わらず難しい顔で悩んでいる。
そして、悩んでいたは考えがまとまったのか、突然言葉を紡ぎ出した。


「そうだよね。急に友達になってなんて変だよね…ゴメンね私自分の事ばかり考えていたね」


シュンと犬の耳があったら垂れているだろう雰囲気を出しながら、は手塚にそう言った。
手塚は先程まで笑顔が絶えなかったの変化に、慌てて言葉を紡ぎ出した。


「そんな事は無い。ただ…」

「ただ?」

「そんなこと言われた事も無かったから…」


返す手塚の言葉には、畳み掛けるように言葉を放つ。


「じゃー嫌じゃ無い?」

「別に嫌では無い。寧ろ、俺なんかが友達で良いのか…という困惑の方が強い…だから戸惑うんだ」


自嘲気味に紡ぐ言葉に、は不思議そうに手塚を見た。
彼女にとって、何で手塚がこんなにも卑屈になるのか分からない。
だから彼女も戸惑った口調で手塚に聞き返した。


「どうして?私は国さん…えっと手塚くん?」


呼び方に困っているに、(やっぱり悪いことをしたのかもしれない)と思った手塚はやんわりと「先の呼び方で構わないぞ」そう付け加えた。
付け加えた手塚に、はホットした表情を浮かべた。


「そう?じゃぁ国さんで良いんだね」


確認を取るように尋ねるに、手塚は小さく頷きの言葉を促した。
は促されるように、言葉を紡ぎ出した。


「うーん。私と国さんは…全然違うよね。私は勉強あんまり得意じゃないし…難しい事何てサッパリだし…落ち着き何て無い。全然違うけど。違うから、楽しい事も有るよ…同じだったら分からない事とか…分かったりすると思う。だから、“俺なんか”じゃなくて…。私は国さんと友達になりたいと思う」


迷いのない真っ直ぐ紡がれるの言葉は、ストンと手塚の心の中に染み渡る。
そんな事など言われた事の無かった手塚はただの目を真っ直ぐのぞき込む。
も手塚の視線を受け止めながらも、続きの言葉を口にした。


「それに、私は国さんと友達になりたいと思っていたから…声をかけたんだよ」


真っ直ぐな眼差しを向けるに手塚は、なんと言って良いか分からず…取りあえず何か言おうと口を開いた。


「あだ名…思いついたらそれで呼ぶ…」


不器用すぎるそんな言葉にもは、意味を汲み取ったのか…それは分からないけれど、嬉しそうにふわりと笑った。


「うん。それで良いよ。今日から国さんと友達だね」


手塚は差し出された手を掴んだ。
それが、手塚との始まり…。
それは本当に懐かしい記憶の一コマだった。






サワサワとカーテンを撫でる風。
ふわりと香る新緑の匂いに微睡む意識。

心地よい、夢見後心地の微睡み。

懐かしい記憶の流れる…空間。

そんな中に手塚は居た。
どれだけ、そうしていたのだろう。
手塚は知らず知らずの内に眠っていたらしかった。

夢心地の手塚に、しっかり染みついた幼馴染みの声が聞こえてきた気がした。


「く…に…さ…。国…さん」


遠くで自分の事を呼ばれている感覚に、手塚は重い目蓋をピクリと動かす。
されど、一向に目を開けようとはしなかった。
そんな手塚に、声の主は声を止めることなく気長なくらい彼の名前を呼びつつづけた。

「国さん。国さんてばぁ〜」

軽く揺すられ呼ばれる声は彼のよく知る幼馴染みの声で…手塚は覚醒仕切らない頭でボンヤリと思う。

?…夢の続きか?)

心地よく響くの声が、夢の中で見た懐かしい記憶とリンクして手塚の覚醒を遅らせているようだった。
その所為だろう、彼は開きかけた目蓋をまたゆっくりと閉じようとした。

「ああぁ〜っ。目瞑っちゃ駄目だよ…しっかりしてよ国さん」

慌てた声を上げては、目蓋を降ろしそうな手塚を本人曰く…軽く揺すりながら言葉を紡いだ。
凄い勢いで揺らされる現状に、手塚は流石にたまらない気持ちになったのか、慌てて言葉を紡ぐ。


「起きる…起きたから、頼むから余り揺すらないでくれ


言いながらも目はやっと薄目かと言う程で、手塚は揺すぶる幼馴染みに制止の声をかける。
は、制止の声に従って揺らしていた手を止めた。


「何度も呼んだんだけど…起きて来ないから実力行使しちゃったよ。ゴメンゴメン」

「起きなかった俺にも非が有る訳だからな。気にするな。それより、どうしたんだ?」

「ああ、そうそう。彩菜叔母さんが、“天気も良いし、皆でお花見しましょう”って朝に電話有って…。国さんが呼んでも起きてこないからって私にお鉢が回ってきたって訳さ」

肩を竦めて言うに、手塚は言葉を返す。

「そうか…すまなかったな」

の言葉に手塚は、納得するとすぐに謝罪の言葉を口にする。
そんな相変わらずの調子に戻った手塚に、は「別に気にしてないよ」とかなりあっさりとした口調で言葉を返し、楽しそうに笑う。
そして、何かを思い出したのか小さく笑っては言葉を紡ぐ。


「そんなに謝らなくても良いよ。それに…面白いモノ見れたから私は別に気にしないよ」


片手をヒラヒラさせては、楽しげに手塚に言葉を返した。


「何がだ?」


楽しそうな幼馴染みの様子に、手塚は首を捻りながらに聞き返すが、彼女は少し笑いを漏らした。どうやら、その“楽しかった出来事”とやらを思い出したらしい。
ともあれは、手塚に事の説明を口にした。


「だってね。起こす時に“手塚君”って最初呼んだんだけど…国さん全然反応しなくてね…。“国さん”って昔ながらの呼び方の時だけ反応するんだよ…本当に面白いぐらい反応が違うんだもんね」


ニシシシと何処かの漫画かアニメの犬の笑いの様な笑い方では笑った。
それから、“手塚君って呼び名の方が聞き慣れてるのにさ”って付けたしては笑って手塚に言った。
してやったり顔のの表情に、手塚は少し憮然とした顔をした。
そうしてから手塚は、小さな溜息を一つ吐くとの言葉に反論すべく言葉を紡ぐ。


が“国さん”って呼ぶと譲らないからだろう。身に染みついているモノは仕方が無いだろう」

「何時の話さソレ」

「出会った頃だ」

「そんな事言うなら、国さん何ていつまで経っても“あだ名”つけてくれないじゃない」

呆れ顔でが言えば、手塚は開き直ったように言葉を紡ぐ。

「もう定着しているのだから良いじゃ無いか」

自分たちの言葉が似ている事に手塚とは顔を見合わせる。

「「お互い様か(ね)」」

思わず被る声に、手塚とは顔を見合わせて笑い合った。


すると…

「国光〜。ちゃん…早くいらっしゃい」と言う母彩菜の声が二人の耳に入る。
二人は彩菜に、短くすぐ行く旨を伝えると、彩菜の居る場所に揃って歩き出す。
と並んで歩く…そんな些細な事に、手塚は…。

「やっと戻ってきたんだな…日常が」

と思わず思った言葉を漏らしていた。
が「何?」とふり返る。
そんなに手塚は小さく肩を竦めた後、言葉を紡ぐ。


「いや…気にするな独り言だ」


サラリと言う手塚には「変なの」と小さく笑って、早く来るようにせかす。
手塚はそんな竹を割ったようなあっさりした幼馴染みの気質に、自然と笑みが零れた。
そんな自分に…不意にこんな風に、とのやりとりを見たなら…部活の面々はどう思うのだろう?と言うちょっとした疑問が手塚の中で浮かぶ。


(らしくない…。不二辺りに見られたら…そう言われるだろうな)


自分の本日の行動をふり返り手塚は思った。
そして…学校ではらしくないと言われるであろう、その行動も。
近くて遠い距離に居たとの距離が、本当に昔と戻りつつ有るからだろうと言う気持ちも浮かぶ。


(昔よりも…良い関係が今なら築くことが出来るかもしれないな)


手塚の胸には小さな予感が胸に過ぎりながら、手塚は手招きするを追いかけるように足を踏み出した。



これは…。
空高く青澄み渡る…天気の良い、部活の無い休日のそんなある日の出来事であった。




おわし

2004.5.5. From:Koumi Sunohara




★後書き+言い訳★
『平行する想い…』の続編です。
少々手塚さんが偽物臭いですが…手塚さんです。
えっと…時間軸としては…『平行する想い…』からちょっと経ったぐらいの手塚さんのお話+出会いの回想話ですね。
単品でも読めない事は無いでしょうが、一応続きのお話です。
連載では無くシリーズですので、続編が書かれるか分かりませんが…。
忘れた頃にでも、ポツリポツリと書ければ良いかなぁ〜って思ってます。
ココまでおつき合い頂有り難う御座いました。



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