意外に弱点だってあるんです
素直じゃなくて、融通がきかなくて、頭が固くて…でも、実直で誠実で時々不器用ながら優しい人物が私の幼馴染みである真田弦一郎である。付け足すとしたら、老け顔で何時の時代に生まれたの?と思う程古風で時代錯誤な感じを受けるのは否めない、そんな人。
でも、一応文明の利益を使う事は出来る。失礼ではあるのは従順承知しているが、この事は声を大にして言いたいので言わせてもらう。
パソコン、デジカメ、携帯電話は勿論音楽オーディオ機器も使える。
正直、私よりここ最近の物を使いこなせたりする。
流石に、プリクラ系の物は疎いが、そこそこ年相応である。ただ考え方が古めかしいのだ…この幼馴染みである真田弦一郎と言う人物は…。
まぁ、彼の人と長い付き合いがある私は、多少の事では驚いたりしない自信がある。例えば、古めかしそうなのに、美味しいスイーツ店を女の私より知っていたり…新製品のお菓子を先に食べていたり。
些細な事ではあるけれど、あげれば地味にきりがない。始めは、色々驚いたりする事があったけれど、最近は割と感覚が麻痺しているのだと常々思う。
あと、何故だか医者嫌いである。自分の健康に何だか知らないが自信のある、幼馴染み殿は有り難い事に大きな病気にかかる事なく、今日まで過ごしていると言う兵だったりする。
風邪ひいたとしても、所謂民間療法で治るのだから、弦一郎の基礎数値が一般人では無のかもしれないと、私は勝手に思っている。
格ゆう私は、弦一郎とは真逆で、かなりの頻度でお医者さんにお世話になっている…弦一郎の言葉を借りると軟弱である。風邪にかかれば長引き…何やかんやで医者の世話になる若干弱めの今時の虚弱な若者である。
その為、何か異変を感じたら医者に行くのは当たり前な感覚だったりする。
弦一郎自身もよく、私が風邪を拗らした時の第一声が…「、お前病院に行ったのか?」なのがお決まりの台詞である。
その癖自分が風邪をひいた時には、病院に行こうという発想は彼は起きないらしい。
「少し自己管理が足りなかっただけだ。なに寝ていれば治る」
そう言い切って、中々医者に行こうとはしない。
そして、困った事に、有言実行の男である弦一郎は本当に次の日ケロりと治ってしまうので、強く言えない。
でも、運がいいだけと言うこともあるし…インフルエンザー等は寝ていれば治るの原則が通用しないと思うのだが、何時も弦一郎はそう返してくる。優しいのだが、もう少し自分を労る気持ちを持って欲しいと思うのだけど、私の言葉ではイマイチ説得力が無いのが否めない。
色々な意味で凄い幼馴染殿なのだが、時々こちらが驚くような出来事を起こすのだから(本人に自覚無し)本当にたまらない。
そんな幼馴染み殿に何が起きたのか、学校を休むという珍事件が起きた。
いや…人間なのだし何か理由があって休む事があるだろうけれど…我が幼馴染み殿を思うと少しばかり珍事と言わせてもらいたい。
兎に角、弦一郎が学校を休んだのである。
始めは、「はて?法事とかだったけ」何て、弦一郎の家の事を考えるが、そんな予定を聞いていないと思い直す。
(部活関連?いや、ジャッカル見たし…赤毛が派手な丸井も居たからその辺は無いよね)
次に浮かぶ事柄を思い浮かべながら、私は首を傾げるが一向に思い浮かばない。
(サボり…何て事は無いよね。うーん)
一番無いであろう事を思いながら首を横に振る。
(まぁ…その内何か分かるでしょ。良くも悪くも有名人だからね)
弦一郎の謎を片隅に追いやりながら、学生の本業である勉学に励んだ(後あと弦一郎が怖いので)私に、弦一郎の相方と言っても間違いない柳連二その人が私に声をかけてきた。
「おや?が体調を崩したのでは無かったのか…と言う事はやはり弦一郎が体調を崩したのだな」
開口一番そんな言葉を紡ぐ彼の人に私は意味がわからなかった。
「体調不良?私は元気だけど…ん?弦一郎体調不良なの?」
思いもよらない言葉に、私は思わずその言葉を聞き返してしまった。
冷静に考えれば、弦一郎も人の子な訳なので、体調を崩すことも想定の範囲内の出来事ではあるのだけど、THE健康体を地で行くような人物だけに想像の上を行った出来事だったのだ。
何分、私に対して口をすっぱく健康とは何ぞやと申す幼馴染殿で医者にかかる姿は貴重以外のなにものでもない人物なので現実味が無いのである。
しかしながら、私に告げる人物はこの学校一の情報通であり、テニス部の参謀(そもそもテニスの参謀と言うのは些か可笑しいのだが…)と呼ばれる頭脳派の柳蓮二その人で在るわけで…ガセネタたの可能性は極めて低いのだが…やっぱり、変な違和感を覚えるのである。
(まてよ…弦一郎が休むほどの体調不良ってそうとうヤバイんじゃ…)
冗談を真顔で言うテニス部のボスに比べ、事実のみを言う感のある柳の言葉に私は嫌な予感を感じる。
「柳…つかぬ事を聞くけど、アイツ…病院に行くとか言っていた?」
「どうだろう。特に電話口では言っていなかったが…熱はあるとか言っていた。俺はが体調を崩し、弦一郎が面倒をみる為に休んだと思っていたからな…そこまで聞いてはいなかった」
「そう…。で、柳的に弦一郎が病院に行く確率はどれ程だと思う?」
「ん?どうだろう?流石にそこまでは分からないが。普通に考えれば行く確率は高いと思うぞ」
ごく普通に言う柳に私は、少し苦笑を浮かべた。
「じゃ…その確率修正しておいて。弦一郎が自分で病院に行く確率は天文学的数字なんだ。私を病医院に連れてく癖に本人は行かないだ」
「了解したが…と言う事は」
「そう。100パーセントの確率で弦一郎は病院に行って無いわ。だから悪いんだけど」
「大丈夫だ。後の事は教師に行っておくから、は弦一郎を頼む」
言いかけた私の言葉を引き継ぎ、先手を打つように柳はそう言った。本当に、かゆい所に手が届く男である。
私はそんな参謀殿に、「よろしくね」と声をかけ恐らく病院に行っていないであろう弦一郎の元へ急いだ。
担任に一応状況を説明しに行ったところ、手回しの良い男がすでに先手を打ってあったようで、すんなりと早退することが出来た。
(どれだけ、気のきく男なんだろう?)
そんな事を思いつつ、私は慣れ親しんだ真田のお家の前に来て弦一郎の母さんから預かっているスペアキー…と言っても、のお家の子なはずなのだけど…弦一郎の母さんからはある意味真田の子の認定を貰っているので持っているもので開けて、真田家の中に入った。
勝手知ったる純和風の家へ入り、そう言えばと思い出す。
(そう言えば…しばらく真田家は弦一郎以外、お家を離れていたっけね)
数日前におじゃました時に、夕飯をつまみながらの会話を思い出した私は少しだけ頭を抱えたくなった。
と言う事は…やっぱり、弦一郎を諫めて病院に連れていくものがやはりこの家に居なかった訳で…故に彼は寝てれば治ると言う独自の理論を実行してるのだろう。
案の定弦一郎の部屋をそーっと開ければ、苦しそうに眉を寄せた立海の皇帝その人が横たわっていたのだから。
(やっぱりだよ…精神力が強いのも考えものだよねまったく)
想像通りの展開に私は小さくため息を吐いた。
(眉間に皺を寄せるぐらいなら、無理せず医者にかかれば良いのに変なところ頑固だわ)
「もしもーし…弦一郎無事?」
黙って見ている訳にもいかない私は、少し間の抜けた口調でそう弦一郎に声をかけた。弦一郎はその声に、更に眉間の皺を深くする。
「ん?…何故ここに居る。学校のはずだろう」
何時もより迫力の無い声音で、病人の癖に正論を述べる幼馴染に呆れる。そこが、弦一郎故なのだけど。
「弦一郎の所の参謀殿がご丁寧に教えてくれてね、先生にちゃんと言って早退してきたんだけど。サボりじゃないよ」
「ふむ。しかし…」
「しかしも…なんも無い。どうせ、風邪が移るだの…自分は大丈夫だとか言いはるんでしょ」
「う…」
「そもそも、大丈夫じゃ無いから弦一郎が休んでるんじゃない。あんたが休む何てよっぽどなんだからね。柳なんか、私が風邪ひいて弦一郎が看病のために休んだと思ってたんだから」
「すまん」
「そう思うのだったら、病院に行くよ」
「だが…だいぶ朝より幾分ましで」
「まし?ましであって、大丈夫じゃないでしょ。何時も私に言う癖に、自分だとどうしてそうなのよ。いいから、一緒に病院に行くこれは決定事項」
「大げさだ…1日寝てれば」
まだ、ぐだぐだ言い淀む弦一郎に私は伝家の宝刀を繰り出すことにした。
「あんまり言うこときかないと…幸村に電話して事の顛末を話すけどいいの?」
私の繰り出した言葉に、弦一郎はサッと顔色を変えた。
一見優男に見える、テニス部のボスである幸村は怒るとかなり怖い。笑顔で、人が殺せるかもしれないぐらいに…目が笑っていないし…的確に相手の痛い所を攻撃するから堪らない。普通にしている限りは、火の粉は降りかからないが…今日の弦一郎は確実に大目玉だろう。
(私もただではすまないと思うけど…。背に腹は代えられないしね)
そう思って、使った幸村のネームバリューはそうとう効果てきめんだったのか弦一郎は布団の虫をやめる事となった。
「わかった、病院に行くから幸村には連絡せんでくれ。要らぬ心配はかけたくないのでな」
そう言うなり、弦一郎はいそいそと病院に行く準備を始めたのである。
(幸村出してびびるなら…素直に行けば良いのに)
なのにな〜と思いながら、私は珍しく病院に向かう弦一郎の付き添いをするのであった。
平日ということもあり、空いていた病院で検査を受けた結果『たちの悪い風邪』とのお言葉を頂いた。しかも、普通であればもっと酷くて大変であるらしいのだと弦一郎の体のメカニズムに先生は酷く吃驚していた。
ともあれ、だいぶ消耗しているとの事で点滴を受け、薬を処方してもらう事となったのだ。
どんなドーピング使ったの?と言うぐらい、ケロリと元気になった弦一郎はふらつく事無く、自分の足で自宅に帰り、次の日から何時もの様に勉学と部活に精をだしたのである。
後日、すっかり弦一郎の風邪菌を移されしっかり寝込む事になりお小言を貰う事になるのは言うまでも無い事である。
おわし
2011.4.22. FROM:Koumi Sunohara