桃の季節
移ろえば忘れる行事も有るものです
3月3日は雛祭り。
女の子の節句である。
平安時代から続き、今のスタイルに行き着いた戸時代から女の子には有る意味メジャーな行事だ。
男にも給食で出る桜餅などで、「ああ雛祭りか」ぐらいの感覚はあると思う。
一応女として生まれ落ちた私…切原にも例にも漏れずに、幼少期は桃の節句をお祝いしたものだ。
綺麗に飾られた雛人形、薄紅色の皮に香りの良い桜の葉が巻かれた桜餅にうぐいす餅。
白酒は飲めないので、甘酒が用意され…お祝いされた桃の節句。
それもまぁ…年を追う毎に、形式は簡略化され…今では何となく出てる雛人形ぐらいが…我が家での雛祭りの名残と言える。
けれども両親は忙しいし、私も学生では有るが高校生と違い色々多忙の身。
木々の芽吹きや、風の綻びで…春だと認識していても地味にたった一日しか無い雛祭りに気が付くのが遅いのが現実。
何時もギリギリにお雛様を出して、少し忘れた頃に片づける。
世間では、雛人形を遅くに片づけると行き遅れると言う。
その定説で行くならば、私は確実に行き遅れ組決定といえるだろう。
まぁ私としてはサッパリ気にはならないのだけど。
それでも気にする人間は居るようで…。
実際すごく身近に居たのは、実は驚きだった。
それも…あのテニス馬鹿の弟だと言うから世も末である。
3月3日の雛祭りの夜に弟は珍しく真剣な顔で私を見た。
「姉ちゃんは絶対嫁にいけないよな」
ハッキリきっぱり言い切る弟に私は、満面の笑顔で返してやる。
「行かなくたって別に困らないわよ。今の時代女の独立何てざらなんだから」
怯むことなく紡ぐ私の言葉に、言葉を無くしたのは意外な事に弟の方だった。
普段悪たれ吐く癖に、意外に繊細な部分が有るのかもしれない。
「ふ…普通は気にしたりしない訳?」
おどおどと珍しくそんな口調で話しかける。
そんな赤也が面白くて私は、からかい半分で言葉を紡ぐ。
「気にしないけど。それに私が嫁に行かなくても…婿をとれば万事解決じゃない?」
「そう言う問題かよ〜」
「そう言う問題。そもそも雛祭りには、嫁の行き遅れは関係無いんだよ弟よ」
そう言葉を紡げば、赤也は目を丸くした。
それに構わずに私は言葉を続ける事にする。
「元々は3月3日と言うのは中国では邪気に見舞われやすい日とされていて、厄払いに人形を使って流す風習から来てるから…嫁の行きおくれは関係無いのさ。詳しくは柳君にでも聞けば良いよ。立海きっての雑学王でしょう」
笑って本気と冗談を交ぜた言葉を紡いだなら、赤也は律儀に突っ込みの言葉を返してくれた。
「姉ちゃん…柳先輩は雑学王じゃなく参謀だぜ…確かにデーターマンだけど」
「赤也突っ込むべき所が違うと思うけど」
「そうだけど…」
「第一、物知りさんの域を超えたら雑学王で良いって」
私の訳の分からない屁理屈に弟はしぶしぶ納得をしたようで、「そうかもしれないけれど」とぼやく。
そんな色々もの珍しい赤也に私は、肩を竦めて言葉を紡ぐ。
「まぁ結婚や嫁は兎も角。弟が世間に踊らされてる事ですし…事はちゃんと早く片づけるよ」
そう私が言うと赤也はようやっとホッとした顔をした。
(そんなに早くに嫁に行って欲しいのかねぇ〜)
心の中でそんな事を思いながら、久しぶりにお雛様をまじまじと眺めた。
少しだけ昔やっていた雛祭りを思い出しながら。
おわし
2008.3.9. From:Koumi Sunohara