夏風邪と青空と幼馴染  


白い砂。
青い空。
照り付ける太陽。

The夏の代名詞は、これに限る。オマケに、よく冷えた西瓜とかき氷なんて有れば、言う事無しのパーフェクト。

正に、絵に描いた様な夏模様。
しかし、現実はそうそう甘いものでは無く。

何時明けるのかしれない、ジメジメした梅雨空と言うかゲリラ豪雨に、突然の灼熱地獄。

白い砂浜に埋まる、人…人、まるで芋洗い状態。
The夏の理想状態に程遠い。

それよりも、何よりも私の心を荒ませるのは…自分自身の不摂生ぷり。

ものの見事に、夏風邪を拗らせている現状である。

夏風邪、特有の咳と発熱。夏風邪は馬鹿がひくと言う言葉を口々に言われそうだけど、ひいてしまったものは仕方が無いし、手洗いうがいをした所で、風邪菌に感染するんだから、どうしょうも無い。

風邪対策をしっかりしていただけ何だか物悲しいのは何故だろう。

テスト勉強をして、赤点ギリギリと言う状況並に切ない気分になる。

(むしろ何もしない方が風邪ひかなかったんじゃないかしら?)

不意にみもふたもない気持ちになる。

後輩の切原にいたっては、夜中までゲーム三昧とうがい手洗い皆無な雰囲気なのに、夏風邪をひいていないと言うのが、何だろう軽い殺意を覚える。

(神様って不公平じゃないかしら?)

無関係な神様に何となく、罰当たりにも不平不満が生まれる。もっと、ましな不満を言えといわれるかしら?

それより、何より…幼馴染の弦一郎にこの事実がバレルのが内心怖かったりする。

風邪なのだから、怒られる筋合いなんて無いのだけど…根が真面目で、規則正しい生活習慣を地でいく弦一郎は小さな風邪なんてもっての他、大きな大病にかかったことがほぼ無いと言っても良い人材だったりする。まぁ、健康習慣ではどうにもならないおたふく風邪や水疱瘡についてはカウント無しという感じだけど。

そのくらい、我が幼馴染殿は、The健康なのである。

兎も角、彼が健康なのは彼の努力の賜物なのでとやかく言うつもりは無いのだが、弦一郎は自分にも他人にも厳しい、人間で色々なタイミングで私に対する小言が多い。

実の両親よりも、弦一郎の小言や説教を聴いていたりする。

やれ、女らしくしろ…やれ、気配りが足りない、勉強したか…等…。

そして、極めつけは…。

「体は資本だ。毎日体力づくりをせねば丈夫になれんぞ

と一昔前の熱血教官ばりに言ってのける。

のりが完全に昭和スパルタ鬼教官…モンスターペアレントの多い兵平成生まれとは思えない、古風なお人である。

ある意味時代錯誤な弦一郎には、人さまの常識と言うものが当てはまらない。
学校の教師然り…友人然り…もちろん私に対しても。

俺様思考とは少しばかり毛色が違うが、思いこんだら一直線な傾向があって…いうなれば頑固親父…親父では無いけれど。

そんな彼は、常日ごろから私にたして健康についても熱く語る。それは、私自身があまり健康では無い(弦一郎視点で言うと…)故に、心配だからの幼馴染心からの想いらしい。

と言っても…少し風邪がひきやすかったり、治りが悪かったり…疲れやすかったりと…現代人子特有の弱さであって…虚弱体質であると言う状況下では無い事を声を大にして伝えたい。ごく普通の、現代子の弱ちさである。

それでも、口うるさい幼馴染様にこれ以上言われ無い為の努力は惜しんだ事は無い。

手洗い、うがいは勿論のこと、規則正しく早寝早起き…毎日1時間のウォーキング…不摂生しがちな学生の身分で、自分なりには真面目な生活だと思う。まぁ、弦一郎にしてみれば生ぬるいのかもしれないけど。私にしては、精一杯の日々だったりするのである。

それだけ、気を使っても…やっぱり生身の体な訳でして…風邪をひいてしまったのは、私の落ち度だと誰が言えるでしょうか?と思いたい。

(しかもよりにもよって夏風邪だなって…嗚呼…私何か悪い事をしましたでしょうか?神様?)

ヒラヒラゆれる、カーテンと射し込む日差しを恨みがましく見つめながら、不意にそんな事をぼんやりと思う私ちょっとした、現実逃避である。

そんな、私の気持ちなど素知らぬ幼馴染様は、お決まりの腕組に眉間に皺を寄せて…部活帰りそのまま直帰なのかテニスバックを肩にかけ、ベットの住人になっている私を見ると溜息一つ吐きだした。

「まったく。普段から体を鍛えておかぬから、夏風邪などひくのだ」

労りの言葉以前に、紡がれる弦一郎のダメだしに私は唖然とした。

(それって、弱ってる人間に言う言葉なのだろうか?)

言われた言葉に私は、思わずそんな事を心の中で思った。

喉の痛みさえなければ、実際問題心の声は吐き出していたに違いない。
一先ず言うべきは、「大丈夫か?」の一言で…私は熱に浮かされながら、弦一郎の今後社会人になったさいに起きる弊害が目に写るようだ。

(絶対、上司から目の仇にされるよ。せめて、社交じれいぐらいみにつけようよ…それとも私限定なのかしら?)

幼馴染のお言葉に、脳みそがわきそうな頭でそんな事が浮かび上がる。

「む?が言い返してこんとは…そんなに重病なのか?」

言い返してこない私に、弦一郎は勝手にそんな重病説を唱え始める。

(私…そんなにああ言えばこう言う人間に見られているのかしら?)

日頃の行いを少し悔みながら、ヒリヒリと傷む喉をおして私は言葉を紡ぎだす。

「重病では無いけどね…風邪が喉に来て…あまり話せる心境じゃ無いの。言っとくけど、私は普通の人より健康に気を使ってるんだから、あんまり文句言わないでよ」

「ふん。そこまで減らず口が叩けるなら元気では無いか」

そっけなく紡ぐ弦一郎の言葉に、私は思わず首をかしげたくなった。

(何しに来たのかしら?お見舞いに来た割には説教だし…少しは心配してくれているようだけど…何がしたいのかさっぱり分からないわ)

「で…王者立海のテニス部副部長が忙しいのに何の用事?病人いびりなんて悪趣味なことをしにきたのかしら?」

ひりつく喉を押して、私は意味不明な幼馴染に言葉を紡ぐ。
言い方としては実に可愛気が無いのは従順承知ではあるが、風邪でグラグラする頭と傷む喉で正直不機嫌な私は、八あたりも含みつつそんな言葉とあいなった。

案の定弦一郎は不機嫌そうに顔をゆがめる。

(図星か…はたまた、幸村辺りの差し金で渋々見舞いに来たって所?相変わらずの不幸体質よね何気に弦一郎って)

大かたこのスカイブルーの青空の真夏に、王者立海のテニス部部長は気まぐれにも夏を満喫したくなり、うっかり幼馴染が風邪をひいてる旨を伝えた弦一郎を出汁に、早めに部活を切り上げたに違いないと言う状況が目に浮かんだ私は、不機嫌極まりない表情の幼馴染に私は少しの疑念と少しの同情をこっそり心の中でした。

「病人をいじめる趣味など持ち合わせておらんわ。第一幸村や柳たちがお前の見舞いに行けと心配するからだな…」

「はいはい。何となく分かったよ…幸村にもお礼言っといて。寝込んでるけど命に別条無いし…お医者様にも診療してもらって薬を飲んだら問題無いって言ってたしね…それに弦一郎移ったら困るから、早く帰りなよ」

曲がった事が嫌いな弦一郎が、病人いびりなどするわけが無いのは分かってるし…背後に幸村の策略があるのは読める話しなので、私は健康には五月蠅い幼馴染に素直では無いが、風邪が移らないよう早く帰る様に促した。

その私の態度にお気に召さなかったようで、弦一郎はさらに不機嫌そうな顔になった。

「な…俺はそんなに弱くなど無いから問題無い」

(風邪に強い弱い関係無いんだけどな…)

不機嫌な弦一郎の血圧が気になるので、それ以上の突っ込みはせずに「そう。でも居ても暇じゃない?」とさり気無く、尋ねるが不機嫌な面持ちのまま「問題無い」と口にする。

何となくそれきりお互いの言葉もままならないまま、数分の無音が続いたのち…弦一郎は突然な言葉を口にした。

「まったくときたら相変わらず殺風景な部屋だな」

「何よ藪から棒に…極彩色な目が痛そうな部屋だったら良かったの?シンプルで居心地が良いに越したことがないでしょうに」

「そうでは無く、観葉植物を置くとかだな…夏らしいものを窓側に置くとかしたらどうだと言ったのだ」

「嗚呼…成程ね。それなら蚊取りのブタさんは置いてるけど」

「まったく…いくら夏風邪で寝込んでいるとはいえ…風流さが無いな」

「風流に回す余裕なんてないよ」

至極当然な言葉に弦一郎がまた、顔を顰める。

「まぁ…そんな事だろうとは思ってはいたが。まったく。しかし、見舞いの品が無駄にならずにすみそうだな」

若干話の見えない言葉を紡ぎだした弦一郎は、おもむろにテニスバックから、小さめの箱と某スポーツ飲料メイカーの2Lのペットボトルを出した。

「お見舞いの品物なんて持っていたんだね弦一郎(謎の箱とペットボトルだけど…)」

「当然だ。そのくらいの礼は当たり前だ」

「さようですか…まぁ。ありがとう。で、その箱はなんなの?」

「これは、風鈴だ。折角の夏に寝込んでるからな…気分だけでも涼やかさと夏らしさをと思って購入したが…が持ってる事も考えて出すのを少し遅れた…まぁ…無い様だから結果的には問題無かったな」

少しホットした様な表情で、見舞いの品を私に見せた弦一郎はそそくさと風鈴は窓辺にかけ、持ってきたスポーツドリンクを私が先ほどまでお茶を飲み終わったグラスに躊躇することなく注ぎ、飲めと言わん勢いで差し出した。

先ほどまでのやりとりが、これに繋がる布石だと思うと本当に不器用な男だと痛感しながら、ご厚意の差し出されたグラスを受け取り一口飲む。

(ん?凄くぬるい)

「風鈴は何となく意味合いが分かるけど…何でスポーツドリンクがこのくそ暑い状況で常温なのかな?」

「何を言うか。が胃腸が弱いのに何故冷たいものを持ってくるのだ。第一夏場は、ただでさえ冷たいものの取り過ぎで胃腸が弱るのだ。常温でなにが悪い」

実に正論ですと言いたげに言い切る弦一郎。

確かに、言っている事は正論で…正論ではあるが…少しぐらい冷たいものが飲みたいと思うのがこの猛暑だと分かってほしい。

でも、不器用な幼馴染の優しさを甘んじて受け取ったのである。

(フルーツとかさ…アイスとか…そんな洒落たものを弦一郎に求める方が贅沢なのかしら?まぁ…風鈴も常温のスポーツ飲料も…弦一郎らしい気遣いと優しさなんだけど…ね〜)

チリチリと涼やかな音を鳴らす風鈴を眺めながら、私はそんな風に思った。
少し贅沢な望みかもしれないと思いながらも…。

おわし

2010.9.6. From:Koumi Sunohara

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