人生山有り谷有り。
難関があれば簡単な物もある。
それが人生と言うものである。
そして切原もまた、大きな壁にぶつかっていた。
とてもとても大きな壁…強気なさんでもたじろぐ大きな難関に彼女は今挑もとしている。
別に首相官邸に乗り込むとか、論文の締め切りが間近だとかそう言う訳では無い。
それは…英語嫌いの弟に何としても赤点では無い点数をとらせること。
彼女の難題はソレただ一つ。
だけどそれが本当に難しい。
赤也君は筋金入りの英語嫌いなのですから…。
(せめて…ヒアリングで言っている意味が分かれば違うのだけど…第一吹き替えの映画ばかり見ていたら、彼女とのデートで恥をかくのは彼奴なのに…)
色々考えて溜め息ばかり。
(それにしたって…どうするかね。赤也に鼻っ柱に人参でも見せてみるか?)
そんな事を思いつつ、は弟を釣れる物を考えるべく思考を巡らせた。
・食べ物
・ゲーム
・テニス
切原赤也の頭の中は結構単純に出来ている。だからと言って、赤味噌やら八丁味噌などで出来てるわけでは無いのは当然だが。
まぁ味噌で出来ていないとしても…切原少年は単純に出来ている訳で…面白いこと=テニスであり…焼き肉や寿司を食べているときは幸せと言っても良い。
それにテニスと言っても彼にとっては真剣に取り組むモノでもあり、ゲームの一種。
故にの弟赤也は、複雑怪奇なでは無く…単純明快な人間なのだ。
だが…単純故に、彼を突き動かすのも難しい。
嫌い好きがハッキリとしてると言うことは、不得手な事には興味がないのだ。
(英語漬けとか与えてもやらないのがオチだよね)
だからこそは大いに悩む。
今ゲーム感覚で楽しめる、勉強のソフトが増えているがけして見向きもしないだろう。
「やっぱり…テニスしか無いのかね…」
呆れを少しだけ込めて、テニス馬鹿の赤也を思うはそんな風に呟いた。
悩み悩み抜いた日々から数日。
は休日エンジョイしている弟を捕まえた。
「テニスが好きな赤也君。そんな君にお姉様が特別英語強化メニューを考えたわ!」
英語のテキスト軽く丸めテーブルを叩く。
その姉の態度に、弟は少し目を丸くした。
そんな弟にお構いなしに、は言葉を紡ぐ。
「テニスとやらは動体視力というものが重要なんでしょ?」
「まぁ…そうスね」
頷きに答える赤也に、姉はニッコリと素敵な笑みを浮かべた。
無論、赤也は心底嫌な予感を頭が掠めたのは言うまで無いだろう。
そんな弟の心情など知らぬ存ぜずのは晴れやかに高らかに宣言をした。
「じゃぁ英語もテニスで覚えれば良いのよ!」
ビシーッという効果音がピッタリな宣言に、赤也は思わず突っ込みを入れた。
「何処の世界にテニスで英語を覚える奴がいるんだよ姉ちゃん」
溜め息混じりにそう紡ぐ弟に、も又小さな溜め息を一つ吐いた。
(そりゃ〜お前だよ愚弟)
その言葉をは飲み込み、サラリと説明の言葉を紡いだ。
「テニスボールに単語を書く。ソレを読みとって意味を答える…ホラ動体視力と頭を使って一石二鳥じゃないの」
「そんなの巨人の星バリの練習できたら化け物に勝ってますって。無理ス」
「それは勿論根性でどうにかしなさい。スポ根ものには必要なスキルじゃない」
「今時スポ根は古いと思うス」
冷や汗タラリ流しながら、赤也は言う。
そんな弟には、目の据わった状態で言葉を紡ぐ。
「真田君なら喜んでやってくれると思うけど」
「お…お姉様…そちらはのお言葉はどういった意味でとればよろしいのでしょうか?」
「ああ。どちらもって意味よ。勉強として真面目に取り組んでくれると言う意味と赤也の尻を叩く教師役を買って出てくれると言う意味」
至極当然と言い切るに赤也は完全に青ざめフルフルと首を横に振った。
(ほほほ〜流石真田君効果は絶大だね。これなら愚弟も赤点免れるかも知れないね)
そんな弟の有る意味壇末の悲鳴に近い状況を見た、は効果絶大だと踏んだのだった。
「よーし決まり決まり。コード名はスポ根大作戦!真田君にもお話つけておくから頑張れよ弟よ」
2006.8.8. From:Koumi Sunohara