紫陽花の花言葉
−良い意味での変化−


梅雨の時期は好きじゃ無い。
それは私が気圧の変化により、頭痛を伴うという体質の所為かもしれないけれど。
色々な事を含めても…少し私は雨の日が苦手である。

だけど雨上がりの公園とかは好きだ。
ミミズが出没してようが…雨の後は緑が輝いてる。
空の恩恵を貰ったみたいに嬉しそうだと思う。

今日も雨が降りそうで…微妙な天気だった…空気が重くて、少しだけ頭やみがしだす。
こんな日は幼馴染みの幸村精市の家に行くに限る。

何故精市の家なのか?
それは、彼の趣味がガーデニング。
緑は癒し効果もあって好ましいし…精市の育てる草花は優しい気配を帯びていて好きだからだ。

頭痛薬は、確かに一時の痛みは和らげてはくれるけれど…それは慢性化すれば効かなくなる。
服用しすぎれば体には害でしかない…麻薬のようなもの。

だから…植物に囲まれてる間は、少しだけ痛みが和らぐならば…私は本当にそちらの方が良いと思う。
それは切実に感じる思いである。

まぁ…毎度毎度こんな理由で訪問してくる私に、精市だってあまり良くは思わないかもしれないけれど。
それでもついつい行ってしまうのは、彼の側がとても居心地が良い所為なのだと思う。


ぶらりと言っても別段害は無いけれど、一応お邪魔する身の上の私は手土産を購入すべくコンビニにより、適当におやつなどを物色して向かった。
コンビニとはケチ臭いと思うかも知れないが、毎度と言っても良いほど出掛けるので相手方にも…自分の懐にも気にならないものを持っていくのが良いと思うので…ケチってわけじゃ無いと思う…たぶん。

ともあれ私は、押しかけアイテムを片手に幸村家の門を叩いたのである。


ピーンポン。
良く響くチャイムの後、名も告げないののにドアが開いた。

「ふふふ。やっぱり来ると思っていたよ

チャイムを鳴らして、名を名乗ろうとした矢先…会おうと思っていた幼馴染み様は開口一番にそんな言葉を口になさった。

(完全に私の行動パターン読まれてる?)

「流石ね…何でもかんでもお見通し?」

困った様に眉を寄せてそう言えば、幼馴染みは小さく笑う。

(伊達にその細腕で、王者立海大の部長を務めてないのね…流石よね)

読まれている思考回路に、私はよく分からない納得の仕方で思考を止めていると、精市ときたら私の持参したコンビニ袋を覗き込みながら自慢の庭に私を通した。
そして、一通り物色し終わったのか…幼馴染み殿は、忘れた頃に私の訪問の理由を口にした。

は雨が得意じゃないからね〜」

「そう言う精市は雨好きなの?」

「んー…好きだけど…好きじゃないかな」

困ったように笑って精市は言う。
その言葉はあまりにも矛盾しすぎて、私の眉は自然と寄ってしまう。

「コラ…。そんな顔してると、皺が戻らなくなっちゃうよ」

自然と寄る眉間の皺を精市に小突かれて私は、少しよろめいた。

「ふふふ…あのね。雨が降るとテニスが外で出来ないだろ。だから…その点だけ見たら好きじゃない。でもね…それ以外の雨は俺としては結構好きだったりするんだ」

早朝に少しだけ降った雨の雫が残る紫陽花の大きな葉に触れながら、優しい表情で私にそう言った。

(この姿をみて…誰が王者立海の部長に見えるだろうね…)

草木や花を慈しむ幼馴染み殿を眺めながら、私は心底思う。
ぱっと見優男な精市が運動部に所属してますねなんて、何も知らない人は想像出来ないと思う。
しかも部長だなんて誰が思うだろう…。

(図書室に佇めば…何もしてなくても文学青年…テニスに向き合えば…穏やかさの中に厳しさが冴えるコーチ兼プレーヤー…そして私の前では、少し砕けた幼馴染み。まるで…今…精市が触れてる紫陽花みたいだわ…)

「ん?どうしたのかな?ボンヤリしてるね

「別に…ただ紫陽花が綺麗だと思っただけだよ」

首を軽く振りながらそう言う私に精市は、頷き言葉を続けた。

「確かにね…紫陽花は綺麗だね。それに紫陽花には、雨と蝸牛がよく似合う」

「私も結構好きだよ紫陽花。それに精市にそっくりだしね紫陽花って」

言いながら私は、精市と紫陽花を見比べながらそう言った。
すると、幼馴染み殿は唸りに声に似た声を出した。

「んー…花言葉は“移り気”…だったかな…。俺ってそんな風に見えるのかな?」

「花言葉なんて知らないよ。第一花の色によって花言葉は違うだろうし…本にもよって違っていたりするじゃない。ただ何となくそう思ったんだよ」

キッパリ言い切る私に今度は精市が顔を顰める番で、私は先やられた事をそっくりそのままお返しした。

「今私と話している精市とテニス部の部長の時…学校…家族と過ごす時…クラスに居る時…時と場所と出会う人によって精市は違う顔を見せるのに気が付いてる?だから…紫陽花に似てると思ったよ。土の酸性やアルカリ性によって変化するみたいに。精市だって同じ様で違う一面で動いてるから…似てると思ったんだ」

先程心に思い描いた言葉を少し変えながら彼にそう告げた。

「ああ…成る程ね。そう言った意味で俺が紫陽花に似てるって事」

彼もまた紫陽花を眺めながら、納得してくれたのかそう言った。

「そうだよ。精市は気が付けば変化してる…あまり変化しない私とは大違い…どんどん緩やかだけど変化してるんだもん」

少し寂しい思いを抱きながら、そう言えば精市は柔らかな口調で言葉を紡いだ。

「俺には俺の変化はよくわからないけれどね。の変化には気が付いてるつもりだよ…だって変わっていってる。それにね焦る必要は無いんだ。良いんだよのリズムで」

「そうかな…あまり変わらないのも考えものだと思うのだけど」

そう言った私に彼は、優しい微笑みを浮かべて私に諭すような口調で言葉を紡いできた。

「この紫陽花だってね…土の成分が花…まぁこの場合正式には花びらではないけれど…時間をかけて変化をしているんだ。きっと紫陽花自体だって、自分が色々な色に変わっていることに気が付いて無いだろうよ」

紫陽花と私を交互に見ながら、言う精市の横顔はとても真剣な表情だった。

「そんな事言ったってね…」

眉を寄せてそう言ってみれば、精市は苦笑を浮かべた。

「だから無理に焦らなくて良いんだよ。人それぞれのリズム…無理に背伸びしないでよ…俺も焦っちゃうからね」

「何で精市が焦るのよ…立場逆なら分かるけど」

「だから言っただろ。俺の些細な変化は俺には気が付かないように…紫陽花みたいには変化してるんだ」

「そうかな…実感無いよ」

「変化はさ…誰にでも起きるし。止められない…でも悪い事じゃない。良い意味で変化していくのなら素晴らしいじゃない。今は分からなくて良いんだって。ゆっくり知っていけば良いんだから」

ポンと私の頭を軽く叩いた精市は「さぁこの話は終わり。中で手土産食べよ」と言って私を家の中に招き居れた。
私も又、彼に促されるように足を踏み入れた。

精市の言う良い意味の変化や些細な変化は結局よく分からないし…紫陽花が何時花の色を変えるのかとか分からないけれど。
それでも、私はゆるやかに精市と共に変わっていきたいと思った。
私の中で移り気とは…変わってゆく変化だと思うから。



END


2005.7.6. From:Koumi Sunohara

★後書き+言い訳★
雨音5のお題より、テニプリ夢駄文。
初の幸村部長です…。
幸村復活記念なのですが、何だか何が書きたかったのやら(汗)
ともあれ、楽しんで頂けたら幸いです。


お題置き場 BACK