そよ、ほろり
−貴方と離れた初めての秋−




何時から側に居ただろう。気がつけば空気の様に…当たり前の存在だった。
それだけが、ハッキリと言えること。

手塚国光と私の関係は、つかず離れず…無いモノをお互いが分け合える関係だったと思う。少なくとも、私はそう思っていた。

友人であり…兄のようで…時には少し頼り気無い所も見せる…大事な存在。
血の分けた関係じゃないけれど、その微妙な距離が心地よくて…それが当たり前だった。

何時までも終わることのしれない、時間。
まるでネバーランドでピーターパンと過ごしたウエンディーの気持ちはこうだったのかもしれない。
何とも詩人の様ならしくない感情が何処からともなく溢れてくる。


鮮やかな花の雨が降った日から、気がつけば木の葉がハラリと舞う秋。
巡る季節は無情に進むのが早い。

季節が巡ってゆくのだから、勿論…国さんと離れた時間を指していて…寂しくないと言うのは嘘になる。
色んなモノを背負い込んだその背中に、なんどしがみつきたくなったか…数え上げればキリがない。

でもね…それはしなかった。
滅多に我が儘の言わない…国さんの…私に言った初めての望み。

私という存在が関わらないだけで得られる願い。
例えば自分が辛くとも、今まで私の我が儘につき合ってくれた大事な幼馴染みの願いなのだから…叶えてあげるのが、今まで苦労をかけた労いになるんだろうと思うから…私は自分の気持ちを一生懸命に押し込めた。

その度に自分に魔法の様に言い聞かせる。

(大丈夫…大丈夫私は一人だって立っていられるんだから)

深呼吸を吐き、緊張を解く魔法の言葉のように何度も何度も繰り返す。
思いこめば以外に何とかなるもので、騙し騙しの様に自分に言い聞かす。

だけど不意に、一生懸命に封印していた思いが綻びを生むときもある。
今も平気になった筈なのに、知らず知らずに溜め息が出る。

(秋だから切なくなるのだよ…そうに決まってる)

何度目とも知れない溜め息を吐いた時、頭の上に影が出来た。

「何〜ちゃん元気印が元気無いんじゃないの?」

友人が不意に声をかけてくる。

「本当だ元気娘…具合悪いのか?それとも腹減って元気無いのか?チョコやるぞ食えよ」

クラスメートの男子もそんな言葉を好き勝手に口々に言う。

(私ってそんなにお腹が減ると元気ないのかな?)

元気づけの言葉が何だか、くすぐったい。

「お腹は減ってないよ。よく分からないけど何だか切ない気分なんだよ」

少し眉間に皺を寄せてそう言うと、聞いていた面々は少し考えた後優しい笑顔をくれた。

「まぁ何だ、秋だしな」

そう言って肩を叩いて、クラスメートその一の男子はチョコを机に置いた。

「秋だから切なくなるんだよ。哀愁って言う奴だよ…もソレを分かる年になったってことだね」

ヨシヨシと頭を撫でる、友人。
たまたま通りかかった教科担任まで「切なくなった分、食欲の秋で解消すれば良いって。青春だな」などと謎の言葉を紡ぐ。

そんな私を気遣う優しさに、私は呟くように言葉を零す。

「成る程…秋だからか」

私のその謎の納得に、彼らも「そうそう秋だから」と口にしたのだった。
私は本当は、違うのも分かっていたけれど…皆の優しいその言葉で…切なさも秋の所為に出来るような気がした。


そう…秋だから切なくなるんだ

だけど…悲しい季節は何時しか巡る

冬が来て…全てを雪で覆い隠して…

別れた日とは違うあの春がくる

そうして季節は巡るのだから

そよそよと…吹く風に少し涙がホロリと落ちても



少なくとも今は、賑やかで…少し心配性なクラスメート達に囲まれている事に感謝したいと思う。

おわし

2006.6.8. From:Koumi Sunohara


★後書き+言い訳★
手塚夢駄文シリーズより点と線と交わりの行方。
中心のお話より少々前1年時の話です。
決別して…未だ吹っ切れないさんの心情って所です。
何となくクラスメート達の暖かさを書きたかっただけかも。
ひとまず楽しんで頂けたら幸いです。


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