特効薬?
薄々何か不味い感じの病気にかかったのでは?と思う所は何度かあった。
病院の薬が中々効きにくいとか…薬を飲んでいる割に、体調が一向によくならないとか…。
でも少しダルイぐらいであったし、手洗いうがいに、マスクはデフォルトで…心配性な幼馴染が何処ぞで仕入れたのか、首からかけるタイプのウイルスブロックする代物を渡されて付けていたし、ビタミンのサプリメントも…睡眠もとるように心がけていた。
唯一懸念材料は、予防接種を体調不要で受けれなかった事位。
徳川家康もビックリな程健康に気を使う学生は、ちょいと探してもなかなか見つからないと私は思う。
前ふりはさておき…とどのつまり…インフルエンザーに見事にかかったのである。
しかもB型。
メジャーな型じゃない所がまた何とも言い難い雰囲気を醸しだす。
朝目が覚めると、若干の腰の痛みと咳が止まらず、いよいよ質の悪い風邪かな?
ぐらいに思っていたわけで、熱が出て辛い時に比べるとかなり動けるので、かなり気軽気持ちで、体温計で熱を測った。
すると、どっこいどうしたもんだ…熱が40度も出てるのである。
(はぁ?嘘でしょ)
思わず、電源を落としもう一度。
pipipipiと機械音が。
ソロリと目を向けるが、現実は変わらない。
表示温度は40度。
人は向き合いたくない現実にブチ当たった時、現実逃避をするというのはそのもので…私は思わず遠い目をした。
(抜かりはなかったはず…異常な程頑張った…多分。切原みたいに手洗いしないでご飯も食べてないし…大好きな魚介類も避けて、体調に気を使ったのに…何故)
グルグルと回るのはそんな自分の行動。
「、熱高いならインフルエンザーの検査受けてきなさいよ」
固まる私に母は冷静にそう言った。
弱っちい私の母の筈なのに、私の父母はかなり丈夫な人達だ。
風邪も年に数回引くかひかない程度、インフルエンザーとは無縁なお人である。
そんな健康遺伝子を引き継いでいる筈なのに、私は何故だか体があまり丈夫では無い。
小説に出てくる薄幸美少女の様に、運動が出来ないとか…持病持ちとかでは無い、運動はできるが体力は無い…風邪が引きやすく…普通の人より体が弱い…顔も普通の一般人である。
幼馴染は強靭な精神力と健康体を持つ弦一郎だけど。
「十中八九、の場合はインフルエンザーとみたね」
「ちょいと、母さん。そんな言い草」
「ん?何年貴方の母やってると思ってるの?絶対インフルエンザーよ」
「どっきぱり言う?」
「言う。弦一郎君だって絶対そういうに決まってるわよ。そうそう、移したら困るからちゃんとメールか電話で、伝えておきなさいね」
はっきりキッパリ言う母に私は言い返す言葉が見当たらなかった。
(体中の痛みといい…まぁ…母の言うとおりなんだけどさ…きっと)
働かない頭で弦一郎にメールを打つ。
ほどなくして返ってきた返事は想像通りのお言葉だった。
『まったくもってたるんどる』
一行目にそのお言葉、その後は小言のように紡がれ、最後は病院にちゃっと行くようにと締めくくられていた。
全身を襲う激痛と、働かない頭…今なら軽く人にぶつかっただけで、転倒できる気がするぐらい体は正直弱っていた。
(何時もの比じゃない…確実にインフルエンザーのフラグ確定だよね)
そんな弱る体に鞭打って、せせっと向かった病院は…これまた大賑わい。
マスクの集団に、私並にゾンビ状態の患者がワンサカ溢れている。
受付のお姉さんもマスク着用だけど…正直自分がこの職場だったら…インフルに一発でやられる自信しかない。
問診表を書き、再度熱を測り…朦朧となる意識の中で順番を待つ。
マナーモードにしている携帯が震え、とりあえずノロノロと画面を覗き込む。
『インフル確定かな?蓮二が青学に居る旧友から素敵な特効薬を貰ってくれるらしいから、弦一郎に渡しておくから安心しなよ』
弦一郎にしか言っていなかった情報が、何故か不吉な雰囲気溢れる文章と共に幸村から届く。
(魔王…千里眼もっとる)
RPGのラスボスよろしく、君臨する幸村とその横に居る参謀を思い浮かべ、私は思わず身震いがした。
(余計熱上がりそうなんだけど…)
ゾクゾクする背中に私は、インフルエンザーより悪寒がひどいのは気のせいではないと断言できた。
鼻に綿棒のような紙縒りのような細いものを入れられ、待つこと30分。
医師は驚くわけでもなく、静かに宣告を告げる。
「インフルエンザーですね。B型の。新型じゃなくてよかったですよ。リレンザと抗生物質出しときますね」
「はぁ」
「熱が下がって3日ぐらい過ぎたら、学校行って大丈夫ですから。そうそう、具合悪くなったらすぐにきてくださいね」
そう医師に言われた私は、病室の個室で用意されていた薬をもらい、会計をすませまた、フラフラになりながら帰路に着いた。
(まさかまさかのインフルエンザー…絶対弦一郎のお小言が…)
未だに思考回路が定まらない状況の中で、私はそんな事をぼんやりと思う。
(怠いけど…一応、メール入れといた方が良いよね)
何気なく心配性な幼馴染を思い出して、気怠さの中でメールを打つ。
ガラ携からスマフォになったことで苦戦しながらも、メールを送信した私はあることに気付く。
(音声認識で、簡単にメール送れるって店員さん言ってたような)
薄らぼんやりとそんな事を思うが、やっぱり熱に浮かされた頭では判断が難しい。
ご飯が食べれる気にならないが、ひとまずエネルギーチャージのできるゼリーを胃に入れて、医者から処方された薬を服用していく。
吸引式のリレンザに若干苦戦しながらも、なんとか服用し水分補給をして少しベットに横になろうかと思った矢先に、着信がなる。
(着信…誰よ?)
ぼんやりとする頭で、ディスプレイを眺めると見慣れた字が浮かび上がる。
(弦一郎か…魔王様では無いね)
幼馴染の名前に安心しつつ、でも何処かで不安に感じながらも私は電話に出る。
「もしもし…」
「やっぱりインフルエンザーだったね」
「ま…(魔王様)幸村?」
「ふふふ。吃驚した?電話を拝借してかけてみたよ」
「いやいや。個人情報の塊だからねソレ」
熱に浮かされる私にそんな事を言われているが、おそらく幸村は特に気にしないだろうと思う。
実際…。
「相手、だよ。守秘義務なものなんてないだろ?」
「はぁ…」
「兎も角。特効薬をこれから弦一郎に持たせるからちゃんと家に入れてやるんだよ」
「ちょ…幸村。さすがに弦一郎だって移るでしょ」
「ん?と違って移らないよ。予防接種もしてるし…相手は弦一郎だ。心配ないよ」
何処からくる自信なのか、幸村はそう言い切る。
「いやいや。テニス部に支障があるとかあるでしょ」
「ふふふ。弦一郎一人居ないだけで、ウチが負けるとでも思ってるの?」
「負けないだろうけど…もう少し、弦一郎を大事にだね」
「大事にしてるよ。ジャッカルより断然にね…まぁ弦一郎の頭痛の種はと赤也だしね。ふふふ」
「えっと…いろいろスイマセン。インフルでHP減ってるのでMPまで削らないで下さい」
「そう思うなら言うことを素直に聞けばいいんだよ」
そう言葉を占めて幸村は私との電話を終了させた。
(弦一郎…オージンジオージンジに電話しないと。と言うか苦労人だよね何気に)
幸村と弦一郎の起こったであろうやり取りを思い浮かべて私は心底そう感じずにはいられなかった。
MPをガリガリ削った後、薬が効いた私はぐっすりと寝入った。
気が付けば、ベットの傍で弦一郎が文庫本を片手に其処にいた。
「ん?目が覚めたか」
「…おはよう弦一郎」
掠れた声でそう返すと、弦一郎は少し眉を寄せて言葉を紡ぐ。
「無理して声を出す必要は無い」
その言葉に、私は小さく頷いた。
「たるんどる…と言ったが…インフルエンザーは仕方がない。熱が高くて辛かっただろう」
頭をクシャリと撫でながら弦一郎はそういう。
「なんかごめんね」
「が体調が悪くなるのは仕方がないし、残念ながら慣れている」
「返す言葉がないです」
返す私に弦一郎は、おもむろに一つのタンブラーを私に渡した。
「蓮二からよく効くスペシャルドリンクを渡されたから飲むといい」
弦一郎に言われた私はソレを受け取る。
(もしや…魔王様の言っていた…特効薬?)
私の心の声が漏れていたのか、弦一郎は小さく頷く。
「精市がに必ず渡すようにと言付かっているし、に説明済みだと言っていたが」
「あ…うん。まぁね…でも何かすごく嫌な予感がするんだけど…」
「蓮二が言うのだから効き目はあると思うのだが…無理なら止めておくか?体も弱っているしな」
「いや…色々後から死亡フラグが立ちそうだから飲むよ。それに、これ以上弦一郎に迷惑はかけられないよ」
私はそう言うと、手渡されたタンブラーの中身を一気にあおった。
予感通りというか、不味さの先の向こう側に見事到達した私は飲みきった後に意識を失った。
かすかに弦一郎の心配する声を聴きながら。
後日…見舞いに来た弦一郎はその後もインフルエンザにかからず…熱も出ず…。
そして…。
“最終兵器汁”的な何かのお陰か、何時もより回復が早かったのは笑えない事実である。
おわし
2014.5.13. From:Koumi Sunohara