甘い恋より甘い物
お正月が終わり、二月に入ると私はウキウキとした気分になる。
寒さは、暦の上では春だけど、緩む所か寒くなるけれど、気分は上々だ。
それは、バレンタインがあるから。
嗚呼、別に誰か本命にあげるとか…想い人がいるという乙女的な思考では残念ながらなくて、単に甘いチョコレートやお菓子が好きなので、品揃えが豊富になるこの時期が堪らなく幸せだったりするのである。
花より団子だと、友達や周りの女の子は言うけれど、花より団子でも、それはそれで良いのじゃないか?何て思う。
だって、チョコや甘い物が好きなのだから仕方が無と思う。
デパートの特設コーナーに現れる、海外の有名なショコラティエのショコラに、様々なメーカーの物。スーパーもコンビニも、こぞってバレンタイン関連のチョコスイーツが食べてくれと言わんばかりに並んでる。普段食べているチョコレートですら、これに合わせて限定品を出してくるのだから堪らない。全部買った暁には、確実に破産である。
学生の身分では限られているボーダーも厳しい。是非、社会人になったら大人買いをしてみたいものだと、地味に野望を抱いていたりするが、きっと口煩い幼馴染み殿に止められるに違いない。
眉間に皴を寄せて…
「甘い物で破産するなど弛んどる。もう少し、節度を持て」
何て、お小言を言われるに違いない。
簡単に想像がつくから、たまらない。
まぁ…しかしながら、そんな口煩い幼馴染みである真田殿のお陰で、大好きチョコレートを堪能出来るのだから、ある意味感謝すべき対象なのだろう。
本当にこの時期は弦一郎さまさまなのである。
時代錯誤で古めかしい厳しい人物である弦一郎ではあるけれど、常勝立海のテニス部のレギュラーにして、副部長である存在はなかなかの優良物件らしく、割と人気がある。チャラチャラしたというか、軟派な事が嫌いな弦一郎のファンの子達は色々心得ているのか、普段は静かに見守り、一大イベントの際には日頃の秘めた想いを物という形で爆発させる。
爆発といっても、他の例えば、仁王君のファンのように熱狂的な爆発ではなく静かなものだが、普段に比べるとという事である。相手を重んじる弦一郎のファンならでは、と言うか…類は友を呼ぶというか…皆似通った感じが多い。
非常に彼女達には、悪いと想いながらも私は何時も頂いてしまうので説得力が無のだが…。
彼女達はそれは、想定の範囲内の事の様で、最近の弦一郎のプレゼントの中には私宛ての物が何故か混ざっていたり、メッセージカードが入っていたりする。
例えば…。
「真田君(さん)と仲良く食べて下さいね」
などと、二人で食べるもしくは、私が食べる前提でメッセージが入っているのだ。
普通なら、想い人へのプレゼントが別な人物…ましてや異性に何て言語道断だろうに…彼女達は怒る所か、黙認ならぬ公認…真田を呼ぶともれなくが付いてくる的な雰囲気に認識されているような気がする。まぁ、陰湿な嫌がらせをされたりするよりはよっぽど良いのだけど。本当に良いのかしら?
同じ同性として色々思うところがあるし…とても良い子達ばかりなので、少しは報われて欲しいと思うのだが…。
それは数年前のある日の事。
一応罪悪感のあった私は、意をけっして弦一郎にとあることを相談した時の事である。
「弦一郎」
「何だ」
「毎度毎度美味しい思いをしている私が言うのは何なんだけど…」
ばつ悪げに私が言い淀むと、弦一郎は無言で続きを促した。
「弦一郎への贈り物を私が喜々として頂くのは…彼女らに悪いと思うのだけど。どうなのかな?」
食べたそれはそれは美味しい高級チョコやお菓子などを思い起こしながら、プレゼントをくれた彼女らを天秤に乗せて私はそう言葉を紡いだ。
「でも気にはしていたのか」
若干驚き気味に漏れる弦一郎の声に私は、少しムッとしつつも肯定の意味を込めて軽くうなづいた。
「ふむ。まぁ…深く考えずとも良いと思うが」
「でもね…自分が同じ立場だったら少し悲しい気がするんだよね」
「それは確かにそうかもしれんが。もしが食べずとも…食べきらない物は少なからずゴミ箱行きだ。もしくは、家族で食べ…母辺りが近所に持っていくだろう。それくらいのリスクは、渡す側にもあるわけだから。寧ろ、捨てられるよりお前が食べた方が良いと思っているのかもしれん」
「そうかな…確かに廃棄は嫌だしね〜」
捨てられると言うワードを思いながら私はそうしみじみと答える。
けれど、イマイチな反応の私に弦一郎は尚も話を続けた。
「それに精市曰く」
幸村の名を出し一旦言葉を区切る弦一郎に、私は続きの言葉を促した。
「俺とでワンセットとしての俺のファンなのだそうだ。まぁ俺には理解が出来ないが…精市がそう言うのだからそうなのだと思う。それにだな、毎年は食べるが…ホワイトデーには俺のお返しように母さんとお返し用のクッキーやお菓子などを準備しているのだから、気にせず何時も通りで良いのでは無いか?」
そう言われてしまっては、返す言葉も見つからず…私は結局今年もまた弦一郎に貢がれる大量の甘味を少しの罪悪感と、甘いものが食べれる嬉しさを満喫するのだろう。
甘い恋よりも…甘いもの派の私が恋する乙女の気持ちなど分かるわけ無いと開き直りながら…。
おわし
2011.4.2.(web拍手掲載2011.3.4.〜) From:Koumi Sunohara