クリスマスと幼心  

吐く息も白く、頬に当たる風もひんやりとした鋭さを感じる。暦の上では、とっくに冬で…つい最近まで、木々に色づいていた紅葉がハラリハラリと散ってゆき、木々に残るの葉は少し物悲しく見える。

しかしながら、北の地方では無く…比較的真ん中に属するこの土地では、冬と言えどもそうそう雪が降ることは珍しいで、冬=雪と言うのがあまり当てはまらない。

秋の延長線上の様な、寒さで冬?と言うのが割と当たり前の様になっている。

けれども、街を歩けば…すっかり年末に向けて動き出している。

響く音色はクリスマスソングにそれに準ずる、冬の歌。ショーケースやディスプレイはすっかり赤や緑…トナカイやサンタにもみの木という、クリスマスに向けた装い。

街路樹には、イルミネーションの為の電飾が施されて…雪が無くて冬のイメージが薄くても、否がおうでも冬であることを猛アピールされているようだった。

(クリスマスか…正直日本人にはあまり関係の無い行事よね)

彩られる街並みを見ながら、はしみじみとそう思う。

別段敬虔なクリスチャンで無ければ、キリスト教圏内だとか…学校の支持している宗教がキリスト教でも無いにとって、クリスマスは…何となくケーキを食べたり…親からプレゼントをもらえる日ぐらいにしか感じていなかった。

日本のお菓子メーカや企業に乗せられる感じで、ただクリスマスという行事と言う認識だったりする。

元来、お祭りや行事ごとが好きな日本人の手典型であるの家でも、何となくクリスマスツリーを飾り、某チキンメーカーの鶏肉とクリスマスケーキを囲む。

そして、もうすぐ大晦日だと思うのである。

最近は日本でも海外のクリスマスを模して、クリスマス市を公園や広場で行われていたりする様子が益々、クリスマスのムードを一層盛り上げる。

シナモンやクローブなどのスパイスの香りがクリスマス市の屋台の中から漂い。砂糖がけしたナッツの香ばしい匂いが、の鼻をそのクリスマス市に誘いをかける。

(焼き芋の屋台もそうだけど…ここまで、芳しい匂いだと気になっちゃうよね)

然程クリスマスに浮かれないであるが、美味しそうな香りと賑やかな屋台に誘われるようにその足を向けた。

そこには、意外にもけばけばしく無い松ぼっくりや木の実で作られたリースや、レンガの家を模して作った様なお香をたく用器…ドライフルーツが沢山使われた少し硬そうなお菓子に、ジンジャーマンクッキーなどが置かれていた。

若干、馴染みの赤や緑のクリスマスカラーと思わしき商品もあったが、何気に地味な様子には少しだけ、(海外のクリスマスは実はそんなに派手では無いのかな?)と言う気分になった。

(意外に日本のおまつりの出店感覚なのかもしれないよねでも、サンタクロースの格好をした、外国の人物が杖を持ち鈴の音を鳴らしながら、小さな子供にお菓子をあげている様子がまた、日本の雰囲気を減らしている要因の一つなのかもしれない。)

キョロキョロと、辺りに目をやりながらはクリスマス市の様子を眺める。

様々な人間模様やクリスマスの雰囲気を何となく感じながら、歩くの目の前に少し変わったものが目に入った。

(ん?カレンダー?)

クリスマスのイラストが描かれていて薄めの紙の箱に、カレンダーの様に数字を描いてあり、日付の様な場所が穴が開きそうな点線が描かれている。

(クリスマス限定のカレンダー?)

思わず手に取り、眺めると店員さんから声がかかる。

「アドベントカレンダーと言いましてね、クリスマスまで1っ個づつ窓をあけていくカレンダーなんですよ。ちなみに、お客さんが手に取られてるのはオーナメントが出てくるタイプのものですよ」

「へー。おまけつき日めくりみたいな感じなんですね」

「簡単に言うとそうですね。他にもチョコレートやお菓子が出てくるものもあるんですよ。子供も喜びますが、案外大人がはまったりするんですよ。お試しにお一つ如何ですか?」

(確かに面白いかもしれない)

「じゃ…買っていこうかな」

は、店員の言葉に促されるようにアドベントカレンダーを手に取ると購入したのである。


その後、ぶらぶらと街を歩いた後、は幼馴染の家に足を向けた。
THE日本家屋の幼馴染殿の家に、勝手知ったる何とやらで颯爽とお邪魔する。

クリスマス市で買った、ナッツやお菓子を真田家の御台所に渡したは、自室に居ると言う真田弦一郎の部屋に向かった。

コンコンと軽くノックをすると、すぐに真田から声が返ってくる。

「寒いだろう。入ると良い」

「有難う弦一郎、相変わらず気がきくね」

そう言いながら、は真田の部屋に入る。

「何処か寄って来たのか?」

親が子供に出先の出来事を聞く様な調子で、真田はにそう尋ねる。
の方も、このやりとりが何時もの事なので気にした様子も無く、クリスマス市に寄った事や子供におやつを配るサンタの事、そしてアドベントカレンダーの事を真田に話す。

「でね。これが、アドベントカレンダーなんだ。弦一郎の分もあるんだよ。何だか楽しそうじゃない?」

指を指して、そう言うに真田は眉間に少し寄せた。

は、いまいち良い反応を見せない真田に言葉を紡ぐ。

「毎日、一つづつ開けるんだから、変わった日めくりだと思えばいいじゃない?」

「そう言うなら、わざわざそれを買わんでも日めくりを使えば良いであろう」

「それを言ったら元もこも無でしょ。いいじゃない、たまに童心に帰ってワクワクしながらクリスマスを待つのも大事じゃない?」

「別に、童心に帰る必要も無い。寧ろ、日本人にはクリスマスは関係無かろう」

きっぱり、すっぱり言い切る幼馴染み殿には、少し肩を竦める。

「本当に弦一郎は、夢が無な〜。若い内にイマジネーションとか夢とか希望を沢山無と豊かな感性を持つ大人になれないよ。それに、クリスマスにどんちゃん騒ぎをしろって言ってないじゃない。少しぐらい楽しまなきゃだよ」

「うむ。だが、しかし」

言い澱み、色良い返事をしない真田にが押しの一言を紡ぎ出す。

「サンタの恰好しろとか、トナカイの被り物をしろとか。弦一郎の家に電飾つけろとか言ってるんじゃなくて、アドベントカレンダーを買って、楽しみましょうと言ってるんだよ。そのくらい許容範囲だと思うけど」

「ふむ」

「まぁ…弦一郎の分も買っちゃったし勿体ないからさ。ちゃーんと使ってよね」

半ば強引にアドベントカレンダーを渡し、突き返される前には去った。

(意外に律儀だから弦一郎絶対捨てないよね多分…)

そんな事を思いつつ、クリスマス気分を半ば強制的におそ分けしたであった。

後日、律儀に一つづつ、カレンダーの中身を窓際に飾り、何気に嵌まってしまっ た幼馴染み殿がいたりするのである。


おわし


2010.1.31.(WEB拍手掲載日:2010.12.15.〜)From:KoumiSunohara

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