花嫁
−夢見るときでも現実を−


6月はジュンブライドといって結婚式が多いと聞く。
それは世間一般的の常識であり、特に女性の中ではかなり重要な月であることは間違いない。

神頼みだろうが何であろうが、要は幸せになれば儲けものなのである。
夢見がちだろうが何であろうが、世の中は案外シビアに出来ているのである。

勿論、世の女性…此処では切原家の長女のさんの事を指すのだけれど…。

6月のとある休日。
切原家の仲良し姉弟は、そろって休日を自宅で過ごしていた。
この出来事自体が有る意味稀な出来事であるのは、ご近所をはじめ…赤也の通っている立海大テニス部でも周知の事実なのである。

そんなワケで、この切原姉弟はリビングでぼんやりとTVを眺めていた。
休日の昼番組の所為かイマイチ面白味にかける話題が多かった。

そんな時、珍しく赤也がある話題に目を光らせたのだった。

姉ちゃん」

興味津々といった様子の赤也には嫌な予感を過ぎらせながら、「なに?」と短く聞き返した。

「やっぱり6月に結婚式をあげると、女心擽ったりしちゃうんスカね?」

6月ブライダル特集をチラリと見ながら赤也はそうに尋ねた。
聞かれたは…。

(おやおや…赤也君もお年頃なのね…だけどね…夢ばかりじゃ駄目よね)

などと、少し年寄り臭い雰囲気を漂わせながら弟の質問に答えるべく口を開いた。

「赤也…ようーく覚えておくのよ」

何処かドスの効いた声音でそう言葉を紡ぎ始めるに、赤也はゴクリとつばを飲み下した。

(な…何を覚えておくんスかね…)

タラリと背中に落ちる嫌な汗を気づかないふりををして、姉の方を神妙な顔つきで見返した。
そんな弟の真面目に聞こうとする態度に、は満足そうに頷いてから…ゆったりと言葉を紡ぎ出した。

「6月の結婚式は高いのよ。それが大安だった日には…大目玉ね」

フーッと遠い目をする姉の姿に赤也は、呆然と姉の姿を見るしかなかった。
そんな弟にお構いなしに、は言葉を続けた。

「北海道とか青森とか…極寒の地じゃ無い限り、冬場にやれば安上がりだわ。ああいったものは、時期を外すと案外安いのよ。ちなみに仏滅も安いってきくわね」

主婦があちらの店安いのよ!と言う延長線のように、はそう言葉を付け足した。

姉ちゃんまだまだ若いのに…俺の所為で老けた?と言うより…その知識は何処から?)

自分の所属するテニス部のデーターマン柳を思わせる、雑学ぶりに赤也は引きつりながら言葉を投げかける事にした。

「何か…世の中の女の子の考え方と姉ちゃんってかなり違って幸せな花嫁さんになりたいって思わないワケ?」

弟の言葉に、はフッと口元を歪めた。
そして、吐き出すように言葉を紡いだのである。

「赤也って案外夢見がちなのね。まぁソレはソレで良いけれど。あのね…婚姻は紙に書いて提出すればすぐに夫婦になれるし、教会やら神社にお願いすればそこそこの値段でやってくれるから…懐具合はなんとかなるかもだけど…。披露宴は別問題よ。誰それを呼ばないと、角が立つだの…上司の席順。出される料理のグレード…貸衣装そのた色々…出て行くお金は数知れず…使う精神力はその倍はかかるもんなのよ」

「でもさ…姉ちゃんだって。花嫁さんにはなりたいじゃないの?」

「ウエディングとかは着てみたいが…別段嫁になるっていうのが実感無いね。相手の色に染まるのは不可能だよ…赤也が一番分かるでしょ」

ヤレヤレと溜め息を吐きながら言うに、赤也はその通りすぎて首を縦にふるしかなかった。
そんな弟の様子に、は満足そうに微笑みを浮かべた。

「残念ながら君のお姉様の花嫁姿を見るのは…奇跡をおこさないと無理って事ね。頑張れ長男…切原家の未来は君にかかっておるぞ」

豪快に笑い飛ばしながら、笑い事では無い言葉を紡ぐ姉に赤也は複雑な思いを抱いたのである。

(当分姉ちゃんが取られなくて良いけど…ソレはソレで悲しいもんがある気がするんスよね)

思春期まっただ中の弟としては、かなり複雑な気分になった赤也君であった。


おわし


2005.6.16. From:Koumi Sunohara



★後書き★
花華10のお題より赤也夢姉シリーズです。
リアリストとドリーマーというサブタイトルの方がもしかしたらしっくりしたかもしれません。
まぁ何はともあれ、シスコンな赤也が書きたかっただけって感じの話です。
こんなものでも、楽しんで頂けたら幸いです。
web拍手2005.5.30.掲載作品。


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