理想と成人式のギャップ   


一生に一度の成人式。漠然と、そんな通過儀礼があるのだと人事の様に思っていた。

(戦国時代の元服とかじゃあるまいし、現代においてはポーズみたいなものよね〜七五三ならまだしも、二十歳でやる儀式は何だか気恥ずかしいな〜)

正直に、そんな風に思う程私は成人式に対してその様なイメージを持っていた。

幼い日は、綺麗な着物を着るお姉さん方に憧れたけれど、年を重ねてゆく内に純粋な気持ちよりも、気恥ずかしい気持ちや、経済的な事…よけいな気持ちも少しづつ重なって、成人式への憧れは薄れていった。

近いようで、遠い明日。気分はそんなものでしかなかった。

だから、私は成人式は着物じゃなくスーツとかで良いと思っていた。

けれども、両親を始め…弟は私の思いとは正反対の考えをもっていたようだった。



成人式も来年に控える、ある日の事だった…。


「なーな。姉ちゃんは、どんな着物を着るんだ?つーか、決めたのか?」

ワクワクという擬音が出てくる様な、雰囲気で弟である赤也はそんな言葉を口にした。
私は、正直何の事なのか、皆目見当がつかづに首を傾げた。

(はて?着物って何の話)

心の中でそんな事を思いつつ、弟を見ると赤也は少し拗ねた顔をした。

「なんだよ〜秘密なのか?ケチケチしないで教えてくれてもいいだろ?」

「何がケチなのか、意味分からないのだけど」

「は?だから着物だって。姉ちゃん、着物着るんだろっていう話だよ」

「だから、何の着物なのよ、サッパリ話が見えないんだけど」

そう言い切ると、赤也が今度は目を点にして私を見た。

(何よ、何か私悪い事したのかしら?)

「姉ちゃん、それ本気で言ってる?」

「ええ。大真面目よ」

「だぁぁ。あれだよ、あれ。成人式だよ。着物と言えば七五三と成人式以外ないじゃん。メインイベントだよ。姉ちゃん信じられないぜ」

熱く語る赤也に、私は内心(本人より熱いって何故?)と思いながら弟の顔を眺め見る。

「第一あれだぜ。早く着つけの予約とか…写真の予約とかしないと一杯になるって柳先輩が言ってたしさ〜。しっかりしてくれよ姉ちゃん」

当事者である自分よりも何気に詳しい弟に私は、呆れを通り越して感心してしまう想いだ。

「まぁ…着物なら確かにそうだけど…そうじゃなければ、全然気にしなくても良いんだけど」

何気に成人式に着物を着ると言う勝手な方手式を立てている弟に、やんわりと私はそう言った。

「ちょっと待ってくれ。ん?姉ちゃんもしかして、着物着ないつもりかよ?」

「つもりも何も、着ないけど。第一、着物を着るんだったら、買うなり…借りるなりはかなり早い段階で準備しないと駄目だしね。髪の毛もそれに合わせて長くしたりするでしょ。私を見れば、着物を着る気が無いことがハッキリ分かるもんでしょうに」

呆れた様子でそう告げれば、赤也は口をパクパクして金魚の様だった。

(そんなにショックなものかしらね?そんなに着たいなら自分の成人式で袴でも何でも着ればよいのに)

意外な事にダメージを受けている弟に私は、薄情なのかそんな事を思った。

「見合いとかの写真とかも、成人式の写真を使うのに…姉ちゃんどうするんだよ」

(テレビドラマや漫画の見すぎよね…そうそう見合いって無いし…写真ぐらいレンタルで撮ってしまえば良いのに)

意味不明な言葉を紡ぐ弟に、私は心底溜息を吐きたくなった。

「赤也…あんた、私に見合いしてほしいわけ?」

「そんな事無いけどよ」

「だったら、別に構わないじゃない。第一、赤也にだって進学とかでお金かかるんだから、私は振袖は要らないの。写真ぐらいは撮るとしても…それに、そうそう着る機会無いでしょ」

「テレビでも殆どの人着てるじゃねぇか」

「まぁ着てるけどね。だからと言って皆が皆買ってるわけじゃないの。第一、赤也が成人する時袴着るわけ?」

「多分スーツだけどさ…姉は…女の人なんだから、憧れるもんじゃないのかよ」

「赤也、憧れと現実はほとんどの場合対極にあるもんよ。現実を見なさい現実を。写真は撮るっていってるんだから、妥協しなさいよ。私の着物代であんたの大学進学とかの足しになるんだから、親の脛齧ってる内に、うだうだ我儘言うのは論外よ。おわかり?」

「お…おう」

私の言葉に赤也はしょんぼりしながら、しぶしぶ納得したのであった。案外、夢見る少年である弟に今後が心配になるのは私だけ?なのだろうかと…しみじみと思う。


後日、父と母が私と赤也と同じような論争をしていたりした。
実に血は争えないと、私はしみじみそう思った。


おわし

2011.3.4.(web拍手掲載2010.1.31.〜) From:Koumi Sunohara

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