●  --- 大義名分は必要なのです ●

私は氷帝学園に通う、ごく普通の女子学生である。普通と言うとこの学園では語弊があるかもしれない。

所謂、金持ちが多い学園であるので、一先ず庶民であり、間違って有名私立校に迷いこんでしまつた、一般人。もしくは、都会に迷い混んでしまった、猿出没と言った表現が適切やもしれない。

そんな私ことにも、やはりお年頃である訳で、人並みに憧れたり恋をしたりする。

しかも、自分のレベルとはあきらかに離れた高値の花に恋をした。

私の好きな人は、フェミニストと言うのだろか、女性に優しいのは勿論、人あたりも良い男である。しかも先輩からも可愛がられといたりする。容姿もカッコイイと思うし、頭も良い。揚げ句、バイオリンもピアノも弾けるし、運動も出来る。

強豪揃いと言われるテニス部で二年生であるにも関わらず、レギュラーだと言うのだから相当凄いのだと思う。

まぁ、テニスに詳しくも無い私ですら、知っているぐらい有名だと言う事だ。そんな容姿端麗、性格も良い、文武両道な人に食いつかない何て、世の中のお嬢さんにあるわけない。

好みも千差万別だから、ルックス重視じゃない人も居るけれど、やはり憧れを抱く分にはルックスや性格は大きなポイントだと思う。

私の想い人は、何の因果かバレンタインデー生まれの鳳長太郎その人だったりするのである。正直、勝ち目なんぞ無く、宝くじで一等前後賞が当たるぐらい、本当に両想いなんて夢のまた夢である。

そもそも、鳳君に私と言う存在を知られている確率は微妙な感じだったりする。

クラスメイトで男子の割に結構気の合う、日吉とは同じクラスと言う鳳君にとっては微妙な接点の私は、通りすがりAよりは、知られてはいるだろうけど、日吉のクラスメートのさんと言った所だろう。実際、私と鳳君との関係性はその様なものである。

それでも、彼に憧れたり、好きになる事は自由な訳で…勝手に悶々と私は彼を思うばかりである。

そのため、この気持ちに気が付いている人はほぼ居ないと言っても良い。

仲の良い日吉は、少なからず私が鳳君に好意を抱いているのは気が付けども、積極的に動かない私に対してアドバイスが有るわけでも、頑張れとか、そんな言葉をかけるなんて想像すら付かない。

自分に迷惑さえかけなければ、気にしないのだろう…日吉と言う男は…。そんな気が切実に感じるのは、気の所為じゃ無いと断言できる。

断言できるけれど、気の合う日吉とは男子と言う枠組みを超えた不思議な友人関係だったりする。可も無く不可もなく、相談できる貴重な存在だ。

最近は、そんな日吉と授業までの短い空き時間に談笑とまではいかないが、会話を交わす無い様がバレンタインについてと言うのだから、色んな意味で驚きだったりする。

今日もそんな訳で…。

「ね−日吉、恋する女子のパワーは凄まじいね」

バレンタイン特集と書かれた雑誌片手に、腹を探り合うクラスメートの女子を眺めて私は、日吉にそう言った。日吉は興味なさそうに、軽く一瞥したのち、やはりやる気なさそうに言葉を紡ぐ。

「そう言うが…、お前も生物学上同じ女だろ?人事にも程があるだろ」

「それはそう何だけどね。何て言うのかな、あの意気込みは正直私にはついていけない感じだよ。なんつーの、例えばお見合い前にエステに行って臨戦体制に備えるばりの、気合いのいれようには流石に、尊敬を通り越して呆れる訳ね。私には真似できない芸当だと思って」

自分磨きに余念の無いお嬢様方のパワーには正直ついていけない。
怠けているつもりは無いが、見てるだけで疲れを感じる。

そんな風に思う時、自分は生まれる性別を間違えたのだろうか?何て思う程、かなりついていけない。

「一応生物学上女である訳だから、にもあの集団と同じ事をする権利はあるだろうが」

「的を得過ぎてる分言い返す言葉が無いよ」

「ふん。らしくないな。ウジウジ悩まずに、友達同士でも女はチョコを交換するんだろ?お歳暮感覚で、アイツニ渡せばいいだろう?恐ろしいぐらいに、女には優しい奴だから、のチョコだって受け取るだろうよ」

「まぁ…そうだろうけどね。つーか何気に詳しいね日吉」

「こういう行事に一々煩い先輩が居るからな。嫌でも耳に入る」

そっけなく言う日吉に、私は内心(私なんかより寧ろ、日吉の方が資格あるんじゃ)などと少し切なく思った。

それでも、普段気にしない日吉の心遣い私は唸りつつ言葉を返した。

「友チョコね…友達ですら無いけど」

「そんな言葉を、そこに居る連中に言ってやったらどうなんだ。少しは、奴らの図太さを見習ってみろ」

「本当に日吉って優しいよね」

「ふん」

「日吉なら…?ぬれせんべい”あげるとして…無難にチョコかな??ししゃも”渡されても、よくて北海道土産…悪くて嫌がらせだよね」

「普通にチョコやった方がいいと俺は思うぞ」

「そうだよね。取りあえず、普通のチョコを用意するよ」

日吉と会話したお陰で、微妙ながら大義名分が貰えたような気がして、少しだけ頑張ってみようという気が起きた。

(それにしても、何で女の子ばかりがこんな勇気を振り絞らねばならないのだろ?)

ちょっとだけ、恨みがましく思う。

「そもそも、チョコ何て私が貰いたいぐらいだよ」

思わず心の中の言葉を呟けば、日吉に凄い勢いで呆れられたのは言うまでもな。

バレンタインまで後わずか…。


おわし


(WEB拍手掲載:2009.2.28.)2010.3.31. From:Koumi Sunohara

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