別れは予想不可能なものです
最近携帯電話の調子がすこぶる悪い。
スライド式の携帯を使っているのだが、最近やけに画面が揺れるし、突然画面が真っ黒になる。
(いよいよ駄目なのかな?)
そんな事を思いながら、使っている年数を考えて首を傾げる。
(まだ2年経ってないけど…)
精密機械並みにテクノロジーを持った携帯故に、おそらく耐久はそんなによくないであろうが2年の寿命はどうだろうかと思う。
第一、落としたり…水濡れしたりした訳では無いから尚更。まぁ機械の当たり外れはあるのだからしょうがないと言えなくは無いけれど、何とも口惜し気もする。
(携帯のバッテリーも無料で新しいのに代えたばかりなのに…)
携帯を見ながら恨めしく思う。
(でもなぁ〜携帯にあまりなれてないし…私の使い方が悪いだけかもしれないから…一度弦一郎に相談してみようかな?)
古めかしい思考の割に、メカに意外と強い幼馴染を思い浮かべて私は、不調気味の携帯電話を片手に真田家を目指したのである。
強豪テニス部に所属する我が幼馴染殿は結構忙しい。
勝って知ったる他人の家で私は叔母さんと談笑をしながら弦一郎の帰りをまった。
弦一郎の着替えやらなにやらを待った後、携帯が不調である旨を説明し自分の携帯を弦一郎にあずけた私は、弦一郎の言葉をじーっ待っていた。
「時に」
「ん?何」
「データのバックアップはとっておろうな」
真顔で言う弦一郎に私は固まった。
(バックアップなんてしてない…そもそも何処にバックアップするのかも解らないし)
冷や汗をかきながら私は固まった。
「その様子から察するにバックアップ事態解らない上に仕方も解らんようだな」
呆れた口調で言う弦一郎に私は返す言葉が見つからなかった。
「まったく、今時の女子は携帯を使い方こなしたりしていると言うのに弛んどる」
「いやー。返す言葉も御座いません」
ヘコへコと頭を下げながら私はそう返す。
弦一郎は溜め息一つ吐いて私の携帯に手を伸ばした。スライドタイプの携帯を迷う事無く操作する弦一郎に私は尊敬の眼差しを向けた。
「、説明書を読めば大抵出来るぞ」
「いや。出来ないからこうなんだけど」
苦笑を浮かべてそう返せば、弦一郎は少し眉をしかめた。
「全ての機能を覚えろとは言わんがバックアップぐらいは覚えておけ」
大きく溜め息を吐きながらそう言うと、手早く弦一郎は携帯の操作を終えた。素晴らしい手際である。
「、バックアップは終わったが。恐らくその携帯は寿命だと思うぞ」
「うっ…やっぱり?」
「ああ。修理で治るレベルでは無いな」
「何で?私は大事に使ってたと思うけど」
「大事に使っていたとしても、機械にしても道具にしても当たり外れはあるんだから仕方なかろう」
「でもねぇー、修理の保障パックに入っているのに買い換えするの?携帯だって安く無いんだしさ」
「確かに、親の庇護下にいるから分からん訳では無いが、無駄遣いをしている訳では無いから其ぐらい許してもらえるだろ」
「まぁね。んーでも最近普通の携帯少ないしなぁ」
弦一郎の言葉に私は返してもらった携帯を見てそう返した。
そう今日の携帯事情は主力がスマートフォンの時代になってきており、携帯の機種がめっきり減ってきたのである。機械がただでさえ苦手な私は、携帯だってこの通りもて余しているのに正直、スマートフォンを使える自信が無い。
(電話とメール出来れば良いじゃない)
本当に心底そう思う。
もしかしたら、中高年の皆様の方が私より使いこなしている可能性が高い。弦一郎のお爺ちゃんは携帯で色々使っているらしい。正直本当に負けている私である。
(ああ何か考えているだけで悲しくなってきた…)
どうでも良い事で落ち込む私に我が幼馴染み殿が口を開く。
「俺は携帯屋の店員では無いから見立て間違いもあるやも知れない。ちゃんと見て貰い判断を仰ぐべきだと思うぞ」
「そうだよね。ここでガタガタ言ったところで仕方が無いよね」
私はそう言った。
「ああ。携帯ショップには俺も付き合おう」
「ゴメン、忙しいのにさ」「構わん(恐らく、俺が使い方を覚える事になるからな…見た方が早い)」
弦一郎の有難い申し出に私は有り難く付き合ってもらう事にしたのである。
後日―
バックアップをとり、弦一郎の予定があう日を定めて、遂に弦一郎と携帯の契約者である父と共に携帯ショップへ足を向けることにした。
ショップの店員さんに例の携帯を渡し判断を仰ぐ。
判断を仰ぐ間、私達は展示されている携帯を見て回った。やはりと言うか、ほとんど携帯が無くスマートフォンが棚を埋めている。
(やっぱり…シニア向け携帯しかないか…)
眺めながらそんな事を思いながら、私は店員さんに呼ばれカウンターに足を向けたのである。
「治るかの確証がありませんね。アフターサービスを利用しても差額がでると思いますし、ポイントもありますし、どうでしょうコレを気に機種変更されることをオススメします」
素敵に営業スマイルを浮かべた店員さんを見た私は呆然とした。
店員さんに告げられた私はさぞ悲壮感溢れる顔をしていたに違いない。
そんな私に弦一郎はほら見た事かといった表情で私を見た。
(ああどうしょう。らくらくフォンとか簡単携帯かないよいよ…)
弦一郎の表情を見た私は正直そんな風に思った。
そんな私の気持ちなど分かるはずの無い店員さんは、相変わらずのスマイルで言葉を紡ぐ。
「機種変更をするとしたら、ご希望はどのようなものをごしょうもうですか?」
希望の機種について聞かれた私は間髪入れずにこう告げた。
「メールと電話。まぁカメラがあればあるで良いて感じで、凄くシンプルな携帯をお願いします。寧ろ簡単携帯で良いです」
キッパリと言い切った私に店員さんは固まった。
「失礼ですが、そちらの父様がご使用でしょうか?」
何故か弦一郎を見ながら店員はそう言葉を紡ぐ。
(そもそも、弦一郎は父じゃないし…)
色々突っ込み処満載のまま、私は首を横に振る。
「いえ私が使います」
はっきりと言うと店員は目を丸くして、慌て言葉を紡いだ。
「娘さんが使うにはシニア向けの携帯は幾分早すぎではないかと思いますよ。第一、最近のスマートフォンも女子向けで簡単に操作出来るものも増えてますから、そちらを考えた方が良いと思います。お安いものもご用意しますから」
凄く必死の形相で店員に言われる私。
(そんなに必死に言われても…使うの私なんだけど…)
あまりの必死な店員に私はしらずしらずに溜め息が漏れる。
私のそんな様子に弦一郎は小声で声をかけてきた。
「の言い分は分かるが、流石にシニア向けはどうかと思う。俺も見ておくから選んではどうだ?」
「でもさぁ〜、弦一郎が居ない時使えないんじゃ不味いでしょ?」
「電話とメールぐらいは使えるようにしてやるから決めてしまえ」
弦一郎に言われた私は、その言葉に頷くしかなかった。
(正直別に携帯いらないんだけどなぁ〜)
などと思いながら、私は弦一郎に言われるがままスマートフォンに機種変更することとなった。
後日、なかなかスマートフォンを使えず凄まじく、シニア向け携帯にすれば良かったと後悔しまくる私であった。
おわし
2012.5.21. From:Koumi Sunohara