アオイトリの在処  

「何が欲しい?」と尋ねたならば、「何でも良い」と返ってくる答え。あれこれ言われても、それはそれで困るけど。「何でも良い」も困りもの。

せめて、どんな感じものが良いとか…好きなジャンルとか…そんなヒントが有れば良いけれど、そういう人間に限ってノーヒント。宝探しにヒントも地図も無い状態で探す様な…そんな感じ。

何と言うか…短い付き合いなら、有る程度気にせずプレゼント出来る。高い物を贈るもよし…気持ちな感じの少し安い物を贈るのも良いし…多少の失敗は許される。

けれども長い付き合いの場合はそうもいかない。縁は意外に続くし、そう易々と付き合いが無くなる訳では無い。

したがって、無難な物をプレゼントしてゆくのだがネタが尽きると言う難点が存在する。長い付き合いでの趣味嗜好を知っているアドバンテージは、案外脆い物だったりするのである。

その主な例としては、母の日のプレゼント。悩んで悩んで、結局毎年…花やエプロンという定番品で落ち着いていくかの如くである。

だからといって、毎年恒例の行事を急に止めるのも憚られる。

嗚呼、別に贈る相手に怒られる訳でも、冷やかな目で見られる訳でも無い。所謂、自分自身の問題であると言う事を声を大にして言わせて頂きたい。

ちなみに、悩んでいるプレゼントをする相手と言うのは別に彼氏でも友人でも、ましてや親でも無い。少しばかり同年代の人間より老成してしまった、我が幼馴染殿である真田家の次男弦一郎その人である。

幼馴染であるのなら、何を悩む事があるだろう?とか、テニスに武術に書道など…多趣味な彼の人なのだから、悩む事無いとお思いだろうが…実際悩むのである。

長い付き合いというのは良いけれど、悪い。アドバンテージ何てものは、とうの昔に使いきっているのだから堪らない。

何せ幼馴染故に、プレゼントは毎年であるし…ちょっとしたイベントにもプレゼントが絡んでくる訳で、最初は何も考えずにプレゼントできるが年を重ねる内にネタが切れるのだ。

そう…掘りすぎた油田…もしくは温泉の源泉が枯れる様に…ネタ切れしてしまうのは自然の摂理だと思うのだけど…私だけだろうか?

それなのに、弦一郎は私の誕生日のプレゼントは欲しい物をピーポイントで贈ってくる。

勿論カンニングなんて不正も無く、普通に欲しいものをくれるから尚の事。

(自分ばかり欲しい物が貰えるってどうなのだろう?)

そんな罪悪感が募るのが、弦一郎の誕生日だったりイベントだったりする訳だ。
有る意味考え過ぎて、髪の毛薄くなるか…はたまた胃痛が酷くなるとか…色んな意味で凄く凄くストレスが掛かるのが彼の人関連の行事だ。

(目出度い筈なのに…何だか憂鬱になるんだから…微妙よね)

いっそう、きのこ狩りに連れていくって言う案もありな気がするけど、どう考えても時期が外れてる。

悩めば悩むほど、まったく良いアイデアは浮かばない。
寧ろ苦し紛れに出てくる、どうしょもないものばかり。

(本当にどうしたものだろう?)

うーんと一人悶々と悩んでも結局良い打開策は浮かんではこない。

(幸村とか…柳に知恵でも借りようか?)

幼馴染みの所属する仲の良い(?)テニス部員を思い出し、私は小さく首を振った。

(駄目だ、なお混沌とする気がする…仁王何て問題外だわ)

あまりにも追い詰められたような気持ちに私は、何だか一気に疲れをました気がした。

(そもそも人に頼ろうとするのが大きな間違いだったてことかな〜)

はぁーと一つ大きな溜め息を吐いた時、不意に一番安全な人間が脳裏を霞めた。

(嗚呼…居るじゃない、一番安全で知りえる中でまともな人が)

私は小躍りしそうな気持ちをグッと押さえて、携帯のメモリーからその人物を呼び出した。我ながら名案だと思いながら。



幼馴染同様忙しいその人物の多分電話しても問題無いだろう時間を狙っては見たが、電話特有なコール音を数回聞きながら、私は目当ての人間が出るのを待った。

そろそろ、留守番電話に切り替わるか否かと言う所で、テノールより若干低めな声で求める人物は電話に出た。

どうした?」

携帯のディスプレイに出ている私の苗字を間違いなく言いながら、少し心配そうに紡ぐ彼の人物に私は少しだけ申し訳ない気持ちになる。

(弦一郎の誕生日プレゼントが思い浮かばなくて電話した何て、きっと思って無いんだろうな〜)

それでも、縋ると決めた以上悪いがくだらない内様に付き合ってもらう。

「手塚君疲れてるのにごめんね。しかも大した内容では無いのだけど」

初めにそう断りを入れた私に、電話の先の青学テニス部部長手塚国光は「気にするな」と言いながら私の言葉の先を促した。

「あのね…もうすぐ弦一郎の誕生日なんだけど、正直ネタに詰まって…どうやって祝ってあげたら良いかわからなくてね、手塚君に知恵を分てもらいたいと思ったんだ」

意を決して紡ぐ言葉に手塚君は、少し黙った後に言葉を紡いだ。

「成程。俺で役に立つかは分からないが、一先ずが真田の誕生日について悩んでいるのは理解した。で、は何を俺に聞きたいんだ?」

「同じジャンルのスポーツをする手塚君だからこそ、何か私じゃ思いつかないような事を知ってるかと思ってね。安易でゴメンね」

思わず話しながら頭を下げる私に、手塚君は少し困ったような声になりながらも言葉を紡ぐ。

「そんなに気に病まないでくれ。良いアドバイスになるか分からないが…基本的に、心のこもったものであれば真田はからの誕生日プレゼントや贈り物は喜ぶと俺は思う」

「そうかな?」

「何と言ってよいのだろうか、気負い過ぎずに単純に考えるとよいと俺は思う。の祝いたいと言う気持ちがあれば真田は喜ぶんじゃないだろうか?俺が真田と同じ立場ならそう思う」

「何時も通りのお祝いってことかな?」

「ああ、だがもしも付加価値を付けるとしたら…が真田に何か振舞ってやるのも案外嬉しかもしれないな。選抜の合宿の時に話しているのを聞いていたしな、料理嫌いじゃ無いだろ?」

「まぁ…嫌いじゃ無いけどね…ただの幼馴染がするのって嬉しいのかな?」

「別にそれは関係無いと思うが…リストバンドとか消耗品との手作り料理で祝えば良いのではないだろうか…別に料理でなくてもお菓子とかでもいいと俺は思う」

「そ…そうだね…それが一番良いかもしれないね。ゴメンね手塚君、こんな話に付き合わせて」

「気にしなくていい。それよりの頑張りが報われるといいな」

優しい口調で手塚君はそう言ってこの話を締めくくった。

(弦一郎といい手塚君といい何で、私の周りの人々は年相応では無く大人びてるのだろうか?)

有る意味老成していると言う言葉が合うのかもしれないけれど、私は年相応では無い落ち着きを持つ彼らに心底そんな風に思うのだった。


とてもても真面目な手塚君からの助言を受けた私は、持ち帰った助言を元に今後の行く末を考える事にした。

(手作りね…)

ぼんやりと浮かべる手作り、誕生日と言えば洋風の筈なのに弦一郎に浮かぶのはTHE和食。別に肉が好きな幼馴染殿だから普通に洋食でも良いのだけど、浮かぶのは日本の食卓。

しかも真田家のご飯は非常に美味しいわけで、私では太刀打ちできないのは目に見えてる。

そんな現状もしっている手塚君がそう助言をするのだから、恐らく今回の弦一郎へのプレゼントは間違いない仕上がりになるのだろう。

(肉料理となめこの味噌汁で良いか)

幼馴染以上に幼馴染である弦一郎の気持ちが分かる手塚君の言うことなら間違いないと思った私は、思いのほか気楽にそんな風に思った。
さっきまでウダウダ悩んでいたのが嘘のように晴れやかに…本当に現金だ。

「さてさて、これで弦一郎の誕生日を心置きなく祝えるわ」

んーと背伸びを一つして私はそう呟いた。

来る弦一郎の誕生日のその結果は…ご想像通りの良い結果に終わった。青い鳥を見つけたチルチルとミチルはこんな気持ちだったのかもしれない。


おわし


2012.3.31 From:Koumi Sunohara

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