多少の熱や…具合が悪くても、人は頑張らねば成らない時も有る。
それは、テストや会社での会議や…仕事だったり様々な局面なら尚のこと。
そんな時…大人は良く、子供はすぐに休めて気楽だとか…。
大変な想いなど無いと言う人が多い。
だけど、子供だって色々有るのは分かって欲しい。
−リストラに不景気…混沌とした社会情勢−
このご時世だから、大人も色々大変だと思うけど…。
子供だって結構大変。
友達関係も大人程と言わなくても大変だ。
それより大変なのは事あるごとに競わされたり…試験試験と試験三昧やら受験戦争とか…。
子供子供なりに大変なのだ。
ちなみに私コトの通う立海大も受験という名ではないけれど…進学試験なるものが存在する。
まぁ私立の学校だから、外部受験者より楽と言えば楽だけど…今後のことも考えれば、真面目にやっておかねば自分に苦労がかかるので、多少の体の不調でも無闇に学校を休む事も出来ない。
それに仮にも受験生と言うポジションな訳で、否応なく学校を休むわけにいかないのも有るけれど。
まぁ成績に余裕が有ったり、学校を生活を捨てている人なら気にすることも無いかもしれないけれど…。
どちらとも言いにくい立場の私は、真面目に学校に行ってる。
(有る意味他の学友に風邪を移す危険性が有るので、休む事の方が良いと思うけどね)
なーんて分かっているけれど、私は学校に取りあえず居たりする。
取りあえずって言うのは、頭はサッパリ動かず…ただ授業を聞いているだけだから。
ここで察しの良い方はお分かりだろうが、私の体調は非常によろしくない。
寧ろぜ不調だし…38℃前後の熱に浮かされていたりする。
こんな調子なので、あんまり効率的な事とは思えないが…辛い体に鞭打って、何とか粘った午後の授業。
これを越えれば、先生の話のHRを残すばかり。
気力も後わずか。
気分は街を目の前にして、薬草+MPもHPも限界ギリギリのロールプレイングの勇者の気分。
そんな崖っぷち状態の私に与えられた、最終試練は…凄まじく眠くなると言う…古典の授業だった。
(これは何かの陰謀だろうか?)
私は縦書きに黒板に文字を埋める教師に、理不尽にもそんな事を思う。
普段なら大して気にならないが、体の調子が宜しくない私にはこのラストの授業はかなり辛かった。
だがノートだけでも(頭で理解していないので)とらねばと思い、黙々とノートに文字を書き綴る。
その時だった…。
「グホ…グホ…」
くぐもったと言うか、咳を無理矢理止めた時の様な音が私の耳に入った。
それは酷く辛そうな音で(気にせずに咳き込めば良いのに…)と内心思いながら私は、黙々と白い余白を埋めてゆく。
耳では咳のような音を辿りながら、
すると「ゲホ…ゲホ…」と再度先程の咳き込むような音が、先ほどより鮮明に耳に入る。
気にしても仕方がない事なのだけど、咳という音は…やはり気になる訳で、私は耳を澄ます。
そこで気が付くのは、音の発生源は割と近いと言うことで…。
(えっと…隣から聞こえるのかな?)
そう思った私は、取りあえず右隣に視線を向ける。
だが視線を向けた先では、何とも気持ちよさそうに眠る学友の姿だけ。
イビキも無く、規則正しい寝息が微かに聞こえる程度。
私が聞き取った、咳き込む様な音では無かった。
(聞き間違いか…はたまた、のど飴かトローチでも食べて納めたのかな?)
そう思って巡らせた視線の先には、世にも珍しい姿が映る。
真田弦一朗氏が咳き込んでいる姿だった。
否…咳き込んでいると言うのは正しくないかもしれない…。
何故なら彼は、次から次から出てくる咳を懸命に止めようとしているからだ。
その為に止めどなく出る咳を必死に止めようと、悪戦苦闘しているようで…普段よりも当社比1.5倍ぐらい眉間の皺が深い様に私には見えた。
普段では考えられない、余りにも苦しそうな姿に見ている私の方が辛い気分に陥る。
(声をかけたら…迷惑かな?むしろ授業中に話しかけるな!って怒られるかな?)
ぼんやり思いながら、真田氏を眺めると本当に苦しそうだった。
そんな観察の間にも真田氏の眉間は苦しげに寄るばかり。
私は意を決して、真田氏に伝える為にメモ紙を一枚ちぎり筆を走らす。
「トローチなら結構効くと思うけど…要る?」
私は、そう書いて真田氏に渡す。
不意に渡された紙と私を見比べ…真田氏は、しばらく渋い顔で紙を見つめた。
何かを思いついたのか、手元も見ずに筆を走らせる真田氏。
顔はあくまで黒板に向いているのに、筆を走らせるスピードはなかなか素早かったし、私の元に投げて寄こすのも勿論手早い。
返事など期待していなかった私は、少し驚きながらも…真田氏からの返事の紙をそっーと開いた。
「トローチは医療品だ、無闇に服用するのは頂けん。第一授業中は飲食は禁止されている筈だ」
受けとった紙には、そんな内容。
古くさいと言うか…融通が利かないと言うか…正論と言えば正論な答え。
だけど、真田氏自身にも余裕が無いのか…医療品と言いながら…飲食と書いてある。
(医療品なら…服用では?)
そんな素朴と言うか…どうでも良い疑問が浮かびつつ、隣をチラリと眺めれば…苦しそうに咳を耐える真田氏の姿。
「そんな事言っている場合じゃ無いでしょ。辛そうだよ。医薬品が駄目ならのど飴も有るけど」
私は再び言葉をそんな言葉を書き添えると、真田氏の机にそっと置く。
戻ってきたのは、綺麗に折りたたまれた新しいメモ用紙。
私はそのメモ用紙を開いて中身を覗く。
「だから飲食は禁止だと言っておろうが。気遣いは有り難いが今は真面目に授業を受けるべきだ」
(はぁ〜っ。…やっぱり…其処にこだわるのね)
真田氏の手紙を見て、思わず漏れる小さな溜息。
(私自身も体の調子が宜しくないからかもしれないけれど、本当に堅い…。寧ろ咳で授業どころじゃ無いのではないのかな…)私はそんな妙な気遣いが浮かぶ。
我ながらお節介だと思いながらも、(ココは強制的にのど飴でもなんでも良いから、真田氏に食べてもらおう!)そう考えると私は…ゴソゴソ漁るペンケースの中から、目当てのモノを探す。
しかし…こういった時ばかり、目当てのものは出てこない。
イライラしながら漁れば、小さな飴の包みが指先を掠める。
掠めた包みをペンケースから救出する私。
やっとの思いで見つけた飴を手元に寄せておき、一息つくまま無く私は、次の作業に移る。
「先生方も飴くれるんだから、問題無いって。寧ろ咳きこむ方が気になると思う。だから、良いから人の好意は黙って受け取るもんだよ」
そう一方的な文章と共に先程探し当てた飴をセットに、真田氏の机にポイと投げ入れる。
コトリと言う小さな音を発てて、無事に包みは真田氏の机に乗っかった。
真田氏は大分筆談になれたのか、馴れた手つきで包みを開く。
すると、手紙以外の物が混入されている事に気が付くと…。
「どういう事だ」と言いた気に真田氏がギロリと此方を見てくる。
その眼力に少なからず怯みながらも、私は「良いから食べろ!」と目チカラ込めて、真田氏を見返した。
勿論内心は、今度こそ怒られるとドキドキもので…。
私の不安を余所に真田氏は諦めたような表情で、私を見たが…仕方が無さそうに飴を口に投げ入れる。
真田氏が私から受け取ったのど飴を食べるのを見届けた私は(よしよし。ちゃんと食べたね…これで取りあえず)何だかホッとした。
が…不意に目の前の視界が歪んだのだ。
(あっ…ヤバイぞ…意識遠のいて来た…)
そう瞬間的に思った時だった…。
「オイ……」
慌てたように聞こえる真田氏の声。
だけども私の意識は何だか混濁としてきて…。
沈み行く意識の中、真田氏の声は凄く遠くに聞こえた。
それでも真田氏の方を眺めてみれば、グワングワン何重にも見える真田氏の姿。
(ハハハハ…真田氏が分裂して見える〜っ)
その思いを境に私は意識を手放したのだった。
どうやって帰ってきたのか、良く分からないが…私は何やら無事に自宅に居るらしかった。
らしいと言うのは、まだ意識は曖昧で視界もぼんやりと霞みかかっているので…何となくの見解なのだが。
兎にも角にも私は、(後で思うと凄い事をしたと我ながら思うけど、真田氏も普通の人ぽい所も有るんだと思うと何だか身近な人の様に思える)と呑気に思っていた。
(まず風邪をしっかり治さねば…)
保健室では味合う事の出来無い…ぬくぬくとした、布団に埋もれながら私は心底そう思った。
復帰後…真田氏に保健室に運ばれた奴と言う事で、色々厄介事に巻き込まれるとは…。
この時の私は露とも想像していなかったである。
END
2004.3.9. From:Koumi Sunohara
★後書きと言う名の言い訳★ 夢では初書きの真田さん…反省点ばかり目立つ気がします。 どうにも真田さん要素が薄い様な…そんな気がするんですが…どうなのでしょうね。 弱っている真田さんは、あり得ないのかな?とか、色々考えたのですが…真田さんも人間ですから、きっと風邪ぐらい…と思いまして書いたんですけどね。 丈夫そうですしね…やっぱり風邪じゃなく花粉症とかにすれば良かったかなぁ〜。 えっと兎も角、最後まで弱気で…煮え切ってない感じの私の話しでたが、楽しんで頂ければ幸いです。 |
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